アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
「ユーノも楽に勝ち上がりそうだな」
「なんで?」
俺が呟くと、ノクスが質問してくる。
「あの人一回戦見てる限りだとそんな強くなさそうだし」
ユーノは開幕早々『fog・beast』を唱え、三体の狼に似た形の魔力を出す。
「燃やせ!『flame』」
相手も炎魔法を唱えているようで、自身の目の前に炎の球体ができていた。それが三つ。
「それじゃあ倒せないな」
「え?」
火の玉と無属性の狼がぶつかり爆発が起きる。だが、爆風から飛び出したのは『fog・beast』だけだった。
「なにっ!?」
「いっけぇ!」
不意をつかれた相手はそのまま魔力の塊に体当たりを喰らい、三メートル近く飛ばされる。
「今さらだけどユーノちゃんのあれ、どうなってるの?魔法なの?」
「れっきとした魔法だよ。最も、無属性魔法で知られてるのは強化魔法だけだが」
属性付きの魔法を使うのが苦手なユーノが無属性を固有魔法にできたのは幸運だろう。
「ユーノの固有魔法は、魔力を圧縮して動物の形にできるものだ。圧縮された魔力は質量を持ち、触ったりぶつかったりできるようになる。あの形だと牙で噛むことだって出来るだろう」
「...」
「今のだって、例えるなら壁に炎魔法をぶつけてるようなもんだ。壁が負ければ炎に溶かされるし、逆に炎が負ければ壁が形を保っている。今回は壁、つまりユーノの魔法が勝ったわけだが」
「......強いね。あれ」
「あいつもここ一ヶ月くらい特訓を積んでますしね。魔力の圧縮技術とか、元々高い魔力量がさらに上がったりだとかしてると思います」
視線を戻すと、相手は『fog・beast』に魔法を放ち、三匹全てを倒していた。
「さすがに攻撃を受けすぎると消えますけどね」
『fog・beast!』
すかさずユーノは今度は獅子の形で追加する。相手はそれを見るなりげんなりしているように感じた。
「短剣持ってる意味ないけど、これなら勝ちだろ」
「あれ、どこ行くの?」
「飲み物買ってくる。これ以上試合も変わらないだろうし。お前ももうすぐ試合なのにいいのか?」
「あ、そうだった!」
観客席を立ち、動こうとする俺達。
「メイルさんは、飲み物何かいりますか?」
「...ジンジャーエール」
「わかりました」
「...行ってらっしゃい」
「はい」
食い入るように試合を見ているメイルさんを置いて、俺達は動き出した。
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「ふぅー...疲れたー」
ついさっき試合から解放された私は、選手用の通路を歩きながら息をついていた。
さっきのムキムキのおじさんとの試合は、私が『fog・beast』を使い、おじさんがそれを防ぐことしか出来ずにいた。それが防げなくなって終わったという、勝てたのは嬉しいけど______
「私一歩も動かなかったし、勝ち誇れはしないかな......」
なんだか、自分の力で勝ったって喜びがいまいち感じられなかった。
(でも、私だけ前に出たらカウンターもらうかもしれないし...)
「はぁ...どうしたらよかったんだ......ろうっ!?」
「わわわっ!」
突き当たりを曲がろうとしたら、走ってきた誰かとぶつかってしまった。トスッと音が響く。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「いったった...あ、大丈夫です。ありがとうございました」
「あ...」
ぶつかった相手はすぐさま通路の向こうへ行ってしまった。身長からして、小さい男の子だった。
(でも、今回の最年少は私らしいし、もしかして迷子だったのかな?)
あんなに急いでたのもお母さんと離れたからと考えれば、納得もいく。
「一緒に探してあげればよかったな...」
私は少し後悔しながら出口まで向かっていった。
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「次はお前だな。頑張れよ」
「うん。ありがと」
試合場所に行くノクスを見送ってから、俺は露天で飲み物を買っていた。
「これでよし」
メイルさんに頼まれたジンジャエールと、ユーノがどっちでも飲めるようにオレンジとグレープジュースを買い、きた道を戻ろうとする。
「しかし、わざわざ外に出ないと売ってないとは...売り子でも作ったら儲かるだろうに」
戻りの道は行きより長く感じたが、文句も言ってられない。
「...助けて」
「?」
そんなとき、どこからか声が聞こえた高い、女性の声。
「助けてください」
「...ここか?」
耳を済ませると、通路の端のトイレから声が聞こえていた。中に入って扉を開けると______
「......なにやってるんですか?」
「...(^^)」
なんか微笑んで便器にめり込んでいる女性がいた。
意味わかんねぇよ。
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「いやー助かったよ。バレないように隠れてたのはいいけど、もうすぐ試合なんだ」
見つけちゃったので仕方がなく助けたら、相手はそんなことを騒いでいた。
試合と言われて思い出したのは、一回戦特に目立ったこともせず淡々と相手を倒した姿。確か名前は______
「あ、もう時間だから。ありがと!」
「あ...」
女性はあわてて走り出してしまい、すぐに姿が見えなくなってしまった。トイレにポツンと残される。
「なんだったんだ一体...」
俺は頭に?マークを浮かべながら、炭酸が抜けないように気を付けながら飲み物を運んで行った。
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「大丈夫。大丈夫」
あまり迷信を信じないので『人』を書いて飲み込むなんてことはせず、ただ出番を待っていた。
『頑張れよ』
(頑張るよ。)
「それでは二回戦最終試合。今日ラストの試合を始めます!」
大きくなる歓声を聞きながら、私は戦いの場に入る。
「一人目は、一回戦で強力な魔法で脅すという戦法を使ったノクス・アカーディア選手!」
説明を無視して向かい合った相手と目を合わせる。
「対するは、小さい見た目で相手を騙す、マルク・レイ選手!」
その笑顔に、その仕草に、
「よろしくお願いしますね?」
背筋が凍った。
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思ったより時間がかかってしまい、メイルさんと、戻ってきていたユーノと合流したのはノクスの試合が始まった直後だった。
(にしても、観客うるさいな)
「頼まれたものです」
「お、ありがと。ちょうどいい感じに喉乾いてたんだよね~」
さっきと違って眼鏡をかけたメイルさんから目も向けられずにお礼を言われ、少しムカッときたもののユーノにも飲み物を渡そうとする。
「ユーノ、グレープかオレンジどっちが...」
「あ...あぁ......」
「それよりカムイ。ノクスちゃんの心配した方がいいと思うよ」
「え?」
思わずメイルさんを見てから試合を...ノクスを探す。
「...なっ!」
そこには、倒れているノクスと、そこに剣を突き立てる小さな旧魔の男姿があった。
「ノクスさん!」
「なにやってやがる!?早く棄権しろ!」
「この大会に出てる以上、血を流すのは同意の上だからあのくらいじゃ審判は止めないよ。本人が棄権すると言えば済むけど...言えないんじゃしょうがないね」
確かにノクスは大声を出して騒いでいるように見えるが、ここまで声は聞こえず、静寂だった。だが、当の本人は暴れているという歪な光景に、思わず吐き気がする。
「!?どういうことですか!?」
「多分固有魔法が関係してるんじゃないかな?周りの音を遮るとか」
「ならそれを早く伝えてやめさせないと!」
「もう気づいてるよ。ただ、審判の声が遮られてたら、周りは棄権とは判断してないみたいだけどね...もしかしたら、動きも封じられてるのかもしれない」
「...そんな」
審判や大会スタッフも口は開いているものの、声は全く通っていない。動けないのか動こうとしないのかは分からないが...もし一人で二つの固有魔法を持ってるなら______強すぎる。
「なら、あの魔法を止めればいいんでしょ!!」
「あ、ア、カムイ君!」
発動中の魔法の消しかたなんて分からないけど、ここままにしておけるわけない。
(やるしかねぇ!)
俺は観客席の前の方まで行き、そこから作ったエクスシアを投げ飛ばした。
真っ直ぐ飛んだ剣は相手に弾かれたが、観客席に飛んでくる前に消す。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「この勝負マルク選手の勝ちです!ノクス選手を急いで医務室に!」
聞こえてきたのは彼女の叫び声と審判の指示と、
「...よく邪魔してくれたね」
男の透き通った声だった。