一夏vsセシリア
勝者はセシリア
観覧席で見ていた稀零君は興奮状態でした。
ゲートから出ると師匠はそこにいた。なにやらさっきの戦いの余韻にまだ浸っているみたいだが、もう戦いは始まっているんだぜ?
「あなたにも、一度だけチャンスを差し上げま――」
「先手必勝‼」
ゲートから出るまでに展開し、手に持っておいたブレード『葵』を師匠にぶん投げる。相手の虚をつくやり方、さっきの師匠と同じだぜ。
「キャッ。って、危ないですわね」
「試合はもう始まってるんだぜ、師匠‼」
投げつけたブレードを一度収納し、再度展開する。そうすることで拾う過程を経ずにブレードは手元に戻ってきた。
「……分かってはいましたけど、あなたには不要の気遣いでしたわね」
「よくわかってるぜ。さすが俺の師匠!」
大型ライフルを構える師匠。その銃口の向きから、狙われているのはたぶん俺の左半身のどこかだ。右半身を軸にしてIS特有の反重力に裏付けされたターンをすることでレーザーの射線上から逃れると、そのまま前にスラスターで加速する。
師匠は後ろに下がりつつ、ビットを放ち、俺の周囲に展開する。俺の加速も加味された正確な射撃が来るが、その加味されている加速はスラスターによるものだけのはずだ。
「なら、これで計算は狂うぜ‼」
スラスターをふかしたまま左足で地面を蹴り、右方向への速度を生み出す。これで、師匠の計算上の俺の位置より右にずれたぜ。
レーザーが俺がいたであろう地点に着弾したのち、俺はさらに右足で地面を蹴り、右方向の加速を相殺しつつ、さらに前に出る。
「むちゃくちゃな動きをしますわね」
「まともにやって師匠に勝てるわけねーぜ!」
またしてもビットから放たれるレーザーを体を捻るように回転することで避ける。そしてその回転の勢いを載せてブレードを投げつける。それにあたる師匠ではないことは俺も承知の上だぜ。さっき師匠の戦いは見たからな‼
展開する打鉄のもう一つの武装。それはアサルトライフル『焔備』である。
そう、ブレードを回避した先に撃てば当たる……はずだ! だってさっき一夏はそれでボロボロになってたんだしな。
「いけええ‼」
焔備のトリガーを引く。放たれる銃弾たちは、それはそれはバラバラに飛んでいった。
「……あれ?」
なんで狙ったところにとばねーんだ? 銃弾って撃てばまっすぐ飛ぶもんじゃねーの?
疑問符を頭の上に浮かべていると、焔備の弾が地面に着弾し舞い上がった砂煙の中から一閃が飛んでくる。
「やべっ、って、うぐぉ‼」
視界を閃光が埋めたかと思えば、次の瞬間すさまじい衝撃を受け、後ろに身体ごと仰け反る。その後のビットによる追撃も避けるすべなく、シールドエネルギーは激減していった。
地面を蹴り、なんとかビットの包囲網から逃れる。シールドエネルギーの残量は心もとなくなってはいるが、まだまだ戦える。
「わたくしの講義をちゃんと聞いてましたの⁉ 射撃に必要なものは、反動制御と弾道予測、大気状態の影響算出ですわよ!」
「ああ、そういやそうだったぜ。自分に縁がなさそうで忘れてたぜ‼」
遠距離戦は俺の趣味じゃねーしな。やっぱ男なら至近距離の殴り合いだぜ。
といっても、射撃の技術が今の戦況を左右しているのも事実。練習しておくべきだよな。ま、必要な情報はIS側が提供してくれるし、俺はそれを計算して適応すればいいだけだぜ。計算なら俺は得意だからな。
だが、本番で修正している余裕は今の俺にはねーし、覚悟を決めて近距離に持ち込むか。
「よいしょー!」
手に持つ焔備をビットに向かって投げつける。そのビットが回避行動を取ろうとした瞬間、俺はもう一つのビットに再度展開した葵を握り、迫る。
師匠のビットは逐一自分で指令を送らなければならない。それならば、ビットの回避反応は人の思考速度と変わらないはず。
2つのビットにテンプレ以外の動きをする指令を送るまでの時間で、俺はビットとの距離を詰めており、葵で切り裂いた。
「……あなた、よく武装を投げますわね」
「手元に戻せるならリスクはないからな」
呆れながらも師匠はライフルを構えた。その射線から逃れるため横に飛ぶと、勢いがつきすぎてアリーナの壁に激突した。
『!?』
いや、ISの示した着地地点からめっちゃずれてるんだけど。10メートルもずれるとか、これなんて言うバグ? あ、バグ(虫)は俺だけどさ。うわっ、装甲損傷率やべー。もう一発も当たれねーぞ。
ISのアラートが鳴る。アリーナの壁を蹴り、その場から退避するとレーザーがさっきまでいた場所に着弾していた。
「操作ミスは初心者の特権ですわね。もう諦めてはどうですの?」
「何言ってんだよ、師匠。こんな面白いこと、辞めるわけねーだろっ‼」
俺の言葉に笑みを浮かべ、ライフルを再度構える。
「なら仕方ないですわ。踊りなさい、わたくしとブルーティア―ズの奏でる円舞曲で‼」
「上等だぜ‼」
雨の様なレーザーが放たれる。しかし、俺はそのレーザー群の範囲から一気に外れる。それはISに表示される軌道をはるかに超えたものだった。
「やっぱ、バグってるのか?」
どうせ最終的に頼れるのは自分の眼だけだから良いけどな。
ビットが追いかけてくるが、早く距離を詰めようとするあまり、直線的な軌道を描いている。だが、そんな動きじゃ……
「甘いぜ、師匠‼」
それを迎えるように走りだし、放たれるレーザーをしゃがんでかわし、通りすがりざまに切りつける。さらに1つ破壊された師匠はビットを自分の周囲に戻し、ビットを失わないようにしつつ、ライフルで的確に装甲の薄くなった部分を狙ってくる。
しかし、撃たれる場所が大体予想できるなら、それに当たる道理はない。的確ではあるが、それ故に避けやすい。
やっぱり織斑姉の言った通り、イメージトレーニングは大事だな。なんせこのISってやつはイメージした動きを再現してくれるだけのサポートシステムが多数搭載されているんだぜ。
「くっ、やりますわね」
「褒めてくれて、嬉しーぜ‼」
銃口が俺に向いた瞬間、横に跳び、数メートル先に着地し、駆けだす。走りながら焔備を展開する。俺は弾をまっすぐ飛ばす技能は持ち合わせていない。だが、武器の用途は決して一つではないはずだぜ。臨機応変な戦い方……師匠が教えてくれたことだぜ。
構えた焔備から放たれた銃弾は師匠と俺の間の地面に着弾し、砂煙を舞い上げる。視界はそれにより塞がれ、互いに相手が見えなくなる。だが、ISにはサーモグラフィーフィルターがあり、温度で相手を検知するモードがある。だから、チャンスはそれに切り替えるまでの数秒だ。その数秒に、俺はつけ入るしかない。
セシリアが銃口を稀零に向けると、トリガーを引く前に彼は射線上から跳び退き、少しの修正では当てられない位置にまで瞬時に移動する。
(これが訓練機の動きですの? どう考えてもおかしいですわ)
焦りを感じる。ある時から稀零の……稀零の駆るISの動きがブルーティア―ズの算出する予測値よりも早い動きをするようになっているのだ。もちろん、それを考慮した修正ができないセシリアではない。だが、そのズレは一定ではなく、常に変化するものであった。
そんなセシリアの戸惑いにつけ込むように事態は変化する。稀零が砂煙をおこし、セシリアの視界を奪ったのだ。
(くっ、そんな小細工が通用すると思いまして!)
いつもより切り替える反応が遅かったセシリアだったが、サーモグラフィーを通して砂煙の奥を見つめる。しかし、そこに熱源はなかった。意識を後方モニターに向けると、高速で迫る物体が映る。
「その首、もらうぜ!」
ISの予測では避けられる速度。だが、セシリアは今までの誤差の中で最悪の場合を想定して動いた。
(間に合って下さい)
葵は身体をずらしたセシリアの表面をなぞるように通り、振り下ろされた。反撃のためにビットに指令を送ろうとする。
「まだまだぁー‼」
しかし、セシリアは功を焦り過ぎたのだ。下ろされた葵は振り切っていない。途中で勢いを殺し、切り上げでセシリアを狙っていた。
(まずいですわ。これは……避けられな――)
バキッ!
そんな鈍い音がしたかと思えば、次の瞬間には甲高いブザーの音がアリーナに鳴り響いた。
入った。そう確信した。一撃を入れられてからの師匠の慌てっぷりまで手に取るように感じた。
しかし、勢いを殺した後、足に力を入れ、切り上げようとした時、鈍い音が聞こえ、視界が低くなった。どうなったのか訳が分からないよ状態だった俺の耳にブザーが鳴り響き、試合が終了した。
閲覧ありがとうございます
よろしければ、感想、意見、批評など残していってください
やっと主人公が戦いましたね
一話、二話でどれだけの時間をかけているんだ私は……
筆が遅くてすいませんorz
さて、次でやっと二話が終わります。エピローグみたいなものなのですが、長くなったので分けました