さて、ララーンから脱出した俺は今、ララーンからだいぶ離れた秘境、グルパゴスの谷に来ている。
理由はというと、これも変わらずにアンデット素材のためだ。ララーンから二週間分は離れているところだし、ここにいるモンスターたちは強いのが多いから教団の追手も近づきずらいだろうしな。
それともう一つここに来ている理由がある。それは……
「見つけたぞ!大人しく死ね!そしてさっさと呪文書ドロップしろ!」
「きゅいいいー!」
呪文書集めである。俺が欲しい呪文書は「デスクロージョン」という魔法を習得できる呪文書だ。これはどの魔法職でも習得可能な魔法であるためエンチャンターでも習得可能な魔法だ。
効果は単純。指先(あるいは杖の先)に小さな赤い球体が出現し、それが一気に膨れ上がると同時に爆炎が舞い、使用者の最大HPと同じ量のダメージを周囲に与えるという魔法だ。
その効果範囲だが、球体を中心とした360°すべてにダメージを与える。使用者のレベルによって爆炎の届く範囲は変わるが、レベル60オーバーの俺ならば半径十五メートルくらいは焼き尽くせるのではないだろうか。
これだけ聞けば優秀な魔法のように聞こえるかもしれないが、デメリットがやたらある。
まずは呪文書自体がレアドロップでありなかなか手に入らないこと。しかもそのドロップするモンスターがいるのが強力なモンスターが闊歩するグルパゴスの谷であり、なおかつ出現率も低めに設定されていること。
そして一番使えない点といえるのが、この魔法がいわゆる「自爆技」なのであるということだ。
指先や杖の先に球体が出現して爆発するといったが、それは裏を返すと自分のすぐ側で、自分の最大HPと同じ威力の魔法を撃たれるのと同義なのである。
当然使用したプレイヤーは最大HPと同じ威力の攻撃を受けてその場で死ぬ。周囲の敵を一気になぎ倒せるかもしれないが自分も一緒に死んだのでは意味がない。
しかもこの世界はフレンドリィファイア―――つまり味方からの攻撃からもダメージを受ける設定が有効なのである。
つまり、周りに味方がいる状態でこの魔法を使えばその味方すらも巻き込んでしまうのだ。
おまけにこの魔法、戦士職は習得できないのだ。魔法職は総じて最大HPが低い。つまりある程度以上のモンスターに対しては、この魔法は決定打となるだけのダメージを与えることができないということになる。
戦士職がこの魔法を習得できれば、最大HPが多い分まだ使い物になった可能性もあるのだろうが、魔法職のHP分のダメージしか与えられないのでは大した効果は期待できない。
なのでwikiでもこの魔法は「自爆技w」「何のためにあるのかわからない魔法」「習得するやつの気が知れない」というように散々な評価を受けた魔法なのだ。
じゃあなんで俺がこんな魔法を習得しようと躍起になっているかというと、単純な話で、範囲魔法が欲しかったからだ。
エンチャンターが習得できる攻撃魔法の中に範囲魔法はない。今まではスペルスクロールで騙し騙しやっていたが、先日のマリーたちとの一戦で、自分の弱点を少しでも補わないとこれから先苦労すると感じたからだ。
今までだって範囲魔法が使えればもっと楽に事が進められる場面はいくつもあった。そのたびに歯噛みしていたのだが、今回ようやくその気になったのだ。
幸いにもエンチャンターが習得できる魔法の中に致死ダメージをくらっても踏みとどまらせる魔法もあるし、ちゃんと準備したならば使えないこともない――――そう思ったのだ。
正直言ってスクロールでやったほうが早い気もするが、範囲魔法のスクロールというのは存外バカにならない出費なのだ。それなのに数をそろえようとしたならば金がいくらあっても足りない。
命を危険にさらすなんてバカバカしいと思わないでもないが、だとしても選択肢は多いに越したことはない。
「ち、またウサギの肉かよ。そろそろ持ちきれないっつうの」
呪文書を落とすモンスターの名前はフレファイラビット。一撃で倒さないと容赦なくプレイヤーの最大HPの三分の一を削る炎を放ってくる地味に強いウサギだ。
もうかれこれ三日ほどここでウサギを狩っているがいまだに呪文書は出ない。探すのに時間がかかりすぎるためだ。
呪文書の代わりに、美味くて腐りにくい肉を落とすのだがそれにしたってそろそろ持ちきれない。
ここに来るということで馬車はふもとの村に置いてきてしまったし、手持ちのでかい背嚢もそろそろウサギの肉やその他のモンスターのドロップでいっぱいになってきて正直重い。
「こりゃそろそろ一度村に戻らないとダメか?そろそろゆっくり眠りたいし……」
ここはモンスターがいつ来るのかもわからないためゆっくりと眠ることができないのだ。この世界では超ド級レベルの俺はこの世界の人よりも疲れにくいし疲労の回復も早いが、それでもそろそろ限界だ。
ここらで一旦ちゃんと眠ることもしなければダメだろう。
「じゃあそろそろ帰るかなっと」
背嚢を背負い直し、谷の入り口に向かう。道中でなんどかモンスターにも襲われたりもしたが、それらを逐一撃退して、ゆっくりとだが村のある方に向かっていった。
「よーし順調順調。このままいけば日没までには……ん?あ!あれは!」
「ピ、ピイイイイイ!?」
帰り道で俺は一匹のモンスターに出会った。青い羽毛を身体中に身に着け、クチバシが赤いのが特徴のそのモンスターの名前はエクペリバード。出現率が1%を切り、はぐれメ〇ル以上に会うのが難しいとされている文字通り幻の霊鳥だ。
wikiにおいて「数百時間探して一度出会えれば御の字」「二回見ることなんてありえない。一匹しか湧かないんじゃないか」と言われるほどレアなモンスターとして有名なモンスターだ。
エクペリバード事態の戦闘力は最低ランクだが、「一目見れただけでも相当に運がいい。二度見ることは叶わない」とまで言われるほどの出現率の低さから、ギャスパルクの復活の「討伐しにくいモンスターランキング」では殿堂入りまで果たしている、というのだからどれだけ出会うことが難しいかというのがわかるだろうか。
そしてここからが重要なのだが、エクペリバードが落とすドロップ、これが非常に価値のあるものなのだ。
落とすドロップは「デウスの祝福」。ギャスパルクの復活における、唯一の無条件レベルアップアイテムだ。
ギャスパルクの復活においてはレベルアップのための手段は経験値を稼ぐしかない。しかし、デウスの祝福を使えば何もしなくてもレベルが1、上昇するのだ。
おまけにエクペリバードがドロップするデウスの祝福の数は、五。つまり、一気に五レベルも無条件で上げてしまえるということだ。
そんな超激レアモンスターを見つけたのだから、これは行くしかない!
「ファイアーボール!」
「ピイイイ!?ピッピー!」
エクペリバードは俺のファイアーボールを避けて、谷の奥へ向かっていく。谷と言っても、ようは谷のように窪んだ地形というだけで、実際にはジャングルのように数多くの木々が生えている。
そのため、この中で一度見失ったら見つけるのは相当難しい。ましてや、相手は二度見ることは叶わないとまで言われた幻鳥なのだ。ここで逃がしてはいけない!
「待て、待ってくれ!待てって言ってんだろー!」
「ピュイイイイイーー!ピイ!ピピイーーー!」
そこからしばらくの間、俺とエクペリバードの鬼ごっこが始まった。