超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
どんな人でも『裏切り』という行為をされれば、多かれ少なかれショックを受けると思うんだ。それは裏切られた事で不利益を被るとか、裏切りそのものに驚くとかも勿論あるけど、何よりも『信じた』気持ちを『裏切られる』事が心を傷付けるから、悲しい気持ちになるからショックなんだと思うんだよ。だから…
「やっぱりかよ…やっぱり、最初からわたし達の味方になる気はなかったってのかよガナッシュ!!」
自らへと襲いかかるモンスターを斬り伏せ、打ち払い、吹き飛ばしながら吠えるブランの気持ちは、本当によく分かった。もしわたしが女神化出来たなら、もっと余裕があった状態ならわたしも声を上げていたかもしれない。
ガナッシュの案内でダンジョンへ向かったわたし達を待っていたのは多種多様なモンスターの群勢。単一の種族じゃない事からも、それが自然に出来た群れじゃなくて人為的に用意されたものだという事が明らかだった。
「偽者のブランは探してたけど…モンスターはお呼びじゃないよ!」
「こうなったのもねぷ子が信じてみるのもアリだなんて言うからでしょ!」
「言いっこしてる場合じゃないですぅ!」
伏兵として現れたモンスターはわたし達を囲う様にして襲いかかってくる。流石にモンスターが陣形を組んで戦術的に動いてる…って訳じゃなくて、単にわたし達を囲われる形になる場所へガナッシュが誘導しただけだと思うけど、それでもやっぱり包囲されてる事には変わりない。…ちょっとこれ、予想外にプレッシャー大きいよ…!
「くそがっ…そんなにわたしが憎いってのかよてめぇはッ!」
「まさか、別に貴女が憎いという訳ではありませんよ。ただ単に貴女達の言う偽者が私にとっては本物にして至高のホワイトハート様だという事です」
「……っ…てめぇまだそんな勝手な幻想を…!」
「少し落ち着くにゅ、あいつをどうするにしてもまずモンスター何とかしなきゃ始まらないにゅ!」
次々と仕掛けてくるモンスターを無視してガナッシュに強襲しようとしていたブランをぷちこが抑える(言葉でだよ?物理的には無理だと思うよ?)。この適切な判断力がどっかに飛んで行きかけている状況においてガナッシュと因縁が無く、この次元のわたし達とはパーティーを組んだばかりという立場のぷちこの冷静さは本当にありがたかった。
「…悪ぃ、少し頭に血が登っちまってた…この場を手早く片付ける算段はあるのか?」
「今の所はねぷ子とブランがモンスターに特攻かける位しかないにゅ」
『それは御免だよ!』
「だと思ったにゅ。でも真面目な話、手早くって事に拘らなければ何とかなると思うにゅ」
ブランの問いに応答しながらゲマでモンスターを引っ叩くぷちこ。…ほんとに武器として使ってるよ…ちょっとゲマの顔が痛そうになってない…?
…それはともかく、確かにぷちこの言う通り焦らず一体一体倒していけば何とかなりそうでもあった。包囲されてるから油断は一切出来ないし、普通に同じ数のモンスターを倒すよりもずっと体力消耗しそうだけどね。
と、そこであいちゃんが思う所があったのかふと口を開く。
「…何とかなりそう…って、何か変じゃない…?」
「な、何が変なんです…?」
「何とかなりそうな事よ、ガナッシュやブラン様の偽者ならこの程度の数で私達を倒せるなんて判断をする?」
「……っ!って事はつまりこいつらは前座で--------」
「わたしが本命、と言う事よ」
荒々しさの感じられない、淡々とした声が響く。そして次の瞬間、真上から一直線にブランに向けて何かが襲いかかる。その何かとは…言うまでもなく、偽者のブランだった。
「ぐっ……国民を謀ったりモンスターでわたし達を消耗させようとしたり随分と姑息な手を使ってくるじゃねぇか…ッ!」
「生き延びる事と敵を倒す事、それらにおいて最善の策を選んでいるだけよ」
直上から奇襲を仕掛けた偽者のブランの一撃を、ブランは戦斧の柄で受ける事で何とか防御。ブランが一昨日一対一でも優位に立てたという話からわたしやベールの偽者同様、ブランの偽者も本物と比べると少し弱いみたいだったけど…不意打ちだった事と速度を乗せた攻撃だった事が基礎能力の差を埋め、互角の状態となっていた。
「てめぇの言葉はいちいち癪に触るんだよ…!」
「こうして改めて見ると、やはり落ち着いた口調こそがホワイトハート様に相応しいですね。粗暴な貴女など、真のホワイトハート様には値しない」
「てめぇの言葉はもっと癪に触るんだよッ!すっこんでやがれッ!」
「うわ怖っ…っていうか挑発に乗っちゃ駄目だってブラン!」
ギロリとガナッシュを睨み付けたブランは力尽くで無理矢理偽者のブランを押し返し、隙を突こうとしていたモンスターを戦斧で文字通り両断する。…けど、押し返しも両断も普段より明らかに精細さに欠けていた。相手がモンスターだけならそれでも何とかなりそうだけど、雑魚モンスターよりはよっぽど強い偽者相手だとそこを狙われてしまう可能性は十分にあり、キレてるブランを見る事で相対的に冷静になれたわたしには不安で仕方なかった。
「何とも面倒な状況にゅ…ねぷ子、こうなればやる事は一つにゅ!」
「うん!ブランに長州小力さんのネタをやってもらう事だよね!」
「そんな訳あるかにゅ!火に油を注ぐ結果になるだけだにゅ!……はぁ、ねぷ子に振ったブロッコリーが間違ってたにゅ…」
深いため息を吐くぷちこと苦笑するわたし。…え、さっきの地の文での真面目さはどこ行ったのかって?やだなぁ、このわたしが会話でも地の文でも真面目だったらキャラ崩壊じゃん。両方真面目な時が絶対無いとは言わないけどここでそうはならないって、もう六十話以上付き合ってくれてる皆なら分かってるでしょ?
とはいえ流石にふざけていられない状況だって事はきちんと分かってるわたしは太刀を構え直しつつ、きちんとぷちこの言葉に返す。
「これ以上不味い状況になる前にブランの援護をする、でしょ?」
「分かってるなら最初から言えにゅ…」
「ねぷねぷはいっつもふざけてるですけど、実はあんまり頭悪くないかもですね」
「馬鹿と天才は紙一重、って事かしらね…ねぷ子が天才だとは思わないけど」
キレてて判断力とか冷静さとかが低下しているブラン。けどキレていようがいまいが基礎能力自体は変化する訳ないし、勢いだけならむしろ普段より上がっている。だからこそわたし達は多少危険でも勢いのあるブランに加勢する方が確実、というのがぷちこの言いたかった事であり、わたしが理解した事だった。
「と、言う訳で撃ち漏らしはわたし達が倒すよブラン!」
「ブランさんは存分に戦って下さいです!」
「言われなくても…はなからそのつもりだッ!」
戦斧での攻撃だけでなく、殴打や蹴り技まで駆使して攻め続けるブラン。その度に数体のモンスターが弾かれ、或いは回避する為に逃げて偽者のブランとモンスター群から離れる形になる。わたし達が狙ったのはそんなモンスターだった。
今のわたし達の力(まぁつまりは四人がかり)なら、集団から離れた一体二体のモンスターならものの数秒で片付ける事が出来る。その結果、包囲されていたせいで上手く攻められなかったさっきと比べ、格段に撃破効率が上がっていた。
「くっ…思っていたより厄介な連携ね……ガナッシュ、アレを使いなさい」
「えぇ、分かっておりますともホワイトハート様」
「あれは…エネミーディスク!まだ持ってたのね…!」
「エネミーディスク…何だかよく分からないけど壊した方が良さそうだと言う事は伝わってくるにゅ」
形勢が逆転しかけている事を感じ取った偽者のブランは後ろで控えていたガナッシュに声をかける。それに対しガナッシュはいつかの様に懐に手を入れ、そこからエネミーディスクを取り出す。それはつまり、せっかく減らしたモンスターの数がまた増えてしまうという事だった。…ほんとさ、エネミーディスクってズルくない…?
「あんな物私が……んなっ!?」
「させはしないわ、貴女達同様味方の重要性は理解しているつもりだもの」
「はッ!モンスターが味方とは随分と寂しい奴だなお前は!」
「好きに言えばいいわ。その間もこちらが有利になるだけの話なのだから」
偽者のブランの言う通り、少しずつだけど確実に増えていくモンスター。偽者のブランとガナッシュが多少余裕が無くなっていた事で煽りが減ったおかげかブランはある程度冷静になっていたけど、キレてても極端な戦力低下はしないのと同様に冷静だからと言ってそれだけで突破口になる訳でもなかった。
「こ、こうなれば…ちょっとタンマ!作戦会議するからちょっと待ってくんない!?」
「作戦会議ね…まさか待つとでも?」
「ま、だよねぇ…誰か良い案ある?」
偽者のブランとモンスターとの挟撃を凌ぎながら質問を投げかけるわたし。そうしている間にもモンスターは数を増やしている。普段ならともかく、この状況では明らかに倒す速度よりも増える速度の方が上だった。さっきまでの包囲されてた状況といい、今の倒しても倒しても数が減らない状況といい、何でもこうも今回の戦闘はメンタルにダメージ与えてくるのさ!偽者のブランはそういう方針で戦ってるの!?
「流石にそんな都合良く良い案は浮かんだり…」
「ならブロッコリーの切り札を使うにゅ」
「したです!?」
「『目からビーム』。ブロッコリーの必殺技にゅ」
「え、指ビーム?」
「ねぷ子は一度耳鼻科に行くべきだにゅ」
ぐだくだな会話はともかく、ぷちこが自信ありげに技の名前を述べた事でにわかに湧き立つわたし達。目からビームなんて安直過ぎる気はするけど…まぁ捻れば良いってもんじゃないからね、技名って。
「目からビーム…?…気を付けなさいガナッシュ、本当に強力な技の可能性があるわ」
「気を付けたところで無駄にゅ、ブロッコリーのビームは破壊力抜群にゅ」
「なら、撃たれる前に貴女を--------」
「余所見とは余裕綽々じゃねぇか…てめぇの相手はこのわたしだってんだよッ!」
身体を捻りモンスターの間をすり抜ける事でぷちこの目の前へと躍り出る偽者のブラン。しかし、偽者のブランが攻撃を仕掛けるより早く本物のブランが小型のモンスターごと飛び蹴りで偽者のブランを跳ね飛ばす。その瞬間、ほんの一瞬だけどぷちことガナッシュの間には何もない状態が出来上がる。
「……っ…しまっ…!?」
「やっちゃえぷちこっ!」
「喰らうがいいにゅ!必殺……『めからびーむ』!」
「……ッ!」
咄嗟に避けようとするガナッシュ。しかしもう遅い。ガナッシュが動き出そうとしている時には既にぷちこは地面を踏みしめ、目の周囲に輝きを纏わせていた。わたし達はエネミーディスクを破壊してほしいという期待を、偽者のブランとガナッシュはビームが外れてほしいという期待を込めてぷちこを見つめる。そんな中、ぷちこの目が一層眩い光を放ち、その目から--------
『…………はい?』
----何だかよく分からない、ゲル状の液体っぽいのが出てきた。そして一メートル前後で勢いが無くなって地面に落ちた。…偽者のブランやガナッシュ含め、全員して唖然だった。
「……え、っと…あの…ぷちこ、これは一体…?」
「あー…失敗だったにゅ」
『失敗するとこうなる(の・です・のかよ)!?』
目からビームは失敗すると目からゲル状の何か、になるらしい。もうあり得ない程に意外な事実だった。……ぷちこ…見た目といいキャラといいどんだけ捻りまくってるのさ…。
--------が、それがまさかの展開を、起死回生のきっかけとなる。
「そりゃ無いぜブロッコリー…だが、これは好機だ!絶好のなッ!『テンツェリントロンペ』ッ!」
「な……っ…ぐぁぁぁぁっ!?」
「……ッ!今よ皆!」
「あ、あいあいさー!」
「はいですっ!」
そう、ぷちこの超絶変化球に唖然としていたのはわたし達だけではない。つい直前までぷちこの邪魔をしようとしていた偽者のブランですら呆気に取られ、この状況下で誰よりも早く正気を取り戻したブランは自身の力、戦斧の重量、そして遠心力をも利用した強烈な回転斬りを敢行。反応の遅れた偽者のブランを弾き飛ばしその勢いのまま周辺のモンスターも悉く消滅させていく。更に、そのブランの様子を見て動くあいちゃんとあいちゃんに声をかけられる事で反射的に動き出すわたしとこんぱ。自陣のトップが吹き飛ばされ、その上一気に複数体が倒された事で動揺が広がったモンスターは、それと対照的に一気に攻勢モードとなったわたし達に対応出来ず瞬く間にやられていく。
ぷちこの失敗版目からビームから数分後、凄まじい勢いで駆逐されたモンスターは戦場から完全に姿を消していた。
「ぐ…ぅぅ……」
「そんな…全滅…?たった数分で、数十体のモンスターがか…!?あの状況から…あんなふざけた展開からホワイトハート様もモンスターもやられたというのですか…!?」
「残念ながらその通りだ、残念だったなガナッシュ」
「あぐ……ッ!」
愕然としているガナッシュへと肉薄し、エネミーディスクを蹴り飛ばすブラン。蹴りそのものはガナッシュには当たっていなかったものの、ディスク経由で衝撃が来たのか腕を押さえて数歩下がる。
蹴られた時点で欠け、壁にぶつかった事で完全に割れるエネミーディスク。もう、勝利は決まったも同然に見えた。
「…これで終わりだな。覚悟しろよガナッシュ」
「ぐっ…認めない、私は認めない…この信仰心を捨ててなるものですか!貴女の言葉など知った事ではない!誰が何と言おうが私のホワイトハート様は優しく穏やかな方であり、今貴女方と戦っていた方こそが私にとって本物のホワイトハート様だ!」
「……そうかよ、だったらもうわたしがお前に言う事は何もねぇよ。わたしとしちゃ忌々しい限りだが、そこまで思われてるなら偽者のわたしも報われるだろうな。…だが、それとこれとは別として、てめぇにはきっちりと落とし前を--------」
「余所見とは余裕綽々じゃねぇか…さっきの言葉、今そっくりそのまま返させて貰うわ」
『……ーー!?』
壁際から響く声。地を蹴るような独特の音。それらはある事を…まだ偽者のブランは戦えるという事を現していた。確かに、偽者のブランが他の偽者の女神と同じ様な形で消滅するのを誰かが見た訳じゃないし、恐らくだけどブランもあれだけで倒しきれたとは思っていなかったと思う。けど、それでもここまで早く復帰してくる事はわたし達の誰もが予想しなかった事であり、先程とは逆に、わたし達は完全に不意を突かれる事となってしまった。わたし達が反応するよりも前にブランとガナッシュに肉薄する偽者のブラン。その瞬間、ブランは苦渋に、ガナッシュは喜びに満ちた表情を浮かべる。そして……
「……形勢、再逆転よ」
「ホワイトハート、様……?」
偽者のブランは、ガナッシュに…自身の味方である筈のガナッシュを後ろから取り押さえ、戦斧を喉元へ宛てがえていた--------。
今回のパロディ解説
・長州小力
プロレスラーである長州力さんのモノマネ芸人である、長州小力こと久保田和輝さんの事。作中では彼のネタを明言していませんが、流石にこれは分かりますよね。
・指ビーム
健全ロボ ダイミダラーに登場する主人公機、ダイミダラーの切り札の事。当然ながらブロッコリーはHi-ERo粒子を使える訳ないので、彼女がこれを使う事はあり得ません。
・「〜〜全滅…?〜〜モンスターがか…!?」
機動戦士ガンダムに登場する敵キャラの一人、コンスコン少将の代名詞とも言える台詞のパロディ。状況としては色々違いますが、ガナッシュはそれ位驚いていた訳です。