リサさんたちと別れてから数日後、俺はララーンの街に来ていた。ここに来るまでのあの坂道はきつかった。
なにせ麓から上がろうとしたら馬車は通れないと言われてそのまま荷物を担ぎ、徒歩で急で長い坂道を登らなければならなかったからな。
自身にVITやSTR上昇のエンチャントを掛けながら進んだからそこまで苦しくはなかったが、VITが上がれば単純に体力も上がって疲れが取れないというわけではないというのには驚いた。
そして何とか暑さに耐えながらも登り切り、火蜥蜴屋という宿に泊まった。風呂も食事も部屋も満点で、特に風呂が温泉で、しかも露天風呂!これがよかった。
女湯との境の壁の一部が、魔法で曇りガラスより少し甘いかなくらいではあるが透けて見えるようになっておりそこからその……女湯が少し覗けてしまうのだ。
しかもちょうどそこを発見した時に男湯には俺一人で、女湯には女性のみのパーティーとおぼしき冒険者集団が女湯に入浴していたので、その……ついつい最後まで見入ってしまった。
全裸で、しかも露天風呂の為野外で、風呂にも入らずに食い入るように覗いていたために風邪をひいてしまったのは俺だけの秘密だ。
まあ、それはともかく!ララーンに到着してからしばらくの間はゆっくりしていたが、今日から再び冒険者として再始動だ。
まずは装備の調達だ。さすがに本場だけあってかなりいい品々が揃っている。強いて言うならば魔法職の品よりも戦士職のための品が多いかな?と思うくらいだが、それでも武器市場としてはここ以上のところはエターナル広しといえどないだろうことは容易に予想できる。
「ようそこの兄ちゃん!背負ってるのはグレイヴだね?長物ならウチにいいのがあるよ!」
「バッカ野郎!ウチの方がいい品質に決まってんだろうが!兄ちゃん、騙されちゃいけねえぜ?ウチのがエターナル一の品質さ!」
「長物もいいけど短剣もどうだい!今人気のエディン印の短剣だ!今なら安くしておくよ!」
とまあ、このように活気もある。だが、やはりどっからどう見ても俺は戦士職にしか見えないらしい。まあグレイヴを背負ってんだから当然といえば当然だが、ローブなんかも着てるんだけどな。
ちなみに俺のメインウエポンは当然だがグレイヴ・グレイヴだ。ケントニスの杖ももちろん持っているが、今はサブウエポン扱いだ。
INT重視の時にはこっちを使うが、俺の戦闘スタイルは自身にエンチャントを掛けてからの接近戦がメインだったりするのであまり出番はない。
「まあここにも魔法職の品は売ってるよな。チラチラとそういう店も見えるし」
剣や鎧を売っている店よりも数は若干少ないが、魔法職関連の店も結構ある。こちらも活気では負けておらず、むしろ数が少ない分より活気があるように見える。
とりあえず手近にある大きめの魔法職専門店に足を踏み入れてみた。
「いらっしゃいませ!クラスはなんでしょうか?よければお手伝いいたします!」
接客してきたのはドワーフの女性だ。身長は俺の胸くらいで、髪の毛がどっさりとある。皆がイメージするドワーフとそう変りないだろう。
店の中は広く、奥の方には仕切りで区切られたカウンターがあり、それぞれ客と店員が話し合ったりしている。値段や性能の相談をしているのだろう。
壁には杖やローブ、指輪といった定番の魔法職グッズがずらりとかけられているだけではなくクラスごとにコーナーが分かれており、そこにはそのクラスの定番の装備や店のおススメの装備がある。
二階もあるようで、そちらは装備品の下取りをしたり、店が買い取った中古の装備を売っているらしい。安定供給や見た目は保証できないが、ときどき掘り出し物があったりするし、安く済ませたい人には良いだろう。
なかなか良さ気の店だ。露店を巡って掘り出し物を探してみるというのも武器をそろえるときの醍醐味だが、やはりこれほど大きな店となるといろいろなところに支店を出しているだろうし、安心感がある。
「よろしく頼む。俺のクラスはエンチャンターだ」
「エンチャンターですか?……分かりました。エンチャンター用の品はこちらにおススメがございます」
連れて行かれている俺。最初に少し怪訝な顔をされたのは俺が背負っているグレイヴのせいだろう。まあ、見た目と性能が一致しないものがあるのがこの世界だ。そういうものとして理解されたのだろう。
「こちらでございます。エンチャンターはINTが低いクラスなのでINTを補う方とWISを伸ばす方がいらっしゃいますが、お客様はどちらでしょうか?」
「俺はどちらかといえばWISを伸ばすタイプだ。それと、金額はムシして一番いいと思うものを見繕ってくれ」
「かしこまりました。そうなりますといくつか奥の方に該当するものがございますので取ってまいります。少々お待ちください」
そう言ってドワーフの店員——キャラクターネームはルルエラだった——が店の奥の方に行く。俺はエンチャンターコーナーの品を見て時間を潰すことにした。
「ふーん、アライエンではあまり見なかったものが結構あるな。魔術書とか杖っぽくないものとか初めて見たな」
そこには杖やローブ、指輪やアミュレットといった定番のものから、本の形をした魔法媒体やヴァジュラという、杖の働きをする装備やなどなどいろいろなものがあった。どれもこれも下手な露店の品よりも性能がいい物ばかりだった。
また、装備品だけでなくアイテムなども結構揃っていた。スペルスクロールや、使い捨てだが使うと次に使う魔法の消費MPが減少する宝石、自分の周囲にまいてその粉の中で魔法を使うと使った魔法の威力が上がるビン詰めされた粉などなど、珍しいものが一杯だ。
正直言って全部欲しい。俺はゲームで装備を選ぶとき、性能はもちろんだが見た目で選ぶタイプの人間だ。 それに、珍しかったり現状自分では手に入れることが難しいアイテムは買い込むだけ買いこんで後々使わないという悪癖もある。
このことを悪癖と言っていいのかは微妙だが、買うだけ買って使わずにゲームをクリアしたりもするから悪癖といっていいかもしれない。
けど結構値段も高い。アライエンでは五十万Gを超える品はなかなか見かけなかったが、ここでは五十万Gなんてのはザラだ。
一、二品くらいなら今すぐ買えるが、二品も買うとこれからの活動資金がほとんどなくなってしまう。今回は値段の確認だけして、クエストをこなしてから買うしかないだろう。
まあ、値段によっては一品くらいなら買ってもいいかもしれないが。
「お待たせしました。こちらはWISを上昇させ、物理防御力をあげるだけでなくファイアーボールを無制限で撃てる腕輪。そしてこちらは少々VITを下げますが、その分WISとINTをかなり上昇させるピアスです」
そう言って出されたのは、両腕に装備するタイプの複雑な火の模様が施された腕輪と三日月をかたどった両耳につけるタイプのピアスだった。
この腕輪のように、無制限で特定の魔法が使える装備というのは貴重だ。アライエンでは一回たりとも見かけたことはなかった。
王室御用達みたいな紹介状が必要な店もあったしそこまで調べたわけではないが、恐らくそこでも店に一、二個あれば御の字といったところだろう。そういう意味では大きな店とはいえこんなところで見かけるというのはすごいことだ。
ピアスもいい。俺はこの世界では高レベルだから少々VITが下がったとしても問題ない。もともとエンチャンターはINTが低い代わりにVITが高いからなおさらだろう。
だが……両方ともお値段がすごいことになっていた。店頭にある分の装備でさえも今の俺の装備よりも上等なのがそれなりにある。その中でもこの二つは群を抜いてすごい。上昇幅がものすごいのだ。
だからこのお値段でも納得といえば納得なのだが……この二つの内一つでも買おうと思ったら今日から路上生活を余儀なくされてしまう。かなり魅力的な品々だが……ここは一旦撤退するしかない。
「確かにこれらはすごいな。それに店頭にあるものもいいものが多い」
「ありがとうございます。どうでしょう?今ならお値段も勉強させていただきますが?」
「いや、悪いが今日は値段が知れたことで我慢するさ。悪いな。折角持ってきてもらったのに」
「とんでもございません。ここでは装備の下取りも行っておりますのでそちらの方もご利用ください」
「ああ、機会があったらな」
あっさりと装備を持って奥に引っ込んでしまった。使えない客だ、とでも思われたかもしれない。というかサラッと装備売って金にしろ、と言われたような気もするが気のせいだと信じたい。
だが今回のことで目標金額も設定できた。割のいい仕事を探すとしよう。
店を出てさらに他の店や露店を巡る。他の店でもいいものが多数見つかり、この街を長期的な拠点にすることを決定した。
日も暮れてきたしそろそろ宿に帰る時間だろう。しかしその前に今日は後一軒だけ寄りたいところがある。その店の話はガライアにいたときに聞いたのだが、なんでもここララーンにはいわゆる呪いの装備を売っている店があるらしい。そこに寄りたいのだ。
理由は二つある。
一つは純粋に興味からだ。呪いの武器と聞けば恐ろしいが、要は装備を外すのが困難だったり、重大なステータス低下を招いたりという効果がある装備が呪いの装備と呼ばれているのだ。
ステータスの低下というとさっきのピアスにも当てはまるが、呪いの武器と呼ばれる装備はそのステータス低下の効果がべらぼうに高い。
それこそVITが300低下などというように。レベル65という高レベルの攻撃型戦士職のVITが大体360だとすると、どれくらい非常識な値かが分かる。
もちろんその分受けられる恩恵には目を見張るものがあるが、それでも装備できるやつなんてほとんどいないが。
だが俺はレベル62のエンチャンターだ。もしかしたら装備できる呪いの武器があるかもしれない。もし装備して致命的なデメリットが無かったら装備してみるのも一興だろう。
二つ目の理由は、その店が「裏」の連中とも結構関わりがあるからというウワサがあるからだ。
教団の連中は盗んだものを売り払っているらしい。そして、今から向かう店はそういう「裏のある商品」を売り払う窓口にもなっている。
とすると、そこの店員に話を聞けば教団の連中の話が聞けるかもしれない。もしかしたら教団の構成員に会える可能性だってあるのだ。
「と、ここか」
たどり着いたのはさびれた宿屋だ。裏通りに建っており、人気もあまりない。俺は早速中に入った。