アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
少しでもお楽しみください。
「じゃあ張りきって行こう!」
「はい!」
テンション高めなノクスとミディナが駆けていき、その後を俺が、さらに後ろからユーノがついてくる。
俺達が『遺産』を探し出して早くも二日目。今日を入れてあと二日で交通規制が解除されるようで、それまで目一杯『遺産』を探すことになった。あまり人目につかないところまで移動し、短剣が光出したところで周辺を探す。これを繰り返すだけでかなりの物が手に入った。
「魔法花火詰め合わせに、ちっちゃくなる枕、魔力が(気持ちだけ)上がるセンスの欠片もない仮面に、魔法機解説書(マニュアル)...なにこの実用性皆無の品々?」
「実用性皆無じゃないもん!!」
使えるのかよく分からない物ばかりだったが。
俺の呟きにノクスが反論してくる。そういえばこいつ、収縮する抱き枕持ってるんだったと思い返す。彼女の気持ちを表すように暗い洞窟でも割と目立つ赤髪が重力に逆らっているように見えた。
「でも、今回手に入ったのはほとんど私のお店か、オークション行きですね...」
「こんなものでも取り扱うのか」
「『遺産』は名前だけで価値がありますから」
既に昼時は過ぎ、粗悪品が多いが物は手に入った。ミディナは大きめの袋を持ってきていたが、数だけはあるため俺のポーチにもいくつか入っている。
「魔法機の解説書ってやつは貰うね。見てみたいから」
「分かりました。でも分からないと思いますよ?なんかよくわからない字で書かれてますし...」
「それは代(だい)暗号だと思うぞ。かなり昔の文字。確か本で読んだことがある」
「じゃあ、その辞書が手に入るまでお預けですね」
「ま、まぁその内見つかるでしょ!」
一休憩するために洞窟の入り口近くまで戻ってきた俺達の会話は、止まることがなかった。
「にしても、何でユーノの短剣が『遺産』に反応して光るんだ?おまけに光らないのもあるし」
結局ユーノが(正確に言えばノクスだが)エルフの村で貰った短剣がなぜ光るのかというのは、今もわからないままだった。近くにいたユーノはぶんぶんと首を横に振る。
「私に聞かれてもわからないよ...ノクスさんとミディナちゃんは? 」
まだ人はいないものの、周りの目を気にして帽子を深くかぶるユーノが『遺産』に関して詳しい二人に聞き返すと、二人は考えるような仕草をとった。
(...ノクス似合わないな)
「光るというのは多分その剣の性質なんでしょう。元々なんなのか分からない『遺産』なんですし、こういうことがあってもおかしくはないと思います」
「多分、他の『遺産』に反応して光るよう作られた物なんだろうね 」
「じゃあ、光のと光らないのがあるのは?」
「それは多分、作り手の違いじゃないかと」
「「作り手?」」
ノクスの意見に俺とユーノが揃って声を上げる。
「『遺産』にはそれぞれ何かしらの印が彫ってあって、それが作り手それぞれの違い、言ってみれば見分け方になっているのではないか、という話です」
「昨日確認したけど、私がメイルから貰ったやつは十字、昨日手に入れた二本は半円が彫られてたよ。ほら」
ノクスが腰に着けていた剣と、背中にクロスさせて背負っている新しい剣の一つを取りだし、こちらに見せてくる。確かにその剣の唾の近くには、十字と半円の印がうっすらとあった。
「ホントだ。てことはユーノの短剣も...」
「あ、あったよ。半円」
「てことは、同じ作り手、印にしか反応しないってことか。物同士をくっつければ光も消えるし」
「そゆことよ。あんたは知ってると思ってたけど?」
「俺だって知らないことくらいあるさ」
上げられていた期待を無下にして、自身のフードをかぶり直した。洞窟の中をうっすらと流れていた風を横からは完全に感じなくなる。そんなときだった。
「キャーー!!!」
「「「「!?」」」」
遠くの方からつんざくような悲鳴が耳を打ったのは。
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「今のは!?」
「!!」
「!アハト君!」
悲鳴がした直後、アハト君は洞窟の奥へ引き返していった。それを大慌てで追いかける私たち。それでも距離はぐんぐん離されていった。光って見えるのは使っているのが強化魔法ではなく、電撃魔法である証。
「あいつ魔法使ってるよ!」
「非常事態なのは分かりますけど、一人では危ないですよ!」
「洞窟の中で声が反響してるんだから、正確な方向も分からないくせに!」
ノクスさんとミディナちゃんが叫んでも、アハト君は止まろうとしない。一切振り向かないので、声が聞こえて無いようにも見えた。
(いつものアハト君なら、何か一言くらいは言ってきてくれるはず...)
それだけ焦っているのか、それとも別に一人で対処できると考えたのか、私には分からなかった。
「______」
「ッ!!二人とも!」
シャラン、と響く鈴の音。それと、私の前を走る二人の上から何かが降ってくるのは同時だった。
「「!」」
急停止する二人の目の前に昨日見た魔物『セルダー』が降ってくる。その手には壁に穴を開ける風魔法。既に詠唱してあるのか、二匹の右手には風の塊が鎮座している。ほぼゼロ距離の、避けるのが不可能な攻撃。
「やめっ」
て。と言い切ることすらできない刹那に、
「邪魔!!」
「はぁっ!」
前者は炎を纏った剣を出し、その風ごと切り伏せ、後者は同じ魔法で相殺、動揺している間に剣で首を跳ねた。ほんのわずかな出来事。
「行こう!」
「はい。ユーノちゃんも」
「...うん!」
たった今命のやり取りがあった様には見えない二人に促され、私は再び走り出した。
______その足どりが、あまり良くないのを自覚したまま。
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先に行ったアハト君にやっと追いつく。だがそれは速さを上回った結果ではなかった。あんなに走っていたのに、アハト君が止まったから。
「なんだよ...これ」
「なにが?」
「何かあるんですか?」
「お前ら!?見ちゃダメだ!」
後ろにいた私たちに驚きながら止めようとするも遅く。私たちは自分達からは死角になっていた道の先を覗いた。アハト君は手で止めようとしていたが、本当に遅かった。
道の先には、薄暗い洞窟でも分かるほどの赤い水溜まりが出来ていた。
「...え?」
「......」
「...うぅ」
ノクスさんがとぼけた様な声を上げ、私は何も言えず、ミディナちゃんはくぐもった声を出す。
______水溜まりには、人が倒れていた。うつ伏せでどうなっているのかは分からないけれど、これは、そう。
まごうことなき、死体だった。
「キャーー!!!」
「うぇっ」
知覚してから、鉄が鼻先に押し付けられているような錯覚に陥る。赤い水溜まりから発せられる異臭。それを発する原因となった人物の顔が見えないのは、幸運なのか不運なのか。
「し、死んでっ」
「だから見るなって言ったんだ、この中でこんなことの耐性あるやつなんて......ユーノ?」
アハト君の言葉も届かず、私はその赤に、朱に見入っていた。人の体が作り出す色。その生命が終わりを迎える代償に見える量の色。
「あぁ...」
___キレい_________
「あぁぁ......」
恐怖と、高揚が、入り交じる。背筋が凍る。自分は何を思っているんだろう。こんな、これを恐怖以外で見るなんて______
「ユーノ!!」
「っ!」
アハト君の声でようやく元に戻る。恐怖で足がすくみ、腰が抜けて地面に倒れてしまった。それでも足と手の震えは止まらない。ガクガクと、ガクガクと。
「魔物を倒してても、人が倒れてるのを見て正気でいられるわけねぇもんな...」
「...先輩、私」
「言わなくていい。取り敢えず戻って報告しよう。休むならそこでだ」
「はい...」
顔面蒼白。今のミディナちゃんにはその言葉が一番似合うだろう。
「ノクスも」
「え、うん...」
「なんなら、おぶっていこうか?」
「...いや、大丈夫。それよりミディナちゃんかユーノちゃんを」
「...辛かったら無理せず言えよ」
「......分かってるよ」
ノクスさんもノクスさんで、顔色が悪いのが分かる。今にも倒れてしまいそうだった。
「ユーノ、立てるか?」
「...ぅん」
アハト君の手に捕まり、おぼつかない足で立ち上がる。
私は今どんな顔をしているのか、無性に気になった。
「皆無理するなよ。ひとまず入り口まで戻って状況を伝えに...」
「大丈夫ですか!?」
「何があった!?!?」
アハト君が先導して来た道を戻ろうとした時に現れたのは、いかつい顔をして斧を持っていた男の人たちだった。