超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第七十三話 それぞれの戦いの終結

--------しのぎを削り合う刃。空を裂く電撃と爆発。煮え滾る溶岩の流動。唸りを上げる魔女と魔王、そして女神。

--------あれからどの位が経ったのだろうか。数日か、数週間か…数時間だとか、数ヶ月だとかではないと思う。ただ、時計はおろか時間の経過が分かるものが殆どない場所では一体どれだけ過ぎたのか…何日もの間戦い続けているのかがまるで分からなかった。

 

「はぁ…はぁ…全く、タフ過ぎるでしょうが……」

「そういう貴様も十分過ぎる程タフじゃないか、もう一人の原初とやら」

 

目へと入りそうになる額の汗を手の甲で拭い、少しでも息を整えようと努めながら長剣を構え直す。私が見据える先にいるのは、私に比べ余裕そうなマジェコンヌとそもそも疲労を感じるのかどうかすら怪しいユニミテス。マジェコンヌは私同様に生きている存在であり、ユニミテスも活動エネルギーを自己生成している訳ではない以上、最初よりも損耗している筈ではあるものの、それ以上に私が疲労を重ねている為状況は劣勢の一途を辿るばかりだった。

 

「■■■■ーー!」

「……ッ!」

 

光弾を放ちながら突進をしてくるユニミテス。それを私は長剣で斬り払いながらも地を蹴り、接近してくるユニミテスを真っ向から斬り裂こうとするも…即座に側面から放たれたマジェコンヌの電撃への対応を余儀なくされ、ユニミテスを返り討ちにする事に失敗する。

 

「しかし、貴様も悪手を打ったものだな。その力を持って仲間と共に来ていたのであればもう少し戦えただろうに。それとも、力を得て慢心したか?」

「それを貴女には言われたくない…」

「ふっ、確かにその通りだ。…最初のうちだけはなッ!」

 

一気に距離を詰めてくるマジェコンヌ。咄嗟に私は跳躍する事で回避し、下降と同時に上段から斬り込むも槍の柄で受けられる。一瞬の押し合いと、次の瞬間マジェコンヌの槍の先端から放たれる魔弾。それを体を捻りつつ後ろに飛ぶ事で回避する私。だが、私の飛んだ先に待っていたのは今にも光弾を放たんとするユニミテスの姿だった。

 

「な……ッ!?」

「■■ーー!」

 

私がそれを目視したのとほぼ同時に私へと撃ち込まれる光弾の束。数発ならともかく、まとめて放たれてしまっては全てを斬り払える訳がない。

眼前に迫る闇色の光弾。それらが私の身体を喰らおうとする刹那--------水晶を加工して作り上げたかの様な剣が複数私の周囲から射出され、光弾と撃ち合う形となって相殺する。…否、それだけではない。射出した内の一本は光弾を貫くだけに留まらず光弾の射手であるユニミテスの下まで飛び浅くではあるがユニミテスを斬りつける。剣によって光弾が全て爆散した事を認識する私。その私の手の中で、結晶体からエネルギー体へと姿を変える最後のシェアクリスタル。

 

(これで最後、か…そろそろ覚悟を決めなきゃかな……)

 

開戦当初、私は私を生み出した私との対話で得た力で持って優勢に立っていた。だが、武器精製は一度に数えきれない程の量を作れる程のレベルではない。不可視の爆発による加速は、加速した瞬間はマジェコンヌにすら捉えられない程の加速力を有するものの、私への負担が大きいせいで連続した加速は出来ず、結果分かっていれば対応出来るに落ち着いてしまっている。そして、この二つの力の応用である武器の射出も弾頭の数が限られるのであればちょっと強い遠隔攻撃の域を出ない。何より、これらの力は全てシェアエナジーを変質させる事で…つまり、シェアエナジーを消費して使っている為に、少しずつではあるものの確実に私のシェアと皆から貰ったクリスタルの量を減らしていく事となり、今ではその底が見えてきてすらあった。

元々この力は本来の原初の女神…私よりも強靭な身体を持ち、私どころか四女神が束になっても敵わない程の圧倒的なシェアを有していた彼女だからこそ真価を発揮出来たのであり、それの無い私は言わば燃料も車体も乗用車でありながらエンジンだけF1仕様となっているに等しかった(この次元にF1があるのかって?…パロディとメタ発言が横行する世界観なんですよ?)。

 

「しぶとい奴め…いい加減諦めたらどうだ?潔く諦めるのであれば一思いに殺してやる事もやぶさかではないぞ?」

「…命だけは助けてやる、ならまだしもそれに応じるとでも?第一一度取引を反故にしてるでしょうが」

「はっ、それもそうか…だがならどうする?まさかこの段になってもまだ勝てると思ってると言うんじゃないだろうな?」

 

余裕綽々と言った様な態度のマジェコンヌ。勿論それには少なからず傲慢さも含まれているんだろうけど…傲慢になるだけの根拠はある。女神四人の力を手に入れたマジェコンヌに強大な力を持ち、且つ今まさにその力の一端を利用して私が斬りつけた場所を治癒しているユニミテス。対する私は手詰まり状態で、彼女は知らないだろうけどジリ貧状態。どう考えても私に勝ち目は無かった。

……もし、ここにいるのが私ではなくもう一人の私なら、きっとこの状況下でも勝つ事が出来ただろう。私より強く、私より崇高な精神を持ち、私よりも多くの人に望まれたもう一人の私。……でも、ここにいるのはもう一人の私じゃなくて、複製体である私。皆に出会って、皆と冒険して、皆と笑い合った、他でもない私。だから……

 

「…あまり舐めないで貰おう。如何に強き力を得ようと、人々の想像に形を与えようと、この次元の存在である限り、私を…原初の女神を超える事など絶対にありえはしない。その時代を生きる全ての人に望まれ、全ての人の為に舞う原初の女神に…諦観の念など存在しない!」

 

これは、私なりの虚勢。死ぬかもしれないという恐怖を外に出さない為の、怯えで戦えなくなる事を避ける為の言葉。

これは、私なりの希望。今はまだ遠い尊敬する存在に少しでも近付く為の、あの人と同じ様に大切なものを守り抜く為の想い。

 

(皆は皆の戦いをしているんだよね…だったら、私も私の戦いを続けなきゃ。私はネプテューヌの…皆の、友達だもん)

 

私は戦う。皆の守りたい人々を、世界を一緒に守る為に。また皆との日々で、皆と笑い合う為に。

 

 

 

 

ギョウカイ墓場の危険度は、ゲイムギョウ界の中でもかなり高い方に位置する。大概の土地よりも強力なモンスターが生息する事はおろか、入るだけでも体力を奪われる、マグマと岩石、そして廃棄物の山という劣悪な環境。故にここに人は寄り付かず、仮に来たとしても慎重且つゆっくりと進むのが定石だが……

 

「わらわらと出てきて…邪魔なのよッ!」

「てめぇ等に用はねぇんだよ、どきやがれッ!」

「全く、急ぐ時のモンスター程不快なものはありませんわッ!」

 

--------物凄い勢いでギョウカイ墓場を突き進んでいる者達が居た。というか、私達だった。

如何に質の高いモンスター群、人にとっては最悪な環境でも女神三人の進軍を止める事は敵わない。昔と違って個々が強いだけじゃなく、今はきちんと『連携』が出来てるんだもの、当然よね。

 

「しかし暑い所だな…雪国出身としては勘弁してほしいぜ…」

「確かに嫌な場所ですわね。しかしブランはまだ楽な方では?わたくしやノワールと違って胸が蒸れないでしょう?」

「何で私を混ぜるのよ…まぁ、蒸れるってのは分かるけど」

「あぁ?そんな蒸れるのが嫌なら二人まとめてその脂肪削ぎ落としてやろうか?」

「あら、一戦交える気?やれるものならやってみなさいよ、やれるなら…ね」

 

進軍を止める事は敵わない、とは言っても動けばそれだけ疲労するし目的完遂の前に強敵と戦う可能性も高い以上適度に緩急をつける必要がある。と、いう事で寄ってきたモンスターを殲滅後は速度を落として、会話混じりに先へと進む私達。…別に仲悪い訳じゃないわよ?甘ったるい関係なんて好きじゃないし、それなりの交友があるからこそ軽口も叩き合えるってものよ。

 

「こんな場所で味方同士が戦ってどうするんですの…少し落ち着きなさいな」

『事の発端が言うんじゃ(ないわよ・ねぇよ)』

「よく睨み合ってた次の瞬間にハモれますわね…」

 

ほら見てみなさい、絶妙なタイミングでのベールの手の平返しとそれに同時に反応する私達が仲悪いと思う?……まぁ、世間一般での仲良いとは違うと思うけど、少し前まで憎み合い殺し合ってた私達がベタベタするのはどだい無理な話。だったらそういう私達なりの付き合い方をした方が潔いってものよ、交友の形は一つじゃないし。っていうかそもそもこの私が誰かとベタベタなんてする訳……

 

「……してたぁぁぁぁ…ネプテューヌとがっつりしてたぁぁぁぁ……」

「…急にどうしたんだお前は……」

「よく分かりませんけど、触れないであげるのも優しさですわ」

「そうだな…」

「そんなフォロー要らないから…っと、これは……」

 

ギョウカイ墓場の大分奥…恐らく最深部近くまで来た所で、側から見たら何もないのに止まった私。けど、ベールもブランもそれに何か疑問を持つ事もなく…というか、私と同時に歩み(低空飛行中だったけど)を止める。

女神は往々にして『シェア』を感じ取る事が出来る。シェアに内包される感情やシェア率にして何パーセントか、みたいな具体的なレベルではないものの、シェアの大まかな方向性は分かるし、自身へのシェアに溢れてる場所なら何となく気分が良く、逆に全くシェアが存在しない場所では違和感を感じ、負のシェアが充満してる場所だとそこはかとなく不快感を覚える様になる。私、そして恐らくベールもブランもそのシェアを感じ取ったからこそ立ち止まったのであり、私達が感じたシェアは明らかに三番目だった。

 

「入った時点で感じてはいましたけど…ここは一層濃密ですわね」

「となるとこの先が最深部か…」

 

最深部は私達が向かっていた目的地であり、推測が正しいのであればマジェコンヌとユニミテス……そして、イリゼが戦っているであろう場所。ゲームで言えばイベントが発生するパターンで、同時に十中八九戦闘が予測される状況だった。

 

「ここからはもう一瞬の油断も出来ないわね。…ぼうけんのしょを書かないと…」

「おう、わたしもレポートを書くとするか」

「でしたらわたくしはプロデューサーデータをば…」

「…………」

「…………」

「…………」

 

物凄く微妙な雰囲気になってしまった。誰かが突っ込み役をしてくれるだろうと思って自国の作品ネタに走ってしまった結果がこれだった。ネプテューヌと違ってボケも突っ込みも両方適度に行う私達だからこそ陥ってしまった痛恨のミス。誰に言われるまでもなく各自で反省をする私達。

 

「…よ、よし!さっさとイリゼを助けてやらねぇとだな!」

「え、えぇ!わたくし達の為に戦ってくれてるんですもの、ゆっくりしてる場合ではありませんわ!」

「そ、そうね!国民も仲間も大事にしてこそ女神ってものよ!」

 

戦いを前にして鼓舞し合う私達。…え、誤魔化してないかって?ちょっと冷や汗かいてないかって?そんなの気のせいよ気のせい、私達は大真面目なんだから。……いや、ほんとここからは真面目にやるつもりっていうか真剣にイリゼ救出をするから勘弁して頂戴…。

そうして本当に意識を切り替えた私達は、たった一人で強大な二つの敵を相手してくれているイリゼの為に最深部へと突入したのだった。

 

 

 

 

--------戦い、飛び、舞い続けていた私も今は地に落ち、岩と岩盤へ身体を預けていた。全身の至る所から血が流れ、自身の身に感じ続けていた力も今となっては僅かに感じる程度。最早戦う事はおろか、満足に動けすらしなかった。

 

「よく頑張ったじゃないか、あぁよく頑張った。何ら恥じる事はない、貴様がここで負けようと誰も非難はしないさ」

 

私の喉元にマジェコンヌが槍を突きつける。しかし彼女の声は普段よりも刺々しさがない。…が、その声音は優しさでも慈悲でもなく、上がれる筈のない滝を登り続けた結果力尽きようとしている鯉を哀れむかの様なものだった。

 

「…別に…体裁を気にして戦っていた訳じゃないし、貴女に哀れんでもらうつもりもない……」

「ふん、だから貴様が哀れに見えるのだ。傷付き、倒れ、満身創痍になりながらも戦い続け、その結果敵にろくに傷も付けられぬまま仲間とは離れた場所でたった一人死ぬ貴様は誰が見ても哀れさ」

「……死ぬ?…私がいつ死ぬなんて言った…?」

 

口元にうっすらと笑みを浮かべ、私のすぐ側に落ちていた長剣を握って振るう。勿論力尽きかけている私が長剣を満足に振るえる訳もなく、いともあっさりと槍で弾かれてしまう。私の行動を受けて、ニヤリと笑うマジェコンヌ。

 

「はっ、しぶとさもここまで来ると大したものだな。私が聖人ならばその精神を高く評価していただろうよ」

「…私は死ぬ訳にはいかない…帰って来るって、約束したんだから……!」

「なら貴様は最後まで戦い抜いたと女神共に伝えてやろう。貴様等は好きだろう?心の中で生き続ける、とやらが」

 

マジェコンヌが槍を持つ腕を引き、私の顔に狙いを定める。わざわざ首元に突きつけていた槍を引いたのはきっと私へ確実にトドメを刺す為。

私は身体の中に残る力を必死にかき集めて長剣を握る。ここで死ぬ訳にはいかないから。ここで死んだら足止めの役目を果たせないし、何よりまた皆と笑い合う事が出来ない。そんなのは嫌だ。私は、まだ死なない。死ねない。死にたくない。--------だからッ!

 

「散れ!女神イリゼッ!」

「……ッ…あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 

『イリゼぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

最後の力を振り絞り、声を上げた私。そんな私に届いたのは冷たい槍の刃ではなく……強く、気力の籠もった三つの声だった。

瞬時に飛び退くマジェコンヌ。次の瞬間、三人の女神が駆け抜ける。

 

「ち……ッ!後一歩というタイミングで……ッ!」

「なら私達にとっては最高のタイミングねッ!『トルネードソード』ッ!」

「大丈夫か、イリゼ?」

「…みん、な……」

 

私の前に降り立つと同時に地を蹴りマジェコンヌを追撃するノワール。私を守る様に前に立つベールとブラン。その時私は…三人が、まるで救世主の様に思えた。

 

「■■…■ーー!」

「今は貴方に用はありませんわッ!『シレットスピアー』ッ!」

「ちょっと荒い飛び方になるが我慢しろよ…!」

 

ノワールがシェアを纏わせた大剣でマジェコンヌを打ち払うと同時にベールが大槍を顕現させて射出。それを大きく後ろに跳ぶ事で回避するユニミテス。その時、私とマジェコンヌ、そしてユニミテスの間には大きな開きがあった。そこを見逃さずに私を掴んで飛翔するブラン。

 

「…皆…偽者は…皆の国は……?」

「偽者を倒し、それまで以上にシェアを手に入れたからこそここに来たんですわ」

「それもこれもお前のおかげだ、ありがとなイリゼ」

「貴女は少し休みなさい。…絶対に私達が皆の所まで連れ帰ってあげるわ」

 

もう用はないとばかりにマジェコンヌとユニミテスから離れ、私を連れて飛ぶブランに追随するノワールとベール。彼女達の言葉は暖かく、その表情は優しげだった。

嗚呼、頑張って良かった。皆の役に立つ事が出来た。この戦いは、無駄じゃなかった。その感慨深さがじんわりと私の心を包んでいく。

 

「……っ…侮るなよ女神共!貴様等を逃がすとでも思っているのかッ!」

「あんたこそ私達を侮ってんじゃないわよッ!」

「強くなるのが貴女だけだと思っているのであればそれは大間違いですわッ!」

「悪ぃが、この戦いは…わたし達の勝ちだッ!『ゲフェーアリヒシュテルン』ッ!」

 

一瞬、私は浮遊感を感じる。理由は簡単、ブランが私を宙に放っていたからだった。は?ちょっ…はい!?……と反応しようとするも、実際に口を開く前にノワールとベールにキャッチされて言うタイミングを逃す私。私を放ったブランは氷の属性を付加した光弾を多数精製、それを自身の戦斧で持って打ち出す。

高速で飛ぶ多数の光弾。だが、それ等は全てマジェコンヌにもユニミテスにも当たる事なく進む。それを見て鼻を鳴らすマジェコンヌ。そして彼女は追撃しようとして…気付く。周囲に蒸気が充満し、それがまるで煙幕の様になっている事を。

 

「……ッ!?まさか…狙いは溶岩だっただと!?」

 

そう、ブランは初めから光弾で攻撃するつもりなどなく、溶岩に打ち込む事で蒸気を発生させ、姿を隠す事だった。

即座に槍を振るい、魔法によって蒸気を無理矢理晴らすマジェコンヌ。しかし強者同士の戦いは一手のミスが、一瞬の遅れが致命的な結果に繋がるのであり、今回もそうだった。

晴れた蒸気の先に見えるは遠く離れ点の様になった四人の女神。悔しさのあまり叫びをあげるマジェコンヌ。

--------こうして、私のたった一人の戦いは…大事なものを守る為の戦いは、幕を閉じた----。




今回のパロディ解説

・ぼうけんのしょ
ドラゴンクエストシリーズにおけるセーブデータの事。ドラクエは任天堂ハードでも何作か出ていますが…まぁ、ソニーハードからも出ていると言う事で、どうでしょう?

・レポート
ポケットモンスターシリーズにおけるセーブデータの事。こちらはほぼ任天堂ハード作品だけなので今回の三ネタの中では最も忠実(?)なパロディになっていると思います。

・プロデューサーデータ
アイドルマスターシリーズにおけるセーブデータの一種の事。上記の二つとは些か方向性の違うデータですが…各ハードの代表作ネタという点が重要なんです、はい。

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