超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth1 Origins Alternative 作:シモツキ
「これでお終い、っと」
バスタードソードを片手で持って少々大雑把に振るう。然程強くはない…ぶっちゃけた表現をしちゃえば、所謂雑魚敵に該当するモンスターでも、ここまで煩雑な攻撃ではかすり傷を与える事も出来ず、モンスターは大きく後ろへ跳ぶ。……が、その着地地点にはベールとブランの姿。二人の姿に着地寸前で気付いたモンスターは慌てて防御体勢をとるけど…陽動の為に雑な攻撃をしていた私と違って、致命傷を与える事を目的とした二人の攻撃は正確無比であり、防御の上からモンスターを貫き叩き潰す。
小さな呻き声を上げて消滅するモンスター。それはまるで戦闘終了の合図だった。
「いやーやっぱり人数多いと楽だねぇ」
「そうね、おかげで女神化せずに済んだわ」
各々武器を納めて集まる私達。マジェコンヌの手がかりを探そうと決めた直後にモンスターが寄って来てしまったのは些か幸先が悪かったけど、簡単に片付けられたという点ではむしろ幸先が良かった。
「けど、モンスターに遭遇すると手がかり捜索が進まないわね。なるべく見つからない様にしたい所だけど…」
「天界は見晴らしの良さに定評がありますものね…実際には定評が出来上がる程天界を知る人物は多くないのですけど」
ベールの言う通り、遮蔽物が少なく天候も良い(雲の上っぽいから天候も何もない気がするけど)天界は大変見晴らしが良さそうで、それなりに距離があっても簡単に見つかりそうな環境だった。…まぁ、その分私達もモンスターを補足し易いんだけどね。
「…となると、あんまり目立たない様にしながら探すしかないね。大丈夫だよ、私達はなんだかんだで手がかりほぼゼロのイストワールさんの居場所を突き止めた実績があるし」
「あれは棚ぼたの面も強かった気がするけど…そうね。ここは私にとっては新天地だし、旅人としてのスキルを活用して探すわ」
「皆で協力すれば、きっと何か見つかるですよ」
天界についてあまり知らないが故に楽観的な思考の出来る私達非守護女神三人。私達同様天界を知らない(厳密には覚えてない)ネプテューヌは勿論、ノワール達も私達の様子からあまり懸念ばかりしていても仕方ない、と思ったのか次々と同意を示してくれる。
そういう訳で捜索を始める私達。そんな私達が手を止めたのは、それから一時間と少し程経ってからだった。
「…ここって……」
自分達の立つ浮き岩の上を一通り探しては虹の橋を渡り、次の浮き岩の上を一通り探し、また虹の橋を渡ってを繰り返すわたし達。それが何度か続いた後、虹の橋を渡った所で不意にノワールが何かを思い出したかの様に足を止めた。
「ノワール、どうしたの?何か忘れ物?」
「あ、いや…そうじゃなくて…」
「……?」
気まずそうな表情を浮かべているノワール。しかも、後を追うかの様にベールとブランもノワールと同じ様な反応と表情をし始める。なんだろう…はっ、まさかここにはシェアエナジーを乱れさせるフィールドが!?
…と、思ったけどイリゼは何ともなさそうな感じをしているし、同じくわたしも何かを思い出したり切なくなったりはしていない。
「…ノワールもベールもブランも、何かあったの?」
「何かあった、というかなんというか…」
「少なくとも、面白い事ではないわ…」
どうも話したくなさそうな雰囲気を纏う三人。決して悩んでるって訳ではない様だし、普段なら言いたくないなら無理に言わなくても良いよ、と言おうかと考えるわたしだけど…わたしは、一歩踏み込んで質問を続ける。
思えば、ここでわたしが退かなかったのは、深層心理でこの先ノワール達が話してくれる事柄を感じていたのかもしれない。
「……出来る限りで良いからさ、話してくれないかな?」
「…気になるの?」
「そうだよ。それに、皆も話した方がすっきりするかもしれないよ?」
「…ネプテューヌにとってはあまり気分の良い話じゃないわよ?それでも聞きたい?」
「…うん」
こくり、とノワールの問いに首肯するわたし。するとノワールはベールとブランの三人でアイコンタクトらしき事をして意思疎通(話すかどうかについてかな?)を図り、その後決してかの様にわたしに向き直る。
そして、イリゼとこんぱとあいちゃんが不思議そうにわたし達を見つめる中、ノワールは口を開く。
「……ここ、なのよ」
「…ここ、って……?」
「……
「……っ…!?」
気分の良い話じゃない、と言われていたから多少なりとも心構えはしていたし、身も蓋もない事を言ってしまえば、その時の記憶のない今のわたしにとっては何となく他人事の様に聞こえたのも事実。
けど、流石に「そっかぁ…」で済ませられる事では、無かった。今は友達だと思ってる三人が、わたしを倒そうと…殺そうとして、結託した場所。わたしが…元々のわたしが、記憶を『奪われた』場所。
「…結託、というには些か以上に粗末な連携ではあったけど…」
「それでも、全員が敵という状態から、『ネプテューヌが敵、敵の敵は味方』という考え方に変化していたのは事実ですわ……」
「……ごめんなさい、ネプテューヌ」
ノワールが、後を追う様にベールとブランもわたしに頭を下げてくる。この話は前にもしたし、少なくともわたしは掘り返すつもりはなかった。…ほんとに、他人事の感じしかしないからね。だって、覚えてないんだもん。
それでも三人が改めて謝罪をしてくるのは、きっとまだ罪悪感が残っているから。この場所に来た事でそれを刺激されたから。……その事を、『覚えてる』から。
だから、わたしは……
「もー、だから気にしなくて良いんだって。もう過ぎた話、皆も過去の事をうじうじ悩むのは好きじゃないでしょ?」
「それは、そうだけど…」
「でしょ?だからわたしが言わない限りはノワール達も心の底に鍵でもかけてしまっておけば良いんだよ。第一、わたしはこんな話よりゲームとかお洒落の話の方が好きだし」
「ネプテューヌ……貴女、お洒落の話なんて滅多にしないでしょ…」
「あはは、バレた?まぁバレるよね〜…って話とかの方が好きなの。分かってくれた?」
いつもの様に、何ならいつも以上に能天気な顔をして、軽い調子で言葉を返すわたし。真剣な様子で話してる三人には真剣な様子で返す方が良いのかもしれないけど…それはもう過去の事だし、きっと三人は許されたいと思っている訳じゃないんだから、一番良いのはこの事を見えない所へ置いておく事。忘れるんじゃなくて、しまっておく事。
大切なのは、目を逸らさない事じゃなくて、笑顔になる事だよね。
「…そういう所、少しだけ羨ましいわ…女神として、人として…」
「そう?ブランもわたしの立場なら同じ答えを出すと思うよ?だってほら、あのガナッシュを職員に迎え入れちゃう位だし」
「あ、あれは…また別の話よ…」
「…あまり、謙遜しなくても宜しいんですのよ?記憶の有無があるとはいえ、ネプテューヌは女神同士で仲良くしようと自ら動き、わたくし達はそれに乗る事はあっても自ら動く事はなかった。そうでしょう?」
「んー、まぁそれは間違いないけど…でもさ、ベールはわたしを助けてくれたじゃん。やる気が無くなりつつあったらしいけどさ、わたしと違って敵だって思ってるのにわたしを助けてくれたのはどうなの?それってわたしより優しいのかもしれないよ?」
「…全く、ネプテューヌには勝てませんわね……」
ブランはちょっと照れた様な表情を浮かべて、ベールは言葉とは裏腹に穏やかに微笑む。それを見たわたしは浮き石の端まで歩いて下を眺める。
「…しっかし、ここって下界と直で繋がってる訳じゃないんだよね?しかもどんなに目を凝らしても底が見えない……何だか自分が本当に生きてるのか不安になってきた…」
「…案外、もう死んでるか瀕死なんじゃない?ほら、走馬灯ってやつよ」
「む、失礼な!世の中には結構な割合で、危険な筈なのに大気圏外という世界から大気圏内という世界に突入して生還するパイロットが登場するシリーズもあるんだよ!」
「ならむしろ良いじゃない…下界に転移出来て良かったわね、ひょっとしたら永遠に落ち続ける事になったかもしれないし」
「何でノワールはこうもわたしに毒吐くかなぁ……えいっ!」
「のわぁぁっ!?な、なな何するのよ!?馬鹿じゃないの!?」
ついさっきまでの引け目を感じていた様子はどこへやら、隣に来たノワールは普段の不遜な態度に戻っている。そんなノワールの顔を見たわたしは……ノワールの背中を押してみた。
わたしがいたのは浮き石の端、その隣に来た訳だから当然ノワールも端っこにいる。そこで押したらどうなるかは…まぁ分かるよねぇ。
とはいえ全力で突き飛ばした訳じゃないから、ちょっとよろけるだけで済むノワール。目に見えて焦りながら烈火の如く怒るノワールに……わたしは笑顔のまま、告げる。
「やだなぁ、ノワール。--------人を落としておいて、まさか自分はされないとでも思ってたの?それが正しいかどうかはともかく…仮にわたしが落としたとしても、ノワールにも、ベールにも、ブランにも、わたしを非難する権利なんて無いよ?」
----空気が、凍りついた。三人は、酷く狼狽した様子を見せ、イリゼ達はわたしの言葉に驚きを隠せないでいる。
……まあ…こうなるよ、ね…。
「……と、思うのですがどうでしょうイリゼ氏」
「へ……?わ、私?てか、イリゼ氏…?」
「そうイリゼ氏。主人公というより単なる語り部っぽいグランプリ入賞者のイリゼ氏、回答をどうぞ」
「え、えーっと…それはその通りだけどそこには妥当性はあっても正当性はない気が…って何そのグランプリ!?しかも優勝じゃなくて入賞!?ネプテューヌ喧嘩売ってんの!?」
「てへぺろ☆」
「宜しい。ならばこれは突っ込みではなく制裁だよ!」
ごんっ!と、わたしの頭に衝撃が走る。ギャグ漫画では時々あるけど実際にやる人はあんまりいない暴力(お仕置き?)の一つ、げんこつだった。
想定していたものよりちょっと強めの一撃を受けて頭を押さえるわたしに対し、そのげんこつの主であるイリゼはふん、と鼻を鳴らしながら顔を背けて腕を組む。なんだかんだで子供っぽい一面を持つイリゼの子供っぽくない反応に、わたしが場違いな感銘を受けていると…
「じょ、冗談…だったの……?」
「うん?本気で思っている人がこんなしょうもない会話すると思う?」
「な、何よそれ…もう、驚かせないでよね…」
「ふふん、わたしのボケは常識とか前例とかに囚われたりなんてしないんだよ?」
頭を押さえつつ(ひょっとしたら涙目にもなってたかも)、不敵な笑みでノワールに返すわたし。それを見たノワール達はわたしが本気で落としてやろうと思っているのではなく、イリゼとのやり取りの為のキツめの前置きだと判断したのか安堵の表情を浮かべる。
更に、運が良いのか悪いのか、
「…わっ、またモンスターさんです!」
「え、また!?…はぁ、少しはモンスターにも遠慮ってものを知ってほしいよ…」
こんぱがモンスターを発見。ノワール達に比べればショックの少なかったイリゼとこんぱ、あいちゃんは勿論、ノワール達も即座に意識を戦闘する時のそれに移す事ですぐに臨戦態勢となる。
「ほんとですわね…ここは一つ、こちらから打って出るのも良いのでは?」
「うん、じゃあ私が先鋒を務めるよ」
言うが早いかバスタードソードを顕現させ、モンスターの元へと走るイリゼ。そこに機動力と手数の多さに自信を持つあいちゃんとノワールが後に続き、後詰めの形でわたし含めた全員が駆ける。
そして、戦闘は…ものの数秒で終わってしまった。だって……
「…うん、たった一匹に七人で攻め込むのは明らかにオーバーキルだったね」
「そうね、わたしとコンパに至っては攻撃する必要すら無かったわ…」
「…イリゼ一人でも十分だった気がしますわ…」
「あはは…私自身そう思うよ…」
あまりにも呆気なく戦闘が終わってしまい、何とも言えない気持ちになるわたし達。…主人公サイドが実質的な集団リンチをするのは色々どうなんだろうね、やっちゃった後だけど……。
「…ま、まぁ無傷で済んだんだから良いじゃない。それより本来の目的を再開しましょ。…良いわよね?ネプテューヌ…」
「そりゃ勿論。早く見つけて早くマジェンダ倒して早く帰ろ?」
「そうですね。じゃあ、移動した事ですしここの探索を……」
「--------待って」
こんぱの言葉を遮るあいちゃん。急にどうしたんだろう、と思ってわたし達が見ると、あいちゃんは顎に指を当てて何かを思い出してる様な顔をしていた。
「…あいちゃん、何か気になる事があったんですの?」
「えぇ、はい…ねぇねぷ子、コンパ、イリゼ。私達は天界に来てからもう何度もモンスターと戦ってるけど、そのモンスターがどっちから来たか覚えてる?」
「え?んーと、確か最初は…あっち?」
「その次は…あっちから来てた様な気がするです」
「その次…は皆と合流してからだったよね。その時は……あれ?その前二回とだいたい同じ方向…?」
「やっぱりそうよね?で、その三回と今は…全部、同じ方向よ」
指を離すあいちゃん。まさか、と思ってわたし達がノワール達の方を見ると、今度は三人が思考を巡らせているかの様な様子だった。
「…昔から天界にはモンスターがいたけど…前は違う方向からも来ていたわよね?」
「えぇ…そもそも、わたし達が
「いえ、無かった筈ですわ。こうも一日に何度も出現する様なら、
「…という事は、つまり……」
「モンスターが来る方向に、何かあるって事…?」
わたしの言葉に皆が頷く。皆の目には、思いもしなかった形での手がかりに沸き立つ気持ちが浮かんでいた。多分、わたしの目も同じ感じじゃないかな?
「そうと分かれば、善は急げです」
「この推測が正しいなら、少しずつモンスターとの遭遇率が上がる筈よ。皆、油断しないで」
今度はノワールの言葉に頷く皆。皆はモンスターが来る方向へ進める虹の橋へと向かう。それを見たわたしは少しだけ待って……イリゼの服を引っ張った。
「…ねぇ、イリゼ」
「何?…また殴ってほしいとか?」
「ち、違うよ……その、さっきはごめんね?」
「謝る位なら最初から気を付けなさい…。…はぁ、予め言ってくれれば私も心構えをしたのに……」
「あ、やっぱ察してくれてたんだね?イリゼに期待して良かったぁ…」
ほっと胸を撫で下ろすわたし。
イリゼの察していた通り、あの時イリゼに無茶苦茶な振りをしたのはただボケたかったのではなく、イリゼとのやり取りで空気を変えたかったからだった。そしてその結果は大成功、イリゼはわたしの思った通り…というか思った以上にわたしの狙いに乗ってくれて、しかもタイミング良くモンスターが現れてくれたおかげで完全にわたしが凍りつかせた雰囲気は取っ払われた。
「無謀な期待だよそれは…」
「そうかな?まぁそうかもね。…それとさ、あの時のわたしをどう思った?言葉の内容じゃなくて、ね」
「そう、だね……何割なの?」
「何割って?」
「分かってるでしょ、私の言いたい事。……あの言葉には、何割憎しみが込められていたの?」
そう言って、イリゼは私の目を見つめる。怒りでも喜びでもない、ただ一心に真剣な目。そんな目をされたら、嘘は吐けないなぁ…と思いつつ、わたしもイリゼの瞳を見つめて、返す。
「…0割だよ。わたしとしては、欠片も皆を恨んでたりなんかしないもん。ただ、なんて言うか…わたしの身体に残る、わたし自身も覚えていないわたしの記憶がそう言わせた、って感じかな?…実はさ、わたしもよく分からないんだ」
「そっか…うん、分かったよ。それより、ちゃんと感謝してよね?全く、ネプテューヌはいつもこうなんだから」
「ほんとありがとね、物凄く感謝してるよ。やっぱり、イリゼはわたしの理解者だったよ」
「ま、ね。私も同じ位理解者だと思ってるよ、ネプテューヌ」
ふふっ、と笑うイリゼ。わたしの言葉はあやふやで、普通なら突っ込んだ質問の一つでもされそうなところだけど、イリゼは何も追求せずに、ただ理解してくれた。思えば、魔窟での戦闘を皮切りに、戦闘中でも日常でもイリゼは何度も何度も助けてくれたり協力してくれたりした。
だから、そんなイリゼを、わたしは心から信頼していた。今みたいに、本来なら予め言っておかなければ上手くいかない様な事柄でも、イリゼなら…って思える位には、イリゼを信頼していた。そして、その信頼が間違っていなかったと分かった時、理解者だという言葉でイリゼが笑ってくれた時、不思議とわたしは心がぽかぽかするのを感じた。--------この気持ちは、なんなのかな?
今回のパロディ解説
・「〜〜結構な割合で〜〜するシリーズ〜〜」
機動戦士ガンダムを元とする、ガンダムシリーズの事。作品ごとに危険度は違いますが、大概半ば自殺行為ですし、ひょっとしたらネプテューヌの落下より危険かもですね。
・てへぺろ☆
声優、日笠陽子さんの持ちネタのパロディ。これをされるとつい許してしまう…らしいですが、本作での状況同様、いつもいつも許される訳ではないのが世の常ですね。
・「宜しい〜〜制裁だよ!」
Fate/Zeroの登場キャラ、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの名台詞のパロディ。元ネタとは逆に言った側が一撃喰らわせてます、まぁ再現が目的ではないですから。