-IS- 夢動かす機械   作:かきな

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前回のあらすじ

セシリアが案の定でれた
終わり


第2.5話 夢漂う少女 その一

 さてさて、四月も終わりが近づきそうなんですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

 

 私はすこし黄昏ています。

 

 夜、月光が雲間から漏れ、なんとも風情がある風景を目の前にし、少し伸びをする。夜の冷たい空気が肺にしみわたりなんとも心地よい。

 

 「ああ、風が気持ちいいぜ」

 

 外に出て、ベンチに座り、空を眺めているのは別に嫌な事があったからじゃない。考え事をするときに夜風に当たりながらだと、何となくいい方に転がる気がするからだ。

 

「戦闘は楽しかったな。しかし、俺の虫の能力はいまだに掴めてないぜ」

 

 虫憑きというのは何か特殊な能力が使えるって聞いたぜ? つまり何かあるはずなんだけど、今のところわかっているのは虫のおかげでISに乗れるということだけ……。

 

 うーん、と唸っていると空から漏れる月光が一瞬揺らめいた。

 

 影が一つ。空から下に向かう。影の正体を確認しようと、目を凝らして見ると……。

 

「お、親方、空から女の子が!」

 

 某アニメのように言ってみたが、俺の目に映る少女の落下速度はどう考えてもあのふわっとした感じではなかった。重力に従って加速している少女はパラシュートとかを背負っているようにも見えないし、落下に抵抗するような様子もなかった。

 

「あれ? マジでやばくね?」

 

 慌てて落下地点の方に走りだすが、間に合うわけもなく、恐らく地面があるであろう高さまで落ちた。しかし、予想していたグロテスクな音は響かず、かわりに俺を安心させる音が耳に届いた。

 

 バッシャーン

 

「おお! プールに落ちたか。セーフだぜ」

 

 といっても水面に叩きつけられてもやばいと思うんだが、うまい角度で落ちたのか? 音からしてあまりひどいことにはなってなさそうだぜ。

 

 けど、まだ春だ。夜になると意外と冷えるし、濡れたままだと風邪をひく。

 

「助けに行った方がいいんだよな」

 

 上空から落ちてくるなんてどんな奴かはわからんけど、見ちまったし確認くらいはな。それに空から降ってきた女の子なんて面白そうじゃねーか。

 

 しかし、プールに入るには電子ロックを開けられなきゃならねえ。どうするかね。カードキーを借りに行くわけにもいかねーしな。

 

 そんなことを考えつつプールの前までくる。扉の横につけられている電子ロックを見る。

 

「いや、待てよ?」

 

 俺の虫はISと同化して自由自在に動かすことができている。ということはこの電子ロックも虫を同化させれば開けられるんじゃねーのか?

 

「いけ、ヒメボタル」

 

 電子ロックの部分にヒメボタルがとまり同化する。すると、電子ロックは音を立てて解除された……なんて都合よくはいかず、嫌な音を立てて瓦解した。

 

「……やっべえ。これ絶対織斑姉に怒られるぞ」

 

 この前、IS壊したばかりだって言うのにな。しかも、プールの更衣室の鍵だぜ? 変な風に捉えられる可能性が高そうなんだが……。

 

 そんなわけで、難なく侵入に成功したわけだ。後のことは、後で考えればいい話だぜ。

 

 

 

 

 

 プールサイドを見る。しかし、そこに人影はなく、月光に照らされた水面の静けさだけがプール内を占めていた。

 

てっきりプールから自力で這い上がってきて、プールサイドで打ち上げられた魚の如く倒れてんのかと思っていたが、そうではないらしい。

 

「もうどっかに行ったのか?」

 

 それならそれでいいか。そう思って出口に足を向けてふと気付く。

 

「(出口あそこしかねーじゃん)」

 

 元々、ここを使うのは女子しかいないと思って造られた学校だ。まして、プールに男性教員が入るはずもなく、プールサイドと隣接している更衣室は一つしかない。

 

 だからそこからしか出れないんだが……。

 

「いや、でも職員用の出入り口もあるしな。そっちから出たんだろ」

 

 ゴポッ

 

 後ろから嫌な音がする。

 

 振り向くと水面に波紋が広がっており、そこに何かが沈んでいることを示した。

 

「あーもう分かったよ! 春だけど、俺だけ夏の季節を先取りしてやるぜ!」

 

 水泳選手のような入水はせず、靴からざぶんと入る。

 

 月明かりはあるものの、水中まで見通せるような光の強度ではないから、見つけるのに苦労した。大体の位置は波紋から分かって入るんだが、時間をかけてたら窒息死するかもしんねえしいそがないとな。

 

 波紋の位置までたどり着くと、水中にもぐり手探りで探す。手が何かに触れると、それを掴み、たぐり寄せる。

 

「ぷはっ!」

 

引きよせた女子の腰に手を回し、思いっきり持ち上げる。水中なら重くはないが、顔を水面から出させるとなると少し力がいる。

 

 そのままの状態を維持しながらプールの端まで移動し、プールサイドに引きずりあげる。取りあえず息をしてるか、気道を確保したのち口元に顔を近づけ確認する。

 

「……してるしてる。なんだ、案外大丈夫そうだぜ」

 

 呼吸してるならじきに目を覚ますだろうし、このままほっとくのもありだが、流石にアレだな。人としてどうかと思うし、風邪ひいたら大変だからな。

 

「うーん。保健室? あ、駄目だわ。もう先生帰ってるわ」

 

 なら俺の部屋か。もうこんな時間だし、他の女子に起きてもらうってのは迷惑だろうからな。

 

「しゃ―ないから運ぶか」

 

 ずぶ濡れで服が張り付いて気持ちが悪いが仕方がないな。

 

 プールサイドにうちあげた女子をお姫様だっこと呼ばれる形で抱える。ま、これが一番持ちやすいからな。つーか女子って軽いのな。この子が特別かもしんないけどさ。

 

 濡れた服から見える肌は透き通るような白色だった。人の肌ってこんなに白くなるものなのか……。

 

「女子っていうのは未知の生物だぜ」

 

 おっと、そんな事言ってる場合じゃねーや。さっさと移動しよう。

 

 歩を進めようとすると、不意に目の前を蝶が横切る。銀色の鱗粉が月光に反射し、その軌跡を映し出す。その光景に少し目を奪われたが、冷えた身体がぶるりと震え、目が覚める。

 

「さっさと帰るか。俺も風邪ひきそうだぜ」

 

 銀色に煌めく蝶を横目に、俺は寮へと駆け出した。

 

 

 

 

「こういう時に二人部屋ってのは助かるぜ」

 

 使っていない方のベッドの上に女子を寝かせる。布団にシミが広がっていき、かなり濡れていることがわかる。

 

「やっぱこのままじゃ風邪ひくよな」

 

 一応服の上からタオルで拭いてみたがまだまだ濡れている。ちなみに、俺は女子をほったらかして先に着替えたぜ。

 

「服、脱がすか」

 

 ……いや、やましい意味はないぜ? ただ純粋に風邪を引いたら困るだろうから身体を拭くために脱がせるだけだ。だが、それが目的ではあるんだが、もしその過程で見えてしまったとしたなら、

 

「それは不可抗力だろう?」

 

 誰もいない虚空に同意を求める。もちろん返事はない。

 

 そうして服に手を掛ける。

 

「(パチッ)」

 

「ん?」

 

 少女が目を開ける。俺と目が合う。一時の静寂が襲い、コンマ一秒で思考する。

 

「(やばいやばい。この状況はやばいぞ。寝ていた子を部屋に連れ込んで今まさに服を脱がそうとしている俺はどう贔屓目に見ても変態じゃねーか。よし、手を離そう。そして、悲鳴を上げる可能性があるし、口を塞ごうそうしよう)」

 

 はい思考終わり。

 

 そこで、少女の口が開きそうになったので手で口を塞ぐ。

 

「ん~。ん~」

「落ち着け。いや、俺も錯乱しているところはあるが、まずはそっちから落ち着こう。俺はお前を襲おうとしているわけじゃなく、むしろ逆で何か知らんがプールに落ちたお前を助けて風邪ひいたらかわいそうだから俺の部屋に連れ込んで、え~とそれから……」

 

 一息で全て言おうとしたが、少女の顔を見て様子が変わったことに気づく。

 

「……とりあえず落ち着いた?」

 

「(こくこく)」

 

 口をふさがれたまま頷く。

 

「説明するから叫ぶのはやめてくれよ? 夜だし」

 

 そして手を話した俺は先ほどの怪奇な現象を説明した。

 

 

 

 

「そう。あなたは私を助けてくれたのね」

 

「そうそう」

 

「で、私の服を脱がそうと」

 

「そうそう」

 

「……変態」

 

「違うって言ってんだろ! 何回言わせんだよ!」

 

 かれこれ五回は同じ問答をしている。なんて強情な奴だ。命の恩人だぜ、俺は。

 

「で、ここはどこなの? 私はあの戦いで……し……」

 

 少女の言葉が途切れる。少女の視線は俺ではなく俺の肩のあたりを見ているように思えた。

 

「ん?」

 

 視線を追うと、その先にはホタルがいた。

 

 バッ

 

 いきなりベッドから跳び退き俺と距離を取る。そして近くにあったスタンドライトの上部を机に叩きつけ、破壊し、棒状にして構えた。

 

「ちょ、いきなり物騒なことしてんじゃねーよ!」

 

「?」

 

 そのスタンドライトだったものを見て彼女は不審がる。次に自分の周りを見て表情を曇らす。

 

「虫が……いない」

 

「はぁ⁉」

 

 そのセリフに驚愕する。その言葉はいつもなら自分の近くに虫がいる、ということを示している。結論から言うとこの子は……

 

「おわっ!」

 

 考えているうちに少女は俺を押しのけ部屋から跳び出す。

 

「いや、ちょっと待て!」

 

 まずいな。あの子は俺の虫を見て、自分の虫を探して…。この一連の行動から彼女が虫憑きであったことが分かる。ということはだ。

 

「あいつ俺と同じ世界の人間じゃねーか!」

 

 このまま放っておいたらまずい。

 

 俺は部屋を飛び出し、床に転々と続く水滴の跡を追いかける。

 

 

 

 

「お前は誰だ?」

 

「……」

 

 俺が見つけた時、少女は織斑姉に捕まっていた。

 

「どうやって入ってきたんだ?」

 

 空から降ってきたなんて言えるはずねーもんな……。

 

「ああ、織斑先生!」

 

「ん? 渡宮か。こんな遅くに何をしている」

 

「い、いやあ。そいつ、俺の連れでね。ちょっと目を離した隙にいなくなってて……」

 

「……」

 

「わけの分からんことを言っていないで部屋に戻れ。何時だと思っている」

 

「いや、だからな……え~とだな、そう! そいつ、研究所のやつなんだ。好奇心旺盛で勝手に寮の中を見て回ろうとしてさ!」

 

「研究所だと? そんな報告は来ていないぞ」

 

「あ、あれ~? 無断で来たのかよ。ほんと、勝手な奴だぜ!」

 

「…………」

 

 めっちゃ疑いの眼差しで見てるんだが。ていうか、俺自身この言い訳が苦しいことくらい分かってるんだぜ?

 

「……はあ。今回は見逃してやろう」

 

「マジで!? 織斑先生最高だぜ!」

 

 しかしその称賛の言葉に帰ってきたのは拳だった。

 

「次はないからな。厄介事を起こすなよ。特にお前はな」

 

「は、はあ」

 

 少女を開放し織斑姉は去っていった。

 

「……」

 

 少女はまだこちらを警戒している。俺は両手をあげて無害をアピール。

 

「俺はなんもしねーから」

 

「……ヘクチッ」

 

 警戒を解かずにいた少女は流石に身体が冷えてきたのだろう。くしゃみをする。その自分の行為に少女は頬を染め、少し恥ずかしそうな顔をする。

 

「部屋にいかね? 俺の服貸してやっからよ」

 

「……分かったわ」

 

 しぶしぶではあるが、少女から同意を得たので俺たちは部屋に移動した。

 

 

 

 

「シャワーとか使わなくていいのか? 冷えてるんだろ?」

 

「危険でしょ? 無防備な状態で何をされるか分からないわ」

 

 ……やっぱ警戒されてんな。そりゃ、第一印象があれじゃ、こうなっちまうのも無理ないんだけどさ。

 

「そんでさっき説明した通り、この世界は俺らがいた世界とは違う世界だ。虫なんかいない世界」

 

「そう」

 

 少女は俺が出したワイシャツに袖を通している。俺が持っているものでそれらしいのはこれくらいだったからな。ま、当たり前だが、サイズは合っていない。ぶかぶかだ。

 

「ところでお前、名前なんて言うんだ? 俺は渡宮稀零だ」

 

「……パトリシアよ」

 

 ほう。

 

「パトリシアか、ハーフだったのか?」

 

 肌の色も日本人とは思えないし、そうだとすれば納得だぜ。あの白さはぶっちゃけ病気なんじゃないかと疑うレベルだったからな。

 

「……あなたは馬鹿なの?」

 

「馬鹿じゃねーよ、稀零だぜ」

 

「……摩理よ」

 

「ん?」

 

 パトリシア?

 

「花城摩理」

 

 ……。

 

「なんで嘘ついた?」

 

「なんで信じたの?」

 

 くっ、何て野郎だ……。あ、野郎じゃねえや。難しいな。

 

「まあ、いいぜ。摩理って言うんだな。んで、俺はお前に聞きたい事がある」

 

「なにかしら?」

 

「摩理は虫憑きだったんだよな? さっき自分の虫を確認してたし」

 

「……ええ、そうよ。私は虫憑きだったわ。今はもういないみたいけど」

 

 

 虫憑きだったってことか。……たしか、虫憑きって虫が居なくなったら何かになるんじゃなかったっけ? たしかそんな情報がネット上に流れていた気がするけど……なんだったっけな、思い出せねーぜ。

 

「聞きたい事があるんだ」

 

「何かしら? 虫の起源とかかしら?」

 

「いや、違うぜ」

 

「……まさか」

 

「そうだ。俺が知りたいのは……」

 

「……」

 

 場に緊張が走る。

 

「俺の虫の能力だ」

 

「…………は?」

 

 俺の質問に摩理は腑抜けた声を出す。まるで、そんな質問が飛んでくるとは思わなかった、とでも言いたげだ。

 

「なんですって?」

 

「いや、だから俺の虫の能力をだな……」

 

「そんなことも知らないで、本当にあなたは虫憑きなの?」

 

 あきれた様子だ。俺はなにかおかしなことを言ったのか?

 

「……虫を見れば大体の能力は分かるわ」

 

「本当か⁉ だったら――」

 

「ただし」

 

 俺の言葉の途中で摩理が上から被せる。

 

「それは戦いの中で相手の戦い方を見た時に限って分かることよ」

 

 むむ? つまり、今から俺は摩理と戦うべきってことか。

 

「よし、なら明日にでも戦ってみようぜ!」

 

「私は戦い方で虫の能力を予想してるの。自分の虫を把握していないあなたと戦っても意味はないわ」

 

 な、なんだって‼

 

「つまり、俺の虫の能力は分からずじまいってことか……」

 

「だいたい、自分の虫くらい自分で把握しなさい」

 

 確かに、この虫ってやつは俺の人に聞くのはお門違いってか。

 

「なら聞きたいことはねーな」

 

「そう。なら寝てもいいかしら?」

 

「警戒してるくせに寝ようとは思うのかよ」

 

 摩理はそれを聞き流し布団をかぶる。まだ安心しきっているわけではなさそうだが、少しだけ空気がやわいだ気がする。

 

「おやすみ、摩理」

 

「………おやすみ」

 

 摩理の返事は小かった。だが、返事していたという事実がそこに存在した。

 

 それだけで俺は満足だった。

 

 

 あ、こっちの布団濡れてるじゃねーか。じゃあ、俺はどこで寝りゃいいんだよぉ‼

 




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はい、ムシウタからのヒロインは摩理でした!
かわいい!!一番好きなキャラです!!

一番好きだからこそ、書きにくいんですよね;;

新たな夢が交わって、ここからシナリオが変わってくる……はずですよ!!
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