転校生登場
日本に来てまでラーメンを食べる転校生をしり目に
摩理による特訓が今始まる
摩理が槍を構える。瞬間、周りに漂う空気が変わった。ピリピリと張り詰めた空気がこちらを威圧してくる。これまでに体験したことのないプレッシャーに思わず一歩退く。
それを見た摩理は一足で俺との距離を詰め、その勢いのままに槍の柄のそこで胸を突いてきた。
「ごほっ!」
その衝撃は摩理の細身からは考えられないほどの威力を有しており、一瞬呼吸が詰まる。
マジかよ。こんな突きがでるなんて予想もしてなかったぜ。だが、それ以上に驚きなのは摩理の攻撃のタイミングだ。俺が気圧されして、後ろに足を引いた瞬間……つまり俺の重心が後ろに行き、回避行動に移行するためには一回重心を戻す必要がある、その隙を突いてきたというわけだ。そんな芸当ができるのは幾多の戦闘を経験した奴だけ。摩理はそれだけの戦闘をしてきているというわけだ。
これは油断できないと思い、呼吸を整える間もなく追撃を恐れ距離を取ろうとする。しかし、それに合わせるように摩理は前進し、槍の間合いから離れないようにしてくる。相手の一挙動に合わせて動けることも凄いのだが、それだけでなくこの距離感、摩理の槍は届くが、逆に俺の拳は届かないという絶妙な距離を保っている。その空間認識能力の高さはIS戦闘において、どれほどのアドバンテージになるか……想像もつかないぜ。
これは防戦一方の展開しか見えねえな。
「なんてなっ‼」
「っ!」
横に薙ぐような鋭い蹴り。そう、足は腕よりリーチがあるんだぜ‼
摩理はそれを跳んでよける。その上、跳ぶ勢いに乗せて槍を振り上げる。回し蹴りを振り切った状態の俺に回避という選択肢はない。迫る槍を右手で払い落すように腕を振るも、槍は寸でのところで軌道を変え、すり抜けるように俺の顎に迫る。
「うおっ!」
顔を上げて、槍を避ける。ヒヤリと汗が出てくるのを感じ、振りきった足を戻す。そうして戻した足が地面に付く際に、槍の横薙ぎが迫ってきていた。
左から迫る槍、元の位置に戻そうとする右足。摩理の突くタイミングはいつも重心が移動しているタイミングだ。
止めようと左手を出すも、目算を誤り腕に槍が当たる。
「なるほどな」
その言葉に摩理は少し微笑む。
摩理は俺に回避させないようにしているのだ。俺の機体の特性は擬似絶対防御壁を生成するところだ。つまり、俺が今身につけなければならない守るという技能を摩理は俺に教えようとしているわけだ。しかも戦いの中で、だ。それほどのことをやるには戦いの中で余裕を持っていなければならない。
ここまでの戦いで分かっていたことだが、摩理は俺が思っている以上に強いんだな。
俺は直立で摩理と対峙する。もう回避するという思考は省く。これから迫る摩理の槍撃の全てを防ぐ。それが俺のすべきことだってことだぜ。
身体をずらし、突きの的を減らすように構える。摩理が満足そうな顔をする。
そして、次の瞬間から摩理の猛攻が始まった。
修羅場の最中であった3人も漂ってくる張りつめた空気を感じ取り、稀零と摩理の攻防に気づく。
「すげえ」
その光景を見た一夏は思わず称賛を口にしていた。
「ああ、あの花城の槍術はなかなかのものだな」
先ほどまでの感情の高ぶりはどこへ行ったのかというほど箒は冷静に摩理の槍の軌跡を目で追いかけていた。それはどの型にも当てはまらない素人槍術である。が、数多の戦場の中で培われた摩理の槍術は敵を倒すために磨かれたものである。相手の虚を突き、相手の意識を逸らさせて隙を作り、相手の動に合わせた突きであったり。それが花城摩理、通称『ハンター』の狩り方である。
傍から見た時、まず目につくのはそのような摩理の並はずれた槍捌きであろう。しかし、セシリアの目はもう一人の人物を捉えていた。
「普通の方なら花城さんの槍に目がいくでしょうね。ですが、わたくしは違いますわ」
そう言いいながらセシリアは上体を反らし、胸を張る。
「お二人とも、少し稀零さんの方に注目して下さる?」
そう言われて、一夏と箒は摩理の槍に迫られ、防戦一方になっている稀零の方を注視する。そうすることで二人はあることに気付いた。
「なるほど」
「稀零のやつすごいな」
二人の目に映っていたものは摩理の槍を全て受けとめる稀零の姿であった。上下左右から迫る槍、さらには突きまでも、稀零はその掌で弾いていたのだ。
「確かに一見しただけでは花城さんの卓越した槍捌きが目に留まりやすいですが、それを受け止めている稀零さん、守ってばかりで華はありませんが、そちらも称賛に値しますわ」
そう言うセシリアは少し自慢げであった。そういうところだけには鋭い一夏はセシリアの表情に笑みを浮かべる。
「なんだかんだ言って、セシリアは稀零の師匠だよな」
「なぁっ!」
一夏の言葉にセシリアは声を上げる。そしてそれを非難するように首を振るのだが、一夏は微笑んだまま、セシリアを温かい目で見ていた。その視線はさながら孫たちが遊んでいる様子を椅子に腰かけながら眺める老人のそれであった。このように時たま現れる年寄りじみたものは、本人に自覚はないようだが、一夏のくせともいえるものであった。
「だが、セシリアの言うとおりだ」
そんなほんわかとした空気を両断するような鋭い眼光が箒の目には宿っている。
「私が刀を持って対峙したとしても、果たしてあそこまで防ぎ切れるか……甚だ疑問だ」
その目は闘争心の表れであった。箒は今、摩理と稀零の双方に向けて闘争心を燃やしていた。そして、箒は二人の方へ歩き出した。
「お、おい、箒。どこ行くんだよ」
「二人の方だ。もっと近くで私は見たいからな」
箒に一夏とセシリアも続く。より近くで、その激しい攻防を見るために……。
「右、上、左、右」
「うおっ、そこっ、あぶねっ、とう!」
摩理の声が聞こえ、それに従って意識を向け、的確に槍を追う。方向は教えてもらってんのにそれでもギリギリなのは一重に摩理の振りが早いからだ。
早いだけでなく、重い。力の入れ方が上手いからなのか、もしかしたら馬鹿力なのか。どっちにしろ同化していなかったら骨にひびでも入るんじゃねえかと思えるような一撃一撃だ。
そうして繰り返して弾く中でコツを掴んできた。重要なのは流れだ。腕を戻すためにさっきまで込めていた力と反対の向きに力を入れていてはだめだ。それだと同じ速さで戻すとしても最初に込めた二倍の力が必要になっちまう。なら、どうするか。答えは簡単だ。腕の動きを円にすればいい。そうすれば角運動量は保存され、無駄に力を入れる必要がなくなる。
ま、それに気付いたのは摩理の槍の動きを見てなんだけどな。摩理の攻撃は連続で同じ部位を攻撃しない。それは弾かれた後の速度を相殺しないで、それの向きのまま加速させるようにして次の攻撃に移行するからだ。それが一番効率がいいと、摩理が感じているからそうしているんだろう。
なら俺がそれを真似するのは当然だぜ。
「最後、突き」
「おっしゃ! って、うおっ⁉」
予想していたタイミングと違ったから間に合わず、思わず避けちまった。
「なんだ最後のやつは……って柄の底か」
つまり、普通に突けば、薙いだ後刃を前方に戻すため槍は一回転するが、柄の底で突くなら半回転で済むってわけか。
「惜しかったわね、稀零。でも、正直避けられてビックリしてるわ」
「反射的だからな、あんまり嬉しくないぜ」
ちゃんと認識して避けたいんだが、そこまでの力量が俺には無かったみたいだしな。
ふう、とひと息つき、同化を解く。ふと横を見ると、さっきまで修羅場を繰り広げていた三人がこちらを見ていた。
「なんだ、見てたのか……って何かあったのか?」
師匠は恥ずかしそうに顔を隠し、箒はなにやら怒っているようだが……。
「また何かやったのか?」
「いや、これは稀零のせいだぞ」
「は、俺?」
箒がいきなり肩を掴む。鋭い目が俺を捉えて、めっちゃ怖い。
「返せっ! 私の芽生えた闘争心を返せ!」
「いやいやいや、意味が分からねえぜ、箒‼」
なんだよ闘争心って。どうやって返せばいいんだよ。
「あ~、つまりあれだ。遠目で見て、凄い攻防をしてた稀零と摩理だけど、近くに来たら攻撃をあらかじめ教えてもらってて、稀零を褒めてたセシリアが恥ずかしがって、箒はやり場のない闘争心を今『バシッ‼』ぶつけてるってことだよ」
「おう一夏、分かりやすい説明ありがとう。取りあえず、この奇跡的に白刃取りできたIS用ブレード、葵をなんとかしてくれ」
正直、死ぬかと思ったぜ。
閲覧ありがとうございました
なんというか、摩理の強さは虫の力に裏付けされただけじゃなくて、その豊富な戦闘経験から来る戦術にありますよね(誰かと違って
あれ、夏なのに雪が……
次回
摩理と稀零くんが思わぬ部活に!?