アスモディ・ストーリー (Asmody Story)   作:メレク

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短編Ⅲ

「......」

「......」

 

喫茶店『ホットカフェ』にて、一組の男女が向い合わせで座っていた。二人は微動だにせずに、静かにしている。

 

「お待たせ致しました。ご注文のホットココアとハーブティーです」

「「あ、ありがとうございます」」

 

そんな静寂な空気は店員が持ってきた飲み物によって崩される。ごく自然に置いているのにも関わらずカップをテーブルにつける音がしないあたり、食器の扱いが相当上手いのだろう。「失礼しました」と言って離れる店員をボーッと見た後、前に視線を戻すと男がハーブティーを持ち上げていた。

 

「え、えーと...とりあえず、これからよろしく」

「う、うん。こちらこそ」

 

女の方もカップを持ち上げ、そもまま口に運ぶ。これが二人の______ランス・セブンとガーナ・シンディの出会いだった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

そもそもの始まりは今日の朝。出場ていた大会から連絡来たことから始まった。内容は、今日は大会を休みとし、明日までに今残っている八人でペアを作っておくことだった。

 

休みを取ったのは、おそらく昨日行われた残虐な試合のせいだろう。

 

大会に出るため一人でこの町に来たランスは、ひとまずペアを作るをために大会受付に行ったが。

 

「残念ながら、もう三組決定しています」

「マジかよ...あ、ありがとうございました」

 

着いたときには、既に八人中六人が決定していた。つまり、残り物であるランスは、もう一人の余りと組むしかない。微妙な顔を浮かべる運営委員から背を向け、近くにあったソファーに座る。

 

「せめて選べればな...」

 

戦略上、自分の戦い方にとって有利なをペアにしたかっだがもう決定したものは変えられないらしい。

 

「「はぁ...どうしよう......?あ」」

 

隣で全く同じようにため息をつく相手は、強気そうな女だった。

 

「もしかして、あなたもあまり?」

「あ、あぁ...」

「そっか...」

 

ランスは余っていたのがてっきり男かと思っていたが、童顔で、かわいげな女だったため少し動揺してしまった。

 

「俺の名前は...ランス・セブンだ」

「私はガーナ・シンディ。よろしくね」

「よろしく。シンディ」

「...これから、どうする?」

「そうだなぁ...まずは、エントリーするか」

「あ、そうね」

 

聞き取りやすい声で話してくる彼女を背に、もう一度受付へ戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

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あのあと、「お互いの魔法とか知ってた方がいいんじゃない?」とシンディに言われ、彼女が好きだと言う『ホットカフェ』に来ていた。

 

「それで、次から二人で戦うわけだけど...お互い得意魔法とか、旧魔だし固有魔法とか話した方がいいかな?」

 

乾杯をしてからしばらくして、唐突にガーナが話だした。

 

「そ、そうだな。じゃあ俺から...固有魔法は地面を操れるもので、得意魔法もそれだ」

 

少し動揺しながら答えたランスにガーナは気づくことなく手を顎に当てて考える仕草をしていた。

 

「地面魔法ってマイナーだよね...そんなに難しい魔法じゃないけど使う人はそういないし、ましてや固有魔法でなんて......」

「マイナーで悪かったな。これでも便利なんだぞ?好きなところで土を盛り上げさせて椅子にしたり、遠くの物を坂作って転がしたり」

「私達戦い方を相談してるんだよね?」

 

実際、友人にも『珍しいよな』とよく言われていたランスはメリットを話すも、相手には理解されなかったようだ。

 

「戦闘だと...土をトゲみたいに出せる。以外と便利だぞ?相手は空に逃げるしかないし」

「固有魔法だとそこまでできるんだ...」

 

固有魔法でも、普通に使える魔法の強化版のようなものもある。その場合、他の人よりバリエーションが増えたり、熟練速度が速かったりする。

 

(固有、というより得意な魔法。って感じだが...)

 

「だいたい分かったかな?そしたら次は私だね。私の固有魔法は...水なんだ」

「水?氷じゃないのか?」

「氷は使えません!」

「お前もマイナーじゃないか」

「純水おいしいんだよ!?」

「戦闘で水飲んでる場合かよ!」

 

基本的に水魔法を使う人は、氷魔法を炎で溶かして使うか、水を凍らせて氷魔法として使えるのだが、彼女はそうではないらしい。メリットとしては、水を作る工程を一つ飛ばせるということくらいだろうか。

 

「得意魔法は?」

「それが一番得意だよ」

「...ま、旧魔のほとんどが自分の固有魔法を得意だって言うしそんなもんかな。にしても...俺達相性悪すぎだろ」

「......その通りだよ!なんで土と水なの!!風と炎とかなら協力したりできるのに!私が水の時点でダメだけど!」

「お、落ち着け落ち着け。ここ他の客もいるから」

 

キレだすガーナを必死で宥めた結果、なんとか静まった。周りの目が少し厳しくなったのは気のせいだと思いたい。

 

「はぁ...どうしようか」

「もう変えられないし、相手の分析をしようぜ。例えば...」

「お待たせ致しました。ご注文のチーズケーキと梨のタルトです」

「「あ、はい...!!?」」

 

頼んでいたデザートを運んできた相手をみて驚く二人。そこには、店員の服に身を包んだ大会の出場者がいた。声を聞く限りさっきの飲み物もこの人物が運んで来たんだろうが、緊張していて全く気づかなかった。

 

「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ...ありがとうございます」

「いえ。では失礼致します。ご用がございましたら声をお掛けください」

 

かしこまった礼をしてスタスタとテーブルを離れていくのを見て、二人は互いの顔を見た。

 

「...今のって、カムイって奴だよな?」

「そうだね...こんなところで働いてるんだ」

「まぁ、イケメンだしな...なにやってもモテるんだろう」

「そう人のこと言う立場でもない気がするけど?」

「そいつはどうも」

そう言ってクスクス笑う二人。余談だが、この時カムイ____アハトは厨房でくしゃみをしていた。

 

「じゃあ、まずあいつの話をするか。なんかあったっけ?」

「...一回戦の時は、何故か凄い勢いで自分から壁にぶつかったけどなんとか勝って、二回戦は剣を一回振っただけ...」

「謎だらけだな。強化魔法くらいしかわからないぞ...」

「ペアってなってた子はかわいい子だよね?」

「あの薄紫髪の?」

「うん。確かユーノちゃんだったかな?魔法は動物っぽい魔力を出すやつ...」

「...土で貫けんのかな?」

「そのくらい弱いことを祈るよ。他は____________」

 

二人は、さらに会話を進めていった。

 

 

 

 

 

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「じゃあ、また明日」

「またね!」

 

結局、夕方になってまで出した結論は、明日になって相手が分からないと対策のしようがないとしてお開きとなった。ガーナと別れたランスはここ数日予約している宿の寝室で寝る準備をする。

 

「にしてもなぁ...」

 

ランスはシャワーを浴びながら今日初めて会話した彼女のことを思い出していた。

 

(ガーナ・シンディか)

 

あのあとは特に緊張することなく話せたので、普通に楽しむことができた。

 

(俺の周りはあんな感じのいなかったし。可愛かったもんな...って!)

 

「ちょっと話しただけでこれはないわ」

 

これじゃまるで変態じゃないか。ランスはそんな邪念を振り払うように頭をゴシゴシと洗った。

 

 

 

 

 

 

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「よう、昨日ぶり」

「おはよう」

 

次の日、会場で合流した二人は対戦相手を確認した。相手は、

 

「昨日のか...」

「カムイ、ユーノかぁ...」

 

控え室に向かいながら、憂鬱そうに呟く。

 

「「はぁ...」」

 

同時につかれたため息は儚くも消えていく。

 

「こうしていても無駄か。どうするか考えようぜ」

「そういえば、なんでこの大会に出たの?」

「思いっきり話変えるのかよ...ま、いいか」

「それでそれで?」

「俺の固有魔法の話はしたろ?それを昔馴染みからよく使えない魔法呼ばわりされててな。見返してやりたいと思っただけさ。この大会も見に来てるしな」

「へー...」

「そういうお前は?」

 

お前と呼ぶことに、抵抗は全くなかった。

 

「私は優勝賞品の最強回復薬、エリクサールが欲しいんだよね」

「あ、体調どころか魔力も一瞬で復活させるっていうあれか?」

「そう。弟がさ......少し不味くて」

「そう、なのか...」

 

急激に深刻な話になって不安になる。そっとガーナの顔を覗くも、表情は見れなかったが。

 

(弟を案じているんだろうな...)

 

この、気持ちは。

 

「じゃあ、俺はお前のために頑張ろう」

「え?」

「俺は、お前のために大会を優勝する。その方が頑張れるから。だから一緒に頑張ろう」

「...ありがとう」

「くっ...//」

 

我ながら気取った台詞と、なかなか見ない女の笑顔に思わず照れてしまう。

 

「ほら、時間だ!行くぞ!」

「あ、ちょっと!」

 

赤くなった顔を誤魔化すため、ランスはガーナの手を引いて走り出した。

 

 

 

 

 

「......ありがとう」

 

 

 

 

 

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「んうぅ...ここは...?」

 

午後。医務室。ランスはベットで寝かされていた。

 

「痛っつ...あ、そうか.....」

 

あのあとの準決勝で、黒髪の男、カムイと呼ばれている方が普通ではあり得ない速度で突進をしてきた。出来たことといえば、強化魔法でダメージを軽減したくらい。そこからの記憶がないということは、気絶したんだろう。

 

「あんだけ言っておいて...恥ずかしいじゃねぇか」

 

頭に巻かれた包帯を無造作に取りながら舌打ちする。血はにじんでいない。分かっていたからこそ包帯を取ったんだが。

 

(過保護な医者さんだ...)

 

「ん...ぁぁ」

「!大丈夫か!?」

 

小さな声がした隣を覗くと、そこにはランス以上に包帯が巻かれたガーナがいた。

 

「ここ...は?」

「医務室だ。すまない...負けてしまって」

「あぁ...そっか。負けたんだ」

 

悲しげな顔をするガーナ。少し震えて腕を抱える彼女がなんだかよくない気がして。

 

俺は自分のベッドから降り、彼女の手を握った。

 

「なにを...」

「俺はお前のために勝つと言っておきながら、なにもできなかった...それは謝るしかない。でも、優勝した連中に土下座でもなんでもするから...」

 

弟のために、泣かないで_____

 

 

 

 

 

「おねーちゃーん!!」

「あ、ティス!」

「くれ...って、え?」

 

医務室を訪れた子供が、ガーナに飛びつく。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「うん。ティスが来たから体調治っちゃった!」

「よかったー!」

「あー...悪い、シンディ」

「ん?なに?」

「その子は?」

「初めまして!ティス・シンディです!よろしくお願いします!」

 

ハキハキと喋るティス君。姉弟そろって元気そうだ。

 

「いや、そうじゃなくて」

「じゃあなに?」

「お前の弟って、重病なんじゃ...」

「そんなこと言ってないけど?」

「うん、そうだけど...不味いってさっき」

「不味いよそりゃ。熱出てたんだもん。もう治ったみたいだけど」

「エリクサールがいるくらいなんじゃ!?」

「弟が熱を出してたのよ!最高の薬を用意するのが姉ってものでしょう!」

「...悪かった。ブラコン」

「ブラコンじゃないし!過保護なだけだし!」

 

過保護って自覚はあるのな。という声は出さなかった。

 

「でも、ランスも恥ずかしいことばっかり言ってさ...」

「忘れろ!!」

「やーだねぇ!」

「ランスさん、ランスさん」

「なんだ弟。今からお前の姉ちゃんボコるから少し待っててくれ」

 

煽られたことに対する怒りが込み上げて来たところで、ティスはランスの耳元で、

 

「お姉ちゃんが男の人の下の名前を呼ぶなんてなかなかないんですよ?」

「それがどうし...」

 

 

 

 

 

『でも、ランスも恥ずかしいことばっかり言ってさ...』

 

さっき言っていたことを思い出して思わず顔が赤くなる。

 

「だから、これからも仲良くしてあげて下さい。ああ見えてうぶなんで」

「.....お前の方がヤバイことは胸に刻んでおこう」

「二人でなに話してるのさー!」

「うるせぇブラコン!」

「なにをー!」

 

医務室は、それから暫く賑やかだった。

 

 




お久しぶりです。まずは、ここまで遅れて申し訳ありません。

やっとちゃんとした状態で書けるようになったので、更新を再開します!

...学生特有のアレのせいで、またしばらく空きますけど...これからもよろしくお願いいたします。
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