エンチャンターがろーぷれわーるどを跋扈する   作:妄想狂い

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VS教団1

「ようやくここまで来れたか」

 

 

 

 俺は今現在、とある屋敷の内部にいる。先日マリーから言い渡されたクエストを達成させるためだ。

 

 

 クエストの内容は、ララーンの神殿の上級神官ディグルの屋敷にあるという、アメジストを盗ってこいというものだ。

 そのアメジストがなんなのか、なぜわざわざそんなものを狙うのかは教えてくれなかったが、そんなことは関係ない。

 とにかく俺はクエストをこなしてマリーを油断させるだけだ。

 

 

 現在俺がいるのはディグルの屋敷の宝物庫だ。宝物庫と言っても大したものではなく、せいぜいガラスのケースの中にいくつかの価値のありそうな魔法の装備品があるだけだ。

 

 

 そんな宝物庫の最奥にはひときわ大きい紫色のアメジストが鎮座していた。ただの宝石ではないというのが分かる。なんとなく近寄りたくないようなオーラを発しているし。

 

 

 まあ実害はないようなので、手早くアメジストを取り出し、袋に入れる。侵入経路や見回りの臭気や配置はマリーが準備していたので、それに従って屋敷を出ようとする。

 

 

 

(よくこれだけ正確に調べていたもんだ。宝物庫も隠し扉で隠されていたし、見回りの周期や配置なんて警備上もっとも大事な情報だろうに)

 

 

 

 どうせこの屋敷の使用人の中に内通者がいるか金で落としたのだろうが、とにかく今はこのスムーズさに感謝だ。

 この角を曲がっていけば、あとは門まで一直線だ。だが……

 

 

 

「警備のものではないな?何者だ!」

 

「やばっ!」

 

 

 

 なんと、この屋敷の主であるディグル本人に見つかってしまった!見るからにドワーフ然とした姿かたちで服装も寝巻のままだが、その眼には侵入者である俺を射殺さんばかりの眼光が光っている。

 

 

 しかしなぜこんな時間にこんなところに?今はまだ夜の三時過ぎだぞ!

 

 

 

「なにやら胸騒ぎがするから部屋から出てみれば!だれか!誰かおらんか!」

 

 

 

 そんな無茶苦茶な理由で見つかったってのか!?そんな馬鹿な!

 

 

 

(い、いや。そういえばディグルはフォーチュナーっつう特殊な魔法系クラスだっていう情報を渡されていたな。そのせいか?)

 

 

 

 フォーチュナーとは数あるクラスでも特殊なクラスで、俺たちプレイヤーが就くことのできない、NPC専門のクラスだ。

 

 

 メインストーリーを進めて、その際にフォーチュナーが会話で、自身のクラスについて言っていたことをまとめたものがwikiに載っていたが、どうやらフォーチュナーには自身のみの周りに不吉なこと、危機が起こると術者に知らせるパッシブスキルを所持しているらしい。

 もちろんレベルが低いエターナル人の例にもれずにディグルも低レベルだから、すぐに俺のことを分からずに今の今まで放置していたんだろうが、ここにきてパッシブスキルの働きによって俺の存在を知ったというところだろう。

 

 

 

「くそ!出てこなければ助かったものを!」

 

 

 

 暗闇とはいえ顔を見られた可能性がある。キャラクターネームを隠すことなくさらし続けなければならないこの世界においては、なおのことここで逃がしたり応援を呼ばれたりするのは面倒だ。

 

 

 俺は持っていた短刀(グレイヴは邪魔になるからおいてきた)でディグルの首を掻き切った。レベル差や急所攻撃の甲斐あってか、ディグルのHPは瞬時に0になった。

 

 

 

「ぐあああああぁぁぁっっっ…………っっっ…………」

 

 

 

 一気に喉を掻き切ったせいで後半は声がでずに、ただフシュー、フシューという音が鳴るだけだった。死ぬ間際に何事か言っていたようだが、聞き取ることはできなかった。

 

 

 

(クソ!殺しはできるだけ避けたかったのに!いくら屋敷の人間は必要があれば殺していいって言われていたとしてもなんの気休めにもならねえ!)

 

 

 

 とにかくさっきの声と音で警備の連中が来るだろう。すぐにここを立ち去らねば。

 

 

 スピード系のエンチャントとスクロールに詰めておいた、姿を透明にするインヴィジブルという魔法でずらかることにする。(ちなみにインヴィジブルはMPを連続的に消費するため、MP温存の目的で行きは使っていなかった。

 そもそもインヴィジブルのスクロールは市場では結構貴重で、これ一枚しか持っていないという理由もあったが)

 

 

 

 エンチャントと魔法をかけなおし、さっさとこの場から離れようとしたその時

 

 

 

「パパ?」

 

 

 

 振り向くと、そこにはまだ五、六歳くらいのドワーフの男の子がいた。今の騒ぎを聞いて目が覚め、起きてきたということだろう。

 格好はこれまた寝巻で、目も半開きだ。まだ半分夢の中といったところか。だが、それでも……

 

 

 

「パパ?……パパ!?ねえどうしたの!?起きてよ!ねえ、パパァ!」

 

「…………………………………」

 

 

 

 俺はその場にいられなくなった。精神力をフル活用して口を塞ぎ、その場で膝をつきたくなるのを抑えて出口に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやって宿まで帰ってきたのかは覚えていない。ただあの光景。死んだディグルと、その息子がディグルの名前を呼ぶ光景だけが頭から離れなかった。

 

 

 

「くそっ!くそっ!くそっ!くそおおおおおおお!」

 

 

 

 俺は叫んだ。時間とか、周りに聞こえてしまうとかそういうことは一切考えずに叫んだ。

 幸いというか、俺が滞在している宿屋は結構上等なところで、部屋全体にサイレントの魔法がかかっている部屋だから誰にも声を聴かれることはなかったが、その時はそんなことなんて頭の中に入っていなかった。

 ただただ、叫んだ。

 

 

 しばらくたってからようやく落ち着く。それでも胸の中に渦巻く嫌な感じだけはどうしても収まらなかった。

 

 

 

(はあ……人を殺すのは初めてじゃないし、人殺しにもう忌避感もないが……考えてみれば、襲って来たり、どうしようもないクズじゃないやつを殺すのは初めてだ)

 

 

 

 必要な殺しだったという意識はある。そう思わないと心が持たないとか、そういう自己暗示的な物じゃなく

、教団のアジトを知る、あるいは情報を手に入れる過程の作業で起きたことだ。仕方のないことと割り切ることはできる。

 

 

 あのまま捕まってもろくに裁判にもかけられず処刑コースだったろうし、捕まらなかったら捕まらなかったで悪人ルートまっしぐらだ。

 いくら旭日騎士団が戦力が欲しいからと言っても犯罪者を仲間に入れたり優しくしたりなんてしないだろうし、あのまま捕まることは悪手だった。それはゆるぎない事実だ。

 

 

 

(でもあの子にとっちゃそんなことどうでもいいことだよな。これからどうなるんだか……)

 

 

 

 当主を失った上流階級のその後なんてろくなもんじゃなかろう。今まで通りの暮らしはできなくなり、夫人は脂ぎった連中の手にゆだねられたり、路頭に迷ったりするだろう。

 その子供も同じようなものだ。いや、家を乗っ取りたい他の連中から、邪魔だからと暗殺されるかもしれない。

 

 

 はっきりしているのは、俺がディグル一家をメチャクチャに壊したということだ。そのことについては反論の余地はない。

 

 

 

(もしもエターナルが教団の手に落ちれば……あんな子がたくさん増えるのだろうか。家族を失い、財産を失い、家もなくし、絶望に包まれながら泣き叫ぶしかない連中がそこらじゅうにいるような事態になってしまうのだろうか。

 いや、泣き叫ぶこともできずにそのまま訳も分からず死んでいくやつが圧倒的に多いか)

 

 

 

 もし、もしもそんな世界の実現のために働こうなんて気が起きるとしたら……その時俺は俺でいられるのだろうか……。

 

 

 

 

「はっ!くっだらねえ。そんなことどうでもいいだろうが。生きてたもん勝ちだ。折角剣も魔法もある世界で超高レベルの存在として自由な人生を歩めるチャンスだってのに死んでたまるかよ」

 

 

 

 そうだ、こんなに素晴らしい世界に来れたのだ。下らない理由で死ぬことなんてまっぴらだ。

 

 

 でも……しかし……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷を襲撃してから一日おいて、俺はマリーとの落合場所である、ララーンの郊外の廃墟にいた。時間が来るとあとからマリーがやってきた。

 

 

 

「どうだった?上手く盗めたかい?」

 

「ああ。といってもディグルは殺しちまったけどな。けど、顔や名前は知られていないはずだ」

 

「ならいいよ。ディグルが死んだって情報はこっちにも伝わってきてるけど、下手人が誰とまでは分かっていないらしいからね。

 で、例の宝石は?」

 

「これだ」

 

 

 

 腰のポーチから昨日盗んだアメジストを取り出すと、マリーの表情が笑顔になった。パッと顔を輝かせ、俺の手から半ばひったくるようにして持っていく。

 

 

 

「そうそう。これだよこれ!でかしたよアンタ!」

 

「で、結局それはなんだったんだ?」

 

「ま、とあるものの精製に必要なアイテムってところかね。これ以上はアンタが正式に教団の仲間入りをして、地位が上がったら教えてあげるよ」

 

「そうか。ならさっさと本部とやらに行こうぜ」

 

「そうだね。外に馬車をとめてある。それで連れて行ってやるよ」

 

 

 

 外に連れていかれるととめてあった馬車が目に入った。なんと、完全に中からは見えないようなタイプだ。つなぎ目の類もないし、中から外を見ることは不可能っぽいな。穴をあけると気づかれそうだ。

 

 

 

「ひとまず中に入りな。ララーンの関所を抜けたら袋を被ってもらうからね」

 

「なぜそんなことを?」

 

「あんたみたいに事情があって最初から本部に行くやつや、まだ入団して間もないやつには全員していることさ。

 あたしらみたいな連中は新入りの扱いに慎重にならなきゃいけないからね」

 

「それもそうか。…………あ、ちょっと待て。あの中に物を落としたらしい。取ってくる」

 

「早くしなよ」

 

 

 

 

 

 

side マリー

 

 

 やった!ついにこの宝石を手に入れることができた!これさえあれば例のもの(・・・・)を完成させられる!そして猊下のあたしに対する覚えもさらによくなるってもんさ!

 

 

 それにしてもジュンか。いい拾い物をしたもんだね。まだ頭から信じ切れたわけではないけど、あれが味方になったならいい戦力になるだろうさ。ウィドラにいるアークあたりの補佐にしたらその手腕をいかせるかねえ。

 

 

 

(それにしても遅い。忘れ物を取りに行ったきりもう五分だ。いくらなんでもちょっと時間がかかりすぎてる。

 ……まさか!逃げたか!やっぱり旭日騎士団の手先だったってのかい!?)

 

 

 

 あたしは急いで廃墟の扉を開けた。廃墟って言ってもいってみればただの倉庫だ。中には広い空間が広がっているだけでどこかに隠れていられる場所なんてない。もしいなければ……。

 

 

 

「ん?ああ悪い。ちょっと時間がかかったよな。どうやらここじゃなくて宿においてきたままだったっぽい。時間を取らせて悪かったな」

 

 

 

 中にはちゃんとジュンはいた。何やら屈んで、地面を見渡して落し物を探していたらしい。顔だけこっちに向けて、詫びの言葉を発した。 

 

 

 

(なんだい驚かせて。まったく、肝が冷えたじゃないか)

 

 

「驚かすんじゃないよ、まったく。だったらさっさと行くよ」

 

「分かった分かった。すぐ行くぜ」

 

 

 

 あたしはジュンに背を向けて馬車のとめてある外に出ようと扉に手をかけた。後ろからジュンの走る音が近づいてくる。

 

 

 

(ん?それにしてもずいぶんと走る速度が速いような……)

 

 

 

 あたしは気になって後ろを振り向いた。するとそこには、グレイヴを両手で持ってあたしを突き刺そうとするジュンの姿が!

 

 

 

「なっ!く……あああああ!」

 

 

 

 すんでのところでその突きを回避して横に跳んだが、間に合わずに右脇腹を切り裂かれてしまった!痛みに耐えかね、その場で膝をついてしまう。

 

 

 

「あ、あんた!一体何を!?」

 

「…………」

 

 

 

 ジュンは無言のまま答えない。そのままあたしに向かって突っ込んできた!

 

 

 

「く……!ヴァ……ヒー……」

 

 

 

 ヒールよりも一段上の回復魔法、ヴァイヒールを唱えようとするが、上手く口が動かない!しかも体も思うように動かなかった!

 

 

 

(この症状……まさか麻痺!?さっきのグレイヴの刃に麻痺を起こすアイテムでも塗られていたってのかい!?)

 

 

 そんなことを考えている間に、ジュンのグレイヴの刃はあたしの心臓に突き刺さろうとしていた。このままではっ!猊下!!

 

 

 

「まったく。油断が過ぎるぞ、マリー」

 

 

 

 ギインッ!と、金属同士がぶつかり合うような音と同時に、一人の全身黒づくめの男が現れた。片手に持った忍者刀でグレイヴをはじいたのか、その腕はふり払われていた。見てみると、ジュンも突然の乱入者に驚き、距離を取っていた。

 

 

 

「ディスペルパラライズ。どうだ?治療も必要か?」

 

 

 

 男が腰からスクロールを出して麻痺を回復してくれる。やはり麻痺の状態になっていたらしいね。

 

 

 

「ヴァイヒール!……大丈夫さ。面倒かけてすまないね、ダイス」

 

「次からはもっとしっかりとして欲しいものだな」

 

 

 

 男……ダイスは憮然と言い放った。まあ、今回はあたしの油断だ。嫌味くらいは甘んじて受け入れなければね。

 

 

 

「本当に助かったよ。無理して来てもらって悪かったね」

 

「お前から手の空いている者を貸してくれという話を聞いたときには何事かと思ったぞ。それで、あれが例のやつか?」

 

 

 

 そう、こんなこともあろうかとあたしは事前にダイスに連絡を取っていたのさ。なかば保険のつもりだったけど、どうやら役に立ったようだね。

 でもまさか、手の空いている奴がダイスだけだったとは……。まあ、相手も高レベルの日本人だし適材適所だったってところかね。

 

 

 ダイスには、あたしがジュンを馬車でララーンの関所を超えるまでの監視を頼んでいた。もしあたしがやられそうだったり、ジュンが逃亡したりしたときには適切な対処をするようにとも言っていたから、あたしが殺される前に割り込んでくれたようだね。

 

 

 

「ああ。旭日騎士団のスパイってところだろうさ。頭も悪くないし、あなどれないよ」

 

「そうか。だが、相手がだれであれ猊下の理想の邪魔をする者は許さん。ここで殺す」

 

 

 

 あたしたちは身構えた。ダイスは忍者刀を、あたしは腰に佩いてあった剣、グリューンテンツァーを。

 

 

 

「アンタ、やっぱり旭日騎士団のスパイだったようだね!でも、ここでおしまいさ!」

 

「違えよ。別にまだ旭日騎士団には入ってねえ。ま、スカウトされたのは事実だけどな。

 

 それに、この世界で生きていくためならあんたら教団につくことも辞さないって気持ちは本当だったんだぜ?」

 

「ならばなぜ!あれかい?ディグルを殺して、やっぱりあたしたちには付いて行けないなんて甘っちょろいことでも考えたのかい!」

 

「バーカ。ディグルを殺したのは別に後悔してねえよ。あれは必要な殺しだった」

 

「だったら!」

 

「でもなあ。よくよく考えたらよ……お前ら、恥ずかしすぎんだよ。

 

 邪神の復活?世界征服?今時そんなこと、子どものヒーローごっこでだって聞かねえよ。

 

 なのにお前ら、そんな恥ずかしいこと誇らしげに言っちゃてさ。バッカみてえ。そんな頭の痛い、キチガイ連中と一緒に行動なんて考えただけでも鳥肌が立つぜ。

 

 入団なんてしてみろ、黒歴史すぎて悶死するわ」

 

 

 

 こ、このクソガキ!あたし達のことならまだしも、げ、猊下の崇高な理想をキチガイだと!恥ずかしいだと!

 

 

 

「……どうやらいたぶられて死にたいらしいな」

 

 

 

 ダイスがかなり怒っている。表情はクールなままだが、額には青筋が浮かび、忍者刀を持つ手は強く握りすぎて真っ白だ。

 この男は感情をあまり表に出すことがないが、今ははっきりと分かる。ダイスは心の底から激怒しているってね!

 

 

 

「なんだよ。今更指摘されて恥ずかしくなったか?ならちょうどいい。……お前ら殺して、その恥ずかしい人生終わらせてやるよ!」

 

 

 

 ジュンが自分にエンチャントをかけまくってこちらに突っ込んできた。どうやらヤル気のようだね。いいだろう。アタシたちの、猊下の理想を見せつけてやるよ!

 

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