アスモディ・ストーリー (Asmody Story)   作:メレク

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心地よい場所

「ささ、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」

 

俺とユーノはスタッフに『今人気なお二人に観客席なんて行かれたら収集がつかなくなるので止めてください!』と言われ、審判の隣で試合を観ることになった。

 

しかし、

 

「この勝負、マルク、ウィントペアの勝利です!」

 

準決勝第二試合は、驚かれるとこもなく、あっけなく終わっていた。

 

あの二人が使った魔法は基本魔法ばかりで、対策の参考に出来るようなものはなかった。相手も大きな怪我をしたわけでもなく、ただ作業をするように淡々とこなしていた。

 

「さぁ!明日はいよいよ決勝!ユーノ、カムイペアとの対戦です!皆さんぜひ足を運んでくださいね!」

「これで明日も楽しみに出来る奴がどれだけいるのかねぇ...」

 

すぐそこにいる司会の人に突っ込みを入れるように言葉を紡ぐ。もちろん聞こえないようにだが。

 

「最後に!今こちらにいらっしゃるユーノ、カムイペアから一言ずつ頂きたいと思います!」

「えぇぇ!」

 

突然の無茶ぶりに驚くユーノ。なんだかめんどい空気になってきたことを察し、いち早く逃げる用意をする。

 

「まずはユーノ選手!どうですか?」

「あ、あの、えーと...が、頑張ります!」

「ありがとうございますありがとうございます!!続いてカムイ選手に...あれ?」

「あーー!」

 

(...発見される前に早く帰ろう)

 

結局、俺が話すことはなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

あのあと、フードを被っていたお陰もあって誰にも声をかけられることなく帰宅に成功した。

 

「アハトなんであそこでおいていくの!?私あのあと代わりに質問攻めにされたんだから!」

「悪かったー悪かったー」

「ちっとも悪いと思ってない!」

 

彼女は案外ご立腹らしい。頬をぷくーっと膨らましているのがおかしくて笑うと、さらに怒られた。

 

「それより...二人遅いな」

「今日も帰ってこないのかな?ノクスさん...」

「あんだけ死にそうにしてたのにな...もう帰らぬ人になってんじゃないか?」

「バカなこと言わない!」

 

既に夕飯は残っていた余りを使って野菜炒めを四人分作っている。だから、あとは帰ってくるだけなんだが______

 

「...ただいま」

「うわぁ!」

「なっ!」

噂をすれば。転移魔法で帰ってきたんだろう。突然家の中に現れたので飲みかけていたお茶を吹き出しそうになる。

 

「いや、もう帰ってこないのかと思いました...」

「...先にノクスを寝かせてた」

「二階に行ってたなら階段から降りて下さいよ」

「...私も思ったより疲れてるみたい。ご飯食べよう」

「じゃあ、ノクスさんは明日の朝ですか?」

「...朝までに起きたら」

 

(いったいなにをしてたんだ...)

ご飯を食べ出したメイルさんの無表情からは、何も分からなかった。

 

「...それより、アハト」

「はい?」

「...昼のあれは、電撃による強化?」

「...応援来てたんですね。その通りです」

 

俺が答えると、メイルさんは眼鏡をかける。

 

「ちょっと詳しく教えてくれないかな?」

「まぁ、別に良いですけど...」

 

それから、自分に話せることは全て話した。電撃魔法の発動条件が、強化魔力を全開にしなければならないこと。圧倒的な速度を得られる代わりに曲がったりなどがまだできないこと。など。

 

「なかなか厳しいですなぁ...」

「まだ始めたばかりですし、今回は使わないと思います」

 

メイルさんが食うのが速いのか、俺が喋るのが遅いのかは分からないが、メイルさんはもう食事を終わらせていた。

 

「うーん......」

「どうかしたんですか?」

「...自分の限界を越えようとすることも大切だよ?」

「それは...」

「まぁでも今日は終わり。明日に備えて早く寝なさいね?おやすみ~」

「あ、メイルさん...」

 

早々と一階の自分の部屋に向かっていくメイルさん。ガチャリとドアの閉まる音がすると、辺りはまた静かになった。

 

「はぁ...俺らも寝るか」

「何も話さなくていいの?」

「ここまで来たら意地で勝とうぜ」

「...頑張ります」

 

気持ちを軽くしようとしたのに、逆効果だったらしい。まだまだ人を見る目がないなぁと自虐する。

 

「じゃあおやすみなさい」

「あぁ。おやすみ」

 

ユーノとご飯を片付け、残りを冷蔵庫に入れてからそれぞれの部屋に入った。

 

 

 

 

 

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「はぁ...どうなるのかなぁ......」

 

明日はいよいよ試合。相手はノクスさんを虐めた人で、とても強そうな人。

 

「勝てるのかなぁ」

 

固有魔法が声や動きを止めるような力で、剣が強いことくらいしか分からない。

 

(せめて私が普通の魔法も使えれば、戦略も広がるのに...)

 

力の制御はまだまだ不完全で、人に向けて使えるくらいにはできない。傷つけることができるこの大会でも、人の命は奪ってはいけないし、そんなことしたくない。

 

________ハカイ_____

 

「ッ!!」

 

自分の胸に手を当てて落ち着かせる。なんだか、最近よく見る夢の中の______

 

コンコン。

 

「あ、はい」

 

ドアをノックされたので呼び掛けると、入ってきたのはメイルさんだった。

 

「メイルさん?」

「いやーユーノちゃんは寝れないだろうなぁと思ってね。お姉さんがフォローをしに来たんだよ」

「あ、ありがとうございます」

 

メイルさんと二人きりというのは初めてかもしれない。少し緊張する。

 

「大丈夫?」

「大丈夫ではありますけど...」

「今から明日が不安?」

「はい...」

「大丈夫。一人なら不安かもしれないけど、明日はアハトとのペアでしょ?三つも年上なんだもん。任せとけばいいんだよ」

「でも...」

「はぁ...アイオスから聞いてたけど、その様子だと昔からあまり変わってないのかな?まぁ、お姉さんから一つアドバイスだよ」

「?」

「何かに迷ったら自分の意志で、感情で行動しなさい。それなら大抵のことは上手くいくし、失敗しても成長できる」

「自分の意志で...」

「忘れないでね?」

「.....はい!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「いよいよ、か...」

 

翌日。今日は遂に、マルク・レイと、わけのわからないトイレの女と戦う。

 

(ノクスを傷つけた分、きっちり返すぜ)

 

決意を固めてから部屋を出る。一階のダイニングには、メイルさんとユーノが立っていた。

 

「...眠れた?」

「ばっちりと」

 

あらかじめ想定していた質問なのですんなり答える。本当は新しい剣のスケッチをしていたんだが、アイデアが上手く出ずに時間だけ無駄に使ってしまった。ペアで戦う以上、後ろへの攻撃を防ぐ必要性は高いんだが。そのための剣は、作れていない。

 

(ま、エクスシアを使いたくないわけでもないし、いっか)

 

「ご飯もうできるから、ノクスさん起こしてきてくれる?」

「あ、了解」

 

再び二階に戻り、今度はノクスの部屋へ。扉を開けると、完全に爆睡しているノクスがいた。服はいつものへそ出しのやつで露出が高いのにも関わらず、布団を蹴飛ばしている。

 

「このままじゃ風邪引くぞ...」

 

あまりに寝顔が気持ち良さそうなので起こすのは癪だが、俺達の食べる時間がなくなるし、どうしたものか。

 

「ノクス、起きろ。起きろー」

「んんぅ...アハ...ト」

「...何の夢を見てるんだか」

 

なかなか起きないので、くすぐってみる。

 

「早く起きろー」

「ん...んんっ!あはははははは!」

「ごふっ!?」

 

結果は、俺が暴れだしたノクスからボディーブローを貰うだけだった。思わず腹を抱える。

 

(もう絶対こいつはくすぐって起こさない!!)

 

自分の失敗を心に刻んでいる間に、当の本人はしっかり起きた。

 

「あ...アハト、おはよう~ 」

「...おはよう。ノクス。飯だから早く降りてこいよ?」

「はーい。支度するから先食べてて」

「わかった」

 

本人にも怒ろうと考えたが、ノクスの笑顔を見たら怒るに怒れなくなってしまった。仕方なく一階へ向かう。

 

「全く、朝から散々だぜ...」

「アハト君どうしたの?」

「いや、なんでもない。準備するから先食べててだそうだ」

「は~い」

「...頂きます」

 

ノクスに言われたことをそのまま伝えると、皆食事をとりだす。(真っ先にメイルさんが)

 

(にしても、あいつ...一昨日見たボロ雑巾みたいじゃなかったな)

 

さっきの様子を見て、さらに死人みたくなってるわけではなさそうだった。

 

(特訓か...何をしたんだ?)

 

「メイルさん。ノクスさんにどんな特訓したんですか?」

「...秘密」

「なんでですか?」

「...真似されたら困る」

「え?」

「...近いうち、分かる」

 

ユーノも気になってたのか質問したが、メイルさんにはぐらかされてしまった。

 

「ご馳走さまでした」

 

あっという間にメイルさんの皿にはなにもなくなっていた。相変わらず早い人だ。

 

「おまたせ!」

「あ、ノクスさん。おはようございます」

「おはようユーノちゃん」

「...食べて。皆で行くから」

「わかったよ、メイル」

「お前...」

「ノクスさん敬語...」

 

なんかこいつヤバくなった気がする。完膚なきまでにボロボロにされ、敬い方さえ忘れたのだろうか。

 

「...私が認めた。大丈夫」

「そうそう」

 

「いっただっきまーす」と言ってご飯を食べ出すノクスを見て、俺は、なんだか知り合ったばかりではあるけど、それでも、変わったな。と思った。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

場所はもう会場の控え室。メイルさんは、「じゃあ、私はここでおさらばするね?やらなきゃいけないことがあってね」と言ってこの場を去っていた。いるのは、俺とユーノ、ノクスだけ。二人ともかなり緊張していた。特に俺とノクスは、因縁浅からぬ相手だから。

 

「...ねぇ、少し、いいかな?」

「「?」」

「...あいつのこと、喋らせて」

 

ノクスは意を決したように、下げていた頭を上げて喋りだした。

 

「あいつと会ったのはそんなに昔じゃなくてね。二ヶ月位前かな?どこから私が『遺産』を集めるのが好きだと知ったのかは知らないけど、『遺産』が手に入ったのでどうですか?って言われて...始めは乗り気だったけど、取り引きが成功する直前に...『君が僕の物になるのが条件だ』って言われてさ」

 

ポツリポツリと呟かれていく話に比例して、ノクスの声は掠れた物になっていく。

 

「その前から似たようなことは言われたことがあるけどさ...っ。でも、そのあとなにもせずに逃げようとして、攻撃されたのは初めてだった」

「ノクスさん...」

「怖かったんだ。とても怖くて...絶対に捕まるかって逃げた。その時は逃げ切れたけど......そしたらこんな所でまた会うんだもん...でも、今回は前よりも怖くなったんだ... 」

 

ノクスの目元から涙が出てきた。声も上擦っている。部屋の中ですすり声だけが響く。

 

「だって、二人に出会って、暖かさを知っちゃったから。親が放任主義に近かったから、初めてだった。だからっ...三人でいる空間が暖かくて、気持ちよくて...っ!」

「ノクス...」

「だからっ!あいつと会ったとき、なんだか前に戻った気がして...!たまらなく嫌で!だから...だから私っ!」

 

 

 

 

 

「もう、何も言わなくていい」

 

 

 

 

「ッ!!!」

 

気づいた時には、俺はまたノクスを抱きしめていた。三日前と同じ、温かい。

 

「気持ちは分かった。お前が変わりたくて、メイルさんに修行を頼んだんだろ?」

「それは...二人に迷惑かけたくないし」

「それだけじゃないんじゃないか?」

「......」

「お前はもう強いよ。そうやって周りを考えて、自分を変えようとするんだから」

「あ、アハト...」

「だから、今は応援しててくれよな?あいつに、もう二度とお前に近づくなって言ってやるからさ。な、ユーノ?」

「うん!!」

「ユーノちゃん...アハトォ...!!」

「おっとと」

 

感極まったのか、ノクスが顔を埋めてきた。涙で服の一部が色濃くなる。全くしょうがないやつだ。

 

 

 

 

 

それから何分たったのかは分からない。ただ、その間ずっと頭を撫でて、ユーノは背中をさすってやっていた。

 

「もう大丈夫...ありがとう」

「「どういたしまして」」

「...ふふっ」

「ははっ」

「あははっ」

 

いつの間にか、響いているのは笑い声だけになった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「はー笑った笑った」

「そうだな。楽しかった」

「後でまた楽しみましょう?」

「祝杯だな」

「メイルさんに頼んで準備しないとね」

「そうだな...でも、よかった」

「なにが?」

「...なんか、今日の朝からノクスが変わったなーって思ってさ。短い付き合いだけど、なんか変に感じて...でも、笑って泣いて、いつものノクスだと思って安心した」

「ッ!///どうしてそういうことを真顔で言うの!」

「だって、泣いてるのとかはよく見てるし」

「なにをー!?」

「落ち着いて下さい!ノクスさん!」

「乙女心を返せ!」

「俺も乙女だから自分の分でいっぱいだ。お前のは奪ってないから安心しろ」

「あーもう!」

「...なんかいいですね。こういうの」

「人との付き合いは、時間だけじゃ決まらないからな。俺も心地いいよ。二人といれて」

「...ユーノさん。どう思います?」

「...///」

「なんだよお前ら?」

「「なんでもない!(です!)」」

「ま、いいや...てか、そろそろ時間だな」

「うん」

「じゃ、行くか?」

「そうだね」

「...頑張ってね?応援してるから」

「あぁ、任せろ!」

「...あと、アハト!」

「なんだよ改まって?」

「...これ、受け取って」

 

そう言われて渡されたのは、なんの装飾もされていない金色の指輪。

 

「これは?」

「普段のお礼。お金が足りなくて、ユーノちゃんは今度で我慢してね?」

「は、はい」

「なら、これをユーノに渡せば」

「こ、これはアハト用に買ったんだから、おとなしく受け取りなさい!」

「...分かったよ」

 

貰った指輪を左手の人差し指に付ける。剣を使う上で、左手より右手が自由の方がいいから。ピッタリはまった指輪は、俺の指で金色に光る。

 

「大事にしてね?」

「あぁ。それじゃあ...行ってくる!」

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい!!」

 

手を振るノクスに見送られながら、俺達は試合場へ。

 

やることは、一つ。

 

「勝つぞ。ユーノ」

「うん」

 

 

 

 

 

「「じゃあ、行こう」」

 




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