超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第六十六話 女神が望むもの、護るべきもの

圧倒的劣勢の中で偽者のブランがとった行動。それをわたしは一瞬理解が出来なかった。

自分から注意が逸れている瞬間に、一発逆転をかけて奇襲を仕掛けるというなら分かる。誰だって思い付く、普通の事だからね。それか、仕掛けるのではなく逃げるというならそれも分かる。誰だって命は大切だし、逃げて生き延びる事が出来ればいつか勝つチャンスが生まれるからね。或いは、相手の一人を人質に取る…というのも分かる。ちょっと難しいけどわたし達全員を倒すよりは可能性があるからね。……でも、偽者のブランはそのどれも選ばなかった。…ううん、正確には人質を取るって選択肢を選んだ。けど--------

 

「彼は人質よ。下手な真似をすれば命の保証はしないわ」

 

偽者のブランが選んだ人質は…他でもない、味方のガナッシュだった。味方を人質にするなんていう予想だにしない展開に、わたし達は一瞬言葉を失う。そして、これを予想していなかったのはガナッシュも同様らしく、信じられないと言いたげな表情を浮かべている。

 

「ホワイトハート様…これは…何の、つもりなんですか…?」

「言ったでしょう?最善の策を選んでいるだけと」

「……っ…これが、最善の策…」

「えぇ、現にこれで相手は動けなくなっている。それは紛れも無い事実よ」

 

ガナッシュを連れてわたし達から距離を取りつつ、いっそ冷たい程に淡々とした言葉を発する偽者のブラン。対するわたし達は動けずにいた。勿論、わたし達はCファンネルの使い手ばりに不殺を誓ってる訳でもなければガナッシュをかけがえのない存在だと思ってる訳でもない。特に後者はほんとにあり得ない。けど、出来る限りは人に死んでほしくないし悪を倒す為ならどんな犠牲も問わない、なんて発想もない。だからこそ偽者のブランのとった手段は効果的だったんだけど…わたし達が動けずにいたのはそれだけじゃない。

 

「…何考えてんだよ…てめぇにとっちゃガナッシュは味方だろうが!」

「そうよ、味方だからこそ貴女達より人質にし易いと思ったし実際にそうだったわ」

「わたしが言ってんのはそういう事じゃねぇよッ!」

「そうだよ!仲間にそんな事したらハブられてぼっちになるだけなんだからね!」

 

始めにブランが、続いてわたしが熱の籠らない雰囲気を纏う偽者のブランに怒号をあげる。…わたしが言った後、パーティーメンバーから『何故そんなズレた表現を…』みたいな視線を感じたけどそれは無視。緊迫した場面でおふざけなんて言語道断……あたっ!?誰!?ブーメラン投げたの誰!?

 

「…ネプテューヌ…お前も大変だな、こんな時までボケなくちゃいけなくてよ」

「え、いや…別に無理してボケてる訳じゃなくて好きでボケてるだけだから大丈夫だよ…?ってわたしアレな事で同情されてない…?」

「…はぁ……こほん、とにかくガナッシュから手を離しやがれ。仮にも女神の偽者を語るってんなら仲間を、信仰してくれる相手を人質になんざしてんじゃねぇよ…!」

「断るわ。…そもそも、貴女達は立場を理解しているの?」

 

ガナッシュの喉元に宛てがえた戦斧を持つ手に力を込める偽者のブラン。その動作に顔を引きつらせるガナッシュ。

 

「……要求は何だ…」

「そうね…わたしの目的は一つではないけど、差し当たっては貴女の命よ」

「…だろうな…ふん、数日前わたしとサシで勝負した奴とは思えねぇ変貌だな…」

「なっ……ブラン様!?」

 

首を横に降った後、戦斧を消して一歩ずつ偽者のブランとガナッシュの方へと歩くブラン。その動作は、言うまでもなく偽者のブランの要求を飲むという事だった。

 

「…不本意だが、わたしはあいつの様に冷徹にはなれないからな…」

「…ブラン、それで良いの…?」

「あぁ、おい偽者。わたしがこうするんだから、きちんとそっちも約束は守るんだろうな?」

「えぇ、その位は約束するわ」

 

偽者のブランの持つ戦斧が届く範囲にまで入るブラン。当然、わたし達はその選択に納得した訳じゃなかったけど、相手が人質を取っている以上下手な事は出来ないし…状況は色々違うとはいえ、前に一度似た様な事をしたわたしは今のブランを止めるに止められなかった。

交錯する二人のブランの瞳。そして、その内の片方…本物のブランは目線を偽者のブランからガナッシュへと移す。

 

「……てめぇの勝ちだ、ガナッシュ」

「…………」

「喜べよ、形はどうあれお前の信仰する女神が…お前にとってのホワイトハートが勝ったんだ、良かったじゃねぇか」

「それ、は……」

 

ブランの言葉に返答が出来ないでいるガナッシュ。彼の表情には『こんな形での決着は望んでいない』という思いが現れていた。

その二人のやり取りを見ていた偽者のブランは、ガナッシュに目を光らせつつも自身の戦斧を振るう為に掲げる。

 

「これで終わりね。目的の為にすべき事、捨てるべきものを図り損ねたのが貴女の敗因よ」

「てめぇみたいになる位なら、それこそ死んだ方がマシだ。てめぇには分からねぇだろうがな」

「その通り、わたしには分からないわ。貴女のその愚行が--------」

 

 

「もうおやめ下さいっ!」

 

偽者のブランが戦斧を振り下ろす直前、偽者のブランの拘束が解けている事に気付いたガナッシュが動く。両腕を広げ、攻撃を止めるかの様に。そして、彼が背にしていたのは……本物の、ブランだった。

 

「な……っ!?」

「…ガナッシュ、これはどういう事?」

「ホワイトハート様こそどうなされたんですか!貴女はこんな卑劣な方法を取るお方ではない筈です!穏やかで、平和主義で、慈愛に溢れた美しき女神、それがホワイトハート様でしょう!違いますか!?」

「いや違ぇよ…わたしは聖母か何かかよ……」

 

いつかの様に熱弁を振るうガナッシュ。そんなガナッシュにわたし達は呆れ、ブランは半眼で突っ込みを返す。…が、当のガナッシュはそんな事は気にも留めない様子で一心に偽者のブランを見つめる。

 

「……貴方の言いたい事はよく伝わったわ」

「……!…それは良かった…不遜な態度、申し訳ございませんでしたホワイトハート様。ではここは一度引き、再度偽者達を…」

「わたしに従えないというならここで敵もろとも散りなさい。もう貴方は不要よ」

「え……?」

 

偽者のブランは最初、ガナッシュの言葉を理解したかの様な返答を述べた。…が、次に述べた言葉はガナッシュを斬り捨てる様なものだった。その瞬間、ガナッシュもわたし達も気付く。彼女はガナッシュの論に納得をした訳ではなく、ほんとに単に理解しただけだったという事を。

そして、偽者のブランは戦斧を振るう。元々の目的であるブランと、彼女にとっての離反者であるガナッシュを両断する為に。戦斧は、振るわれ--------

 

 

「……てめぇ今、何をしようとした…?」

 

その戦斧は、ブランによって…静かでありながら、これまでに見たどの時よりも強い怒りを孕んだブランの手によって--------押し留められた。

 

 

 

 

「何をしようとしたって、聞いてんだろうが……」

 

自身に、そしてわたしの前に立つガナッシュに対して振るわれた戦斧の柄を、わたしは片手で掴む。振り上げられた戦斧が振り下ろされるまでの一瞬の間にガナッシュの前へと回り、目視するのも難しい程の速度の戦斧を止める。そんな女神でも早々出来ない様な芸当をわたしが出来たのは、ひとえに心の奥底から湧き上がる怒りが原動力となったからだった。

 

「……っ…そんな…!?」

「おいガナッシュ、下がってろ…」

「え…あ……」

「下がってろ、今のわたしは周りに配慮出来る程冷静じゃねぇんだよ」

 

ブランの言葉に我に帰ったガナッシュは、ブランの言う通りその場から離れる。その間もわたしと偽者との押し合いは続き、戦斧は宙で小刻みに震える。

 

「てめぇの思想も行動原理もてめぇの勝手だし、そこにとやかく言うつもりは無かった。…けど、もうそうは言っていられねぇな…」

「いいから…離しなさい…ッ!」

「…わたしの勝手で悪ぃが、ここはわたしにやらせてくれねぇか?その結果どうなってもわたしが責任を負う、だからやらせてくれ」

「…と言ってるけど、どうするにゅ?」

「んー…わたしも正直あいつには一撃喰らわせてやりたい所だけど…うん、ここはブランに譲るよ。だからブラン、全力で叩き潰しちゃって」

「…恩に着るぜ」

 

後ろから聞こえてくるのはネプテューヌの声。その声、言葉の裏に今のわたしと同じ怒りが含まれてる事を感じながら、わたしは偽者の戦斧を掴む手を離す。勿論掴んだまま仕掛けた方が楽ではある…が、今は正面から、偽者の全力を打ち破った上で倒したかった。女神として、わたしはそうしなきゃならねぇんだよ…。

 

「来いよ、一対一ならてめぇにも少しは勝機があるだろ?」

「言われなくとも…そうするつもりよ…!」

 

自由となった戦斧を手に早速仕掛けてくる偽者。それをわたしは再度顕現させた自身の戦斧で打ち払う。

横薙ぎ、斬り上げ、振り下ろし。わたしの偽者だけあって繊細ながらも重い一撃を次々と放ってくる。…だが、そのどれもがわたしの迎撃により当たる事なく失敗となる。

 

「そんなもんかよ、それでわたしの名を語るなんて片腹痛いんだよ」

「五月蝿い…わたしは、貴女の様な甘い奴には負けないわ…!」

 

臆す事なく仕掛け続ける偽者。その攻撃全てを弾き続けるわたし。そして、しびれを切らした偽者がわたしの顔へと放った拳をわたしは左の手の平で受け止める。

 

「……ッ!」

「…甘い、か…確かにわたしは甘いかもしれねぇな…だがな、甘いのが…優しいのが女神ってもんなんだよッ!」

「がぁっ……ッ!?」

 

戦斧を宙に放り、反撃とばかりに偽者に拳を叩き込む。そこからは、完全に攻守交代だった。自由落下で手元へと落ちてきた戦斧を握り、吹き飛んだ偽者へとわたしは追撃をかける。

 

「てめぇは言ったな、目的の為にすべき事、捨てるべきものを図り損ねたのがわたしの敗因だと。ならてめぇの目的は何だ、てめぇが捨てるべきだと思ったものは何だ?」

「ぐっ…目的は勝利…捨てるべきものは目的の邪魔になるもの全て…それは絶対の真理----」

「そんな奴に人は着いてこねぇんだよッ!そんな冷徹な奴が!誰の事も大切にしねぇ奴が!自分を信じてくれる奴すら道具としか思ってねぇ奴が!女神の名を語ってんじゃねぇよッ!」

 

体勢を立て直せていない所へ袈裟懸け。怯んだ所へ回し蹴り。辛うじて防御体勢を取った所へ大上段斬り。言葉を、怒りを乗せたわたしの連撃は立て続けに偽者の身体を襲い、それ等全てが有効打となり偽者の体力を奪っていく。

そして……

 

「う…ぐっ……」

「終わりだ偽者。最後に何か言い残す事があるなら聞いてやるよ」

「舐めてくれた、ものね…なら、言わせて…もらうわ…」

「…………」

「やはり、貴女は…………甘ちゃんよ…!」

 

膝をつき、息も絶え絶えだった偽者。しかし、わたしが彼女の言葉を聞こうとしたその瞬間に地を蹴り、ネプテューヌ達へ襲いかからんとする。

偽者のわたしはまだ諦めていなかった。一矢報いるつもりだったのか、先と同様に人質を取ってこの場を乗り切ろうとするつもりだったのか、目的は定かではなかったがそれがネプテューヌ達にとって意表を突かれる行動であった事には違いなかった。……そう、ネプテューヌ達にとっては。

 

「--------残念だったな、てめぇの行動はお見通し何だよ」

「……ーーッ!?」

「……『ハードブレイク』ッ!」

 

偽者がネプテューヌ達を手にかけるよりも早く、わたしは偽者の目の前へと降り立ち、わたしの全身全霊をかけた戦斧と体術の乱舞を叩き込む。容赦なく、躊躇なく、寸分の油断もなく。振るった戦斧が、撃ち込んだ衝撃波が、投合した戦斧が偽者を完全に捉えていく。そして、わたしは宙に舞う。戦斧を上段に構え、目線の先に偽者の姿を捉え、全力を持って彼女へと突進する。

 

「……わたしに勝ちたきゃ、誰かを大事にする事を覚えてからにしやがれ」

 

女神としての想いを、心情を乗せた一撃は何者にも阻まれる事なく偽者の身体を両断し、わたしが言葉を締めくくる頃には偽者の姿は消滅していた。

 

 

 

 

「お疲れ様、ブラン」

 

偽者の消滅を見届け、安心した様に女神化を解除したブランへと最初に声をかけたのはわたしだった。ふぅ、と息を漏らすブランの周りにわたし達は駆け寄る。

 

「えぇ、勝負に綾をつけなかった事感謝するわ」

「ブランさん凄かったですぅ」

「だね、何ていうかIDヒースクリフを使ってたって感じ?」

「かなり風格ありましたよ、ブラン様」

「あそこでわざわざ一対一をするのは賢明じゃないにゅ。でも終わり良ければ全て良しだにゅ」

 

中々厄介だった敵を倒せた、しかも倒すまでの経緯が中々ドラマチックだったという事でいつも以上に盛り上がるわたし達。ブランもその中心人物であり、やっと倒せたからかいつもよりも表情が緩んでいた。

 

「しかし意外だったわ、まさかネプテューヌがあの場でブラン様に譲るなんて」

「同感だにゅ。あんな主人公が戦いそうな展開ならねぷ子はしゃしゃり出ると思ってたにゅ」

「いやいや、あそこでわたしが出たら雰囲気台無しじゃん。シリアスな展開はともかく、熱くなりそうな展開はわたし壊したくないし」

「そういえば、あの時のねぷねぷとブランさんはちょっといつもと違う気がしたです」

「あー…そりゃそうだよ、だって…」

『信仰してくれる人を大切にしない奴が女神を名乗るなんて、凄く気分が悪い(もん、もの)』

 

示し合わせた訳でもないのに、完璧に(語尾は違ったけど、ね)ハモるわたしとブラン。そんなわたし達二人にこんぱ達は目を丸くする。…そんなに不思議な事かなぁ、ノワールやベール、それにイリゼだって同じ様に言うと思うんだけどなぁ。

 

「ま、それはともかく目的を達成したんだからさっさと帰るにゅ」

「うんうん、長時間外にいて寒くなっちゃったし暖かいもの買って帰りたいなー」

「そうね、でも最後に一つ片付ける事があるわ。……でしょう、ガナッシュ」

「……っ…」

 

穏やかだった表情を引き締め、ひっそりとその場から去ろうとしていたガナッシュへ声をかけるブラン。ガナッシュはまさか気付かれているとは思っていなかったのか、ビクッと肩を震わせて立ち止まる。

 

「あ、ガナッシュが居るの忘れてた…さぁて、この落とし前、どうつけてくれるんだあぁん?」

「ねぷねぷがヤクザさんみたいになってるです…」

「ねぷ子のボケはほっとくとして…どうしますかブラン様?取り敢えず捕まえます?」

「……ふっ、私も年貢の納め時という事ですか…もう抵抗はしませんよ、煮るなり焼くなり好きにして下さい」

 

自嘲する様に笑い、両手を上げて降参のポーズを取るガナッシュ。そんなガナッシュにブランは近付き、彼の正面に回った後…告げる。

 

「……ガナッシュ、うちの教会で働くつもりはないかしら?」

「……へ…?」

「どうせ今は仕事もないんでしょう?貴方にとって悪い話じゃない筈よ」

「ちょ、ちょっと待ってブラン!え、本気!?」

「勿論本気よ。一度はラステイションで天下を取りかけたアヴニールの上級役員ならうちでも十分働けるわ」

「いやそうじゃなくて…マジすか……」

 

ブランの言葉はあまりにも予想の斜め上過ぎた。わたし達を…ブランを何度も騙した相手を自分の統治する国の教会職員にするって…もうお人好しとかのレベルじゃないよ…。

 

「…正気ですか?私がもう貴女を嵌める事はないという確信があるとでも?」

「無ければ貴方を職員になんてしようとは思わないわ」

「…何を持って、確信を持ったのですか……」

「貴方の敬愛する存在を想う気持ちは本物よ。それがどんなに身勝手であろうと、暴走してようとその点は変わりないわ。…わたしは貴方の信仰心を評価しているのよ」

 

ブランは表情を緩め、嘘偽りを感じられない言葉を紡ぐ。それはまるで、ガナッシュに手を差し伸べているかの様に。

 

「それに、貴方はわたしの偽者を身を呈して止めようとした。信じる者の為に、命を危険に晒した。…ガナッシュ、貴方はきっと優しい人よ。少し、想いが強過ぎるきらいがあるけど。…だから、そんな貴方に信仰されていた事だけは、偽者を羨ましく思うわ」

「…随分と、私を評価しているのですね。全く…知った様な口を聞かないで下さい、そう言われたからと言って粗暴で短気な貴女を信仰する様になるとでも?」

「…そう、それは残念だわ。それじゃ…皆、待たせて悪かったわ、教会へ戻り--------」

「……ですが、先程の貴女はほんの少しですが…私の愛する女神様の様に見えました。…ホワイトハート様」

 

ダンジョンの出入り口へと向かおうとしていたブランの背にかけられた言葉。それを聞いたブランは…優しく、暖かな笑みを浮かべていた。




今回のパロディ解説

・Cファンネル
機動戦士ガンダムAGEに登場する四代目主人公機、ガンダムAGE-FXの主兵装の一つの事。主人公のキオ・アスノはこれを中心に最後まで不殺だったのだから凄いものです。

・IDヒースクリフ
ソードアート・オンラインシリーズのフェアリー・ダンス編終盤に登場するIDの事。今回のブランはパロディ元のキリトとオベイロンの戦闘ばりに圧倒していたのです。

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