アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
夜。俺はメイルさんにあてがわれた部屋のベッドに横たわっていた。片手で両目を多い、光がうつることはない。
「俺は...」
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扉が勢い良く開け放たれる。
「ノクス!大丈夫か!?」
「ノクスさん!」
「二人とも...来てくれたんだ」
ベットから体を起こす。私は試合でボロボロにされ、医務室で治療を受けていた。服は脱いだけど、治療してくれた人が女の人でよかった。
「彼女なら大丈夫だよ。もっとも、かなり危ない状況だったけどね...」
医務員さんの言葉を聞いて思わず自分の肩を覗くと、なにも無かったように白い肌が見えた。
(......さっきここは、剣で切りつけられた場所...回復魔法って凄いね)
回復魔法は、固有魔法でこそないものの身に付けれる人が限りなく少ない。だからこそ使える人はいろんなところで重宝される。
「よかった~」
「傷跡もないみたいだし、やれやれってところか...」
「ただ、今日はここで安静にしてもらうけどね」
「そのくらいは大丈夫です。ありがとうございました」
「ちょっと、なんであんたが答えてんのよ」
「どうせ似たようなこと言うだろ?」
「うっ...」
アハトの言葉に否定できない。何も言うことは変わらないから。
「じゃあ、少し席をはずしますから、ごゆっくり」
女医さんが医務室をでたことで、残ったのは私とユーノちゃん、それにアハトだけ。
「...でも、本当によかったです。ノクスさん試合が始まる前から魔法をかけられたみたいになってて不安だったから......」
「ッ!」
さっきの景色が思い浮かぶ。あの場所で、目が合ったときから動けなかった。
(あいつは......)
「あ、ご、ごめんなさい!」
私の雰囲気が暗くなったことに気づいてしまったユーノちゃんが謝ってくる。私はそれにかぶりをふった。
「ううん...それよりどんな奴か教えないとね。あいつは...」
私が話し出す前に、
「ユーノ。今日は帰るぞ」
冷めた声であいつが立ち上がった。
「アハト君...でも......」
「別に聞くのは明日でいいだろ。それに...泣かれてる奴に、無理に聞けるか」
「え?」
気づいたら、泣いていた。顔からぽろぽろと雫が落ちる。
(あ、あれ?最近泣くこと多いな~)
この二人と出会ってから。
「あ、あれ...?」
「でも...側にいた方が「今日はそっとしておけ。一人で考える時間だって欲しいだろ?」...うん」
アハトはそのまま部屋を出るのかと思ったら、足向きを変えてこっちに来た。
「...お前も、辛いときはもっとちゃんと泣けばいい。誰もそれを止めないし、ここにはお前のことが好きな仲間しかいないしな」
こいつは、
「またそんな、こと言ってさ......恥ずかしく、ないの?」
「...うるせぇ」
彼女の少し照れた顔を、私はずっと見ていたいと思った。
私は________
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「結局時間かかってんじゃねぇか...」
「アハト君が泣いていいって言ったからでしょ?」
あれからノクスに泣きつかれ、突っぱねるわけにもいかないため頭を撫でていたらすっかり遅くなってしまった。本人は泣きつかれたのか寝てしまったので、ようやく解放されたというわけだ。
「顔真っ赤にしちゃってさ...」
「ユーノと戦うことになったら医務室送りにしてやる」
「いったなー!」
通路を歩きながらふざけていると、
「...容体はどうでしたか?」
「「ッ!」」
壁に寄っ掛かっていたあいつが聞いてきた。小さい体ながら、そこから出る雰囲気は奇妙の一言。見える角は旧魔の証。
そして、ノクスを傷つけた張本人。
「マルク・レイ...」
「自己紹介はいらないみたいですね。さっきぶりです。ユーノ・アインツ」
「...さっきの」
「ぶつかったときはすいません。急いで行かなければならなかったので」
『...ユーノと会っていたのか?』なんて問いただす暇もなく、あいつの奥からもう一人現れた。
「やっほっほー」
「お前は、さっきの...」
「いやーありがとね?私も試合に出る所だったからさ~」
そこにらさっき俺が助けた、トイレの女がいた。落ち着いて無視し、レイを睨む。
「お前が、ノクスを傷つけた張本人がよくすまし顔で聞けるな?」
「正直予想外でした。もっと痛めつけるつもりだったんですけど...」
「...この外道が」
「まぁそういわないであげて?この子サディストだからさ。自分の物と決めたら譲らないんだよ」
旧魔の男を新魔の女が擁護する、いや、それ以前にこの笑っている二人の組み合わせに違和感しかなかった。前者の部分だけならこっちも似たようなもんだし。
「ノクスさんは物じゃない!」
「...なるほど、話は聞いてないんですね」
レイは大袈裟に肩をすくめ、嘲笑うように口元を緩める。
「なら教えてあげます。彼女は本来、僕の物になる予定だったのですよ?」
「減らず口を!」
「以前、『遺産』が好きな彼女を僕が惚れてしまいまして。お金が余ってた僕は餌を集めて出して釣れたのはいいのですが、最後の所で突っぱねられましてね」
「!」
(ノクスが驚いたり、何かを話そうとしていたのはこれが原因だったのか...)
「ざけんな。契約が成立しなかっただけだろ」
「そうだけどね。それがこの子さ、ご執心で無理やり捕まえようとしたのよ」
「そしたら逃げられてしまって...憂さ晴らしにここへ来たのは偶然でしたが、彼女とまたあえて幸運でした」
「今度こそ自分の物にしたいからって、剣で跡をつけようとするのはよくなかったけどね~」
無意識に自分の拳が強く握られるのを感じる。
(要は、自分勝手な都合であいつを傷つけた?剣で貫いたのか?)
「勝手な都合で!ノクスさんをいじめないで!」
「虐め?とんでもない。勧誘、もしくはしつけと言ってください」
「ノクスさんはあなたの物じゃないって言ってます!!」
(...あいつが泣くまで?)
「やはりあなたのその姿勢も良いですね...欲しくなってしまいます」
体は言うことを聞かなかった。ガバッと奴の胸ぐらを掴む。あっちの身長が低いので片手で完全に持ち上げた。目の前の顔とぶつかりそうになるほど自分の顔を寄せる。
「なんでしょうか?」
(ノクスだけでなくユーノまで...)
歯ぎしりが止まらなかった。
「......絶対許さねぇ。お前と当たったとき、全力でねじ伏せる。覚悟しとけ」
「それは楽しみだねー。良い試合が期待できそうだ」
「そうですね。楽しみにしています」
「アハト君...」
相手の死んだ目と自分の冷めた目が合う。あっちは胸ぐらを掴まれてるのに動こうとももがこうともしなかった。
「...覚えておけよ」
「そっちこそですよ?これのお返しは、しっかりしますから」
俺は胸ぐらを離して、出口へと、あいつらはその反対側へと歩いて行った。
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「...おかえり」
「「ただいま(です)」」
メイルさんが紙を読んだままこちらに言葉をかけてきたので、二人でハモって返した。メイルさんの家に戻る前に、気持ちが落ち着くことも、ユーノがおどおどするのをやめることもなかった。
「...喧嘩はよくないと思う」
「見てたんですか?」
「...たまたま。これの話をしようとしてただけだから」
メイルさんは手に持っていた紙を机に広げてみせた。俺とユーノはその紙を覗いてみる。
「...大会要項?」
「...全体には明日言われる。私は先にもらった」
それを聞いて、改めてこの人は大会関係者だったと思い直した。
「...大会はこれから、試合の危険性を考慮して勝ち残った人が二人一組になるようにする。残りは八人。明日は休みにして明後日準決勝。明々後日が決勝になる」
「...ペア戦ですか」
「他には、審判とかにジェスチャーを覚えさせる」
「それ意味あるんですか...?」
「というより、今までよくルール変更されませんでしたね?」
「...ここまでは初めてだった。こうなることを考えてなかった私も悪かった。許してほしい」
「俺らよりノクスに言ってあげて下さい」
「...そうする」
部屋に沈黙が訪れる。
「...でも、試合以外で喧嘩するのは良くない。ましてや、私は自分の気持ちを抑えられない人が大きなことを出来るとは考えられない。」
「...すいません。弁明のしようがないです」
「...でも」
「「でも?」」
「...仲間を大切に思う心は大切だと思う」
「...ありがとうございます」
そう言って微笑むメイルさんに、俺は素っ気なく返事をするしかなかった。
「じゃあアハト君。私と組んで!」
「元よりそのつもりだ。即席のタッグじゃ優勝できないだろうし、なによりあいつにも勝てないからな。これからよろしく、ユーノ」
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「はぁ......」
俺はもう一度息を吐いた。ユーノやメイルさんと話すこともなく、夜も深くなってきたので寝ることになり、今は一人だ。
部屋にあるのは机とベッドだけという簡素な物だが、このくらいさっぱりしてた方が落ち着く。
そして、ベッドには横たわる俺ともうひとつ。
「あーあ...」
転がっているのは表面がまだ綺麗なメモ帳。本来エクスシアを書くものだ。だが、
「どうも決まんねぇ...」
新しい、エクスシアに代わる剣のアイデアがどうしてもまとまらなかった。魔力の練習をする気力も起きない。
そもそも何故新しい剣を創ろうと思ったのは、『エルビス』での出来事。竜にブレスを吐かれそうになったとき、後ろに村があってエクスシアでは守りきれないと考えて、とっさに鉄板の壁を出した。
だが、今考えるとあの魔力だったらそんなものは壁にすらならないのは分かりきった話。ユーノが間に合ってくれたからこそ良かったものの、間に合わなければ死んでいただろう。
それに、これからのことを考えるとノクスやユーノを庇ったり、俺のポジション的に後ろを守りながら戦うことが増えるだろう。そのイメージに一番合うのは、エクスシアよりもデカイ大剣。
ただし、俺は昔から両手剣だと使いこなすのが難しかったので、片手で持てる範囲の物に限定される。というのが、この前考えたものだ。
今は強化魔法も強くなっているので、それを使えば見た目は両手剣でも振ることは出来るだろうが、
「どのくらいにしたらいいか全然まとまんねぇな...」
メモ帳の中には、ラフにスケッチされた色んな大きさの剣が書かれていた。エクスシアの時はもっと苦労したけど、これもなかなか決まらない。
「...どうしたものかな」
明日は籠って絵でも書くか、それより外に出てアイデアを探すか悩む。
「あ、新しいコート買わなきゃ」
悩んだ末にたどり着いたのは、新たな買い物だった。
今着ているアイオスさんからもらったコートは、未だボロボロになっている。
「前途多難かもな」
呟く声は、反響もせず空気に溶けた。