アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
「今日はどうするの?」
二回戦の終わった次の日。今日はメイルさんから聞いてた通り試合は休みになり、勝ち残った八人でペアを組むように言われ。
私とアハト君は後で会場に報告しに行くつもりでいた。
今は朝食で、メイルさんが今日の予定を聞いてきて、私は食べていたパンをお皿に置いた。
「私はちょっと用事が...」
「俺は部屋にいるつもりだったんですけど...コートを買いに大通りに行こうと思ってます」
「えっ!!?」
「なんだよ、いつまでもボロボロだと流石にまずいだろ?」
確かにアハト君のコートはボロボロでもうどうしようもない感じがする。
(でも、それはそうなんだけど、そしたら私は......)
「...アハト。それは最終日にして」
「?何故です?」
「...今日は、あなたには頼みたいことがある」
「...なら、分かりました」
ちらりとメイルさんを見ると、こちらに目を向けていた。口パクで『頑張って』と言っているように見える。
(でもなんでバレてるんだろう...)
疑問には思ったものの、口には出さずに紅茶を飲み込んだ。
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「で、なんでこんなことに...」
ユーノと大会の手続きをした俺が来たのは、先日訪れた『ホットカフェ』。
そこに何故か執事の服を着て立たされていた。
「あの人カッコいいね!」
「うんうん。スラッとしてて...」
「ちょっと女の子っぽい?」
お店に来ていた旧魔の女の子達の話が聞こえる。俺は正真正銘女だよ!と全力で答えたいところをぐっとこらえる。
「髪でも伸ばそうか...」
前髪をいじりながら、数分前のことを思い出した。
そもそもの原因は、メイルさんがここの店の店員数が少ないのを知っていて、常連だったから自主的に手伝いをする予定だったらしいのだが、今回の件で大会関係のあちこちに行かねばならず、代わりに俺が行かされることに。
あの人に、「...ご注文を」なんて無表情で言われたら怖いけど。
でも、これ自体まるで俺の行動を止めるように______
(まぁ気にしてもしょうがないか...にしても、平和だなぁ)
思考を中断して周りを見渡す。お店で料理を食べたり話している人達は、だいたいが旧魔なものの新魔も少なくない。大きな町では仲良く一緒に暮らしてる者同士がいるというのを、改めて実感する。
(...こういう場所が色んな所で作れればいいな)
「すいませーん」
「はい。少々お待ちください」
(頼まれたことだし、社会勉強としてもしっかりやるか)
「ご注文承ります」
気持ちを切り替え、普段はしない笑顔を浮かべた。
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「いらっしゃいませ~」
「あの、すいません」
「はい?...あぁ、出来上がってますよ。少々お待ちくださいね」
「はい」
私が来たのはこの前来た服屋さん。目的は、
「はい。サイズ調整はもちろん、ラッピングもしてあるから」
「ありがとうございます」
中に水色のリボンの着いた袋が入っているのを確認して、少し頬がにやけた。ちなみにサイズを測ったのはアハト君が寝ているうちだった。抜かりはない。
「ユーノちゃん。それは彼氏君へのプレゼントかな?」
「ふぇ!?そ、ほれよりなんで私の名前を...」
店員さんの突然の言葉に思わず受け取った袋を落としそうになる。
「もう有名人よ?史上最年少でベスト8、今はベスト4かな?まで勝ち進んだ子だ~って」
「そうなんですか」
(全然知らなかった...)
「そんな子が、自分とは違うサイズの黒い服を買うなんて...考えるじゃない?」
「あはは...」
彼氏って所以外は正解です。と喉まで出かかったのをなんとか抑えた。
「相手はどんな子なのかな?」
「えーと...明日確認してください!」
「あっ!応援行くからねー!」
なんとなく、ありがとうございます!と返すことも忘れるくらい気恥ずかしくなって、私はそのまま走ってしまった。
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「...大丈夫?」
「ん...んぁ...あ、メイルさんですか」
「...大丈夫?」
「もうほとんど平気です」
時計がないから確認はできないけれど、おそらくお昼前。メイルさんが私を訪ねに医務室にきた。
「...ならよかった」
「ご心配をお掛けしました...あ、あの!」
「...?」
「メイルさんは、昔お姫様の護衛をされていたんですよね?」
「...うん。それで?」
私は一回息を吸ってから、
「私でも...人間でも魔法が使える人たちに負けないくらい強くなる方法ってありませんか?」
「...はぁ」
私の頼み込みに呆れたのか、メイルさんは右ポケットに入っていた眼鏡をかける。
「その意義やよし!私もそれ目的でここに来たからね。今日と明日でアハトとかに勝てるくらいの力をあげる!」
全然違った。というか!
「!!ほんとですか!?」
「ただし!本来は一ヶ月以上かけて教えるものくらいになるだろうからね...だから、辛いよ?それに、一回でもやめようとしたら私もやめる。そのくらいの意義じゃないとダメだから。それでも...やる?」
「......やらせて、下さい」
ユーノちゃんにも、アハトにも、負けないくらい強くなりたい。
(いや...違うかな)
「あの二人に心配とか、迷惑とかかけたくないんです」
「...うん。じゃあ、今から始めるよ。準備はいい?」
「はい!」
私は飛び上がって、部屋から出ていくメイルさんについていった。
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「たっだいま~」
「お帰り」
「...お帰りなさい」
「...ぅぁぁ」
私が買い物(服以外にも)を済ませて帰ってきた時には、皆帰ってきていた。若干一人死にかけていたけど。
「ノクスさんどうしたんですか?」
「...気にしないで」
「さっきからこれしか言わないんだよ」
「...死ぬぅ......」
「...そんなことよりご飯」
テーブルには、もうご飯が並んでいました。
(まだ夕方だから早い気がするけど)
「少し早くないですか?」
「...これからノクスと出かける。明日の夜まで帰らないから二人は頑張って。朝ごはんは残ってるのを好きにしていいから」
「あ、ありがとうございます...」
「なぁノクス、お前なにしてんだ?」
「...ちょっと修行」
「......止めはしないけどさ、体壊すなよ?」
「...もう壊れてる......」
「...頂きます」
心配してる人、倒れてる人、黙々とご飯を食べてる人。
「...なにここ」
そう呟かずにはいられなかった。
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「いってきまーす!」
「...ぃってきます......」
「「いってらっしゃい」」
出掛ける二人(...となっている方がノクスさんです)を見送ってから、アハト君と私はこれからの予定を話そうと顔を向けて______
「んじゃ、明日に備えて寝るか。おやすみ」
「え!?」
「なんだ?なんかやり残したっけ?」
「ええと...明日の作戦会議とか...」
「明日の対戦相手はまだ決まってないし、一日で二回しか試合がないんだ。休憩時間に話せばいいだろ」
「うぅ...」
「......」
(これだと、なにかのついでとかで渡せない...そもそもどうやって渡せばいいんだっけ!?)
ポフッ。
「え?」
「そう緊張しなくても大丈夫さ。俺達の目的は優勝。そのために頑張ろう?」
「わぁ...」
アハト君が頭をくしゃくしゃ撫でてくれている。あまりの気持ちよさに思わず声が出る。
「ほら、早寝しろ」
「...ハッ!アハト君!!」
「ん?」
(危ない、完全に忘れる所だった!!)
私は急いで買い物袋の一つから、ラッピングされた袋を取り出して、
「これあげる!」
「あ、ありがとう...急にどうしたんだ?」
「えーっと...」
完全に渡すまでしか考えてなかった。なに言えばいいんだろうか。
「それ...アハト君にはいつも助けてもらってるから、お礼です!!いつでも優しくて、カッコいいアハト君に何かあげたくて!」
本人の顔を見れなくて、目を閉じながら言葉を出す。
(...あれ?)
ふと疑問を浮かべる。言いたいことは言えたけど、
(恥ずかしくないですか!!?)
あたふたし、恐る恐る目を開けると顔を真っ赤にしたアハト君が、
「...あ、ありがと」
照れくさそうにはにかんでいた。
「じゃあおやすみ!」
「あ、おい!」
なんだかその顔が見てられなくて、自分の部屋に逃げるように入っていった。付いていた鍵も閉める。
(喜んでくれてるようで、良かった)
だから、「こっちだって助かってるんだから、わざわざ何かくれなくてもいいのに...」という言葉は、私の耳には聞こえなかった。
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「ふぁー...ぁぅ...」
真っ暗だった夜に、太陽が顔を出していた。今日も晴天だな。
「起きるか」
時計を見ると七時に近い。着替えをすまして部屋を出る。
一階にはもうテーブルにパンがおいてあって______
「あ、アハト君おはよ...それ!」
ユーノがスープを置いているところだった。本人はこちらを見て目を見開いている。なぜなら、
「似合ってるだろ?」
「...うん!」
黒を基調とした中に、白のラインが入っているコート。所々毛で覆われていて暖かいし、おまけにフードまでついて、サイズもぴったり。
そんなユーノから貰ったコートを着ているのだから。
アイオスさんのと似てると思ったら、作ってるメーカーが同じらしく、変わってる点は少ないけど。
「ありがとな」
「どういたしまして!早くご飯食べよう?」
「おう!」
(今日も一日頑張りますか!)
俺ははりきって食卓についた。
「どうして俺のサイズを知っているんだ?」とは、聞けなかった。
もうすぐ夏も終わりますね。皆さんどう過ごされましたか?
猛暑が続くのでノクスみたいに腹だし肩だしのシャツに、短パン(スカートはなし)を履いて過ごしたかったです。腹壊しそうですけど。