超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第七十六話 蘇る女神の翼

衝撃、爆音、そして悲鳴。穏やかな、普段通りの時間が流れていたプラネテューヌ教会は、女神達の活躍によりほんの少し平和へと傾いていた平穏は、一瞬にして崩れ去る。そしてそれは--------私達と魔王ユニミテスとの、決戦の幕開けを意味していたのだった。

 

 

 

 

「な、何事!?明らかにこれ普通に起こるレベルの事態じゃないよね!?」

 

地震かと思う程の大きな揺れと衝撃に騒然とする私達。つい一瞬前まで私達を包んでいた雰囲気は消し飛び、一転して殺伐とした空気が漂っていた。

 

「こんなのどう考えても自然現象じゃないでしょうが!とにかくまず状況確認するわよ!」

「えぇ、皆さん周りには十分気を付けるのですわよ!」

「くそ、最高に意地の悪いタイミングだな…!」

 

いち早く状況を飲み込んだネプテューヌ以外の守護女神三人が走って部屋を出る。そしてそれに一瞬遅れる形で後を追う私達。一体何が起こったのか、これが事故なのか故意なのか、どれ程の被害が発生しているのか。それ等をきちんと把握しない限りはどうする事も出来ないし、把握する為には一刻も早く動く必要があった。

正確な位置こそ分からないものの、衝撃から察するに何かが起こった場所は恐らく近く。ならとにかく動けば何かしら分かる筈。そう思って廊下へと出た私達だったけど……現実は、私達の想定を一枚も二枚も超えていた。

 

『え……?』

 

一瞬、出る場所を間違えたのかと思った。実は廊下へ繋がる扉の他に野外に繋がる扉があり、間違えてそちらを開いたのかと、一瞬思った。けど、違う。そんな扉は無いし、仮にあったとしてもパーティーメンバー全員が間違いに気付かないなんて事はあり得ない。

なら何故そう思ったのか。それは地面や草木…教会の外に広がる風景が見えていたから。壁や屋根や床がある事で見えない筈のものが、直接見えていたから。

--------そう。教会は、荘厳な装いを持つプラネテューヌの中心施設は、文字通り半壊していた。

 

「嘘、でしょ……?」

「酷い…何でこんな事に…」

「……っ…!」

 

想像を絶する光景に再度動揺する私達。そんな中、先程の三人の様に一足早く次の段階へ思考を移したネプテューヌが勢いよく首を振り、周りを見回す。その瞬間聞こえてくる、高圧さに満ちた笑い声。

 

「ハーッハッハッハ!ハーッハッハッハッハ!!」

「この声…やっぱりマジェコンヌが……ッ!」

「まさかこんなにも早く向こうから来るとはね…行くわよ皆!」

「ま、待つです!職員さんの皆が…!」

 

マジェコンヌの高笑いに触発される様に駆け出そうとする私達。だが、そこへコンパがストップをかける。その声は、私達全員が足を止めて振り返るには十分な切羽詰まったものだった。

 

「……!職員のおにーさん達大丈夫!?」

「うぐっ…あ、あぁ…ネプテューヌ様…」

「情けない姿を…見せてしまい、申し訳ありません……」

「酷い傷だな…イストワールよ、早く運ばねばすぐにここは死体の山となるぞ」

「分かっています。皆さん、職員を運ぶのを手伝って貰えますか?」

 

コンパに声をかけられて、改めて見る事でやっと私達は気付く。偶々私達がいた部屋の周りに私達以外が居なかっただけで、よく考えればそれは当然の事だった。教会はマジェコンヌ(と恐らく一緒にいるであろうユニミテス)の攻撃によって甚大な被害を受け、その教会には職員さんを始め元々多くの人が勤めている。ならば、その人達が無事でいる筈がない。

背筋が凍りつく様な感覚を覚えながらも何とか冷静さを保ち、私達はイストワールさんの指示に沿う形で、職員さん達を治療の受けられる場所へと運ぼうとする。……たった一人を除いて。

 

「……ごめんいーすん、皆の事は任せても良いかな…?」

「え…い、良いかと言われれば駄目ではありませんが…ネプテューヌさん…?」

「女神としてはここで冷静になって、優先しなきゃいけない事を考え直すべきなんだろうね…でもさ…」

 

一度言葉を切るネプテューヌ。普段のネプテューヌからは考えられない程静かで落ち着いた声音に私達は怪訝な表情を浮かべる。…だが、次の瞬間私達はネプテューヌの激情を見る。

 

「わたしは…女神化も出来なくなっちゃったわたしでも女神様だって信じてくれた皆をこんな方法で傷付けられて…それで黙ってなんていられないよッ!狂った魔女モドキだとか気持ち悪いエセ魔王だとかに傷付けられるのが我慢出来ないんだよッ!」

 

そう言い放ち、マジェコンヌの高笑いの響いてきた方へと走るネプテューヌ。そんなネプテューヌに私達は一瞬呆気に取られた。

ネプテューヌは基本マイペースでどちらか言えば相手を怒らせる側の人間だからあまり怒る事は無いし、怒ったとしても素の性格(キャラ?)が強烈過ぎてそれに引っ張られてるのか、いまいちキレてる感がないというのが私達の印象だった。そのネプテューヌが今声を荒げ、弄りでも面白味がある訳でもない単なる罵倒を叩きつけた。震え上がる様な怒号でも恐怖を抱く様な静かな怒りでもない、ただの怒り。ただの感情の爆発。だからこそ、それは何よりも私達の予想を超える言動だった。

 

「…ネプテューヌ……」

「……ったく、人に守護女神戦争(ハード戦争)より困ってる人を助けたい、なんて言うなら自分は憎しみに囚われるんじゃないわよ。…それも国民愛があるからこそだとは思うけど…」

「無茶無策無謀とは嫌な三拍子を揃えましたわねネプテューヌ…わたくし達も急がねばなりませんわ」

「イストワール、瓦礫を退かす迄は手伝うけどそこから先はネプテューヌの後を追うわ。…ネプテューヌを犬死にさせる訳にゃいかねぇからな」

 

言うや否や女神化し、今にも倒れそうな瓦礫を中心に退かして道を作るノワール達。女神三人もいれば瓦礫撤去は十分、という事で私は女神化せずに皆と共に職員さん達を瓦礫周辺から運び出す。

 

「あたし達がすぐ病院に連れて行くからしっかりして!」

「ゲマに乗せてやるから楽な姿勢をするにゅ」

「救急隊を呼びましたが状況が状況ですぐには来れない様です。なので重傷の方からお願いします」

「イストワール様、我々もお手伝いします」

「同僚を見捨てる訳にはいかないですからね」

 

幸いにも怪我を免れた、或いは医療機関へ行く必要のない程度の軽傷で済んだ職員さん達も合流し、出来る限り揺らさない様にしながら重傷の職員さん達を連れて行く。

 

「それでは頼みましたわよ」

「はい、ベール様達もお気を付けて」

「よし…皆、さっき言った通りユニミテスに力押しは通用しないって事忘れない様に、良い?」

「そりゃ良いけど…貴女まさか一緒に来るつもり?」

「一緒に行くつもりだけど…え、駄目なの?」

 

女神化五秒前、みたいな気分でいた私はノワールの言葉に冷や水をかけられた様な気持ちになる。いやいやまさか…と思って女神三人の顔を見てみると、三人共真面目な顔をしていた。……ハブですか?私ハブられてるんですか?

 

「いやハブってる訳じゃねぇよ…」

「地の文読まれた!?…理由位は話してくれるよね?」

「いや地の文というか顔に出てましたのですわ…こほん、相手が油断ならない強敵だからですわ」

「分かってるよ、私はその強敵と何日も戦い続けていたんだから。奴は全力でかからないと倒せないし、だったら万全じゃなくても女神化出来る私も……」

「全力でかからないと倒せない敵だからよ。確かにイリゼは万全じゃなくても戦えるでしょうね。…でも、万が一という可能性もあるし、多少戦力ダウンしても不安要素は極力減らしたいの。それは分かるでしょ?」

「それは……」

 

現実はゲームじゃない以上やり直す事は出来ないし、この戦いは雑魚モンスター討伐のクエストと違って一つの誤算がリカバリー不能な程の損害をもたらす可能性が十分にある。リスクを恐れず挑戦する事、多少をリスクを負ってでも利益を望む事は大切だけど、それはリスク管理がしっかりしている場合やリスクを犯してでも望むべきものがある場合という、言わば例外、イレギュラーなパターンであって基本的にはリスクは出来る限り減らした方が良い。国の指導者であり、リスクが常に付き纏う、戦いや経済の事をよく知る女神三人にそう判断された以上、私は反論するに反論出来なかった。…そりゃ、ネプテューヌは心配だけどさ、この戦いが重要なのは分かってるし、ノワール達も私の大事な仲間で友達なんだから、私のよく考えもしない判断で危険を犯させる訳にはいかないよ。

 

「…ネプテューヌを、頼んだよ」

「えぇ、任されましたわ」

「こっちもまた何かあるかもしれねぇ、そん時は任せるぞ」

「ユニミテスは私達が…このゲイムギョウ界の守護者、女神が倒すわ!」

 

国を、国民を守る為の翼を広げ、ゲイムギョウ界に仇なす魔王を討つべく飛翔する三人の女神。私はその背中を願いを込めて見送った後、職員さん達の搬送の為走った。

 

 

 

 

「聞こえるか!腐りきった平和に浸かる蛆虫共!私の名はマジェコンヌ!今日より女神に代わり、このゲイムギョウ界を統べる絶対なる神である!」

 

プラネテューヌの中心街に響き渡る声。何かしらの魔法が作用しているのかその声は国中へと伝わり、多くのプラネテューヌ国民が彼女へと注目していた。

だが、国民が注目していたのはその声だけが原因ではない。

 

「お、おい。女神様に変わって支配するってどういう事だ!?」

「それに…あいつの後ろにいる化け物は一体何だ!?」

「無知な貴様等に教えてやろう。これこそ、ゲイムギョウ界に終焉の鐘を鳴らす魔王ユニミテスだ!」

「■■■■ーーーー!!」

「あ、あれが…ユニミテス……」

 

現実味の無い、しかしふざけているとも思えない様な言葉を言い放つマジェコンヌと、マジェコンヌの言葉に呼応する様に唸り声を上げる異形の存在、ユニミテス。両者共に異常な程のプレッシャーを放っており、それは人々を恐れさせるには十分過ぎる程であった。

 

「……っ…お、お前等なんか誰が望むものか!第一、世界に終焉なんて出来る訳ないだろう!」

「出来る訳ない、か…確かに貴様等愚民には分からぬだろうな。……力を見せてやれ、ユニミテス」

「■■ーー!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ユニミテスが胴体と思われる場所にある巨大な口を開く。その物々しい雰囲気に人々が口を見つめる中、口の中へ黒い光が収束し……ユニミテスから見て正面に位置していたビルが貫かれる。一瞬の静寂の後、音を立てて崩壊するビル。それと同時に阿鼻叫喚へと包まれる人々。それを見てマジェコンヌは、嗤う。

 

「ひぃぃ…!こ、殺される……」

「た、助けてくれ…パープルハート様…」

「幾ら願おうがパープルハートが貴様等の前に姿を現す事は無い!何故なら、そのパープルハートの力は私が奪い、力を奪われた奴は魔王に恐れをなして逃げ去ったのだからなッ!」

「う、嘘だ!あのパープルハート様が逃げ去ったりなんてする筈がない!」

「そうよ!デタラメよ!」

 

嘲笑するかの様なマジェコンヌの言葉に、一部の人々が反論の声を上げる。彼等にとって信仰対象である女神、パープルハートは正に尊敬し、憧れる存在であるが故にその愚弄が許せなかったのだった。

しかしマジェコンヌは人々を下々の元と見ているからか、まるで意に介していないかの様に返す。

 

「ふん、愚か者共が。この場に姿を現していないのがその証拠だと分からんのか」

「……っ…それは…」

「まさか…パープルハート様が…っ!」

 

先程とは対象的に言い返す事の出来ない人々。冷静に考えれば姿を現さない理由も思い付いたであろう人々も、自身が、国が存続の危機に晒されているとなれば短絡的な思考に囚われてしまうのも無理の無い話。そんな人々の様子を見て満足気な笑みを浮かべたマジェコンヌは再度の攻撃を、ゲイムギョウ界を自身の望む形へ作り変える為の大きな一撃をユニミテスに放たせるべく指示を--------

 

 

「マジェコンヌゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウッ!!」

 

一人の少女が、牙を剥いた。

 

 

 

 

「よくも…よくもわたしの信者を、わたしを信じてくれた人達をッ!!」

 

つい数日前のキラーマシン戦と同じ様に、『32式エクスブレイド』をカタパルト代わりとする事で一気にマジェコンヌへと肉薄したわたしはマジェコンヌへと太刀を振るう。今までにもマジェコンヌに対しては何の躊躇いも無く仕掛けていたけど、今回はそれだけではない。わたしは、わたしが記憶にある中では初めてと思える程の強い憎悪を、殺意を持って刃を振るっていた。

 

「ほぅ…よく逃げずに再び私の前に現れたものだな、ネプテューヌ!」

「五月蝿い!正々堂々としたタイプじゃないとは知ってたけど、あんな事するなんて…お前みたいな屑は死んでも治らないよッ!」

「随分と口が悪くなったな…やれ、ユニミテス」

「■■■■!」

 

マジェコンヌの防御を力尽くで破ろうと力を込めるわたし。そんなわたしに一瞬影がかかり、その瞬間わたしの直感が逃げろと叫ぶ。殆ど本能的にその感覚に応じて跳んだ瞬間、わたしがいた場所をユニミテスの一撃が抉る。

 

「……ッ!何が、何が魔王さ…お前は…お前はわたしが倒す!今日、ここでッ!」

 

わたしがここへ来る途中見えたビルの倒壊と黒い光。それを見た瞬間わたしは理解した。教会へ攻撃を仕掛けたのもユニミテスだと。そのユニミテスが今目の前にいる。そう思った瞬間、わたしの身体はわたしでさえ制御が出来なかった。

地を蹴り、一気にユニミテスに接近したわたしは跳躍し、ユニミテスの顔と思われる部位を全力で持って斬り裂く。

わたしの一撃はユニミテスの顔を深々と裂き、それを見てわたしは僅かに口元を歪ませる。

……けど、わたしの勢いが続いたのはそこまでだった。

 

「■■……■ーー!」

「な……っ…え……!?」

「■■■■ーー!!」

「がぁ……ッ!?」

 

顔を裂かれたにも関わらず、悲鳴や苦悶とは違う唸りを上げるユニミテス。そのままユニミテスは腕を振るい、空中にいて回避の出来ないわたしを思うがままに吹き飛ばす。咄嗟に太刀を掲げて身体に直撃するのは避けられたわたしだけど、万に一つもその攻撃を受け止めきれる筈はなく、バットで打たれたボールの様に近くの建物へ激突する。

身体が砕け散るかの様な衝撃で視界が歪み、呼吸も出来なくなる。全身を激痛が襲い、わたしが激突した事で一部が壊れた建物の中で崩れ落ちる。

そしてわたしは感じた--------どうしようもない程の、絶望を。

 

 

 

 

薄っすらと見える視界には、いつの間にか来たらしいノワール達三人とマジェコンヌ、ユニミテスによる激しい戦いが映る。ゲイムギョウ界の未来をかけた、プラネテューヌで繰り広げられる戦い。……でも、わたしはその中にいなかった。プラネテューヌの守護女神であり、ゲイムギョウ界の平和の守護者であるパープルハートは瓦礫の中で埋もれかけていた。段々と意識が無くなりそうになる中で、わたしの想いは沈んでいく。

 

(……力のないわたしじゃ、何も守れない…力だけでも、思いだけでも駄目なのに…わたしは、足りていない…)

 

いつもならこの位、簡単に気を持ち直せる筈なのに、今はまるで出来なかった。何故出来ないのか。身体がボロボロだから?…違う、そんな程度で折れるわたしじゃない。女神化出来ないから?…違う、それもあるけどそれだけじゃ折れない。なら、一体何なのだろうか。

その時、わたしの無鉄砲な言動のせいで何度も友達を大変な目に合わせてしまった事を、パープルハートが来ない事で挫けそうになっている国民を、わたしが助ける事よりもマジェコンヌとユニミテスを倒す事を優先してしまった職員のおにーさん達を思い出す。

 

(……あぁ、そっか…)

 

わたしは愚かだった。主人公だの女神だのと言って調子に乗ってるくせに、周りをろくに省みる事も出来ず、ただ身勝手に振舞っていただけだった。そしてその身勝手が通用したのはひとえに力があり、運も味方してくれただけだった。だから、力を失って、運も味方してくれなくなった今は誰一人守る事も出来ず、女神の務めも果たせぬまま倒れようとしている。

……けど、それが妥当なのかもしれない。悪い人には天罰が下る。そんな事は子供でも知っていて、好き勝手に進み続けていたわたしが情けなく、失意のままに終わるとしたらそれは正にその通りなのだ。

出来るならば皆に謝りたいけれど、それすらも許されないのかわたしの意識は遠のいていく。そうしてわたしは後悔と罪悪感を心に渦巻かせたまま、ゆっくりと眼を--------

 

「馬鹿言うんじゃないわよ!ネプテューヌは…女神は一人でも信じる人がいる限り、守りたいものがある限り死んだりなんてしないわ!」

「女神は義務だからではなく、自分の思いから国を、国民を守るものなのですわ!そしてその点において、ネプテューヌがわたくし達に劣る事など、万に一つもありませんわ!」

「てめぇがどう思おうが関係ねぇ!ネプテューヌは、パープルハートはここに来る!わたし達はそう信じているんだよ!」

 

ドクン、と自分の鼓動が聞こえた。ノワールの、ベールの、ブランの声が聞こえたその時、ほんのりとわたしの身体が熱を帯びるのを感じた。沢山迷惑をかけた筈の、何度も困らせた筈の三人がわたしを信じて、わたしを望んでくれている。

 

「そうだ…そうだよ!俺達のパープルハート様が来ない筈ないだろ!」

「そう、よね…私達パープルハート様の信者がパープルハートを信じなくてどうするのよ!」

「あぁ!きっとパープルハート様は来てくれる!信じようぜ、女神様を!」

「うん!もし必要なら、さっきの女の子みたいにわたし達も戦おう!」

 

また、鼓動が聞こえた。怯えていた筈の人達の声が聞こえた瞬間、わたしの身体の熱が段々熱くなるのを感じた。記憶喪失だったとはいえ、散々ほっておいた人達が、わたしが守れないと諦めかけていた人達がわたしを待ってくれている。

 

「……っ…」

 

今、教会で職員のおにーさん達を助けようとしてくれている筈の皆の顔を思い出す。皆はわたしを本気で拒絶していただろうか。皆がわたしへ向ける表情は、何かを隠すかの様に曇っていた事があっただろうか。

わたしがお世話になった人達の顔が、わたしが共に戦った人達の顔が、わたしが守りたいと思った人達の顔が、わたしの大切な友達の顔が浮かぶ。その顔は…皆は、笑顔だった。わたしの大好きな、わたしの大事な皆の笑顔。それを思い出した瞬間、わたしの心に勇気が灯る。

腕に、足に、指先にまで力を込めて身体を起こす。皆の事を思い出す度に増していった熱はわたしの力となって、ゆっくりとだけどわたしの身体を動かしていく。

 

「……ごめんね、皆…」

 

わたしの口から謝罪の言葉が漏れる。でも、これは失意と罪悪感からくる言葉じゃない。諦めそうになっていた事の、わたしが皆を信じていなかった事への謝罪。

わたしには反省しなきゃいけない事が沢山ある。後悔の中で気付いた事は紛れも無い事実。でも、それでも皆はわたしを認めて、わたしを信じてくれた。だったら、わたしはわたし自身を否定なんてしちゃいけない。それは、わたしだけじゃなく、皆の想いすらも否定するって事だから。そして、わたしは立ち上がると同時にもう一言口にする。

 

「……ありがとう、皆」

 

その言葉を口にした瞬間、身体が軽くなるのを感じた。まだ全身が痛いけど、気を抜いたら倒れちゃいそうだけど、それでも歩ける、走れる、もう一度前へと進む事が出来る。今のわたしには、それだけでも十分だった。

思い出した皆の笑顔に背中を押される様にわたしは駆ける。女神として、友達として、ネプテューヌとして戦う為に。

そしてわたしは跳ぶ。わたしの願うわたしを、皆の望むわたしを、わたしが守りたいもの全てを守る為の力を宿したわたしの姿を思い描いて--------翔ぶ。

 

 

「……お待たせ、皆。女神パープルハートは…国民と友達を守る為に、わたしの大切なものを壊そうとする魔女と魔王を倒す為に……わたしは戻ってきたわ!」




今回のパロディ解説

・「〜〜お前はわたしが倒す!今日、ここでッ!」
機動戦士ガンダムSEED Destiny主人公、シン・アスカの名台詞の一つ。元ネタでも本作中でも憎悪を込めて言い放った言葉、それ故にかなり印象に残るかと思います。

・「〜〜力だけでも、思いだけでも駄目なのに〜〜」
機動戦士ガンダムSEED主人公、キラ・ヤマトの名台詞の一部のパロディ。上記のパロディといい、今回は中々元ネタでの状況と合った形でのパロディが出来た気がします。

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