アスモディ・ストーリー (Asmody Story)   作:メレク

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必ず

テイカーが少しずつこっちへ寄ってくる。

 

「何者だ貴様!」

「そこの彼氏です。いや~朝からいなくなってて困ってたんですよね~」

 

激昂する竜につらつらと言い訳を述べる彼。

 

(て、え?彼氏?)

 

「何をいって...」

「そしたら竜に連れ去られたって言うじゃないですか。心配したんだからな!」

 

口を出そうとする私を抑えて喋り続ける彼。よく見ると、にこやかにしていながらその瞳はこっちをじっと見つめてきていた。

 

(話し合わせろってこと...?)

 

「だが残念だったな。この娘は俺に喰われる」

「え!?なにやったんだよノクス!?」

「ご、ごめん...」

「今さら返してと言われても無理なのでな。諦めて帰るといい」

「そんな......竜なんて勝てないし...ならせめて、最後にノクスとお話だけでもさせてください!」

「ふふふ、殊勝な心がけだな。その姿勢に免じて五分間待ってやる」

「ありがとうございます!さぁノクス!」

 

両手を広げるテイカー。こちとらノクスノクスって呼ばれたことでダメージ負ってるのに、まだやるのかと少し気が滅入った。

 

(でも、ティナちゃんだけでも助かるなら...ええぃ!)

 

「カムイー!」

「おぅふ!」

 

生き残るために必要だと割り切り、結果的に彼の案に乗ることにして走って抱きついたら、テイカーがそのまま勢いを殺せず二人とも倒れこむ。地面が無駄に固くてやり過ぎたことを後悔した。

 

「全く...危ないな~」

「ご、ごめん」

「大丈夫だけどさ。それよりその手...」

「あー」

右の手のひらは、さっきの火傷の後が。

 

「一子報いた時にね?」

「ここに治せるものあるか?」

 

開かれるのは、私が落としたバック。中には...

 

『絶対助けるから』

 

もっと役に立つこと書きなよ。と思ったのは失礼ではないと思う。少なくとも私はそう思った。

 

「顔にやけてるけど、どうした?」

「あっ、いや、なんでもない!ていうかもうすぐ死んじゃう人を治す必要なんてないよ」

(あるにはあるんだな...十分だ。後で聞くから)

「ひゃっ!//」

 

竜に聞こえないよう耳元で、小さな声で囁いてくる。今まで感じたことない感覚がこそばゆくて思わず声が出てしまった。

 

「じゃあ、始めるぞ。さぁ立った立った!」

「え?」

 

手を握られて一緒に立ち上がる。でも、助けるったって逃げたら村がなくなるし、ティナちゃんは竜の目の前だし、とてもよい方向に行くとは思えない。

 

「別れの挨拶はすんだか?」

「いや、まだなんで今言わせてもらいますね」

 

そう言って、テイカーはいつの間にか握っていた瓶を向けて、

 

『___coming!』

 

竜の近くにいたティナちゃんを瓶に閉じ込めた。

 

「「なっ!」」

「さよならだ化け物さんよぉ!アカーディア行くぞ!」

「ちょっ!」

 

次の瞬間、私は膝の裏と背中に手を回され___所謂お姫様抱っこで持ち上げられる。

 

「貴様ぁぁぁ!!」

「なにやってんの!?バカ!変態!!」

「俺が抱えて走った方が早いんだよ!なんでもいいからしっかり捕まってろ!」

「わわわっ!」

 

後ろから竜の叫びが聞こえるが、それから逃げるように洞窟の外に出て坂道をかけおりる。今彼は強化魔法を使っているようで、走る速度がとても早く感じた。確かに魔法で早く走ったほうが早いだろうけど、このままだと問題は、

 

「村の人とかどうするの!?このまま逃げてたらあいつは...」

「逃げやしないよ!ここで倒すんだからな!今は時間稼ぎが出来ればいい!」

「なら私を置いてって!そしたらもっと動けるしティナちゃんは助かるでしょ!?」

「それは拒否する!もう大切な人を怪我させるのはゴメンだ!」

「...ッ!!」

 

テイカーの言葉に言いたいことが全て詰まる。私は______私はっ。

 

「オォォォォォォォォ!!!!!」

「ッ!!アカーディア!!!」

「へ?」

 

私は急な方向転換に動揺して、しっかりとテイカーの首に手を回した______________________________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「どこだぁぁ!!」

「はぁ、はぁ、こいつは......」

「んにゅ...テイカー?」

「しっ!静かに!」

 

どうやら少し意識が飛んでいたらしい。テイカーに揺すられることで起きた私は、静かに辺りを見渡す。私たちは木の後ろに隠れていた。

 

テイカーが後ろを指差す。振り返った先には、

 

「ッッ!!」

 

声が出そうになるのをあわてて止めたが、腰が抜けるのは止められなかった。見えたのはただの地面だ。

 

 

 

 

 

さっきまで木が沢山生えていたのに、それがごっそりえぐられ、茶色しか存在しなくなった地面だが。

 

「ブレス...ここまでなのか......」

 

テイカーの声は、私の耳には届かなかった。きっと顔も青ざめているんだろう。頭に浮かぶのは恐怖。

 

(もしテイカーが避けなければ...ううん、もしこれが村に向けられたら...ここからでも全部消されてしまう......)

 

それが全身を駆け巡り、体が動かなくなる。怖い、恐い、コワイ。

 

「なぁ、このバックに役立つの何かある?」

 

そんな硬直から助けてくれたのは、他でもないテイカーだった。でも、なんでこいつは。

 

「あ、あ、あんたこれ見てもまだあれの相手するの!?死にに行くようなもんじゃない!」

「死ぬわけないだろ。お前らを無事に返さなきゃいけないんだからな。かといってさすがにこれ以上あれを吐かれるわけにもいかないし、近づいて相手する。準備する時間もあるだろうし大丈夫だろ。あ、ティナちゃんはまだ瓶から出すなよ?多分元に戻った時魔力でバレるから」

「あんたのはバレてないの?」

「こういうのは慣れてるんでな」

 

すました顔で言うものの、その顔には汗が流れているのが分かる。こいつは、あとどれだけ馬鹿なことをするのか私には分からなかった。

 

「ないの?」

「...あぁもう!」

 

急かすように聞いてくる彼に、私は思考をやめた。

 

(きっと止めてもこいつは行くだろう。なら...)

 

バックを広げて、水晶タイプの魔力石三つと魔力増強ジュースを取り出す。

 

「あいつと戦うのには、これくらいしか役にたたないと思う...」

 

私がはめている小手じゃあいつの攻撃はなにも防げないし、他の魔力石だと威力が出せない。文字通り今の私のほぼ全財産。

 

「魔力石...もしかしてお前これ使って?」

 

テイカーが訝しげに聞いてくるのを私は頷いて答えた。

 

 

「意味なかったけどね。でも、いつも魔法使ってるやつの方が有効に活用出来るでしょ?」

「こんな貴重なもの...いや、もらっておく。ありがと」

「素直でよろしい。というか見てたの!?助けに来てくれなかったの!?」

「それは悪かったけど、今こうしてるわけだし許してくれよな?」

「むぅぅ...」

 

納得はしてなかったが、使える左手で魔力石三つ全てとジュースを渡す。

 

「...なぁ、これってなんの魔法でも使えるのか?」

「固有魔法じゃなければ基本的に大丈夫だと思う」

「そっか...じゃあ」

「ッ!それはっ!」

 

テイカー力の入らない私の右腕を握って、左手で魔力石を砕いた。止める間なんてなかった。

 

「このタイプのは自分のしたいことを願って使うから...」

 

彼の両手に挟まれた私の腕は、みるみるうちに元の色を取り戻していった______戻ってしまった。

 

「あ、あんた...こんなことに使ったら!」

 

生き残るための手段の一つを、こうもあっさりと、しかも私なんかのために使うのが信じられない。

 

「これはもう俺の物だ。文句は言わせない。今ので居場所も見つかっただろうし、もう行くわ。少しは移動しろよ?」

「...待って」

 

平然としながら駆け出そうとする彼の手を握る。自分の心臓がトクン、トクンと動くのを感じる。

 

「早くしろ。あ、もしかしてお代か?それは後でいくらでも払うから」

「違う...お金なんていらない......だから、無事に返って来て」

 

 

 

 

 

そして__________この思いを確かめさせて?_____________

 

 

 

 

 

「言ったろ?死ぬ気はないってさ。だから大丈夫だ。任せろ」

「......うん!」

 

木の間を抜けて、竜に向かっていくテイカーを見送ったあと、あいつと触れた手を胸に当てる。

 

(大丈夫。あいつならきっと。)

 

急いでティナちゃんの入っている収縮瓶を取り出すも、ティナちゃんは気絶していた。無事だろうけど、不安は大きい。

 

「ひとまずここから離れないと」

 

私は、少しずつうっそうと生い茂っている林のほうへ逃げて行った。

 

 

 

 

 

必ず、無事で____________

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

アカーディアからもらった魔力増強ジュースを飲みほす。メロンと桃が混ざったような甘味があって、自分の魔力が増えたのが実感できた。人によって合う合わないがあるらしいので不安はあったが、上手くいって何よりだと安心する。

 

「さてと...」

 

ベルトポーチに魔力石はしまった。あいつはまだこちらを見つけていない。魔力探知が下手くそなのか。

 

「まぁ、いいや」

 

そして俺はゆっくりと、木の影から竜の前に姿をさらす。

 

「よ、ようやく見つけたぞ。貴様!」

「悪いな。俺一人だけだ」

 

竜が若干驚いているのはただ俺が自分から出て来たのに対してなのか、それとも。

 

「ちょっと答え合わせをしないか?」

 

そう言って俺は、自覚できるくらい顔をにやけてみせた。

 

(今は時間を稼ぐことを考えろ)

 

 

 

 

 

俺も、ユーノも、アカーディアも、村の全員無事に生き残るために。

 

 

 

 

 

(さぁ、始めようか)

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