貧乳を気にする鈴ちゃん
何かを感じる稀零くん
そして、立ちはだかるは槍使い
「あんなに焦って、稀零はどこに行くつもりなのかしら……」
何かを予感したような、そんな感じだった。
なにか嫌な予感がするわ。
試合の方を見ると、織斑くんが仕掛けようとしていた。
その時、アリーナ全体に轟音が響いた。衝撃がアリーナ全体を包み、立ち見をしていた人も倒れていた。
「な、なに?」
アリーナの中央に上がる煙の中に何かがいた。
『それ』は先ほどまではそこにはいなかったものだ。つまり、『それ』はアリーナの外から侵入したということ。
アリーナはISに用いられているものと同じ遮断シールドで守られている。それを突き破るだけの攻撃。とても危険であることは誰が見ても明白だろう。
「っ! 稀零!」
稀零はこれを予感していた? タイミングとしてもそれが妥当だ。だとしたら、稀零は今、何かと交戦中かもしれない。
みんなが避難する中、稀零を探す。アリーナの周りに居るはず。
「稀零……」
虫がいない今、感知なんてできないのだけれど。何か、とても懐かしい感覚があった。
対峙すると、相手も俺もすぐには動きださなかった。武器は実体化し構えている。が、両手に持つ大型拳銃『蛍灯』の銃口は下を向いたままだ。
なんで動かないかって? 相手も俺も、双方が相手の出方を見てるからだ。俺としてはすぐにでも駆け出し、インファイトに持ち込んでもいいし、この距離から蛍灯を乱射してもいい。が、一つ懸念している部分は、観客の避難が終わっていない部分にある。
この位置は避難経路になってはいない。だが、万が一に誰かが来た時、さらに槍使いがそちらを標的にしたとき、それを止められるように俺は後手にいなければならない。
そんなことを気にするのは俺っぽくないかもしれないが、俺が楽しくやっているのに水を差されたら寝覚めが悪いだろ? そういうこと。どこまでも自分本位得悪いが、実際俺以外の誰かが危険になろうが知ったことではない。でもまあ、そういうのは俺が見ていないところにしてくれって話しだ。
そんな思惑をあちらが知ってか知らないでか、先に動いたのは槍使いの方であった。
槍に付いた布をなびかせつつ、突きの構えでまっすぐこちらに迫る。突きの射程まで近づいた瞬間、腕のばねを使った突きを繰り出す。
その槍の刃を蛍灯の背で受け流し、もう片方の蛍灯の銃口を相手の額に向ける。
「まずは一発!」
トリガーを引く。その瞬間、相手は身体ごと後ろに反らして射線から逃れる。そして、そのまま地面に手を着き、バク転の要領で蹴りを放つ。
とっさに後ろに引いたが、顎先を鋭い蹴りが掠める。変則的な動き、ただ者じゃない事だけは理解した。それに、突きの速さ。双方がISによる強化をされているから、それを差し引いた感覚で言えば摩理のそれに酷似している。
つまり、それくらいの場数を踏んでいる敵ってわけだ。
「面白い、面白いぜ‼」
今度はこちらから仕掛ける。左手に持つ蛍灯を捨て、代わりに天津光を展開する。天津光は守ることに重点を置いて作られているが、強固な盾で相手をどついたらどうなると思う?
「行くぜええ‼」
超加速で迫り、拳を突き出す。それに槍の柄を横にして防ごうとする槍使い。柄に当たった瞬間、その拳が有する巨大なエネルギーを槍使いは殺しきれず、身体ごと持って行かれ、後方に跳ぶ。
これが答え。つまり、天姫蛍の手は最強の盾であり、最強の矛にもなり得るのだ。
「まだ終わらねえぞ!」
中に浮いた体に蛍灯が火を吹く。しかし、相手はIS無重力軌道で難なくかわされ、もう体勢を立て直している。
簡単にはいかないな。簡単に言ったら言ったで、面白さは半減なんだけどな。
そこからまたしても槍使いはこちらに迫る。その直線的な動きに俺は笑う。
「戦い方がなってねえじゃねえか」
手に持つ蛍灯を相手の顔めがけて放り投げる。思わぬ障害物の登場に、槍使いは少し速度を落とし、槍を振るうことでその障害を叩き落とす。だが、この瞬間が反撃できない隙になる。摩理にやられたことを、今そのまま俺が真似るぜ。
リーチを考え跳び蹴りをする。相手はこれを迎撃する事は出来ないと判断し、俺の下を滑るように通り抜け避ける。
そして通り抜ける際に、俺の背中を槍の刃で軽くなぞる。それだけのことだが、生身の人間にとっては危険だとISは判断する。そうして、シールドエネルギーは減少するのだ。
なるほど。摩理の使っていた重心の変化中を狙った攻撃は、IS戦闘では使えないってことか。確かに迎撃はされなかったが、回避は楽にされた。そもそも、ISの動きは反重力による無重力軌道だ。無重力の動きにどうやって重心の隙が生まれるんだよって話しだよな。
そんでもって、この敵は摩理ほどの槍術を持っているわけではないらしい。攻撃の速度は純粋に機体のスペックか、槍の特性によるものなんじゃないかと思う。摩理ならあそこから直線的に接近なんてしないだろう。ただ、IS特有の戦い方は俺より上だ。そこは経験の差かもしれない。
だとしたら、勝機は泥臭いインファイトにしかない。
「やってやろうじゃねえか」
後ろを振り向き、槍使いを見据える。そして、ヒメホタルにより強化された加速で一気に接近する。
だが、それに対する槍使いの動きは奇妙なものであった。
手に持つ槍を地面と垂直に保つ。そして、その槍の機構が開き、なにやら粒子の様なものが周囲にまき散らされた。
それに呑み込まれた俺は一気に視界の高さが低くなり、自身の体に違和感を感じた。そして、気付いた時には俺はISを身に纏っておらず、生身の状態で槍使いの前に躍り出ていた。
「は?」
なぜそうなったのか。原因は分かる。この槍から放出された粒子が何らかの作用をしているのだろう。だが、それでISが解除されるなんてありえるのか。
そして、俺は違和感の原因に気が付く。この粒子はISを解除するものなんかではないんだ。こいつは……
「虫が……ヒメホタルがいない?」
虫の同化を止めたのだ。それだけでなく、再度呼び出そうとしても反応がない所を見ると、働きを止めるだけでなく、虫を消したのか、はたまた一定時間眠らしたのか、なにしろその後の動きまで止めることができるみたいだ。
「ははっ! 面白いじゃねえか‼」
この場に居るのは丸腰の俺とフル装備の槍使い。面白いけど、絶体絶命だぜ。
相手にためらいなどない。垂直に立てていた槍を構え直し、後ろに引き、突きの構えに移行していた。
生身の俺では防御も回避もとうていできたもんじゃない。だが、諦めて死ぬのは面白くない。最後まであがいて、楽しみながら散ろうじゃねえか。
左腕を槍の方に突き出す。絶対防御のない腕にIS兵装は躊躇うことなく突き刺さった。激痛、腕が焼けるような錯覚。そんなものを認識するも、俺の脳内から出る溢れんばかりのアドレナリンが、逃げることを許さず、俺の意識は鮮明だ。
骨に引っかかっており抜けにくいのだろう。ほぼ零距離の状態でどちらも動かない。フルフェイスの顔を真正面から捉えるも、俺は何もできないことを悟っている。
攻撃方法がない、逃走方法がない、防衛方法がない。ならもう神頼みだぜ? 時間を稼ぐしか選択肢がないのなら、それを全力でやってやろうじゃねえか。
「しかし、ISを解除ってせこくねえか?」
「…………」
「これじゃあ、締まらねえ終わり方だぜ」
「…………」
「あ~、一矢報いたかった。俺だけじゃん、攻撃受けたの」
「…………」
失血多量、死は確実か? う~ん、短い人生だったぜ。こっちの世界に来て、まだ二カ月だぜ? 悔いは残るな。まだまだやりたいことはあったんだが……。
「あ、無理」
膝から崩れ落ちる。槍に引っかかった左手だけがつりあげられた状態だ。血が足りなくなってきたかもな。
朦朧とする意識の中、一つの光が見えた。なんだ、走馬灯か? 誰が来るかな。予想はまず幼稚園くらいからだろ。
「稀零っ‼」
なんだろうな、最初に映るのが摩理って。俺の走馬灯って貧困なのか?
そんなことを考えていたら、左手に力が加わった。どうやら槍を引きぬかれたらしい。そして、ぼやける視界に槍使いの足が違う方に向いたのが見えた。その方向に目をやると、摩理がいた。……え、走馬灯じゃないのか?
そして、槍使いは駆け出した。
やっと本格化していくムシウタ要素。
もっと泥臭い、かっこうのような戦闘を書きたかったんですが、ISの特性上、そういうのは難しいですね;;
次回、決着