「ようやく捕まえたぁ!」
「ピュ、ピュイイイイイ~」
エクペリバードと出会ってから数十分、ついに俺はやつをこの手で仕留めることに成功した。結局最後のほうにはアンデットどもも投入しての総力戦だったが、まあ勝ったやつの勝利だ。
「おお、これこれ!デウスの祝福だ!それにいい物もドロップしてんじゃん。幻鳥の心か。いやーついてるついてる!」
声が弾んでいるのが自分でもわかる。だがそれも仕方ないだろう。なにせこの世界で唯一のレベルアップアイテムを手に入れ、なおかつ他のドロップ品も手に入れることができたのだから。
手に入れた幻鳥の心というアイテムはエクペリバードを倒した際にほぼ二分の一の確率で落とすアイテムだ。ドロップ率はかなり高い方ではあるが、一度しか見ることができないというエクペリバードの性質上、これも相当なレアアイテムであることに変わりはない。
その効果は単純にして強力。レベルによって値は変わるが、受けるダメージの何割かを減らしてくれるという大変便利な代物である。
ここで注目したいのは「受けるダメージ」になんの制限もないというところだ。ダメージなら何でも軽減してくれるため、武器によるダメージだろうが毒によるダメージだろうが軽減してくれる。一つで何度も美味しい激レアアイテムなのだ。
しかも使い捨てでないというのも嬉しい。アクセサリーの枠を一つ占領することになってしまうが、それだけの価値は十分にある。
「さっそく装備っと。さて、これで十分にもとは取ったな。じゃあ帰るか」
満足感に浸りながら帰ろうとしたところで俺は一つの疑問にぶち当たった。それは旅をするうえで絶対にやってはいけないことの一つだったのだが、超希少種のモンスターとあったせいでそれがすっかりと頭から抜けてしまったのだ。
「帰り道は……どっちだ?」
「おお水場だ!ようやく一息つける!」
あれから一時間近くこの辺りをさ迷い歩き、ようやく水場を見つけることができた。エクペリバードを追いかけるのに夢中ですっかり迷ってしまったからな。
とにかく一時間不安な精神状態のまま歩き通しだった俺ののどはすっかりからからに乾いていた。水筒の水も節約のためにあまりのんでいなかったし、この湖の水はきれいだし、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
(ちなみにこの世界はいわゆる環境汚染というのがほとんど進行しておらず、見た目がきれいな湖や池の水は大抵が飲める水なのだ)
「やれやれようやく一息つけた。それにしてもここからどうやって帰るかな……」
バチチ!バチチチ!
「そろそろ日も暮れそうだし、今日はここらへんで野宿か?幸い食べ物はウサギの肉が一杯あるし」
バリバリバリバリ!
「ま、その前にひと仕事あるみたいだけどな」
「ギャアオオオオオオオオオオオオ!」
現れたのは二足歩行のワニのようなモンスターだった。だが、ワニと違うのはその前足(こいつの場合手にあたる)が猿のように細長いことと、大きな口の上にもう一つの口がついていることだった。
「ちっ、やっぱりライラードかよ。ついてねえな」
モンスターの名前はライラード。ここら一帯のボスモンスターだ。
うろこの色は全体的に暗いオレンジ色で体長は約十メートルほどある。身体を支えている後ろ足は太く強靭で、しかも全身うろこに覆われているためかなり堅牢な印象を受ける。
猿のように細長い腕にも鱗が覆っているため見かけによらず固い。すぐに折れそうな感じではあるが一筋縄ではいかないのだ。手は先のほうが三つに分かれていて、それらの先端は鋭い爪が生えている。
尻尾も太くて長く、あれを振り回されたらかなり危なっかしいだろう。尻尾の先からワニ特有の大きな口の先まで足したら二十メートルは行くのじゃないだろうか。かなりでかい。
そしてなんといっても目を引くのはその二つある口だろう。ワニのように大きくて長い口があるのはいい。しかし、本来、ワニの上顎にあたる部分にはもう一つの口がついている。上顎の表面と目の間に少しだけサイズは小さいが、鋭い牙を生やした立派な口がついているのだ。
このライラードは水辺のボスモンスターなのになぜか雷属性の攻撃を使ってくるという、「弱点属性という概念にケンカ売ってるだろ」を体現したモンスターなのだ。
あの二つの立派な口からは雷ブレスが吐き出されるし、水と雷、それに火属性に対して高い耐性を有している。鱗のおかげで防御力も高く、斬撃系や飛び道具系を得意とするクラスには厳しい相手だ。
尻尾もまともに食らうと、固くて重いせいで大ダメージ必至だ。細い代わりに鋭くてリーチも長い前足にも要注意だろう。
だが弱点もちゃんとある。まず最初に、動きが鈍い。むろん接近戦がからきしというほど鈍くはないが、少なくとも移動速度はかなり遅い。魔法職が遠距離攻撃を撃ち込み続ければいつかは倒れる。
それと冷気にはかなり弱く、ハンマーなどの打撃攻撃をまともに食らうと少なくない確率で数秒間よろめく。まあ、いくら足が太くて頑丈だったとしてもあのバランスの悪い体型だ。すぐによろめいてしまうのも分からなくはない。
「ちょうどいい。固くてタフなやつも欲しかったところだ。お前を殺して仲魔に加えてやる」
「ギャオオオオオオオオオオオ!」
「そう邪険にするなよ。悪いようにはしないからさ。
フォートレス!ストレングス!アヴァランチ!ミリアラル!
そして……こい!スレイヴサモン!」
「キュイイイイイイイイイ!」
「ゔおおおおおおおおおお!」
エンチャントを重ね掛けして、バドモスとキャシーを召喚する。ついでにスクロールも準備した。
「キャシーは俺と一緒に来て最初は俺のサポートをしろ。バドモスは俺とキャシーが離れた時に上から鱗粉をかけられるように常にやつの上をキープしておけ。
それじゃあ……行くぞおらあああああああ!」
「ギャオオオオオオオ!」
試しにグレイヴで一当てしてみる。ガキィン!と音がして弾かれた。くそ、やっぱり無理だったか!
俺が弾かれて生じた隙に、ライラードは尻尾で攻撃を仕掛けてくる。だがそれは
「ゔおおおおおお!」
キャシーのロックブローによって迎え撃たれ、キャシーとライラード、ともに弾かれるという結果になる。
ロックブローは強力な単発攻撃だが、威力の代わりに撃ちだすまでにいささか時間がかかる。どうやらさっき俺が一当てしに行ったときにはすでに発動し始めていたようだ。
俺たちはここで一旦距離を取った。
「よくやった!バドモス、今だ、やれ!」
「キュイイイイイ!」
バドモスの状態以上を誘発させる鱗粉がライラードに降り注がれる。結果は……毒か。まあ妥当なところだ。
それに、アンデットにするならば毒ダメージで勝手に自滅してもらった方が都合がいい。死体がキレイなまま手に入るからな。
「続いて消化液をぶっかけろ!そのあとは隙を見計らってひたすら遠距離攻撃だ。鱗粉だろうが消化液だろうが何でも使え」
「キュイイイイイ!」
心得たとばかりにバドモスが消化液をライラードに発射する。だが、ライラードの方もやられっぱなしではない。
「ギャオオオオオ!」
「うお、やっべえ!」
ライラードはその二つの口からバチバチ!と音を立てながら雷ブレスを消化液に対して発射した。消化液は押し負け、余波の雷がバドモスを襲う。
「アヴァランチ!ミリアラル!回避しろ!」
「キュウウウウウ!」
とっさにエンチャントをかけてバドモスの回避率を高めた。そのかいあってか、なんとか攻撃を食らわずにすんだようだ。
「ギャアアアアア!ガア!」
ライラードの上側の口から再び雷が発射される。そのスピードは先ほどと比べると段違いに早い!
「キュウウウ!?キュアアアアアア!!」
今回は回避しきれずにバドモスも腹の部分に軽くだが当たってしまった。だが、それだけでバドモスのHPが大きく削れた。もともと回避型で、防御力は高くないとはいえかすっただけでこれとは、まったく恐ろしい。これは長期戦は不利になるな。
「それにSTR低めのバドモスじゃライラードに対して分が悪いか……なら!ストレングス!そしてもう一つ、ストレングス!」
キャシーに対して、攻撃力を高めるエンチャントをエンチャンターの能力によって重ね掛けする。これでキャシーはもとのクラスのSTRも関係してかなりの攻撃力を有することになった。
今回はキャシーを主軸にして攻撃を進める。俺の魔法攻撃力はたかが知れてるし、グレイヴも今回は相性が悪い。
だから、純粋に物理攻撃力に特化した、モンクであるキャシーが主軸のほうがいい。幸いにもライラードに有効な打撃攻撃使いだしな。
「キャシー、とにかく殴れ。俺とバドモスがサポートしてやる。攻撃は全部躱して、強力なやつを急所に叩き込むんだ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
亡者の雄叫びを上げながらキャシーがライラードに向かっていく。ライラードはすでに体勢を立て直しているが、それでも向かっていく。
「ギャオオオオオ!」
「おおおおおおぉぉぉぉああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
ライラードが尻尾を振り回して来たらキャシーはそれを素早く回避して、隙ができたところにラピッドラッシュという、威力は低いが連続して攻撃ができる技をぶつける。
しかも一発の威力もストレングスの二重強化がかかっているために相当重くなっている。下手に強力な技を出すよりもこちらのほうが隙も少なく、次の動きにつなげやすい。
ライラードも強力な攻撃を連続で叩き込まれたせいで倒れる寸前だ。あの巨体から想像するに体重も壮途なものだと思うのだが、それを転ばすとは我がアンデットながらなかなかやるな。
「キュイイイイイ!」
バドモスもその隙を見逃さず、消化液を発射する。ついでに麻痺をしかけようとライラードに噛みつこうとして、突進していく。
「ギャオオオオオオオ!」
二つの口に雷が溜まっていき、ライラードが再び雷ブレスを吐きだそうとする。このままではバドモスは正面から雷ブレスを食らうことになり、恐らく耐えきれないだろう。だが、させない!
「ペインボンテージ!キャシー、止めろ!」
「ゔおおおおおおおおおおお!」
キャシーが下からアッパーを、雷の溜まった口に向かって炸裂させた。しかも使ったのはハードブロークンという、ロックブローよりも強力な威力を持ち、しかも一定確率で相手の防御力を下げるという効果を持った技だ。使った後の硬直時間が長めなものの、性能としては申し分ない。
そして、俺はそれに先駆けて、ダメージが与えられると追加でダメージを発生させるペインボンテージをライラードにかけた。これでさらにダメージが入り、
「ギイイイイギャアアアアアアア!?」
たまらずライラードは叫び、攻撃を余儀なくされる。そしてその間にもバドモスがライラードに噛みついた。ダメージこそほとんど入らなかったが、しっかりと麻痺状態にはなったようだ。
「よっしゃ!叩き込めー!」
麻痺で動けなくなっているライラードを二人と一匹でボコ殴りにする。消化液で、拳で、威力は弱いながらも、冷気ダメージを与えられるアイスボールで、ボコボコにしてやった。
「よしよし、大体こんなもんだろ」
俺の目の前にあるのはライラードの巨体だ。既にHPは0になり、もはやただの死体と化している。キャシーはそのまま俺の護衛として残し、バドモスは戻した。
「じゃあいっちょやってみっか。『コントラクトスレイヴ』」
グレイヴによってアンデット化させるための魔法をライラードに向かって唱える。黒い煙のようなものがグレイヴから吹き出し、ライラードの死体を包み込む。
これで煙が晴れた時に死体がそのまま残っていれば契約完了だ。もし失敗した場合、煙の中には何も残らない。
過去にも同じようにボスモンスターをアンデットにしようとしたことがあるが、バドモス以外は失敗してしまっている。単純にボスモンスターを相手にした数が少ないというのもあるが、どうもボスモンスターはアンデット化させるためのハードルが高いらしい。
「晴れてきたか……おっ!よしよしちゃんとできてるじゃないか」
「ギャアアアアアアア!」
煙の中から出てきたのはモンスター名を「アンデットライラード」に変えたライラードだ。バドモス、キャシーと同じように目は虚ろではあるが、それでもその頑丈な体躯に変わりはない。
無事にライラードを仲魔にできたところで、谷をあとにすることにした。デスクロージョンの魔法書?ライラードを手に入れることができたんだからいいだろ?
ライラードは雷による遠距離攻撃が可能だし、雷を発射したまま顔を横にずらしていけばそのまま範囲魔法と同じような効果が見込める。だったら別に自分の身を危険にさらす魔法は無理に習得しなくてもいいような気がする。
「それにエクペリバードに会い、さらにドロップアイテムまで手に入れ、なおかつボスモンスターのアンデット化にまで成功するなんてそろそろ恐ろしくなってきたしな……俺の明日からの運勢大丈夫か……?」
まあ人間だし、こうも立て続けに幸運が舞い降りてくると逆に不安になってきてしまうのである。これ以上欲張っても多分ろくなことにならないだろうし、ここはこの成果で満足しておくのがいいのだろう。
さりとて今日の成果はかつてないほどかんばしいものであったため、意気揚々とふもとの村に帰るか、と足を動かしたところで、
「やべ、そういえば俺迷子だった……」
どうやら本当に俺は運を使い果たしてしまったのかもしれない……。
さてどうしますかね。もうそろそろ主人公たちと合流させた方がいい気もするし、もうちょっとジュンの強化の旅に付き合ってもいい気もするし……。
まあ、亀更新の私が何言ってんだって話ですけどねw