-IS- 夢動かす機械   作:かきな

12 / 23
前回のあらすじ

摩理がさらわれたよ

稀零くん携帯に虫を同化させたけど、壊れないのかな?
心配です



第2.5話 夢漂う少女 その三

 頭がくらくらする。目が覚めると私は知らない場所にいた。縄で身体を拘束されていて、身動きが取れない。

 

 混乱する頭を整理する。たしか昼食の後、研究所へ向かう道中でいきなり後ろから掴まれ、口元に何かあてられて。それで意識が遠くなってきて……。

 

「ここはどこなの?」

 

 良く見ると薄暗い視界の中で男が二人と女が一人。どうやら三人で口論しているらしい。

 

「おいっ! どういうことだよ。こいつじゃないのか?」

 

「ちゃんと指定された所に来たIS学園生徒を連れてきたじゃないか‼」

 

 文句を垂れている会話から、どうやら勘違いで私を連れ去ったらしい。IS学園の生徒ということは、ひょっとして……この制服のせいで私は連れ去られてしまったのかしら?

 

「そいつじゃないわよ‼ もう一人IS学園の制服を着た男がいたでしょっ⁉」

 

「なにぃ? 男だってぇ?」

 

「男のIS操縦者なんて聞いたこと……」

 

 そこまで言って男は何か思い出したように顔を上げる。

 

「そういやこの前テレビでやってたような気が……」

 

「そいつだったのかぁ!」

 

「あんたたちそれでもプロなの⁉」

 

 やっぱり。そのせいだったのね……。迷惑な話。

 

 目が慣れてきて見えるようになると、ここが何かしらの倉庫であることが分かった。

 

 少し探ってみると、座っている近くに棒状のもの……鉄パイプがあった。手を少し伸ばし、それを握る。

 

「ねえ、そこのあなたたち」

 

 声に反応して三人が此方を向く。

 

「勘違いだというのならさっさと私を開放してくれない?」

 

「何を言ってるのよ。あんたを使って男の方をおびき出すに決まってるじゃない!」

 

 予想はしていたけど、帰してくれそうもないわね。

 

「あなたたちの無能さのせいで拘束されてるの。分かるかしら?」

 

 帰してくれないのなら自力で帰るしかないわ。

 

 右手に盛った鉄パイプに意識を向ける。しかし、私が期待した動作はされなかった。

 

 そうよ。今の私に虫はいないのだ。強行突破をするだけの力が今の私には無い。

 

「ふざけてんのか? 状況分かってないだろ、お前」

 

「女だからっていい気になるなよ」

 

 迫ってくる男のこともどうでもよくなってした。今の私に虫がいない。それは元の世界との……亜梨子とのつながりの消失とも取れる。

 

 そして、私は今この世界で何のつながりも持っていない。私は……

 

「一人」

 

「お待たせしました、稀零だぜ!」

 

 轟音を響かせ、それは上から光と共に現れた……。

 

 

 

 

「な、なんだいつは!?」

 

「……はっ! あれよ。あれがターゲットの男よ‼」

 

 ターゲット? 俺が目当てだったのか。

 

「おいおいおい。なんか知らねーが、女の子相手になに拳振りかざしてんだ?」

 

 摩理に迫る黒服の二人組……それと一人の女? 昔のアニメの悪役みたいな構成だな。

 

「不届きものにはお仕置きだぜ?」

 

 

 

 

 建物の屋上伝いに進み、研究所にたどり着く。

 

「おっ、渡宮くんじゃない」

 

「おっす!」

 

 窓口のお姉さんと軽く挨拶を済ます。結構お世話になってたから色々話したいことはあるんだが、今はそんなのんびりと話をしている暇はないので、さっさと前にもらったカードを使い施設内に入っていく。

 

 長い廊下を進み、地下へとつながった階段を下りる。コツコツと軽快に靴音を鳴らして下りると、あたかも底がないかと思わせる反響音が耳に残る。

 

 どこまでも続くと思われた階段はやがて終わりを示す機械的な大きな扉を見せた。この中に……あいつはいる。

 

「あんまり会いたくないけど、仕方ないな」

 

 俺が来たことを察知し、扉は自動的に開く。一枚二枚と何重もの金属板が上下左右に分かれる。そして露わになった部屋の中から声が聞こえてきた。

 

「遅いよ~。私結構待ったんだからね。女の子を待たせるなんて、悪い子だよ♡」

 

「女の子って年じゃねえだろ」

 

 急いでいるが、これだけは言っておきたかった。

 

「死に急ぐのも良くないぞ♡」

 

「勘弁してくれ。これ以上体をいじられてたまるかよ」

 

 こいつに関しての良い記憶はない。たしか、篠ノ之束の影に隠れて話題にならなかった自称天才技術者、名前は……知らん。みんなはこいつのことを「先生」と呼んでいる。どこら辺が先生なのか知らんが、研究所の奴らは敬意を示しているらしい。

 

「ふふ、冗談だよ♡ 実は予想より早くてびっくりしているんだけど、何かあったかな」

 

 無造作に伸ばされたその長い前髪の間から鋭い目がちらりと覗く。その目は何もかもを見透かしていそうなほどだった。

 

「ああ、誘拐された」

 

「誰が?」

 

「俺と同じ世界から来たやつが、だ」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

 こいつは……いや、この研究所のやつらは俺が異世界から来たということを知っている。知った上でそれを公表せず、俺がこの世界で生活するための戸籍などをだからこそ頼れる。

 

「それにこのISが必要?」

 

「そうだぜ。それしか方法がない」

 

「……」

 

 先生は何故かそこで黙る。何を考えているんだ? 助けるために力がいる。それだけのはずだ。

 

「やっぱりやだ」

 

「……は?」

 

 その言葉を聞いて、俺は先生を睨みつける。こんな問答をしている暇も惜しいんだ。なのにこいつは何を言っているんだ。

 

「お前を殴ればいいのか?」

 

「私のかわいいISをそんなことに使ってほしくないな~」

 

「お前、何を言って……」

 

「だってその子って女の子でしょ?」

 

 先生が髪をいじくる。無造作に伸ばしている割にその髪は流れるようにさらさらであった。

 

 なんでこいつは女の子って知ってるんだ? まさか……

 

「お前、事情知ってんだろ」

 

「そうだね~。知ってるよ」

 

 あっけからんと答えるその姿に殺意を抱く。事情を知ってる上でこいつはあんなセリフを吐いたのだ。

 

「命に関わっているかもしんねーんだぜ?」

 

「そんなこと知らないよ? 私の命じゃないでしょ?」

 

 こいつっ。湧いた殺意が溢れそうになる。女を殴るというのはやりたくはないが、一発殴って目を覚まさせる必要がありそうだ。そう思い、殴りかかろうとする。

 

 しかし、その動きは途中で中断される。そう、俺の腕が全く動かないのだ。

 

「だから、こうしようよ」

 

 先生の背後に瞬時に展開されたIS。それが俺の動きを止めたらしい。

 

「私は君にISをあげる。これは量産型と違って高価だからね。それなりの価値があるよん♡ そして、あなたは私に……」

 

 先生の指先が俺の肩を差す。そこにいるのは。

 

「その虫の能力を見せる。っていうのはどう?」

 

 暗いこの部屋の中でぼんやりと輝くホタル。

 

「お前……いったい何もんだよ」

 

「ふふふ。先生って、みんなからは呼ばれてるよん♡」

 

 そうして俺の腕は解放される。こいつの提案に乗るか、乗らないかの選択肢はない。

 

「なら、見せてやるぜ。だからISを出せ」

 

「ん~。それが発動条件? なら出すよ」

 

 奥から音が聞こえる。それはこの部屋の仕切りを開く音であって、さらに奥のそこにそれはあった。

 

「私が造った君専用の機体。えーっと、名前は君のそのホタルから取って『天姫蛍』にしようかな」

 

「なんだ、適当だな」

 

 いや、実際こいつはひめぼたるだし合っているにはあっているんだが…。

 

「男に姫って合わないぜ」

 

「そんなことないよ~。男でもピンクの服を着る人はいるでしょ~。それと同じだよ?」

 

 俺はそこに分類されないがな。

 

「んじゃ、見せてやるぜ。これが俺とヒメボタルの力だ」

 

 ひめぼたるは『天姫蛍』に張り付き、同化する。白銀のISはその色を緑色へと変化させていく。

 そのISと一体となり、俺は流れてくる情報の波に身を任せ、ISとリンクしていることを確認する。

 

「……そっか。だから君はISに乗れるんだね」

 

「ま、そうなるな」

 

 俺の虫を見た先生は何かを思案しているような顔をする。

 

「なんだ? どうかしたか?」

 

「ん? こっちの話だよ。それよりも、天姫蛍に情報を転送しておくよ♡」

 

 転送された情報は、どこかの場所を示していた。

 

「何だ、これ?」

 

「お探しの子の場所だよん♡」

 

 なんだって⁉

 

「なんで知ってんだよ」

 

「君と会話している間に調べておいたよん。町中にある監視カメラの情報からすぐに解ったからね」

 

 なんて奴だよ。自称天才は伊達じゃねーらしいな。

 

「ふん。じゃあ、行ってくるぜ」

 

 天井が開いて空が見える。

 

「行ってらっしゃい。早く帰ってきてね♡」

 

「当分はお前に会いたくねーぜ」

 

 全く心残りがない俺は、躊躇うことなく跳びだす。訓練機の時とは比にならない運動性能。それは分かるが……。

 

「やっぱ、性能より少し早い……」

 

 加速する天姫蛍の前では、距離など全く障害にならなかった。

 

 

 

 

「さて、どうしてやろうか。生身の人間相手じゃ殺しちまうかも知んねえから加減が必要だよな」

 

「ま、マジで男が操縦していやがる!」

 

 公で発表されても、やっぱり信じられないものがあるらしい。

 

「ま、乗れるやつには乗れるんじゃねーの?」

 

 もちろん俺は特別だが、現に一夏は乗っているわけだ。可能性は零じゃねーだろ。

 

「くっ、くそお!」

 

 男は懐から拳銃を取りだす。ISという兵器ができた後でも、やっぱり残っているもんなんだな。

 

「よ、よせっ。相手はISだぞ!」

 

「うわあああ!」

 

 発狂しながら連射する男。その銃弾はしっかりと俺の急所を狙う。銃の扱いになれている、つまりはその道のプロってことになるぜ。

 

 といってもシールドがあるから届かないんだけどな。

 

「効かないぜ!」

 

 すっと加速して男を蹴り飛ばす。威力はセーブして命に危険がないようにする。

 

「ぐはぁっ」

 

 跳んだ先のコンテナにぶち当たって気絶する。蹴った後の保証までしてやる義理はないわな。

 

「ちょ、ちょっと。これ、まずいんじゃない⁉」

 

「ん? あ、誰かと思えば化粧の濃い奴か」

 

 覚えてなさいって言ってたが、まさか本当に覚えてるとは。俺も律儀だな。

 

「く、あ、あなたが悪いのよ‼ ちょっとISに乗れるからって偉そうにして‼」

 

「おいおい、それは自分のことを言ってるのか? 自分の発言顧みた方がいいぜ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする。おお、化粧も相まってすごい形相だぜ。

 

 摩理をさらうように仕向けたのはこいつだろう。本当ならこいつも蹴り飛ばしたいが、あの口ぶりからするとまた逆恨みで何かしてきそうだぜ。

 

「おし、逃げるぞ。摩理」

 

「どうして、あなたは……」

 

 摩理を抱える。そう、初めて会った時の様に。

 

「どうしてって、お前はこの世界の戸籍まだもってねーだろ? だから騒ぎを聞きつけた警察なんかが来たら面倒なことになるんだぜ?」

 

「そう言うことじゃ……」

 

 なんか煮え切らない感じだが別にいいか。それよりも倉庫の天井ぶち破ったし、誰かが警察に通報しててもおかしくないぜ。

 

「まあ、さっさと逃げるぜ。掴まってろよ‼」

 

「え、ひゃっ‼」

 

 あけた穴から飛び出す。生身の摩理がGで潰れると困るのでそこそこの加速で上空へ上がる。風に髪をなびかせる摩理は目をぱちくりとさせている。

 

「び、ビックリしたぁ」

 

「おう、大丈夫か」

 

 摩理ってこんな声も出るんだな。なんか最初の頃からは考えられねえぜ。

 

 少し速度を落として空中散歩を楽しむ。顔を撫でる風があの夜の風を思い出させる。

 

「ほら、さっさと身分証貰って帰ろうぜ」

 

「う、うん」

 

 

 

 

「一日仕事になっちまったな」

 

「そうね」

 

 二人並んで歩く。その距離は今朝よりも近く感じる。

 

「それで、これからどうすんだ?」

 

「えっ?」

 

 身分証は手に入れた。後はどんな風に生活してもそれは自由だ。

 

「私に居場所はないわ」

 

「は?」

 

 全くそんな答えは予想してなかったぜ。なんだ? 病院から出てこられて嬉しくねえのか?

 

「私の夢は終わったの。生きている意味なんてない」

 

「……わけの分からんこというなぁ」

 

「でしょうね」

 

 摩理の表情は暗い。本心から思っているのだろう。

 

「居場所なんて一人じゃ作れないだろ。ここに居場所がないと感じてんのは、まだ摩理がこの世界での繋がりを持っていないからだぜ」

 

「そうね」

 

「だけどな」

 

 俺は摩理の考えていることの少しも分からない。摩理が何を腹に抱えているのか、何に悩んでいるのか。そんなことは分からないし、分かりたいとも思わない。だって、全部分かっちまったら面白みがないだろ?

 

「とりあえずここには俺がいるぜ‼」

 

「⁉」

 

 俺は声を上げる。周りなど知ったことじゃない。摩理が驚いた顔でこちらを見るが、それもどうでもいい。俺は自分の主張をただ外に発信しているだけだ。

 

「過去なんてどうでもいい。未来なんてわからねえ。けどさ、今いる……今生きてるこの世界を、楽しまないなんておかしいだろ?」

 

 こっちの世界に逃げてきた俺は言う。逃げることも時には必要な努力だ。

 

「楽しむ努力をしようぜ。夢が終わったなんて言うけどな。夢なんてのは一度覚めてもまた見れるから夢なんだぜ?」

 

 夢は見るものだ。叶った時点でそれは現実へと昇華される。そうなれば、また次の夢を見ればいいだけだ。

 

「居場所がない? なら創ろうぜ! 足がかりに俺がなってやるぜ! そこから増やせばいいだろ?」

 

「居場所……」

 

 その言葉をつぶやく摩理の心中は計れないが、助けになるなら嬉しい限りだ。

 

「すぐには動けないだろうから、俺の部屋に居てもいいぜ。ま、嫌なら研究所に言えばいいけどな」

 

 くすっと摩理が笑う。

 

「そうね。買った服もなくなっちゃったしね」

 

「ぐっ」

 

 そうだった。研究所に急ぐ時に紙袋全て置いて来ちまったんだった。しかも、戻ったらなくなってるし……。

 

「だからまだ、あなたの部屋に居てあげるわ」

 

「ふっ。上から目線だな。主導権は俺にあるというのにな」

 

 摩理は少し笑う。それに動揺してしまう。いや、なんだこの感じ? 初めてだぜ。

 

「あら、この世界では女性の方が強いんでしょ?」

 

 その笑みに俺は本能的に悟る。勝てない…と。

 

「思えば、俺らの世界も男女間の力の差なんてこんなもんだったよな」

 

 今更ながら特別個人と個人の間に発生している男と女の力の差に違和感を感じていなかった理由が分かった。

 

 つまり、初めから男は女の下にいたんだ。

 

「ふふふ。そうね」

 

 てってと、数歩摩理が前に出る。そして、振り返って俺を見つめる。

 

「帰りましょ、稀零」

 

 ……。

 

「おうよっ! さっさと帰って飯にしようぜ」

 

 ……。

 

「おいしいのを期待するわ」

 

「食堂の味は保証してやるぜ。なにせあの一夏のお墨付きを持っているからな」

 

「一夏って誰よ」

 

 俺たちは帰る、俺たちの居場所へ。

 

 摩理が名前を初めて読んだその時、摩理の居場所は創られたのだ。

 

 

 

 

 亜梨子。私はあなたの記憶に残り、そして死ぬことを選んだ。大切な人の記憶に残ることが一番だと思えたから。

 

 でも……。今は少し生きていたくなってしまったわ。怒るかしら? あなた勝手に巻き込んでいた私が、また生きたいと願ってしまうなんて……。

 

 でも私は思うわ。勝手かもしれないけれど、亜梨子と先生なら喜んでくれるって。そう、思ってしまうの。

 

 一緒に生きたい人ができたわ。

 

 その人は少し荒っぽくて抜けてるけど。けど、とても楽しそうなの。そして、生きることに悲観していないの。

 

 私はもう少しだけ、この世界で生きていたい。これが一時の夢だとしても、少しでも長く見ていたいわ。

 

 眺める星々の中で、蝶が煌めいた気がした。しかし、それは幻だろう。私が望んだだけの幻想でしかない。それでも、亜梨子はどこかで私を見てくれている気がした…。

 

 

 

「……………」

 

 それは校舎の上に座っていた。顔は見えない。フルフェイスのIS装甲に遮られている。目の高さに引かれている赤いラインが、夜の空の中で禍々しく光る。

 

 風に揺らめく布切れは、本来ISには必要のない素材であるが、それが抱えるIS兵装の槍に巻き付いて離れない。いや、それ自体が槍の一部のようにも見える。

 

「……………」

 

 ガチャリと装甲を鳴らしながら立ち上がり、それは影へと消えていった。鱗粉を残して…。

 




閲覧ありがとうございます

感想……(´・ω・`)

オリジナル回はいったん終わりです
次回は原作通り、鈴ちゃんが出てくる話です

摩理の心情描写が雑ですよね;
私の力不足です

それではまたよろしくです(/・ω・)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。