アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
「はいこれ」
眼鏡をかけたメイルさんから放り出された二つを慌てて掴む。
「割れ物だから注意してね?」
「投げてからいいますか!?」
「キャッチ出来たし問題なし!私が作ったエリクサールに限りなく近いやつだよ。魔力も回復するしこれでもう一回戦えるね!」
「...は?」
「あ、優勝商品の本物は後で貰えるから安心してね?」
さらりと述べたことがとんでもないことを、この人は自覚しているのだろうか。
(いや、自覚した上で言ったんだな...)
『遺産』の中でメジャーでありながら値段が下がることがほとんどない品物。それが回復薬だ。種類も値段も色んなものがあり、それでいて冒険者には必須アイテムだからよく売れる。こっち(新魔領)では余計な混乱を避けるため、これだけは国全体で値段の規定が設けられているほど。
その中でも最高ランクの一品、通称エリクサールは、怪我、体力はもちろん魔力まで瞬時に回復するという化け物じみた回復薬だ。勿論値段も最高レベルで、一般的なものが冒険者御用達なのに対し、こっちは大貴族、王族ですら二桁は持ってないくらい。
そんなものが優勝商品だというのには、驚きこそすれ別に嬉しくはなかった。本来そんな物が必要な人は即死する可能性の方が高いから。
さらに回復薬は低ランクな物でもなかなか作れる人がいない。調合が難しいからだ。
そしてメイルさんは、近いものとはいえ最高ランクのエリクサールを自分の手で作ったと言った。それが意味するのは。
(それで商売でも始めれば、三代目くらいまでは贅沢できるだろうに...)
そっちの仕事をしないのが不思議なくらいだ。
「こういうのは趣味で作るから楽しいの。ともかく早く飲んで試合しよう?皆も待ちきれないよ?」
心を読んだようにつけたすメイルさんを見て、覚悟を決めた。
「...ユーノ」
「あ、うん」
黙って回復薬を飲み込む。疲れた体に染み渡っておいし____
「「からっ!!」」
「だよねー...私も大変だったよ」
「味は今後の改良点だね」
始めは甘味があったものの、急激に辛さが襲ってくる。ユーノと揃って悲鳴をあげたのをノクスが同情し、メイルさんは頷くだけだった。
「というかノクスは?」
「ん?私とメイルでペアだよ」
「マジかよ...」
大会スタッフってそんなことまで出来んのか。
「...アハト」
「カムイな」
「そこはどっちでもいいでしょ!...さっきはありがと!こういうこというのはなんか変だけど、気持ちが晴れたよ!」
「あ...あぁ、レイのことか。気にするなよ」
「さて、会話も終わった?覚悟はいい?」
顔の赤いノクスの隣で、自分の背丈より大きな斧を振り回すメイルさん。
「メイルさん。これは...」
「あ、送るって件ならこれで戦ってみて決めるから頑張ってね」
「!!...ユーノ、大丈夫か?」
一気に、負けられない戦いになってしまった。
「...うん」
「じゃあ、行けます」
俺も魔力がほぼ完璧に回復していた。すり減った精神までは治らないが、やるしかない。
「じゃあ、始めようか!」
「それではこれより優勝チーム、ユーノ、カムイペアと、おそらくこの町最強!メイル・シャル選手と、今大会出場者、ノクス選手ペアのアフターマッチを行います!」
メイルさんが手を上げると、審判が進行を始める。そして_____
「それでは、試合、開始!」
試合が、始まった。
----------------
「じゃ、動かないでね」
「分かってます」
「さぁー、ノクスはまだ動かないから二人がかりでかかってきな!」
「じゃあ、行かせてもらいます!」
『fog・beast!』
メイルさんが片手をこちらに向けて挑発してくるのを見て、私とアハト君は向かっていく。両手で構えても不安定に感じる大きな斧なら、懐に入ってしまえれば。
「行け!」
『fog・beast』で作った狼を三方から突撃させる。メイルさんはゆっくり斧を持ち上げるものの、その速度では絶対間に合わない。
(もらった!)
「はぁ...甘いよ」
「「!!!」」
狼達の体当たりが当たる直前、メイルさんが信じられない速度で斧を振り回す。その力に耐えられず、三匹ほぼ同時に魔力の塊へと霧散した。
その後、暴風が吹き荒れる。メイルさんの白衣のような上着がはためき、土煙が舞い上がる。
「嘘...でしょ?」
「強さ的には、アイオスさんとほぼ同じか...それ以上か」
「あ、あいつと戦ったの?いいなー。久々に殴り込みに行こうかな...でもなー......よし!」
「!」
メイルさんの魔力がさらに増幅される。強化魔法を纏うだけでここまでのプレッシャーが______
「この勝負に勝ったら行こう!というわけで、勝たせてね?」
「ッ!!」
メイルさんがにこやかな笑顔を覗かせた瞬間、アハト君の目の前まで移動して斧を降り下ろす。アハト君も驚きはしたもののエクスシアで応戦し、ガキンッ!と甲高い音をたてて鍔迫り合いが起きる。
「へぇー...耐えるのかぁ」
「生憎、まだ負けるわけにはいかないんです」
「...この斧(ハルバート)は、私が認める友達に作ってもらった一級品でね。『遺産』をベースにして作ってもらってるんだ」
「『遺産』を...?」
「透明結晶(クリスタ)。名前くらい聞いたことあるでしょ?魔力を通すことにより強度が上がる物質。このバルバトスには、それが使われている。だから!」
「なっ!」
「こんなことだって出来ちゃう!」
メイルさんが叫んだ直後、持っていた斧、バルバトスの刃先が輝きだし、アハト君のエクスシアに亀裂が走し、砕け散る。
「くそっ!」
「甘いよ!!」
アハト君が一旦離れ、新しい剣を即座に作るものの、メイルさんが降り下ろした斧をそのまま持ち上げ、二人の武器がぶつかった瞬間___________エクスシアが割れた。
「嘘だろ...」
「カムイ君!」
「このタイミングで割り込めるのは凄いね...」
「「はぁっ!」」
アハト君のカバーに入り、そのまま短剣を突き立てる。アハト君も新たな剣を振って、二方向からの剣がメイルさんを襲う。
「まぁ、でもね」
そこからメイルさんは、棒高跳びの要領で斧を使いこなし、私たちの攻撃をかわした。
「そんな!」
「身軽過ぎる...」
「詰めが甘いよ」
そして、上空へ上がった状態で両手を、そこに握られた大きな斧を高く振り上げ、
「ね、バルバトス」
着地と同時に、それを降り下ろした。
----------------
メイルさんが降り下ろした一撃は、辺りの土を根こそぎ抉って上空へと舞い上がらせた。地面は先程の見る影はなく穴が開き、観客からは悲鳴があがる。俺も衝撃で吹き飛ばされ軽く埋もれてしまった。
「ん...くっ」
上に覆い被さっていた土を払い、立ち上がる。
「あちゃー...久々だったから少しやり過ぎたかなぁ。やっぱり触ってないと細かい感覚なんて忘れるもんだねぇ」
言った張本人はなにかがおかしいのかクスクスと笑っており、しかししっかりと斧を片手で構える。
「強い...」
俺と同じく埋もれていたユーノも出てくるが、全身土まみれで見るに耐えられなかった。俺も周りから見れば同じなんだろうが。
「じゃあ、私はカムイ君の相手をしようかな。ノクス、地獄の特訓の成果を見せちゃいな!」
「ユーノちゃんが相手かぁ...頑張らないと」
「ここでノクスもかよ...」
俺とユーノ、二人がかりで圧倒されていたメイルさんだけでなく、ノクスまで入ってくるとなると。
あいつがどんな練習をしてきたかは分からないが、さらに不利になることは間違いない。
そう結論を出し、ちらりとユーノを見ると、「私は大丈夫」と言わんばかりに頷いてくる。
(じゃあ...任せた)
正直、不安しかないが。
「なら...どうぞ!ノクスさん!」
「じゃあ、行くよ!」
勝てる見込みなんでない。でも、勝つ可能性を少しでも上げるにはひとまずユーノがノクスを倒すまで時間を稼がなければならない。
「良い練習相手になってね!」
「お断りします!」
普段絶対に言わないような言葉を出してから突っ込んでくるノクスに、ユーノは短剣を構えて走り出す。
「じゃあこっちもやろうかな」
「...お手柔らかにお願いします」
「んーん、無理!」
恐ろしい速度で向かってくるメイルさんに対抗するため、俺は集中力を限界まで引き上げた。
----------------
「それっ!」
「くっ!...どんな動きしてるんですか!」
私はノクスさんに押されていた。前にいると思ったら突然消え、見えないところから剣が振られてくる。強化魔法で強くなった力を回避に使わなければ、今頃身体中切り傷だらけだろう。
たまに顔や体が見えるものの、突然消えるのは凄くゾッとする。
「本当に効くのかどうか不安だったけど...二日で覚えた割にはいけてるかもね。こうやって努力が報われるのは嬉しいよ」
「いったい何を...していたんですか!?」
「...終わったら教えてあげるね!」
ノクスさんの攻撃をいなし続ける。後ろに回り込むのは出来ないのか前からの攻撃だけなので、まだ耐えられる。
_____コロソウカ____
「!!!」
ナニカ不気味な感覚から逃げるように、ノクスさんから距離をとる。
「そんなんで大丈夫なの?今のアハ...カムイだけじゃ絶対あいつを倒せないよ?」
「...わ、わかってます!」
自分が自分でなくなる感覚、正体はわからないけれど、これ以上このナニカに行動させてはいけない。
(そのためにも!)
「私が私の力で倒します!」
「望むところ!」
そして、お互い再び距離を詰め、短剣を振った。
----------------
「まだまだいけるよね?」
「はぁ...はぁ...」
47本。それが今まで砕かれた相棒(エクスシア)の数だ。
どんなに質の良い剣を作っても、メイルさんのバルバトスとは五発も持たない。
魔力も無尽蔵ではないので疲弊してきてるし、早いとこ決着をつけたいが、勝てる見込みが一切ないのは気のせいだろうか。
(これ、新魔と旧魔で戦ったら勝てる気がしないぜ...)
無駄のように見える動きはわざとか次の技への繋ぎか。一見ゆったりに見える動きは全てを繋げることで洗練された舞の様になる。その顔から余裕が消えることはない。
「...そんなにやる気ないなら、止めてよね」
「...はぁ!?」
武器のぶつかり合いが一度途切れる。でも、本気出してないわけがない。現にこっちは必死すぎるほどに必死だ。
「もっと本気を出しなさいよ!さっきの試合みたいにね!もし出さないなら...」
こちらに怒鳴った次の瞬間。
「無理やり出さなきゃいけない状況作っちゃうんだから」
「ッ!!!」
瞬間移動____したかのように見える動きを目で追うことが出来ずに、エクスシアもろとも吹っ飛ばされる。
「おしまいっ!」
「やら...れるかっ!!」
追撃を仕掛けてくるメイルさんを、作り直したエクスシアで迎え撃つ。
「そうそうそれだよっ!君だって知ってるでしょ?魔力を持つものが限界を越えると目の色が変わるってやつ」
「それが...なんですかっ!」
「極限状態で目の色を確認する人なんていないから自分は見れないけどさ。君、さっきもだけど...黒から金になるんだよ。光輝いてて格好いいよ?」
「お世辞は結構です!」
「じゃあ...君の本気、見せて!!」
つばぜり合いから離れたメイルさんは、両手持ちの斧とは思えない速度で、それも連撃を放ってくる。俺はそれをエクスシアを一つ一つ作り直して切り払う。さっきまでの防戦ではなく、一進一退の攻防。
「はぁぁぁあ!!!」
「そーれっ!」
それから何撃したか、されたかは分からない。でも先に崩れたのは________
----------------
「はぁ!」
「てぇい!」
『fog・beast』は全て消した。追加を出す気配もない。追加で出せる魔力がないのか、詠唱する余裕がないのか。私には判別できなかった。
お互い倒されながらも剣をぶつける。ユーノちゃんを相手に出来る、この近距離戦闘。
(凄いね。こんなに...)
二日三日で上達したとは思えないくらい手応えもある。だからこそ、
「今日これで分かったよ!私はきっと、まだまだ可能性がある!魔法が使えなくても強くなれる!」
今までは、塞ぎこもっていたのかもしれない。でもこれからは違う。
「だって、一緒にいたいから!二人と肩を並べたいから!!」
「私は...これからもダメかもしれない。魔力の制御も出来ないし、皆に迷惑かけるかもしれない。ノクスさんだってこんなに強くなって...でも!私だって!強くなるって決めたんです!」
私達は同時に足を踏み出し、
「「だから!」」
「勝つ!」「勝ちます!」
剣を相手の首もとに向けて___
----------------
「両名の脱落を確認。この勝負勝ったのは、メイル、ノクスペアです!!」