アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
「大丈夫ですか!?」
「何があった!?!?」
死体が倒れている俺達の元に来たのは、以前見たことがある冒険者達。そいつらが赤い池を見て戦慄する。
「これは」
「俺達が来た時には、こうなっていたんです。仲間が辛そうにしてるから、ここを任せたいんですが」
「あ、あぁ...」
少なからず動揺があったのか、ユーノやミディナの顔を見てその意思を組んでくれたのか。あっさりと許可を出して貰う。
「ありがとうございます。お前ら、行くぞ」
「うん...」
「はい...」
「うぅ......」
俺は気だるげに崩れている三人を連れて洞窟の入り口へと歩いていった。勿論周りに魔物がいないか警戒しながら。
どこかからシャランと、聞き慣れない鈴の音が聞こえた気がした。
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「どうしたんですか!?さっき悲鳴が聞こえて...」
「...死体が見つかりました。今は後から来た二人に任せました。こっちは体調を崩したので...」
「そうでしたか...辛いところもあるでしょう。休んでいてください」
「助かります」
外に出ると、 古跡(ファーデン)探検者の指示をしているミコン・スラッツがこちらに話しかけてきたので、適度に話す。こちらに無駄な注目が来ないように。今ユーノ達を不安がらせる視線を向けさせたくない。
周りを見渡すとかなりの人数がグループに別れて話していた。恐らく、探索中に危険だと感じた者が出てきた結果、そのほとんどが出てきたのだろう。
「......お前らはしばらく座ってろ。目立つなよ?特にユーノ」
「こんなんじゃ、目立ちたくても出来ないっての...」
皆を馬車が集まる所の端に座らせてからかけた俺の言葉に、ノクスが口で返すのを聞いて幾分か安心した。
だが、魔物と戦っているから大丈夫だと思っていたが、人間の死体は衝撃が大きかったらしい。魔物も、ユーノと旅をし始めてからは襲ってくるやつしか相手にしてこなかったし。
「先輩は...」
「第一発見者だしな。状況の説明がいるだろうし、してくる」
「...体調は」
「大丈夫だ。任せろ」
心配してくるミディナには、はっきりと自分のことを伝えた。
「...アハト君」
「カムイな。じゃあ、行ってくる」
ユーノとはもはや恒例になりつつあるやり取りをして、再び入口手前まで戻った。
戻ったときには、現場を任せた二人も戻ってきており、大体の人がその周りに集まっていた。
「皆さん聞いてください」
その中でスラッツさんが手を上げる。場慣れしていないが、まとめようと凛させている声と共に。
「皆さん察しているかと思いますが、この洞窟で、初めて死体が見つかりました見てきてもらったお二人から、誰だかも分かりました。シュベル・クルールさんです」
「!!」
名前を聞いた瞬間、重い空気がさらに凍りつく。
「...この町でも有名な魔法使い。そんな彼が死ぬということは、高位の魔物なのは確定です。ですが、この洞窟ではそれこそ数は多いものの、出て『セルダー』程度の中位魔だけしか出ていないと聞きます。どなたか、それ以上の魔物を目撃したという方はいますか?」
つまり、実力者がやられたことで動揺したんだろう。どのくらい強いのかは俺には分からないが、周りの空気の冷めようで大体理解できた。
魔物との戦いで死ぬ人はいくらでも出る。過去にも古跡(ファーデン)を探索して死んだ人だっている。それでもこれだけ落ち込んでいるのは、有力者がやられたこと、そもそもこうした大きめの古跡自体あまりないことがあるのか、それとも______
「...誰もいないようですね」
質問の答えが返ってこないことで、早々に切り上げるスラッツさん。
「では、これよりこの古跡は危険域としてしばらく関係者以外立ち入り禁止にしたいと思います。少なくとも高位の魔物がどんなものなのか判明するまではむやみに入ろうとしないでください」
「探索者なんだし自業自得だろ!俺達に責任はないんだぞ!」
「そうだそうだ!」
悪い予感が当たった。さっきの答え、それはこの古跡の状況にある。
魔物の数は多く、『遺産』も普通のクラスなら多く出ること。それによって高まる期待。なにより今朝、この古跡がSランクだと言われたのが極めつけだった。
それは______人が死ぬことによって、自分の取れる可能性が上がることに対しての興奮。しかしそれをこんなところで言い出したら失礼どころではないので、自分の気持ちを抑えていた。俺はそんな予想をしていた。
そしてそれが形となって現れたのが、たった今出た不満なのだろう。思わず体が動きそうになる。
(人が...死んだのに)
憤りで拳を握りしめた。
「皆さんの命を預からせて頂いてるのに、そんなことはさせられません!」
探索者を纏めるものとして出した結論をその当人達に否定されるものの、スラッツさんは怒気のこもった一声で押さえ込む。その声を聞いて、俺の気持ちも幾分か収まった。
探索者を入れた方が『遺産』は運ばれ、ある程度自身の元に来るのは分かりきっている事実。それでも中に入れることはない。つまり自分の利益を後回しにしてでも人の安全を優先する提案には素直に尊敬する。
『遺産』はまだまだ希少性が高い、この場所に残りどれだけ地面に埋まっているかも分からない。なら早く、多く取らなければ。そんな概念に捕らわれてもおかしくないのだから。
「その上で、魔物の討伐に協力してくださる方を募集します!報酬は何らかの形で!」
探索者から傭兵の形になるが、やることが『遺産』さがしから魔物討伐に変わるだけなのでさして内容は変わらない。しかし、『遺産』だけ狙っていた奴らは困り顔を作るしかない。
それからは、有名人がやられただけあって手はなかなか上がらなかった。ざわざわとした雰囲気だけが続く。
特にあいつらも気にしないだろ。そう結論づけて、手を上げようとして______
「じゃあ、行きます」
人混みの中から出てきた手を見て引っ込めた。
「あなたは...」
「ここで魔物を止めなければいつ町に降りてくるか分かりませんし、協力させて頂きます。もちろん報酬はいりませんので」
さりげなく無償で働くと言ってきたのは________髪の、いかにも好青年といった様子の人物だった。
「あぁ、町長の息子か」
「いや、こないだ次期町長に決まったらしいぞ」
「じゃあ任せて平気だな」
「俺達は帰るか」
「明日にそなえてっと」
その人物の登場に、今までの暗い雰囲気から明るさが出てくる。他力本願で最低な台詞ばかりだが、この時だけは俺は別のことを考えていた。彼の名前は、確か____
「ハルベルトさん、ありがとうございます」
「いえいえ、自分は村の一員ですからね」
「...ハルベルト・クリム」
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「え、あんたやるの!?」
「協力したいんだよ。いいだろ?」
戻って来たアハトが私達に言ったのは、魔物の討伐をしに行くというものだった。
だけど、あの現場を見たから分かる。行かせたら、またこいつは危険になると。
「無茶だよ!あんた以外にいるんでしょ、その人に任せれば...」
「さすがに一人だと何かあったときに対応出来ることが少ないし、危険な魔物に至っては正体も分からないんだ。人数は多い方が良い」
「でも!」
「行かせてくれ」
私の怒り混じりの言葉はアハトが頭を下げることで止まらざるをえなくなる。
「...先輩、ならせめて私達も......」
「そうだ!私も」
「お前らは先に帰っておいてくれ。どのみちそんな顔してたら連れていけないしな」
「顔って、なにを」
「この話をし始めたときから辛そうな顔が出てるぞ。無意識なんだろうけどな」
「......」
言われて、さっきの映像が思い出される。流れ続ける血の臭いと、絶望したような顔が脳にこびりついて離れない。
ミディナちゃんと同じように顔を触ると、その頬はひきつっているように感じた。
でも、この顔からさらに崩してはいけない。そしたらアハトは絶対に私を連れていこうとしないから。
「...確かに怖いよ?でも、カムイ君一人で行かせる方が......」
「一人じゃないし、死ぬつもりもない。強いて言うなら飯でも用意しといてくれよな」
ポツリ、と今まで黙っていたユーノちゃんが呟く。それに対してアハトが流暢に返して、会話か途切れた。
「じゃあ、行ってくる。ちゃんと先に帰ってるんだぞ」
「......いってらっしゃい」
背を向けて歩き出すアハトに、見送りの言葉しか出せない私達。やがて彼女は、もう一人の討伐者と一緒に暗闇しかない洞窟の中へ入っていった。しばらく、そのまま動かない私達。
「私が、もっと強ければ......」
その言葉を両隣のどちらが紡いだのか、私には分からなかった。
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「よかったんですか?」
「何がです?」
洞窟に入ってから三分程度だろうか。ひとまず死体があった場所まで戻ろうと歩いている途中で、たった二人の討伐隊の片割れ、この町の長の孫であるハルベルト・クリムが話しかけてきて、俺はその質問に質問で返した。
「貴方の仲間を放っておいて、ですよ。これから行く現場を見たんですよね?」
「ばっちし」
「顔色も良くなかった。側にいてあげるべきだったのでは?」
「...そうですね」
フードに隠れた顔を歪ませる。そっちの方が彼女達にとってよかったかもしれない。でも、
「...ここから魔物が出る方が危険ですから」
「......そういうことに、しときます」
俺のついた嘘を、彼はすぐに看破する。それでも、俺は言い直そうとはしなかった。
俺の手は、震えていた。
(死体を見て励ませるやつがどこにいる...ってな)
俺も、恐怖は感じていた。牙か爪で貫かれたのであろう腹に空いた穴、そこから流れる深紅の液体、見開き、閉じることが叶わなかった虚ろな目、あれを見て怖くないなんて言えない。平然としていられる人がいれば、俺はそれこそ恐怖を感じる。
(でも...)
あいつらの泣きそうな目を見て、俺まで怖がるわけにはいかない。だから、さっきまでは精一杯の強がりをした。あそこから、あいつらの側から離れたのは。
(あれ以上いると、俺まで辛くなりそうだからな)
一緒に泣くなんてしたら、あいつらの少し落ち着いた心がまた動揺してしまう。そんなこと、したくない、させたくない。それは俺の精一杯の抵抗だった。
「ここですか」
「...そうですね」
「......あれ、ですよね」
「はい」
「...切り込みます」
「じゃあ魔法で援護します。あまり期待しないでください」
「援護なんてしてもらわなくても倒してみせますよ」
彼は背中から大剣を引き抜き、俺は無詠唱で氷魔法を作り出す。
そうして______血塗られた死体を貪っていた『リグロ』の群れに対して、攻撃を始めた。始めに放った少し大きめの氷魔法は、一番手前にいた『リグロ』の脳天に深く刺さった。
気づけばこの作品、最初に投稿してから一年以上経ちました。長続きしない自分がよく書けていると思います...思いたいな!(笑)
あと、リアルの友人に「タイトルと内容噛み合ってなくね?」と言われたので、何か似合うタイトルありましたらコメントしてくださると泣いて喜びます。
これからもこの作品をよろしくお願いします!