超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第六十七話 書庫のひと時、三度目の出発

『おぉー……!』

 

ルウィー教会の一角に感嘆の声が上がる。声を上げたのはブランを除くわたし達パーティーメンバーで、その理由は勿論想像を超える事柄があったから。

 

「どれでも好きに読んでくれて構わないわ。丁寧に扱ってくれるのなら、ね」

 

わたし達が見たのは部屋中の本棚と、そこへ所狭しと並べられた本の山。そう、わたし達はルウィー教会の書庫に来ていたのだった。

偽者のブランを倒し、ダンジョンから帰ってからおよそ数時間後。先頭の後で疲れてるし、でも寝るにはまだ早いし、皆で遊べるパーティー系ゲームは昨日時間を潰す為に色々やったし…と完全に手持ち無沙汰だったわたし達はブランに呼ばれ、何だろ〜とか思いながら書庫へと入った所で今に至ったりする。

 

「やー、読書好きなブランの事だから教会にも沢山本があると思ったけど…まさかここまでとはね」

「レジスタンスのアジトにも沢山本がありましたけど…それとは比べものにならないレベルですね」

「図書館みたいですぅ」

「お言葉に甘えて早速読ませてもらうにゅ」

 

本、と一口に言っても小説や漫画、絵本や写真集と色々な種類があるし、更に言えば小説だって純文学と大衆文学(ここら辺はあんまり詳しくないんだけどね)、児童書にライトノベルと様々なジャンルがある。わたしは最初、ノワール程じゃないけどお堅いブランの事だから俗的な奴はないかなぁ…とか思ってたけど実際にはジャンル問わず多種多様な本があり、わたし達の興味を惹くには十分なものだった。流石に本が並べてあるのを見るだけで楽しめる程の本マニアではないわたし達は、普通に興味を持った本を手に取って読み始める。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……っていやいやいやいや!ちょ、皆ストーップ!読書止めて止めて!」

 

全員が読み始めてから数分後。皆からすれば唐突にわたしがドクターストップならぬヴィーナスストップをかける。…いや、だって…ねぇ……。

 

「…何?読書中は邪魔されたくないんだけど…」

「あ、それはごめん…ってそうじゃなくて!いや何皆黙って読んでるの!?」

「はぁ?騒ぎながら読書してたら確実に頭おかしいでしょ」

「それはそうだけどそうじゃなくて!これ本編の最中だから!第六十七話に掲載されるシーンだからね!?皆黙って本読んでたら話にならないでしょうが!」

「言いたい事はともかくその発言はメタ過ぎるにゅ…」

 

状況とわたしの言わんとしてる事を皆が全く理解していなかった為普段のイリゼやノワール、あいちゃんばりの突っ込みをする事となるわたし。因みにメタ発言マシマシにしたのは勿論ボケとして成り立たせる為、ただ突っ込むだけじゃわたしらしくないからね。…ってだからそうじゃなくて…こほん、ここは一つ閲覧者さんへ配慮の出来る主人公として見本を見せないと。

 

「それじゃ…ねーねーブラン、この書庫って魔法の本とか魔術書とかもあるの?」

「当然あるわ、魔法の国だもの。…まぁ、貴女の思ってる様なものではないと思うけど」

「え?じゃあ囁告篇帙(ラジエル)とか『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)」』とかは無いの?」

「天使や宝具が保管されている訳ないでしょうが…」

「そっかぁ…あ、ならじゅ「十万三千冊の魔道書があったりもしないわ」ねぷっ!?読まれた!?」

 

当たり障りのない普通の質問から始まってボケと突っ込みとパロディの織り交ぜられたネタ大盛りトークを繰り広げるわたしとブラン。うんうん、やっぱこれ位はやんなきゃだよね!

 

「およそ書庫には似つかわしくない会話だにゅ…」

「いーのいーの、けど流石ブラン!わたしの意図を完全に理解してたね!やっぱ無印でのわたしのカップリング枠なだけあるよ!」

「…わたしはそれにどう反応したら良いのかしら……」

「…ごめん、正直わたしも分かんない……」

 

ちょっとエッジの効いたネタをぶっこんでみた結果、何とも言えない雰囲気になってしまった。…うん、普段狙ってボケやってる人なら分かると思うんだけどさ、ボケも実は結構頭使うんだよね。つまらない事言ったら当然滑るし多少面白くても反応に困る様な事言っちゃってたらその後の会話が上手く繋がらなくなっちゃうし。

 

「ねぷ子が言った理由はともかく…女神様って皆そういうネタ関係での察しとかノリ良いわよね」

「ですね。ねぷねぷ達女神様が二人以上いるとほんとに賑やかになるです」

「そりゃそうだよ、ぶっ飛んでてお笑い要素がある事は女神の必須事項だからね」

「そんな必須事項始めて聞いたのだけど…」

「いやでも実際真面目で清純できちんと敬語も使う、正統派ヒロインみたいな女神なんていないっしょ?」

 

記憶喪失だしわたし含めても女神は五人しか知らないけど、まぁ今わたしが言った事はほぼ合ってるよねきっと。…って、うん?今『酷いよお姉ちゃん……』って聞こえた気が……。

 

「…それでねぷ子、ねぷ子が言いたかったのはこういう会話をしろ、って事かにゅ?」

「そういう事。と、いう訳で読書中もこういう会話を続けるという事で一つどうよ?」

『こんな会話しながらの読書は無理だと思う(です・わ・にゅ)』

「…ですよねー……」

 

うん、分かってたよ…我ながらこのレベルの会話となると読書の片手間に、とはいかないだろうって…。

雑談がひと段落ついた事もあり、読書or本探しを再開してしまうパーティーメンバー。それに対しわたしがうむむ、と頭を悩ませていると…

 

「…うーん…ブランさん、ここって司書さんはいないですか?」

「ここは図書館じゃなくてあくまで書庫だから…お目当ての本が見つからないの?」

「はいです。名前しか分からないので探すに探せないんです」

「そう…ならその名前を教えて頂戴。全てではないけどおおよそならここの本を把握しているから、タイトルを教えてくれれば分かるかも知れないわ」

 

何やらこんぱは気になる本があるのか、ブランにその旨を伝えていた。んー…確かに無言よりはマシだけどさ、タイトル言ってブランがその本探して云々〜…じゃネタにならないよねぇ。やっぱりここはわたしがもう一度ネタ振りをして……

 

「えっと、全部は覚えてないですけどそれでも良いですか?」

「えぇ、とにかく言ってみて頂戴」

「じゃあ、ええと…終焉と新生の……」

「ぶ……ッ!?」

 

こんぱがタイトルを言い始めた瞬間、吹き出してむせるブラン。そしてご飯を食べていた訳でも誰かから攻撃を受けた訳でもないブランが突然むせた事で興味を引かれたわたし達……って、あれ?そのタイトルってどこかで聞いた気が…あ!

 

「それ確かブランが昔書いたっていう同人小説だよね!あるの!?」

「あ、ある訳ないでしょうが!っていうか置いてたまるか!」

「あ、ないんですか…ちょっとだけ気になったので読んでみたかったけど、残念です…」

「え…読んでみたかったの……?」

「…少し嬉しそうな顔したね、ブラン」

 

ここでも一問一答の時も言うのを頑なに嫌がっていたブランだったけど、どうやら興味を持ってくれるのは嬉しいらしかった。…まぁ、本に限らず何かしら作品を作ったら人に見てもらいたい、使ってみてもらいたいって思うのは人の常だよね。わたしもブランも女神だけど。

 

「しかし、天使も宝具も同人小説もないってなるとじゃあ何がここにあるのさ?」

「悉くありふれてない本を言うからでしょうが…それ以外ならだいたいあるからそれで我慢なさい…」

「ならゲームの攻略本はあるのかにゅ?」

「あるわ、右端の棚の下の段よ」

「あるのかにゅ…攻略本のある書庫って何だにゅ…」

 

ぷちこの大変ごもっともな突っ込みに対して何故かふふん、と自慢気に笑みを浮かべるブラン。偏りなく何でも揃えてるって事言いたいのかなぁ…。

 

「では、太古の神話全集とか世界の名武器ガイドとかもありますか?」

「あるわ…って、また随分と貴女の趣味の分かる質問ね…」

「じゃあ、医学の本はあるですか?これからの為にももっとナースとしての知識を蓄えておきたいんです」

「勿論あるわ。コンパは勤勉なのね」

「ふむふむ、だったらエロ本ある?」

「それもあ……え?」

 

わたしの発言により突如固まる書庫内の雰囲気。…あ、やばこれはまたネタミスった!?

 

「や、ち、違うよ!?これは所謂三番オチって奴を狙ったのであってエロ本に興味がある訳じゃないからね!?」

「……本当に?」

「本当だよ!?そんな疑いの目をわたしに向けないで!そして皆もしれっと距離を取らないで!」

『…趣味は自由(ですよね・よ・にゅ)』

「だから……お願いだから勘違いしないでぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

白い目で見られ、恥ずかしさに耐えられなくなったわたしは熱くなった顔を手で多いながら絶叫する。…うぅぅ…こんな経験もうこりごりだよぉ……。

そうこうしているうちに夜も更け、そろそろ寝ようかという話をしだすわたし達。その時さっきの発言のせいでわたしだけ別室で…というちょっとエグい話になったのは作中では描写しない、わたし達だけの秘密だったりする。…って、地の文で言ったら思いっきりバレちゃうじゃん……。

 

 

 

 

偽者のブラン討伐の翌日、わたし達はブラン討伐の前日…つまり一昨日と同じ様にブランの部屋に集まっていた。…あ、別にわたし昨夜はハブられてないよ?弄りはするけど虐めはしない、それがわたし達だからね。

 

「ブラン様、全員揃いましたよ」

「その様ね。じゃあ…まずは昨日の戦闘はお疲れ様、ひとまずわたしの偽者の件は何とかなったわ」

「ふっふーん、これが主人公の実力って奴だよ!」

「…妙に粋がってるねぷ子はともかく、偽者に跋扈されちゃこっちも困るからこの位当然だにゅ」

 

相変わらずの毒を吐きつつブランの言葉に返答するぷちこ。…あのさ、ぷちこだけじゃなくうちのパーティーってわたしの主人公発言とか調子乗った発言とかに対して悉く雑な扱いするよね。今度全員で集まった時苦情言おうかな…雑に扱われる気もするけど。

 

「私達も元々協力する為に来たんですからお礼は不要ですよ。それよりも…ねぷ子の時は偽者が複数いました、ルウィーではどうなんですか?」

「複数?…もう少し詳しく教えてくれる?」

 

あいちゃんの報告を聞いたブランは少し表情を引き締める。ま、そりゃそうだよね。各章のラストボス的な立ち位置の奴倒したと思ったらそいつと同じ奴が他にもいるかもよ、って話されたんだもん。

という訳で、ブランとブラン同様にプラネテューヌとリーンボックスでの事を知らないぷちこにわたし達は説明する。

 

「--------で、ねぷねぷの偽者はいっぱいいて、ベールさんの偽者は一人だけだったです」

「いない根拠はないのでベール様の偽者は今も捜索が続けられていると思いますけどね」

「そうだったのね…ベール同様、わたしもわたしの偽者が複数発見されたという報告は受けていないわ。けど…」

「こっちもいないという根拠は無い、という事かにゅ?」

 

ブランの言葉を引き継ぐぷちことぷちこの言葉に頷くブラン。…この二人ってちょっとクールとは離れたキャラや要素持ってるから忘れがちだけど、基本は結構冷静で頭の働くタイプだよね。その上でギャグパートにもしっかり対応出来てわたし達パーティーの中でも無個性化してないんだから偉いもんだよ、うん。

 

「まーそういう訳でもしかしたらまだ偽者のブランがどっかにいるかもしれないんだけどさ、どうする?わたし達で探してみる?」

「…念には念を、という事で積極的に探すのも悪くはないと思うわ。けど、どうやらわたしの偽者は考えなしに動くタイプではない様だし、そもそも捜索にそれなりの数を割いてるから今更わたし達が探し始めても効果は薄いんじゃないかしら」

「ガナッシュとか言う奴には聞いてみたのかにゅ?」

「ガナッシュね…少し待ってて」

 

そう言ってブランは部屋から出る。そこから数分後、戻ってきたブランは皆が予想していた通りガナッシュ、そしてミナとフィナンシェを連れて戻ってきた。

 

「お邪魔しますね」

「ブラン様へのご協力、ありがとうございました」

「はいはーい、ってあれ?ガナッシュ何それ?」

「はい?……あぁ、これは見ての通りですよ」

 

わたしが気になったのはガナッシュの首からぶら下がっているもの。最初は学校の先生とかお役所の職員さんとかが首から下げてる名札っぽいあれかなぁ…と思ったけど、よく見たらそこにはガナッシュの名前じゃなくて『研修中』という三文字が書いてあった。…正式に教会で働く事にしたんだ…。

 

「どうしてフィナンシェさんとミナさんも呼んだんですか?」

「ここで決めた事をわざわざ二人の所へ行って伝えるより、この場で一緒に話した方が手っ取り早いと思ったからよ」

「あ、そういう事だったんですか…えっと、ブラン様の偽者が他にも潜伏しているのか、って話ですよね?」

 

状況を確認したのはフィナンシェ。それが分かってるって事は、ブランは呼んでからここに来るまでにさらっと説明したのかな?

 

「そういう事よ。一応聞きたいんだけど、偽者のブラン様の情報は昨日以降無いの?」

「ないですね。まだ警備体制は解いていないので主要な場所に現れていないという事だけは断定出来ます」

「ガナッシュさんは偽者のブランさんが二人以上いるって話聞いたりしましたですか?」

「いえ、その様な話は聞いていませんし、ホワイトハート様の偽者が複数いるかもしれないというのもつい先程知ったばかりです」

「となると、ベールの所と同じである可能性が高くなってきたわね」

 

ベールの所と同じ、という事はつまり偽者は複数人ではない、という事。まぁ勿論あいちゃんが言った通り隠れてるだけかもしれないけど…かも、とかもし、とかを言い出すときりがないもんね。それに急がば回れ…じゃなくて案ずるより産むが易し、って言葉もあるし。

 

「それでは、どうしますかブラン様?」

「取り敢えずは現状維持ね。もし仮に隠れていて、その上でそう簡単には見つからなかったとしてもこうして警備を続けているだけで偽者の動きを制限する事が出来るわ」

「そっか、じゃあわたし達の協力は?」

「してくれるならありがたいけど、別に無くても構わないわ。…それに、貴女達はまだ手助けの途中なんでしょ?」

 

さっきの説明でわたし達がどこへ行き、何をしてきたかを知ったからかブランはわたし達がする事…ラステイションへ行ってノワールの手助けをしようと思っている事を察してくれていた。

 

「うん、そうだよ。…やっぱブランは着いてこられない?」

「えぇ、偽者がいた場合戦わなきゃいけないし、ユニミテスのシェアを落とす為にも今のうちにもう少しシェア率を上げておかなければならないもの。…悪いわね」

「いーよ別に、それだって大事な事だし、そもそもブランが謝らなきゃいけない理由なんてないもん。…あ、じゃあぷちこは?ぷちこはどうする?」

「だからブロッコリーだにゅ。…ブロッコリーも残らせてもらうにゅ、偽者が複数同時に現れたり別の敵と協力した場合はきっと一人じゃ大変になるにゅ」

「それもそうね…助かるわ、ブロッコリー」

 

話し合いの末、リーンボックスの時と同様にわたしとこんぱ、あいちゃんの三人だけで行く事が決定した所で会議はお開きとなる。

そしてそれから約一時間後、わたし達は荷物を纏めて教会の外へと出た。

 

「短い間だったですけど、お世話になりましたです」

「そっちもそっちで大変でしょうけど頑張って頂戴ね」

「はい。それでは皆さん、ラステイションでも頑張って下さいね」

「本当に偽者のブラン様退治のご協力、ありがとうございました」

「ホワイトハート様の事はお気になさらず、私にお任せ下さい」

 

ルウィーの教会の面子はどうにも真面目な人が多い。だからフィナンシェ、ミナ、ガナッシュの挨拶は物凄いまとも感があった。…普通まともなのはそれこそ普通な筈なのに、それが珍しく感じるって我ながら周りの環境ヤバいね…。

 

「それじゃ、そろそろ行くね」

「ばいばいにゅー」

「うんばいばい…って流石にそれは軽過ぎるよぷちこ!?」

「ジョークにゅ、こっちはブロッコリー達に任せてくれて大丈夫にゅ」

「もし何かあれば連絡するけど…それよりも貴女達はラステイションでの手助けに尽力して。それと、無理は禁物よ」

 

教会職員の三人の後に続いて挨拶してくれたぷちことブランの挨拶を受けながらラステイションへと歩き出すわたし達。…ルウィーも、リーンボックスも、ラステイションも何だかんだ毎回真面目な目的の上で来てたし、今度来る時はただ単に遊びの為に来てみたいと思う。だから、そのちっちゃな…でもきっと大事な願いを叶える為にも、ラステイションでのお手伝い…そしてその先にあるユニミテスやマジェ山さんとの戦いも頑張らなきゃだね!




今回のパロディ解説

囁告篇帙(ラジエル)
デート・ア・ライブに登場する精霊の一人、本条二亜の天使の事。これは書き込んだり任意で情報更新されるので通常の本媒体ではないですが…そこは別にいいですよね。

・『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)
Fate/ZEROに登場するキャスターことジル・ド・レェの持つ宝具の事。大容量魔力炉と呼ばれるこの宝具があれば、ブランもルウィーの女神らしく魔法が使えるでしょう。

・十万三千冊の本
とある魔術の禁書目録(インデックス)に登場する、インデックスの覚えている魔道書の総数のパロディ。そんなにたくさん本があるなら、それは正に図書館ですね。

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