英雄になりたいけどなれない少年の物語   作:木戸 真人

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 少しずつストーリーが進んでいる感はありますね…
 お気に入り登録ありがとです。
 第二十二話です。



歪曲の洞窟

 お風呂の件より二か月ほど過ぎ、場所は十六層。SAOプレイヤーが経営していると噂の『とみ屋』と名付けられた定食屋にトキアとソラは来ていた。

 今は十七層まで開通しているおり、それもつい昨日に開通したばかりなので新しい街を散策するため店には運よく人が少ない。

 お昼時はいつも長蛇の列なのだがすんなり店内に入ることができた。

 壁には凧や鯉のぼり、富士山の絵などの日本的なものが掛けられている。また、上が畳の椅子に木の机、窓からは池庭が見え、かこーんと鳴り響くししおどし、風情のあるものばかりである。

 そのような日本的なことが人気の一つだがそれよりも主に男性SAOプレイヤーが最も見たがっているのは店員なのである。

 店員は一人しかおらずNPCも雇っていない。ウエイトレスと料理人を同時に行うその姿はまるで大和撫子を彷彿とさせ、髪はきれいなほどの黒髪と長髪、制服は勿論和服である。

 そんな彼女に心を奪われる者は数あまたおり、不特定多数から連絡先…もといフレンド申請を迫られているらしい。

 できてから一週間もしないうちに注文は三十秒以内で済ませるという暗黙の了解ができており、それ以上を超えると男性ファンから何が起こるかわからない報復が待っている。

 トキアとソラはさっさと注文を済ませ、料理が来るまで今後の動きについて話すことにした。

「それで…アルゴから受けた次のクエストのことなんだけど…」

「なんだ?ビビっているのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

「だって指定数のモンスターを倒すだけだろ?そんな緊張しなくてもいいって」

 アルゴから受け取ったクエストは『飢狼(がろう)の牙』という。その内容は『スターブ・ウルフ』を二十体討伐。簡単そうに見えるがこのモンスターに出会ったプレイヤーはいないらしい。

「でもさ、出現するまでに時間がかかるんじゃない?トキア大丈夫?」

「どういう意味かな~俺が根性なしって言いたいのかな~ってありがとうございます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、ごゆっくり」

 そうこうしているうちに料理が完成していた。トキアが頼んだのは『ゴールデンフィッシュのミニッシュ和え』。ソラは『スーザーサラダ』を頼んだ。

「お前、サラダだけで足りるのか?」

「うん、ここのサラダはボリューム満点だからね」

「それにしてもSAOの食材がこうも化けるとはな…」

 ここに並んでいる料理は全てSAOの食材…というよりモンスターを倒したり、採取することで手に入れられるものだ。

「あんなに美人でこんなにおいしい料理作れるならモテても不思議じゃないね」

「まったくだ、ストーカーがいてもおかしくないな」

「あはは、それは無理だと思うよー」

「?ファンの奴が守るってことか?」

 しかし、そのファンの奴が守るためとか言ってストーカーをしてもおかしくないとトキアは考えをよぎらせるが。

「いや、NYCがからんでくるんだって」

「NYCが?」

 NYCとは数多あるギルドの一つであり、完全実力主義。なんでも入隊方法は不明であり、ギルドマスターに選ばれた者だけが入ることができる。総ギルドメンバー数は二ケタにも満たないと聞く。その実力を認められ、様々なSAOプレイヤーから依頼を受けているらしい。

 NYCは何の略かというと公開されておらず、『New Younger Company』の略じゃないかと言われている。

「なんでもストーかーしていた男がNYCによって牢獄送りにされたって!一度じゃなくて何回も!」

 そんなにストーカー行為をする男がいることに驚くがそんなにも前例があるならもうストーカーをしようと考える奴はいないだろう。それに実力重視のNYCだ、殺り残しはないだろう。

 そんなこんなで話していると一時間が経過した。

「そろそろ行くか」

「うん!ゆっくりできたしね!」

「また、お越しください」

 店員の言葉を背中に受けながらトキアとソラは『とみ屋』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ここまでは良かったんだよ。ここまでは」

「そんなこと…言っている…場合かよ…」

 ソラとトキアは―

「そもそも嫌な感じがした時点でこのクエストをやめるべきだったんだ」

「そう言ったってしょうがないだろ…」

 暗い洞窟の中で―

「遺書書いておけば良かった…」

「集中できねぇ…」

 ―死の危機に瀕していた。

 

 

 

 トキアたちは『スターブ・ウルフ』を倒すため『歪曲(わいきょく)の洞窟』へ向かった。クエストを受けたせいかすぐに『スターブ・ウルフ』が出現した。姿は普通の狼の姿に三十センチほどある牙がついていた。攻撃力はそこまで高くなく、防御力も高いとは言えないほどだった。

 しかし、一番問題なのは一匹目を倒した後だった。倒した途端、紫の煙が発生し、様々なところから『スターブ・ウルフ』が現れたのだ。

 本物だけなら一匹一匹排除すればいいのだが、稀にいや、三分の一の確率で偽物が混じっている。偽物は斬れば一撃で消滅するがその間に本物に攻撃されてしまう。さらには偽物は見た目もHPバーも同じで外見的には変わらない。

 追い打ちをかけるように『歪曲(わいきょく)の洞窟』も厄介であった。以前入ったダンジョンのようにそこまで暗くはないのだがたまに道のように見せた壁があり、余計に方向感覚を狂わせトキアたちを出口から遠ざけているのだ。

 何とか逃げ延びることができたトキアたちは近くの岩に隠れていたのだった。

「とにかく…ここから出ること考えないとな…」

「で、でもさ…どうやってでるの?あのモンスターと出会うかもしれないし」

「俺、ここで暮らすの嫌だぞ?ていうかいつ見つかるかもわからんからなぁ」

 基本ここのポップ率は高くないのだが、先ほどトキアたちが呼び寄せた狼たちがまだ洞窟内を徘徊しており出るに出れないのだ。

「トキア。とりあえず、君は神経をとがらせて出口を探して。僕はその間君を守るから」

「わ、わかった」

ソラの提案に対し戸惑いながらも頷き、神経をとがらせる。風、音、におい、全てを手掛かりに。

 トキアが探し出した出口はトキアたちからさして離れておらず、ノンストップで一分といったところだった。

「…見つけた。見つけたぞ!ソ…ラ…」

 出口を見つけたことをソラに知らせるために顔を上げるとソラはもうすでに敵モンスターに囲まれていた。トキアは出口を探すことだけに集中していたため気づかなかった。恐らくソラも敵を倒すのに集中して、トキアの声は耳に入っていないだろう。

 ソラを助けるため、足に力を入れ敵モンスターに突っ込もうとするが―

(足が…動かない…?)

 トキアの足が動かないのはモンスターに掴まれてるわけでも、疲労によるものでもない。

 

 それは、恐怖。

 

 ずっと、心の奥に蓋をしていた<死にたくない>という感情。

『逃げちゃえよ…』

「!」

 それはどこからか聞こえてくる低く、心を惑わすような声。

『よく考えてみろ。あのソラっていうのを助けるのと助けずに一人だけ逃げるのとでは明らかにリスクが違うだろう?』

「それでもっ…ソラは…俺を…守って…!」

『それはあいつが脱出の手段を知らないからだ…お前を守らないと逃げられないからな…』

「黙れっ…黙れよ!」

 必死に耳を塞ぐトキアの耳になおも聞こえ続ける甘い声。

『思い出せよ…子供の頃のことを…守っても救っても裏切られたじゃないか…』

「違う…!」

『ソラもお前と同じ立場なら同じことをするはずだぜぇ…』

 左上のアイコンを確認するとソラの体力はレッドゾーンにまで達していた。恐らくもうポーションもないだろう。

『ほらほら…早くしないと…お前が逃げる隙もなくなるぜぇ…<隠蔽>スキルを使って逃げるだけだろ…簡単だろ…』

「………!」

『ウインドウを開いて…押せよ<隠蔽>スキルのボタンをよぉ!』

「お…俺は…俺は…!」

 トキアは震える右手を空中へかざし、メニュー画面を開き、スキル画面へ移動。

 そして―

 

 <隠蔽>スキルを押した。

 

 

 




 トキアの謎の振り子メンタル。これは後々解明される予定です。
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