プロローグ
ここが俺の居場所なのか。
ここ最近、いつも考えている事なのだが、その答えは全く出てこない。
俺は自分で思う事がある。いや、誰しもが一度は考えた事のある事だと思う。
それは…
「「俺はこんな所で納まる器じゃねえ」」
隣にいる少年がニコニコしながら俺のセリフにかぶせてくる。
隣にいるのはいつからか仲良くなったクラスメイトだ。
「マネすんなよ」
「ごめんね。でも、そのセリフ好きだね? 毎日言っているよ?」
「だってそーだろ?」
同意を求めるも首をかしげる。
「俺はこんな面白くもない世界で落ち着くような奴じゃねえんだよ」
俺が見える範囲の世界は狭い。『世界が広い』っていう言葉は自分では見えない範囲が広すぎるからだ。自分が見たことがない未知の領域、そこの広さを伝聞だけで推し量ろうなんてことは不可能だ。
しかし、『世界』は俺の見えている範囲でしか形成されない。なら、俺にとっての世界はこの面白味のない日常で間違いはないんだろう。この枠から出ない限りは、俺の世界はどこまでも広がる無限の空間の中の仕切られた箱の中だけにとどまってしまうだろう。
「そんな風に考えるんだ?」
「おう。……ってか、今日はやけに聞いてくるな。いつものお前なら『マネすんなよ』のところで笑いながら謝って終わりじゃねーか?」
仲がいいと言うが、あまりこいつと深い会話をした事がない。表面を軽くすくって終わるようなものばかりだ。だが、それは悪いことじゃない。むしろ土足で俺の中に踏み込まれる方が煩わしい。だから、それがこいつのいいところかもしれないな。一緒に居ることで疲れることがないぜ。
「……笑わないで聞いてくれるかな?」
「なんだよ? もったいぶってねーでさっさと言えよ」
ニコニコとした顔の表面には脂汗が出ている。
「限界なんだ」
「何がだよ?」
頬には涙が流れている。
「君の夢を教えて……」
僕に異変が起きたのは数日前の話。
僕はそこにある何てことのない碧い蛹に触れたんだ。そしたらもう僕の頭のなかには新たな鼓動が存在していた。
『こんにちは。君は辺りの宿主さんかな?』
目の前のもう一人の人物に見覚えがあった。その周りを気にしていつもきょろきょろしている目、周りのご機嫌をとるためにいつもぎこちない笑みを浮かべる口、苦痛や努力が苦手で何事からも一歩引いて逃げられる準備をしている卑怯な人物。
これは僕だ。
『はじめまして、僕の名前はアリア・ヴァレィ。少しの間だけど、これからよろしくね』
僕はこれを不幸だと思った。だから、早く終わらしたかった。
「渡宮君の夢を食べる!?」
『そうだよ。僕の目的はそれだけなの。それに食べちゃえばきみはもう何も覚えていないんだよ? 罪悪感も何もないよ』
虫の存在は公表されていない。公式では居ないものとされている。
けれど、その割にはネット上にはいたるところに虫に関する情報が散在していた。だからもしかしてと思っていたけど……。
「本当に虫憑きっていたんだ」
『うん、そうだよ。それでね。君の友達の渡宮君? 彼の夢がとってもおいしそうな夢なんだ。だから、それを食べるために君の前に僕が現れたってわけ』
正直、アリアがいると落ち着かない。外見は自分であるけれど、だらかに見られていると心休まる暇がない。だから、早いところ追い払いたいんだけど……。
「駄目だよ。渡宮君が虫憑きになったら、もう普通の生活はできないんでしょ?」
『たぶん。僕の知った事ではないけど、前の宿主の場合でも虫憑きたちはみんな戦ってたわね』
「それじゃあ、駄目だよ。渡宮君は僕の……」
彼に会ったのは数週間前。弱い僕を助けてくれた。そんな救世主みたいな人。
「僕の唯一の友達なんだから」
「俺はこんな面白くもない世界で落ち着くような奴じゃねえんだよ」
ああ、彼は日常を求めていないんだ。
それならいっそ……
『衝動に任せて食べちゃいなよ』
そうだね。この辛さから僕は解放されて、彼は望んだ通りの非現実に向かう。それはどちらにとってもいい事なんじゃないか。
だから僕は……
「君の夢を教えて……」
ごめんね。僕の友達……。
「俺の夢はこの面白くない俺の世界から出て新しい世界を見ることだ。どこか面白い所に行ってみたいぜ」
その言葉が俺を俺じゃなくす、トリガーだった。
俺の視界は真っ白になり、意識が遠くなっていった。聞こえてきた最期の言葉。
「ごめんね……」
誰に対して謝っているのか……。何に対して謝っているのか。そんな事がどうでもよくなるような。そんな高揚した気分の中。俺の意識は身体から分断された。
目が覚めた時、そこには何があっただろうか。
俺の上を飛んでいるこのホタルと、正面に鎮座している機械だ。
「……なんだこいつは?」
周りを見ても誰もいない。それなら、この面白そうなものに触りたくなるのは人間としては当たり前の行動だろう。
近くで見ると、人型のようだ。それに人が座るような機構まで付いている。
「よし。誰も見てねえし。いっちょ乗ってみっか」
ポンと触れる。すると今まで俺の頭上を飛んでいたホタルがいきなりその機械に貼りついた。
「うおっ!なんだこいつ」
はりついたと思ったら、いきなりホタルは溶けるようにその機械と同化していき、全体を包み込んだ。
それに目を奪われていると、後ろから扉の開くような音が聞こえてきた。
「こらっ! そこの君、何をしているんだ!」
振り向くと警備員らしいおっさんと若い女性の人が扉の近くに居た。
「やばっ。怒られるな、こりゃ」
まあ、怒られた所でどうとも思わないわけなのだが、警察沙汰は勘弁してほしいな。
警備の人たちが近づいてきたその時、異変は起きた。
後ろの機械が起動しているのだ。
それを見た若い女性は驚きの表情をしながら俺に詰め寄る。
「うそっ! 君が動かしたの!」
「ん? まあ、そういうことになるのか?」
触れただけだが、正解と言っちゃあ正解だろう。
「また男の人がISを動かしてる! もう、今年はどうなっているのよっ!」
……なんかしらんが、怒られてるのかこれ? よし。
「それでは失礼するぜ」
三十六景逃げるに限るぜっ!
ダッシュしようとする俺を女の人が止める。
「あなた、ちょっとこっちに来てもらえるかしら?」
がっしりと肩を掴まれる。振り返ると謎の威圧感で俺は動けなくなった。なんというか必死の形相、どことなく悲壮感を含んだ女性の眼力はまさにメデゥーサだ。
「(さ、さすがに不法侵入なのか? いやまて。起きたらここに居たんだ。不可抗力であって、故意のものではないのだから仕方がないことなんじゃねぇか? 大体…)」
そこで気付く。俺は今、違う世界に来る事ができたんじゃないか? あいつの態度もなんかおかしかったし…。
あれ? あいつ俺の夢を聞いてきたよな。それって噂の虫じゃねえか? となると、あのホタルは俺の虫ってことか? いや、そう考えると辻褄が合うというかなんというか。
つまり、俺は虫憑きになって、別の世界に跳んでこれたってことだな? 呑み込みがはえぇぜ、俺。
「~♪」
気分は最高にハイってやつだぜ。いやぁ、わくわくすんな。何か女の人が無線で応援みたいなものを呼んでるみたいだけれども…。
「それで君の名前を聞いてもいいかしら?」
別世界に来てから初めての自己紹介。しっかりやらなきゃなんないぜ。
「俺の名前は渡宮稀零だぜ!」
これから始まるまだ見ぬ世界を思い描いて、俺はその女の人に連れられて事務所へ連行された。
俺が跳ばされた世界。それは男よりも女の方が力があるらしい。
力って言ってもあれだぞ? 剛力なんとかって人みたいにマッチョだとかそういうことじゃねぇぞ? あれ、あいつってそういうキャラだっけか?
簡単にいえば権力者がみんな女よりってことだな。初任給とかも女の方が上になってんじゃねぇのかな?
そんな世情になってしまった理由の一つに挙げられるのが俺が触れた人型の機械。
〝IS〟というものだ。
あれは本来、女にしか扱う事のできないものらしく、男が扱える例は今までなかったそうだ。機械が人を選ぶ…おかしな話だよな。
まあ、それもあの日まではの話だ。
俺以外にもその日に動かした奴が居たらしく、いきなり例外が二人も現れてこの世界の人々は驚きを隠せない様子。
「だから、いろいろされたのか」
なんか研究機関でいろいろされて、挙句の果てに『良く分かんないから管理しやすいように学園に入ってね♡』だってよ。
「ふざけてんのかぁあ!」
道の真ん中で叫ぶ姿に周りの女の子がびくりと身体を震わす。
確かにこの世界の男にとっちゃ力を取り戻すことができるかもしれないっていう可能性の詰まった『被検体』なんだろうけどな。俺には何のメリットもねぇっつうの。
「……取りあえず、身分証明書やらなんやら手配してくれた事には感謝だな」
研究所の人に礼を言うならその一点のみだ。それ以外はもう二度と行きたいとも思わない。願わくは顔すら見せないでほしいものだぜ、傷が疼くからな!
ふふふっ。ああ、でも興奮してきたぜ。
「ここが面白い世界である事を祈るぜ」
まだ俺の夢は続く。肩に止まるホタルに礼を言いたくなった。
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二年前に投稿してたものです
やっとこさ投稿にこぎつけました
投稿しようとしたらムシウタ終わっちゃいましたけどね
週一投稿くらいにはしたいところですm(__)m