エンチャンターがろーぷれわーるどを跋扈する   作:妄想狂い

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ジュン IN エターナル

「あれ?」

 

 

 俺、神崎淳(かんざきじゅん)はコントローラーを持った状態の手の形で、胡坐をかいた状態のまま唖然とした。なにせさっきまで俺は部屋で最近は待っているRPG、『ギャスパルクの復活』をやっていただけなのだ。

 

 

 だが、今俺は見慣れた自分の部屋ではなくどこかの草原にいた。見慣れない光景だ。

 

 

 

「いやいや……いやいやいやいや!ありえねえ!ありえねえって!なんだよここ!なんなんだよここ!」

 

 

 

 俺は狂乱した。当然だろう。いきなり見たこともない場所に放り出されたら誰だってこうなるというものだ。

 

 

 そこからしばらく騒いだ後、俺はようやく落ち着きを取り戻した。ゼエゼエと息をつき、その場に腰を下ろす。

 

 

 

「と、とりあえず現状の確認だ。

 ケータイ……ない。財布……ない。その他持ち物……ない。……だめだこれ!積んだーーー!」

 

 

 

 こうなったら例えここが日本のどこか、いや、どっか外国だとしてもどうしようもない。連絡手段も交通費もないのだ。

 これからどうすればいいというのだろう。

 

 

 

「ハアハア……クソ、喉も乾いてきやがった。どっかに水ないか?それに早目に食料も確保しないとやばい」

 

 

 

 聞きかじりのサバイバル知識だがこの場合は正論だと思う。特に水だ。人間は、水がないのと食料がないのとでは前者の方が速く命に関わる。どうにかして集めなければいけないだろう。

 

 

 そうして水場、いや、何かを探して俺は動き出した。なにせ見渡す限り草原なのだ。建物もなければ動くものも見当たらない。

 遭難したらその場から動かないというのが鉄則のはずだが、助けが来る見込みもないし山でもないし動いた方がいいだろう。

 

 

 幸いにも水場はすぐに見つかった。当てもなく歩いて十分後、湖を見つけた。

 

 

 

「よっしゃー!水場確保ー!水だ水だー!」

 

 

 

 俺は夢中になって水を飲み始めた。飲んでから気づいたのだが、湖の水だからと言って安全ではないはずだ。なのに飲んで大丈夫だったのだろうか。

 一気に顔を青ざめさせた俺だが、今はそんなことを気にしていられる場合じゃないと首を振る。湖の水は透き通っていてきれいだし大丈夫だろうと無理に自分を納得させた。

 

 

 

「ん?な、なんだこれは!?」

 

 

 

 さらに驚いたことがあった。湖に映った自分の顔を見たときに、俺の頭の上に何かがあったのだ。そこには『ジュン』という名前と日本の赤と青のバー。

 

 

 

「こ、これって……ギャスパルクの復活のキャラクターとそっくりじゃないか……なんだよ、これ……」

 

 

 

 そう、頭の上にあるキャラクター名に赤と青のバー。赤はHPで青はMPを示すとするならば、俺がさっきまでプレイしていたゲーム、『ギャスパルクの復活』の俺がプレイしてきたキャラクターの頭上に表示されている表示そのものなのだ。

 

 

 

「ま、まさか……」

 

 

 

 俺はネット小説なんかも大好きだ。そこではよく異世界転移ものの小説も見かける。だから、もしかしたらと思いながら頭の中で「ステータス表示!」と念じた。すると、目の前に本当にステータスが表示されたのだ!

 

 

 そこにはジュンというキャラクター名にエンチャンターというクラス名、レベルは62で、STRやINTなどの各種ステータスが書かれていた。

 どれも見覚えがある。ギャスパルクの復活で俺が作ったキャラクターのステータスじゃないか!

 

 

 だが俺の見た目はキャラクターのイケメン面ではなく、黒い髪にパッとしない顔、ちょっと太り気味の身体つき、間違いない。神崎淳そのものだ。

 

 

 

「こ、これは一体……アイテムや装備品や金は無くなってるけど間違いなくジュンだよな、これって……本当にどうなってんだよ」

 

 

 

 それからしばらくぼっとしていたのだが、やがてまた落ち着きを取戻してこれからのことを考え始めた。

 

 

 このステータスからわかるように、ここは恐らく元の世界じゃない。原因は分からないが、ギャスパルクの復活の、つまりゲームの中に入り込んでしまったということだろう。

 生活の手段は恐らく贅沢しなければ、モンスターの強さや世界の仕様がゲームと同じなら生きては行けるかもしれない。

 

 

 ここで俺のクラス、エンチャンターについて説明しておこう。

 

 

 エンチャンターは知っての通りさまざまなエンチャント、つまり自分や他人を強化する魔法を得意とするクラスだ。

 目に見える特徴としてはMPの多さだろうか。このゲームで一番MPの保有量が多いのはウォーザードだがエンチャンターはそれに次いで、つまり二番目にMPが多い。

 さらに特徴としてはエンチャントの重ね掛けが可能という点だ。

 

 

 これはどういうことかというと、例えばSTRを10上昇させるエンチャントを、エンチャンター以外の魔法職が掛けたとする。

 すると他の魔法職がどうやってもその人に同じエンチャントを掛けることはできないが、エンチャンターの場合は一回分だけだが同じエンチャントを掛けることが可能なのだ。

 

 

 また、エンチャントを重複させることも可能だ。例を上げれば、STRを100上げるエンチャントと80上げるエンチャントを同時に同じ人にかけたとする。

 その際、上昇幅が大きい100上げる方のエンチャントのみがかかり、80の方のエンチャント分はかからない。これは90上げるエンチャントを掛けたとしてもムリだ。

 だが、エンチャンターはそれを可能にする。すでに100上げるエンチャントがかかっている状態で80上げるエンチャントを掛ければ、その効果も重複してSTRを180上昇させることもできるのだ。

 もちろんこれも一回分限りだが、強力なエンチャントを重ね掛けできることほど嬉しいものはない。

 

 

 覚えられる魔法としてはファイアーボールといった低級魔法を一通り覚えることができ、ステータスを上げるエンチャント以外にもさまざまな補助魔法を使える。

 

 

 一定時間の間一定量のHP,MPを回復し続けるリジェネレーション。

 MP消費が大きいうえに一度発動すると消えてしまうが、致死量のダメージを受けてもHPを1残して踏み止まらせることができるリフレクションゼロ。

 武器に火属性や水属性を付与できるフレイムウエポンにアクアウエポン。

 これまたMP消費は大きいが、魔法を使った際に消費するMPを軽減することができるマナセービング。

 

 

 このほかにも相手にバットステータスを与えたりステータスを減少させることができる、俗にいうデバフ魔法も習得が可能だ。 

 

 

 補助魔法のスペシャリスト、それがエンチャンターだ。

 

 

 だが、もちろんデメリットもある。

 

 

 まず最初に、INTがバカ低い。魔法職最低ランクと言われているほどINTが低いのだ。

 まあ、INTやレベルがどれだけ高くてもエンチャントの上昇幅が上がるわけではないからINTなんかいらないという意見も分からなくはない。その分、VITやAGIが伸びやすいわけだから。

 

 

 問題はここからだ。

 

 

 ギャスパルクの復活では、パーティーを組んだ時に得られる経験値は戦闘の貢献度によって偏りが生じる。もちろんパーティーには入っているけど戦闘なんてしないやつには経験値はろくに入らない。

 

 

 そして、肝心なことだが、このゲームではエンチャントの戦闘への貢献度は非常に低いと設定されているのだ。ただエンチャントを掛けただけではろくに経験値は入らない。 

 つまり、効率よく経験値を稼ごうと思ったらエンチャンター自身も前線に出て戦わなければならないのだ。幸いにも自分で自分にエンチャントを掛けることも可能なのでそれはそう難しいことではない。それでも他のクラスが稼ぐ経験値に比べたら少ない方だが。

 

 

 もう一つ問題がある。

 それは単純な話で、レベルアップに必要な経験値が若干多めなのだ。

 

 

 ということは、経験値が入りにくく、レベルアップに必要な経験値も多めということになる。この事実を知った時、俺は泣いた。

 

 

 だからエンチャンターを育てるとしたら基本的にソロプレイで、自分にエンチャントを掛けながら敵と戦わなければならない。

 補助魔法のスペシャリストなのにソロでしかろくに育てることができないとはどういう了見なんだろうか。

 

 

 そのせいで攻略wikiを見ていてもエンチャンターの項目が少なめだった。そりゃそうだ。コンシューマーゲームで、ソロプレイに向かないクラスのくせに経験値が入りにくくて必要な経験値も多めなクラスを誰が好き好んで使うだろうか。

 

 

 とまあ、これがエンチャンターだ。俺のレベルの62っていうのは結構すごかったりする。

 

 

 もしこの世界もゲームと同じようなら、俺のこのステータスなら大抵のことはどうにかなりそうだが、果たしてどうだろう。

 

 

 と、そんなことを俺が考えているうちに……

 

 

 

「ギイイイイイ!」

 

「ギャアアアアアア!!」

 

 

 

 いつの間にか後ろにモンスターがいた。頭の上の名前を見ると、ビックマンティス。文字通りデカイカマキリだ。頭の位置が俺よりも高い。

 

 

 

「ギイイイイイイ!」

 

「うぎゃああああ!やべ、こっち来たー!」

 

 

 

 俺とビックマンティスの間には五メートルほどの距離があったが、ビックマンティスはそこを羽根で水平に飛んできて距離を詰めてくる。

 

 

 

「あ、あっちへ行けえ!ファイアーボール!」

 

 

 

 とっさに虫系統のモンスターに有効な火属性魔法、ファイアーボールを撃った。すると見事にビックマンディスの顔に当たり、ビックマンティスが苦しみだす。

 今ので頭上のHPバーも勢いよく減り始め、一撃でビックマンティスのHPバーは無くなり、その場に倒れた。

 

 

 近くにはいつの間にかこの世界の通貨、(ゴールド)とドロップ品らしき大きめの鎌が転がっていた。どうやらこの鎌は武器らしい。

 

 

 恐る恐る近づいて行き、Gと鎌を持って急いでその場を離れた。ひとしきり逃げた後ようやく腰を落ち着けて、さっき拾ったGと鎌の確認をする。

 

 

 

「ええと……Gの方は50Gか。まあビックマンティスっていったら序盤の方に出てくるモンスターでは強いけど初心者用の域からでない雑魚だからな。こんなもんか。

 

 

 鎌は……ゼノシックルか。攻撃力六十。特殊効果なし。まあ、序盤の武器では強い方だな。てか鎌かよ。俺は魔法職だっつうの」

 

 

 

 それでもなんとかこの鎌はエンチャンターでも使えることができる武器だったのでこれを当面の間メインウエポンにすることにした。

 ていうかこんな状況だ。贅沢なんて言ってられないし武器を手放す理由もない。例え装備してステータスにペナルティをくらったとしてもこれは持っていく気でいた。

 

 

「これで武装面は少しはましになったな。ん?あ!あれって!」

 

 

 

 わけも分からず走り回ったおかげで、怪我の功名というか、村らしきものを発見した。これでなんとかなる!

 

 

 俺は一気にその村まで駆け出した。  

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