アスモディ・ストーリー (Asmody Story)   作:メレク

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二つの剣

「ノクス!二人を頼む」

「え...もしかして、一人でやるつもり?」

「先輩、流石にそれは辛いと思いますよ...」

「ミディナは黙って休んでろ。それにな...今からやることは、人が近くにいるとやりづらいんだよ」

 

腰を落とし、剣の先を前に向けながら両手を体の上に持ってくる。まるで突撃するように。

 

こちらの構えを見たからか、奴は光のない目を血走らせて咆哮を上げる。

 

『uoooooooooo!!』

 

狼のような声の威嚇を聞きながら、俺は静かに魔力を纏う。今や必須となる強化魔法と、最高の速さを出すための電撃魔法の重ねがけ。

 

「ふーっ...」

 

一息ついて心を落ち着けて、俺は剣に無属性の魔力を流す。それに答えて、剣の一番外側___透明結晶(クリスタ)で作られた刃が淡く光出した。

 

透明結晶は、強い魔力を流し込まれると発光し、強度が増す。だが、それは裏を返せば魔力を流さない場合はガラスより脆い。

 

おまけに、俺が作る練度が低い透明結晶は、まだそう大した魔力を注げない。入れすぎた時点で割れてしまい、もう一度作り直す必要がある。欠陥だらけかもしれないが、それでも作る理由があった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

負けじと叫び、足を踏み出す。なんてことない一歩は、強化魔法によって地面に亀裂を走らせ、電撃魔法によって風を切る速さを得た。

 

そのまま魔物の左側______右足の隣を抜ける。通り抜けがけに一閃して。俺は奴の悲鳴を聞くことなく次の行動に移る。

今の俺は、電撃を纏って止まることが出来ずに洞窟の奥へと移動している。両足を地面につけて減速しても、敵に対して絶対的な隙をさらすことになる。

 

(なら...止まらなければいい!!)

 

展開される逆転の発想。そして、それを叶える力が今の俺にはあった。

「っからのぉぉっ!!」

 

一瞬だけ足を地面につけ、真上に飛び上がるように電撃魔法を施す。地面すれすれを飛んでいた俺は直上した。

 

直上した後は重力によって止まり、落ちていく。その行動は本来、ユーノ達に目標が変わり、危険に晒してしまうだけの悪手だった。

 

 

 

 

 

もし、ここが外ならば。だが。

今俺が戦っているのは暗い洞窟。洞窟は、地面も壁も天井も、全て自然の土で覆われている。

 

現に、直上した後すぐに天井に激突しようとしていた。ここままだとただの自滅行為。

 

だから俺は剣を握っていない左手を伸ばした。その手が、少しだけ斜めに角度をつけて天井に触れる。

 

「しっっ!!!」

 

そのまま、もう一度電撃魔法を無詠唱で使う。接触していた手と天井に電撃が生まれ、弾かれる様に俺はもう一度進路を変更した。そのまま右腕を降り下ろす。

 

『giiiiaaaa!!』

 

アイディールは、見事魔物の左脇腹を切り裂いた。

 

(これなら...いけるっ!)

 

そして俺は、勝利を確信した。

 

攻撃方法はいたって単純。ビリヤードの玉の様に洞窟の壁に触れては電撃魔法で向きを変え、魔物を切り裂き続けるだけだ。

 

ただ、その速さが異常なだけで。

 

アイディールの透明結晶はこの速さでも反動で止まることなく魔物の体が切り裂ける。電撃魔法は問題ない。

 

おまけにあちらは体が大きいせいで後ろに回った俺を直ぐに見つけられない。俺を探すことに意識を向ければそれだけユーノやノクス、ミディナが襲われる危険がなくなる。かといって、襲おうとする前に自分の傷は増え、憎き相手が目の前に現れる。

 

だから俺は、勝利を確信した。この結論にたどり着くころには、敵の傷が五つに増えていた。

 

「追い付けやしない!!」

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「す、凄い...」

 

目の前で行われている戦いは、正に一方的だった。

 

先輩が化け物の奥に行き、すぐさま私達の手前に戻ってくる。その行程が終わったときには、傷が二つ増えていた。

 

化け物はなすすべなく節々を切り裂かれ、悲痛な悲鳴を上げている。

 

「いつの間に...」

 

ユーノちゃんが、なんとも微妙な顔をしていた。ここまで先輩が出来るようになったのは最近のことなんだろう。初めて会ったときは剣もエクスシアだけだったはずだし、体に施すの魔法も今と比べたらだいぶ劣る強化魔法だけだったから。

「ほらほらどうしたぁ!」

 

先輩が挑発し、更に傷を増やす。だいぶ落ち着いた体を自力で持ち上げ、ふぅと息をついた。

 

「これなら...」

「いや...アハト......」

 

安堵する私の隣で、ノクスさんが微妙な声を上げた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ほらほらどうしたぁ!」

 

虚勢を張り、大粒の汗を振り切って叫ぶ。さっきまでの勝利宣言は、撤回せざるを得なかった。

 

理由の一つ目に、魔物が意外にしぶといのがある。大型なだけあってかなり体力があるのか、いくら傷をつけても叫ぶばかりだった。

 

二つ目に、集中力の限界がある。今まで感じたことのない速度で景色が変わる中、アイディールの透明結晶に流す魔力を含め、強化魔法、電撃魔法を上手く制御しなければならない。

 

単純に考えて魔力の消費量は強化魔法のみである普段の三倍だし、下手したら洞窟にぶつかること、大切な人を守っているというプレッシャーに押し潰されそうになっていた。

 

正直一気に決めたい所だが、決定的な隙がない。無理やり決めようとして失敗したら、自分はおろか守っている仲間まで殺されかねない。ある意味拮抗状態だった。

 

それが動いたのは、相手によるものだった。

 

『yuooooo!』

 

悲鳴とは違う雄叫びを上げると、空中に大量の丸い炎が生まれる。あまりの多さに洞窟が明るく照らされる。

 

それは、高速で移動している俺の移動先にも現れる。

 

(多い!)

 

さっきまで何もしてこなかったのはこれを唱えるためだったようで、 あまりの数に体が止まりそうになる。

 

それでも、これを後ろのあいつらに通してやる気はない。

 

「本領発揮だ!アイディール!!」

 

俺の声に答えるように、アイディールの光が増した。目標を目の前の魔物から炎に変え、通り抜けがけに切る。炎はそれだけで形を留めていられなくなり、消えてなくなった。

 

魔法を切り裂いて消すということは、言うほど簡単ではない。実体を持つ氷とかならともかく、炎なとの実体を持たないものなら尚更。

 

もし普通の剣で切ろうとするなら、より中心を狙って切らなければ完全に消し去ることができない。一部分でも原型を留めていられるからだ。木刀なんかだと、自分の剣に火が移る可能性だってある。

 

しかし、だからこその透明結晶。強度を上げるだけでなく、中を通っているのは魔力のため、普通の剣より魔法への干渉がしやすい。当たり幅がが少し広くなったと言えばいいだろうか。

 

だからこそ俺は、霞んできた意識の中でも炎を消すことができる。

 

「これで、ラスト!」

 

一番最後の魔法を、横凪ぎに切って消し飛ばす。再び目標を魔物へ。

 

『doooooo!』

 

奴は性懲りもなく魔法を唱える。詠唱は無いものの、さっきより力強さを感じた。

 

「これ以上なにやっても...!!」

 

地面に着地した俺はこれ以上移動出来なかった。

 

「なんだよこれ...」

 

壁と天井の土の一部が盛り上がり、意思を持っているようにアイディールに絡み付く。水っぽかった土は、絡み付いつた瞬間固まり、剣を動かそうとしても出来なかった。

 

(土魔法の...応用!?)

 

地面を自由に動かせる土魔法があることは知っている。ただ、実際対峙していきなり対処できるはずもない。

 

(でも、俺の位置をどうやっ...!!)

 

縦横無尽に動いていた俺を捉える方法が分かった時、完全に驚愕してしまった。

 

(炎魔法を消した順番で、どこに動くかを予想した!?そんなことが!!)

 

そんなことがあまり頭が冴えない魔物に出来るのか。そう考えることは、この場では致命的だった。一気に体が疲労感を受ける。

 

『vllrrrr!!』

 

人を丸飲み出来そうな大きな口を開け、こちらに駆けてくる。その牙一本一本が死へと誘う凶器であり、耐える術はない。

 

「先輩!?」

「アハト!」

「だめぇ!!」

 

後ろから叫び声が聞こえる。持っている剣は上段の構えをした状態から動かせず、後ろに下がろうにも皆がいる。正に八方塞がりの状況。

 

「くすっ...」

 

俺はそんな場面で______笑っていた。

考えるのを止めろ。

 

(そうだ。何のために戦っている)

 

後ろに下がれないのなら。

 

(守るため。そうだ。守るために戦うんだ。ユーノを、ノクスを、ミディナを!)

 

前へ前へと突き進め。

 

「そうだろ!エクスシア!!」

 

呼応するのは相棒。上を向いて止められたアイディールを消し、手首を下に回しながら顕現させる。

 

己の最強。己の理想。己の極限。

 

(それが、皆の希望になるために)

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

下に向けて作られた剣を切り上げる。それは見事に突っ込んできた魔物を顎から切りつけた。

 

「いっけぇ!!」

 

空中に投げ出される魔物に向けて、電撃を体に纏い移動する。そして______アイディールと同じく、透明結晶を使ったエクスシアを頭に刺し込んだ。

 

『gaaaa!!!!』

 

短めの悲鳴を上げながら、それでも右足を伸ばしてくるのに対して、俺は自分の剣に魔力をでたらめに流し込んだ。

 

「これで、さよならだ」

 

まだまだ未熟な俺の作った透明結晶は、含める魔力の限界を超えて割れる。勢いよく行えば破片が飛び散る。

 

だから______エクスシアは、魔物の頭に突き刺さったまま弾けた。もう、悲鳴を上げる者はいなかった。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

「ふぅ...終わったか」

「アハト君...アハト君!!」

「おっとと...こっちで気を失いそうだな」

 

魔物を倒して、その左手につけた指輪と同じ金色の目をしょぼしょぼさせているアハト君に間髪いれずに抱きつく。両手を回した私には、アハト君の体温が、生きている証拠がしっかり伝わった。頭を撫でられ、優しさと恥ずかしさに包まれる。

 

「先輩...無事で良かったです」

「ホントにね。私も手伝ってもよかったんだよ?」

「いや、後ろで大人しくしていてくれて助かったよ。周りうろちょろされてると気にしそうで...」

「集団戦闘に向きませんね」

「というより、洞窟の中とか建物の中とかじゃないとこんな動きは出来ないからな」

 

ノクスさんとも、ミディナちゃんとも楽しげに談笑している。でも、私は______しなくちゃいけないことが、あった。

 

「ミディナちゃん、酷いこと言ってごめんなさい!」

「え?」

「なになに?」

「いや、あの、二人が来る前に、私酷いこと言っちゃって...」

「ユーノちゃん...大丈夫だよ。私は」

「ミディナちゃん......ありがとう」

「いいえ~これからも仲良くよろしくね!」

「うん!」

 

私が謝ると、ミディナちゃんは笑顔で返してくれた。その優しさがとても嬉しかった。

 

「ノクスさんも、アハト君も、ごめんなさい!!」

「別に気にしてねぇよ」

「そうそう!アハトの言う通りなんだから!」

「二人とも...!」

「さて、じゃあ早くこんなところ戻って...」

 

 

 

 

 

「...あれを倒すとは、随分と成長したようじゃな」

「「「「!!?!」」」」

 

ノクスさんの声を制するように発されたのは、若い、女の人の声。

 

同時に、シャランと鈴の音と、倒れていた魔物が燃える音が聞こえてくる。

 

「まさか一人でこれを倒すとは...試作品だと聞いていたからそこまでの期待はしとらなかったが、双方共に予想以上。といったところかの」

 

「てめぇ...何者だ」

 

皆がそれぞれの剣を抜き、魔物の後ろ_____洞窟の奥に向ける。そうしなければならないと感じた。

 

「我の名前はバンス。バンス・シュバイツァー。よくよく、覚えておくと良い」

 

そこには、青い炎に包まれた魔物を前に薄い水色の長髪と目を反射させて、裾が長い変わった服に身を包んだ女______シュバイツァーが、いた。

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