アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
あれから部屋に戻った私たちは二人で寝てしまって、気づいたら夕食だった。もう帰ってきてた二人を含めて五人で食事をとり、そして。
「じゃあ、作戦会議だね」
「すぐ終わらせますから」
ティナちゃんが自分の部屋に戻ってから、作戦会議が開かれた。内容は言わずもがな、竜の討伐。
「ありがとう...本当にありがとう」
「泣かないでよ見苦しい」
「ま、まだ竜倒してませんから!嬉し涙はとっておきましょう?」
「......そうだね」
この中で唯一の大人が泣くのを止めようとする一方、ちらっと隣を見る。私は不死身の竜に対抗出来るものがほとんど無さそうだけど、こいつは何かあるのだろうか。
「じゃあ、早速始めるけどその前に」
「なに?」
「お前が持ってる『遺産』の中に、なにか使えるものないのか?」
いきなり遺産頼りですか?と突っ込みをいれたくなったが、それを抑えて口を開く。
「再生する竜に聞きそうなやつなんてなにもないわよ。収縮瓶だって入らないだろうし。魔力増強ジュースはあるよ?」
「じゃあ......俺たちがとれる作戦は一つだけだな」
「一体なにを?」
「簡単ですよ...ユーノに竜を燃やしてもらう。それだけです」
「「!!?」」
「ちょっ!カムイ君!?」
きっぱりというアハト。シンプルだけど、それってつまり策はなし?
「そりゃそうだろ。大火力によって再生できないくらいダメージを与えればいい。ユーノの中で安定してできそうなのは炎と氷。なら燃やせ。氷はダメな?溶けたら復活するかもしれないから」
「いやいや!?竜を燃やせることってできるの!?」
出来る算段で話が進んでいるが、そこから謎だった。復活する竜に魔法が有効に効くのかどうかも分からない。
「一か八かだな。でも、資料と情報を集めて、一番可能性が高いとしたらこれだ。ちなみに魔力増強のやつはいらないからな?いきなりそんなのいれたらユーノがどうなるか分からないし」
「ユーノちゃんは普通でそんな強いの打てるの!?」
「えーと......もしかしたら?」
もしかしなくても、この作戦が無謀の一言につきることが分かった。
「大丈夫じゃないよね。これ」
「......それでも、お願いします」
それでも頭を下げるダンさんにぎょっとする。
(これは本気で不味いやつじゃん!)
「ちょっといいの!?娘の命がかかってるんだよ?」
「今まで真剣に考えてくれた方々がそれしかないと言うのです。それなら、任せるしかありませんよ」
なんだか少し拍子抜けした。まぁ、確かにこれで倒せるならいいんだけど。
「任されました。必ず倒します」
「頑張ります!」
本人たちはすごいできるっぽいし。
「なにもできないけどティナちゃんを逃がすくらいはやるよ」
「お願いします!」
「ま、出来るかどうかはユーノ次第ですけどね」
「...あ」
一応納得したが、なんだか不安しかない_____確認しなくては。
あの時の私はそんな正義感のような物があったと思う。
----------------
あれから自分に割り当てられていた部屋に戻った私は、バックを持って、まずはユーノちゃんの部屋へ向かう。
コンコン。
『はーい?』
「ノクスだけど、少し話がしたくて...いいかな?」
『あ、どうぞ~』
といってドアが自動的に開いた。ユーノちゃんが開けてくれたみたい。
「ありがとう」
「いえいえ。それで...話ってなんですか?」
「うん」
少し聞くのはためらうけど...中に入って、私は決意とともに聞いてみる。
「テイカーのことなんだけどさ」
「アハト......カムイ君がなにかしました?」
「アハト?」
「いいえ!なんでもないです!」
「そう...いや、ユーノちゃんとテイカーって仲がいいな~って思って。ほら、新魔と旧魔じゃん?中違いがありそうだし」
「そうですか?まだ会ってから二週間位しか経ってないんですけど」
「え!?そうなの!?」
「はい」
当たり障りのない質問をからすると、それでも予想外の返事が返ってくる。意外だなぁと、顔に書いてたんだろう。ユーノちゃんが苦笑して説明をしてくれた。
「ここから南東の『シオン』って知ってますか?私そこに住んでて、カムイ君の出会ったのは私と友達が熊に襲われてた時でした。それから今は...色々あって旅をしている最中です」
「熊から助けてもらったんだ。あいつ武器なにも持ってなさそうだけど...」
「カムイ君魔法が得意なんです。剣も強いですけど」
「へ~」
魔法を使う奴だったのか......ってそうじゃなくて、
「ユーノちゃんはテイカーとどうしてそんなに仲良くなれたの?」
「そう言われると...人柄ですかね?」
「人柄?」
「というより性格でしょうか...周りをよく見ていて、面白くて、優しくて...私は信頼してます」
「ベタ褒めだね」
「ああっ//カムイ君には言わないで下さいね!?」
顔を赤くして両手と頭についている旧魔特有の大きな角をブンブンと振るユーノちゃんはとっても可愛かった。
「うん。わかったわかった」
「ふぅ...ありがとうございます。話は他に?」
「いや、ありがとう。大丈夫だよ」
(やっぱり、自分でどういったやつか見極めた方がいいよね)
「じゃあ、私は特訓するので...」
「特訓?」
「あ、氷を作るイメージをするんです。明日頑張らなきゃいけないので! 」
「そんな一日で身に付けられるもんじゃないだろうに...」
人間は魔力なんて見えないけど、その人のオーラというか気迫でぼんやりと分かることができた。
ユーノちゃんからは、なんとなく魔力がある感じがした。
最後に、もう一つ確認しとかないといけない。
「そうだ...ユーノちゃんは、本当に竜を倒せるくらいの力持ってるの?」
ティナちゃんを守るためにはこれしかないと言っていたあいつを思い出す。でも、少なくともユーノちゃんからは正直そんな力を感じられなかった。
「できるかは分かりません。でも、カムイ君が任せてくれてるし、ティナちゃんを助けたいんです。私は全力でやりますよ!」
「あいつのこと信じてるんだね」
「さっきも言ったじゃないですか...それに、ここに来るまでで魔物と戦ったときに分かったんですけど、カムイ君は全体を良く見て指示してくれてるので今回も大丈夫だと思います」
「そっか...じゃあ、明日一緒に頑張ろうね」
「はい!おやすみなさい」
「おやすみ~」
パタン。とドアが閉まった。静まりかえる夜。
(あとは、あいつの所に)
多少、聞きたいことは聞けた。でも本番は、ここから。
私は気を引き閉め直しから、もうひとつのドアに向かった。
----------------
目の前には扉が。この先にあいつがいる。
『話せるときにちゃんと話した方がいいですよ』
『私は信頼してます』
(行こう)
コンコンと扉を叩く。
「今、いい?」
自分で聞きつつも、緊張で返事を待たずに開けてしまった。扉の向こうには、もちろんテイカーがいた。
「......いまさらだが、その腹とか肩とか露出しまくってる服寒くないのか?」
「うるさい!」
今回のあいつとの第一声は、こんな会話からだった。
----------------
「それで、なんか用か?」
「いや、チェスでもどうかな~って」
バックから取り出したチェスの駒を見せる。あまり相手と目を合わせたくないときによく使うので持っていた。
これ使ってる時点でダメかもしれないけど、まだ少し不信感があったから。
「...まぁいいぞ。やるか」
「うん。駒しかないけどいいよね?」
「盤なら用意できる」
「え?」
そんな軽装のどこからでてくるの?なんて考えていたら。
彼は、右手のなにもない空間からチェス盤を出した。
......え?
「二人で座れるのベットしかないけどいいだろ?」
「それより今のなに!?」
「俺の得意魔法だよ」
「へぇ...すごいねぇ......」
物つくれる魔法なんて固有魔法しかないと思ってたんだけど、新魔が使ったことに驚く。もしかして全く見当たらない剣も、これを使って出すのだろうか。
「俺からしたら何で駒だけ持ってるのか不思議なんだが」
「ちっちゃいから持ち運びに便利じゃん。盤は紙でも作れるし」
驚きを隠しながら駒を並べていく。
「先行どうぞ」
「言っとくけど、俺は強いからな?」
「なめないでよね」
これでも男と目を合わせたくないときにやったり、マジックアイテムを賭けてやってたので自信は十分だった。
「それより、ただチェスしに来たわけじゃないんだろ?」
鋭い一言に体が震える。でも、最初からこれが目的だから...
「...うん。さっきまでユーノちゃんと話してたんだけどさ。少し気になって...」
「なにが?」
「......君が」
駒を動かしながら会話が進む。私の視線はチェスの方ばかり見ていた。
(まずは質問してみようかな?)
「なんで最初、私を村の人たちの情報収集に行かせようとしたの?」
「なんでって...お前『遺産』集めなんてやってて交渉するの得意そうだったから情報集めやすいんじゃないかな~って。それだけ」
「ッ!」
短い間しか一緒にいないのにここまで考えられていたこと。そして、それをすらっと言ってくることにびっくりした。
『周りをよく見ていて_____』
ユーノちゃんの言葉が思い出される。確かにヤバイ、分析力が高すぎる。
「ちゃんと理由があるなら言ってくれればよかったのに」
「今のお前と違って頑固そうだったからな。てか今お前潮らしくなりすぎだろ。昨日とかと全然違うじゃん」
痛いところを...でも、ティナちゃんやユーノちゃんに感化されて気になってるあんたと話をしにきた。なんて言えず、
「そんなことはいいの。それより...君とユーノはついこの間会ったんでしょ?なのに凄く仲良く見えるから気になってね。何でなのかな~って」
「出会って少しハプニングがあっただけだ。今では守りたい良いパートナーだけどな」
話を聞いて、違う。と感じた。
「それだけじゃないんじゃない?」
「なに?」
私だって、目を合わせたくないだけで見ていないわけじゃない。
なんとなく違う気がした。だって__________
「だって、たまにすごい目してるから。遠くを見てるような......」
___________私が男を無理やり別の何かに見ようとする時と、同じような目をするから。
突然テイカーの駒を動かす手が止まった。動揺してるのか、それともフリなのか。
「いや、なんでもないさ」
「嘘つき。バレバレだよ?」
「......マジか。こんな奴に」
どうやら前者だったらしい。カムイが勝手にかまかけた状態に近いんだけど。
「こんな奴言うな。それで、今なら話し聞いてあげるけど?」
「上から目線だなおい」
「私の方が偉いから」
それから少しして。
「......昔、一緒に遊んでいた奴に怪我をさせてな。そいつは骨折した今は車椅子だ」
「......」
「そいつは大丈夫とか言ってたけど俺は自分を攻めて...それから守りたい人を守れるように強くなりたいと思って、魔法を覚えたんだ」
____なんというか。
「...あっさり、というかあんまり深くない理由だったね」
もっと深い事情かと勝手に思っていた。
「言ってろ。俺にとっては大事だったんだ」
まぁ、私のも他の人からしたら大したことないのかもしれないけど。
「でも、ダメだな」
「え?」
私は首を傾ける。いきなり自分の言ってることを否定するなんてどうしたんだろうか。
「たぶん、ユーノとあいつが似てたから、重ねて見ていたんだと思う。でもそれはダメだろ。同じ人じゃないのに大切な人を違う人と一緒に考えるなんて。それに、ユーノはパートナーだ。いつもは見ていて危なっかしいけど、大切なことに気づかせてくれるやつだ。まだ少ししか一緒にいないけど、守りたいと思える大切な人だから。対等でいたいって言うと違うかもしれないけど......ダメだ。まとまらない」
なんだか変なこと言い出している...何を言っているんだろう。
「確かなのは、ユーノは大切な奴で、守れるくらい強くなるってだけだ」
その言葉が、この話の中で一番しっくりきた。
(あぁ。お互い信頼してるんだね)
私も...
「...そっか。いいね、そういう関係って」
「うらやましいか?」
「そうだね。少しね」
少しどころじゃないけどね。と自嘲気味に笑おうとしたら......
「俺で良ければお前となってやるよ。いや、こっちが下だからなってもらえませんか。かな?」
「ぅえ?」
思わず顔を上げる。そしたら、あいつの黒い瞳と視線が合った。
ていうか、今なんて??
「関係ってこうやってなるもんでもないと思うけどな。あ、なんなら朝困らせた時に約束した土下座でもしようか?」
冗談めいた言葉に、私の中の何かが切れた気がした。
__なんでこいつはっ!___________
「ちょっと待って!今までさんざんバカにされて怒ってないの!?」
私は凄く動揺して、声も裏返っている中テイカーの両肩を掴む。
バカにしてたんじゃないけど、散々反抗的だったのに。それでもなんで、
「バカにされてたのか?まぁ最初の方無理して笑顔とか作ったりしてんのは分かってたけどな」
「!!?」
(それも気づかれてる!?)
少なくともこんな短い日数で看破されたことはなかっただけあって、動揺していた心が更に揺れる。
「あ、もしかして分かってて声かけてくるから怪しまれてる?」
少し笑っているテイカーを見て、
「やっぱり『遺産』目当てなの?それとも私自身!?」
さらに動揺して自分でもわけの分からないことを叫ぶ。なんでこいつは...私は。
「それは自惚れすぎだろ。はっきり言っとくが、だれも『遺産』目当てなんかじゃないさ」
( ......ホントになにもないの?目的もなく仲良くしてきたの?)
「私の目をよく見て!」
なにか別の言葉を喋り出してしまう前に、私はこいつに思いっきり顔を近づけて目を見た。真っ黒の瞳に映るのは......ただの動揺だけ。それだけだった。
...まさか、本当に?
自分でも何秒、何分その瞳を見ていたか分からなかったけど、私自身が恥ずかしくなってその顔を離して、
「ほんとに、なってくれるの?」
「え?」
「...やっぱりやめておくよ。ほら、チェスも終わりだよ!」
今の私はどうかしてる。これは動揺が生んだ結果に過ぎないよ!!
__________それに、こいつならいつでも__________
自分の本当の気持ちに蓋をしたまま、無意識に気づかないまま私はチェスを決着つけようと盤を見つめた。
今は私の優勢。このまま勝つ。
「このままだと負けそうだなー」
突然棒読みでそんなことを言ってくるテイカー。
「だけど、新魔に伝わる奥義があってな...」
「?」
テイカーが盤を持つ。私は彼が何をしたいのか分からず首をかしげた。
次の瞬間。
『flame・bomb!』
「あぁぁ!」
そのままひっくり返された。
「何してくれんのさ!」
「だから、奥義だよ。今日はもう遅いし早く寝ろ。片付けばしとくからさ」
「なにがなんだか...もういいっ!」
私は部屋を立ち去ろうとする。こんなやつ知らない!
「続きはまた今度な」
「!!......おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
ドアを完全に閉めた。そのまま、へなへなと膝をつく。
頬に両手を当てると熱かった。きっと、顔は私の髪の色みたいに真っ赤だろう。それが怒りから来たのか、恥ずかしさから来たのかは私には分からない。
「また今度って...」
その場で呟いた一言は、誰にも聞かれずに消えていった。