超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative   作:シモツキ

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第七十九話 人の思いに消えゆく魔王

嵐の前の静けさ、という言葉がある。大きな事件や衝撃的な出来事の前に訪れる、静か過ぎる程に静かな、不気味な静寂の事をいう(実際の嵐の前は静かじゃない事もあるけど)諺だけど、静けさが訪れるのは嵐が来る前だけなのだろうか。……いや、そんな事はない。嵐が来る前に静寂が訪れる事があるのと同様に、嵐が過ぎた後…もっと言えば、嵐が過ぎた瞬間に訪れる静寂も--------ある。

 

 

 

 

戦場は、静寂に包まれていた。女神も、魔王も、両者の戦いを固唾を飲んで見守る人々も、全てが静まり返った街の一部と化していた。そしてそれは、主戦場から少しだけ離れた場所にいる二人も例外ではない。

私の持てる全力で、私の出せる最大推力での居合いを受け、そのまま私諸共瓦礫の中へと突っ込んだマジェコンヌは目を見開いていた。何故彼女が目を見開いているのか。私が意表を突いたから?…否、確かに多少なりとも驚かす事は出来ただろうし、それを狙って強襲をしたのだから驚くのは想定通りといえば想定通りだけど、この程度でいつまでも驚いている程マジェコンヌは柔な相手ではない。ならば何がその要因となったのか。

マジェコンヌの見る先には彼女の僕である魔王ユニミテス、そしてネプテューヌがいる。一糸乱れぬ全力の連携でもってユニミテスの全身を斬り裂いた、ネプテューヌ達がいる。今までどんなに傷付けようと即座に回復していた筈のユニミテスは、その傷口を開いたままでいる。そして、マジェコンヌが瞳に意思を灯し、何か言おうと口を開いた瞬間--------

 

「■■■■■■■■■■ーーーー!!?!?」

 

ユニミテスの、空気を揺らす様な断末魔が響いた。

 

 

 

 

ユニミテスの断末魔を背中に受けながら、わたしは残心を解く。ユニミテスが死んだ事を確認した訳ではないし、異様な程の治癒能力を持つユニミテスが本当に物理的に殺せるのかどうかも正直怪しいと言えば怪しい。けど、わたしには分かっていた。これが断末魔である事が。ユニミテスが死んだという事が。

 

「…馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁぁぁぁぁぁああッ!!」

「……っ!」

 

ユニミテスの断末魔に匹敵するかの様な怒号が響き渡り、次の瞬間わたしに向かって何かが飛んでくる。それがマジェコンヌの元から飛来した事を認識したわたしは反射的に大太刀で横薙ぎにしようとした…けど、振るう直前に飛んできたものが何か理解し、大太刀を手放して明後日の方向へと投げ飛ばす。そしてわたしとぶつかる……イリゼ。

 

「…痛た…イリゼ、大丈夫?」

「う、うん…ありがとネプテューヌ…」

 

ボールみたいな小さなものならともかく、今のわたしと対して背の変わらないイリゼがいきなり飛んできたらその場で受け止められる訳がなく、イリゼをキャッチしたまま一メートル程飛んで尻餅をついてしまう。……ちょっと痛かったけど今までわたしは何度かイリゼにセクハラしちゃってるし、今回は何もなくて良かったわ。…サービスシーン?こっちは真面目に戦ってるんだから狙って出来る訳ないでしょ?というかわたしは別にセクハラしたい訳じゃないし、そもそもわたしとイリゼは同性……

 

「あ、あの…ネプテューヌ?受け止めてくれたのはありがたいんだけど…私はいつまで抱っこされてなきゃいけないのかな…?」

「あ……」

 

慌ててイリゼを掴む手を離し、イリゼの後を追って立つ。…メタ視点を意識し過ぎて本来の視点を見失うなんて何やってるのかしらねわたし……。

 

「何やってんのよあんた達は…気を抜くのはまだ速いわよ?」

「べ、別にふざけてる訳じゃないわよ…」

「はいはい、何にせよまだ戦いは終わってないわ」

 

呆れた様な表情を暫し浮かべた後、つい先程までイリゼがいたであろう場所へと鋭い視線を向けるノワール。そう、この戦いの最大目標であるユニミテスは無事倒せた(と思われる)けど、敵がいなくなった訳ではない。そして、この場に残る敵…マジェコンヌは、総合的な意味では間違いなくユニミテス以上に油断ならない敵であった。

 

「…何故だ、まだシェアエナジーが残っているというのに何故力技で倒されるんだユニミテス…!」

「あんだけやってもまだシェアエナジー残ってたのかよあいつ…」

「イリゼが相手をしていてくれたから良かったものの…もし偽者討伐の為各国に分散していた時に襲われたらと思うと……ゾッとしますわね」

「えぇ、でももうユニミテスはいない。…後は貴女だけよ、マジェコンヌ」

 

五人で並び、揃ってマジェコンヌへとわたし達は武器を構える。最初は女神化も出来ないわたし一人で始めた、劣勢の戦いは、今となっては完全にわたし達の優勢となっていた。

そして、そんなわたし達とは対極に追い詰められたマジェコンヌ。しかし彼女は慌てるでも嘆くでもなく、ただぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「…ちょっと、私達が構えてるんだからあんたもぼさっとしてんじゃないわよ」

「五月蝿い!クソッ…こんな事があり得るかッ!貴様等一体どんな卑怯な手を使ったんだッ!」

「貴女に卑怯とは言われたくないよ。ネプテューヌ達は正真正銘実力で持って倒した、それが分からない程愚かじゃないでしょう?」

「実力で持って倒した?はっ、貴様等の様な愚民に信仰されなければ戦う事すら満足に出来ない出来損ない共が実力で倒しただと?つまらない冗談は……いや、待て…」

「…マジェコンヌ?」

「……そうか、そういう事か…フッ…ハハ、ハーッハッハッハッ!!」

 

何かに気付いた様な様子を見せた後、突如笑い出すマジェコンヌ。現実を受け入れられずにいるのか、劣勢に耐えかねて狂ったのか…何れにせよ全く持って理解の出来ない、不気味な笑い声が街中をこだまする。

 

「何が面白いんですの…!?」

「面白くなどあるか!あぁ不快だ、不快でしょうがないさ!ユニミテスが貴様等に敗れた、納得の出来る理由を見つけてしまったんだからなぁ!」

「納得の出来る理由…?マジェコンヌ、貴女はわたし達が実力以外で倒したって言いたいの?」

「いいや、残念ながら貴様等がユニミテスを倒したのは間違いなく実力さ。貴様等の…『女神としての』力だろうな」

 

髪の毛をかき上げ、瞳に憎しみを籠らせながらも口元を歪ませるマジェコンヌ。彼女は間違いなく劣勢であるというのに、わたし達は彼女から何か恐ろしいものを感じていた。

 

「随分と含みのある言い方を…女神としての力?何を言いたいのマジェコンヌ」

「何、簡単な話さ。ユニミテスは完全にシェアのみで構成された空想の実現体。それ故にユニミテスへの感情、シェアによってその在り様は大きく左右される。そしてそれは生死すら例外ではない」

「そんな事は言われなくても知ってるってんだよ、シェアのポテンシャルもついさっき確認したからな」

「あぁ、ユニミテス程依存してはいない貴様等女神ですらあそこまでの奇跡を引き起こしたのだ。そしてその様な貴様等に息つく間もなく全身を斬り刻まれたんだ、それを中継でもって多くの人間が見たのならば……」

「『魔王ユニミテスは女神によって倒された』と人々が思い、それがユニミテスへ『死』を与えた、って事ね…」

 

マジェコンヌの言葉を引き継ぐ形でノワールが結論を述べる。

マジェコンヌとノワールの言う通りならば確かにわたし達も納得出来るし、『魔王ユニミテスは女神によって倒された』と思わせたのはわたし達なのだから間接的にはわたし達の実力とも言える。……けど、その場合一つ不可解な点が残る。

 

「…だったら、何なのよその態度は。少なくともその理由において、貴女が余裕を持てるとは思えないんだけど?」

「ふん、相変わらずおめでたい頭をしているなネプテューヌ。確かに貴様等はユニミテスを倒した。だが、それで貴様等は安心出来るとでも言うのか?」

「はぁ?ユニミテスを倒しても第二、第三の魔王が出てくるとでも言いたいのかよ?」

「第二、第三の魔王か…それも面白いかもしれないな」

「面白い?例えまたユニミテスが現れたとしても、また私達が……って、あれ?…いやでも…まさか……」

「やっと気付いたか。あぁその通り、貴様等は実力で倒したがそれは『多数の人々が見ている』という状況下だったからこそ勝てたに過ぎないのさ!ハーッハッハッハッ!」

 

再び笑い声を上げるマジェコンヌ。最悪に近い状況下での戦闘だと思っていたこの戦いがその実、ユニミテスを打破する最高に近い状況下での戦闘だったという事実は少なからずわたし達を驚愕させ、同時に僅かながらの焦りを感じさせた。

 

「…ふん、だったら…ここであんたを倒せばそれで済む話でしょ。違う?」

「違わないな。だが良いのか?勝ったとはいえ貴様等は消耗した身、対する私は未だ全力が出せる状態だ。戦った結果貴様等が勝とうが負けようが、このままここで戦えば戦闘の余波で更に多くの人が死ぬだろうな」

「ちっ…てめぇ……」

「貴様等が追撃しないと言うのならば素直に引き下がってやろう。ここでもう一戦するよりそちらの方が互いに特だと思わないか?」

「…確かに、マジェコンヌの言う事には理がありますわね…どうしますの?」

「……追撃しないでおこうよ、多くの犠牲を出した勝利なんて喜ばしい事じゃないし…私達の力の上限はまだまだこんなものじゃない、そうでしょ?」

 

イリゼがわたし達の方を向き、言う。ここがプラネテューヌ…わたしの守護する国であるからか、ノワール達はわたしに判断を委ねる様にわたしを見つめる。

未来のリスクを回避する為に、今リスクを払うか。今のリスクを回避する為に、未来へリスクを発生させるか。……そんなもの、迷うまでもないわね。

 

「……さっさと退きなさい、貴女の為に散らしていい様な国民は一人もいないわ」

「女神らしい判断だな。ならば悠々と退かせてもらうとしよう。…だが、図に乗るなよ女神共。貴様等は世界の終焉までに僅かな余裕を生んだに過ぎないのだからな!ハーッハッハッハッ!ハーッハッハッハッハッハッ!!」

 

自身が劣勢であった事を一切感じさせない高笑いを響かせながら、その場を消え去るマジェコンヌ。そして、数秒の沈黙を経た次の瞬間、わたし達は歓声に包まれる。

五人の女神の共闘、魔王の討伐、そしてわたしの復活(これは国民の皆はよく知らないけど)。それら全てを目にして歓声をあげた国民に駆け寄られる中、わたし達は安堵の笑みを浮かべ…わたし達と魔王ユニミテスとの決戦に終止符を打ったのだった。

 

 

 

 

「止めて!ショッカー…じゃなくてわたしの愉快な仲間達!ぶっとばすぞー!」

 

あれから数時間後、戦場となった街中に残っていた国民及び駆けつけた記者達を何とかなだめてその場を離れたわたし達は、あいちゃんからの連絡に従って教会…ではなくコンパのアパートに来ていた。そこでわたしは勝利のプリンを…といこうとしていた筈なのに、何故かノワールベールブランの三人に取り押さえられていた。

 

「五月蝿いわよネプテューヌ、いい加減観念しなさい」

「むむむ…わたし達友達だよね!?もうわたし達は争わなくて良いんだよ!なのに…なのにどうしてッ!」

「気付いちゃったのよ…このままネプテューヌが強くなっていったら、いつか私とラステイションの障害になるって。…ごめんなさい、ネプテューヌ……」

「……ッ!わたし達はリトルバスターズ位の仲良しだって信じてたのに…信じてたのにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「…しょうもない寸劇ですわね」

「全くもって同感よ、ベール…」

 

ベールとブランが半眼で眺める中、それを気にせずわたしとノワールはおふざけ寸劇を続ける。いやほら、教会に攻撃を受けて以降殆どずっと肩に力の入る展開になりっぱなしだったしさー。

 

「…で、何でわたしは捕まってるの?流石にノワールの言ってる事はボケだと思うけどさ、ちゃんと説明してくれなきゃわたしだってちょっとは不愉快に思うよ?」

「何でって…貴女コンパの話聞いてなかったの?」

「え?……あー…そういえば何か言われた気がする…」

 

激戦で疲れてたのとプリンが食べたかったのとで集中力が散漫になってたから今の今まで忘れてたけど、確かに何か説明されてたっけ…?

 

「ネプテューヌ…コンパは貴女の事いつも気遣ってくれているんだから、話位ちゃんと聞いてあげるべきよ」

「そうだよね…ノワールの言葉ならともかく、こんぱの言葉は絶対蔑ろにしちゃいけないよね」

「私の言葉ならともかくってどういう事よ…!」

「で、こんぱは何て言ってたの?」

「イリゼの後にネプテューヌの手当てもするという事、ネプテューヌが逃げるかもしれないからわたくし達に捕まえておいてほしいという事の二つですわ」

 

ベールに言われてわたしはあぁ、と納得する。女神化してからは特に攻撃を受けなかったから皆も忘れてるかもしれないけど、わたし一回女神化前に重い一撃受けて建物にぶつかってるんだよねぇ。わたし以外だったら即死なんじゃないかな。

 

「そっかぁ…でもさ、お手当て必要かな?だってわたしだよ?主人公補正バリバリかかってるわたしだよ?流石に無傷、とはいかないだろうけど多分絆創膏ちょちょいと貼っとけば大丈夫……」

「結構酷いですわよ、貴女の背中」

「……え?」

「あ、確かに…ちょっとこれは直視出来ないわね……」

「R-18指定が必要かもしれないわ」

「ちょ、ちょっと…マジで!?わたしの背中そんな酷い有り様になってるの!?」

 

三人に言われて、わたしは額から嫌な汗が垂れるのを感じる。勿論わたしの首は百八十度も回ったりはしないし、三人に取り押えられてるからどこかへ確認しにいく事も出来ない。……ま、まさか今殆ど痛みを感じないのって傷が浅いんじゃなくて、痛覚が死んじゃう程酷い怪我をしてるから--------

 

「とほほ、まさか傷が開いちゃうとは…ネプテューヌ交代だよー……って、ネプテューヌは全然怪我してないね、良いなぁ…」

「……マジで?」

「うん、マジ」

「……ちょぉっとお話しようか皆」

『ミッション終了、離脱する!』

「逃げた!?」

 

わたしが笑顔で…もうほんと笑顔で、イリゼ曰く『これは寧ろ逆に怖い』らしい程の笑顔で三人に言った瞬間、ノワール達三人はあっという間に逃げ去ってしまう。…わたしが言うのもアレだけどさ、これって女神としてどうなんだろうね。

 

「……何やってたの?」

「頭おかしい女神さん達に迷惑かけられてたの」

「頭おかしいって…それネプテューヌが言う?」

「ネプテューヌが言う?…ってイリゼこそ言える?」

「む、言うねぇネプテューヌ」

「あはは、それはイリゼもでしょ?」

 

にぃ、と二人で悪戯っぽい笑みを浮かべ合うわたしとイリゼ。イリゼはわたしと違ってそれなりに怪我をした…のではなく、ギョウカイ墓場での戦闘の傷が完治してない状態で戦ったせいか、教会にいた時よりも身体に巻いてある包帯や貼ってある絆創膏の数が増えていた。

 

「……身体、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、まぁコンパからは怒られちゃったけどね」

「そりゃそうだよ、怪我したまま戦いに出て傷開かせるなんて危険極まりないじゃん」

「まさかネプテューヌにまで言われるとは…突っ走ってたネプテューヌもどっこいどっこいでしょ?」

「う、まぁそれはそうだけど…じゃあ、お互い言いっこなしって事でこれは一つ…」

「だね、私もネプテューヌも後で皆に揃って叱られそうだけど」

 

イリゼは言葉を発して、わたしはイリゼの言葉を聞いて、今度は溜め息を二人揃って吐く。そして、揃った事に対して苦笑し合うわたし達。色々あったし、まだ全部解決した訳じゃないけど、無事強敵を倒してまた戻ってこられた。そんな安心感に包まれているからか、わたし達はこんぱが来るまでの間、とても穏やかな気分で雑談をしていたのだった。

 

 

……因みにその後、わたしの手当てにこんぱが沁みる薬を使用したが為にこんぱの予想通り、逃げようとするわたしの姿があったりもした。




今回のパロディ解説

・「〜〜ユニミテスを倒しても第二、第三の魔王が〜〜」
クロノ・トリガーの主要キャラクターの一人である、魔王ことジャキの台詞のパロディ。完全に個人的な感想ですが、この台詞はある種の負け惜しみではないでしょうか。

・「止めて!ショッカー…じゃなくてわたしの愉快な仲間達!ぶっとばすぞー!」
とんねるずのみなさんのおかげです、のコーナーで登場した仮面ノリダーにおける、木梨猛の名台詞のパロディ。パロディネタのパロディというのも一興ですよね。

・リトルバスターズ
ゲーム及びメディアミックス作品であるリトルバスターズシリーズの事。ジャンルとしてはギャル(エロ)ゲですが、この作品はかなり友情要素も多いですよね。

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