アスモディ・ストーリー (Asmody Story) 作:メレク
「______ナ_________ナ!大丈夫か!?」
「んんゆぅ..先輩?」
「大丈夫、そうだな。よかった...」
目が覚めたら、すぐ隣に先輩がいた。心の底から安心したように息をついて、優しさを込めた黒目に見つめられる。
「ここは?」
「そこにいるハルベルトの家だ。お前とノクスが倒れて、それからずっとここにいる」
「...ユーノちゃんは?」
「あいつはもう寝てるよ。今は夜だからな」
「...先輩は?」
「...正直な話眠いけど、お前らのことを気にして寝れるほど図太い精神は持ってないんだよ。ユーノは無理矢理寝かしつけたけど」
「酷い先輩ですね」
「言っとけ」
私の言葉に先輩はいたたまれなさを感じたのかそっぽを向く。普段大人びた彼女が見せる年相応の態度に、年上ながら面白いと思った。
「......夢を、見てました」
「夢?」
「先輩と初めて会ったときの夢です」
あの時も、こんなことがあった気がする。私が先輩に剣を教えてもらい、それに疲れて寝てしまったのを介抱してもらった。
「あぁ...あれから半年くらいか?」
「なんだか懐かしいですよね」
「...そうだな」
「先輩、ありがとうございました」
「何がだよ?」
「私に剣を教えてくれたこと、私を助けてくれたことです」
「...約束、したからな。俺が無事でもそれを確認してくれなきゃいけないから」
鼻のしたを少し擦り、恥ずかしそうに笑う先輩を見て、
「...先輩らしいですね」
つられて微笑んだ。
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「本当に大丈夫なのか?」
「問題ないです」
起きたばかりのミディナは、自身の剣を腰にさげた。
彼女いわく、今からお店に戻るらしい。あそこで大声で叫んだノクスや、旧魔だとバレたユーノより目立っていないとはいえ、流石に不味いと引き留めたのだが、
『今戻らなきゃダメなんです。誰かに会っても最悪どうにかしますから』
と、言いきられてしまった。どこか意志が強い彼女に反論出来ず、 既に自分の持っていた物を全て手に持っていた。
「それじゃあ行ってきます」
「...行ってらっしゃい」
挨拶を済ませた直後、彼女は一目散に駆け出した。その姿はもう見えない。
「...今戻って、どうするつもりなんだか...」
「貴女も彼女も、いまいち抜けてますね 」
「なんだそりゃ?」
「なんでもないです」
ハルベルトは慣れたように肩をすくめ、ソファーに座り直した。
「......知らない天井」
「ノクス!」
「あ、アハト...って、ここどこ!?」
入れ替わるように目を覚ましたノクスは、現状を理解できずにあたふたしていた。そこにシュバイツァーと戦っていた時の威厳はどこにもない。
「はぁ...ここはハルベルトの家、お前も皆も無事助かったよ...お前の足止めのお陰でな」
「......はぁー!」
こわばっていた表情が安堵に切り替わり、大きなため息をついてベッドにの寄りかかる。
「よかった」
「ほんとそうだな」
「...ねぇ、アハト」
「ん?」
「私、なんとか出来てたよね?」
「まさに激戦を制してましたよ」
「なんかめっちゃ恥ずかしいこと喋ってた気が...」
「それは知らん」
「知ってるなバカ!忘れろ!」
枕を手に持ち、投げ飛ばしてくるのをはね除ける。そのまま跳ね返った枕はノクスの顔に直撃した。
「ぶふぉっ!」
「...こうして馬鹿げた枕投げをできるのも、お前たちのお陰だよ」
「!!」
それ以上言うのが恥ずかしくなって、知らず知らずの内にそっぽを向く。
「...アハトの方が、恥ずかしいかもね」
「言ってろ!」
笑い声と叫び声が飛び交いながら、その日の夜が明けていく______
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「じゃあ、準備できたな? 」
「はーい!」
「勿論!」
俺の声に二人が答える。
ユーノは帽子を被り服を翻らせ、短剣を腰に携え、杖を持ち。
ノクスは腹や足を出した服を着ながら、バックを肩ごしにかけ。
俺は珍しく焼けたり切れたりしなかったコートを羽織りながら、少し短めのブーツの履き心地を確め。
全員が、出発の準備を完了させていた。
「じゃあ、世話になった」
「リンさん、ハルベルトさん、ありがとうございました!」
「...また来れたら来ます」
「是非そうしてください」
「今回の騒動で解雇とかにならなければね...」
俺、ユーノ、ノクスの順でお礼を言い、二人がそれに返した。一人の言葉は切実だったが。
「あとはミディナにも言いに行くか...」
「危険がありますよ?」
「それでも行かなきゃ、なぁ?」
「当たり前だよ!」
「私も挨拶したいし」
「その必要はないですよ?」
「「「うわぁぁぁぁ!?」」」
噂をすればなんとやらといった感じで突如現れたミディナに驚く俺達。
「ミ、ミディナちゃんお店に戻ったんじゃあ...」
「はい。お店に戻って準備してきました。私も旅に同行させてください!」
「ミディナちゃん、これはちゃんと目的があってだね...理由あって王都に行くんだよ」
「じゃあ私も王都の『遺産』取り扱いの店に行きたいので!そこまで!」
「えぇ...」
ミディナの猛攻、いや猛口にたじたじになるノクスの肩に手をおいて黙らせた。
「...ミディナ。なんで付いてきたいんだ?」
「っ...私、剣も魔法もまだまだだと思いました。お店を続ける為にも、『遺産』を手に入れるため、もっと強くなりたいです。先輩を越えるような」
「既に対等な条件で戦えば互角かそこらだと思うんだが... 」
「いえ...それに!新魔しか入れない王都に旧魔のユーノちゃんを行かせるなんて何かあるとしか思えません!理由があるんでしょうが、友達がそんな危険なことさせるなんて尚更心配です!」
「ミディナちゃん...」
「...ノクスが言ったせいだぞ」
「私!?私なの!?」
俺はこの場の全員がしっかり聞こえるくらい大きくため息をついた。
「...私はこの気持ちを曲げるつもりはありませんよ?」
「ロアナスちゃんの家にどう説明するつもりだ?」
「そこは抜かりありません」
「はぁ...店、どうすんだ?閉めたくないんだろ?」
「うーん...先輩なら、『長期休暇ってことにすれば大丈夫だろ!』とか言うと思ってたんですが...」
「うぐっ... 」
「アハト言われてるぞー」
「確かに言いそう...」
「外野うるさい!」
おほん、と柄にもないことをしてから改めて口を開く。
「それでいいんだな?」
「はい!」
「...じゃあ、店はこのハルベルトがやってくれるから」
「えぇえ!?」
まさかのパスにハルベルトが今まで聞いたことのない声を上げる。
「お前家出たいって言ってたじゃん?」
「そ、それはそうですけど...」
「ホントですか!?お願いしますハルベルトさん!」
「ハルベルト私からもお願いします!」
「...あぁもう!分かりましたよ!」
「「やったー!」」
ユーノとミディナがハイタッチするのと、ハルベルトが落胆して肩を落とすのは同時だった。
「じゃあ、改めてよろしくな。ミディナ」
「はい。よろしくお願いします!先輩、ユーノちゃん、ノクスさん!」
「うん!」
「よろしく、ミディナちゃん」
「あ...」
「?」
今までなにも言わなかったリンさんが声を出す、気になって後ろを振り返ると____________
「わぁ...」
「すご......」
「初めてですか?これは」
「...そういや、この町に来てからは一度も見てなかったもんな」
町と繋がっている大きな湖が、朝日を反射して幻想的で雄大な景色を作り出していた。
世界最北端の湖かつ、この世界最大の大きさである湖。その規模は対岸が見えないほど。
『ヘルシンキ』に入る前、昼間に見た青い湖ではなく、オレンジの光を映し出す特別な色。それに、全員が初めて見るユーノとノクスが心奪われていた。
「...さぁ!行くか!」
「はい!」
「うん!」
「わかってる!」
湖に背を向けて、俺達は歩き始めた。
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「ミディナー?」
「残念ながらいませんよ」
「あ、次期町長。旧魔のいざこざで下ろされそうになってもそのまま町長になれちゃいそうな次期町長じゃないですか!」
「それ定着してるんですか...ロアナスさんですね?貴女宛に、ミディナさんからの手紙を預かっています」
「手紙?......お店の経営ってどうするの?一時閉店?」
「私ともう一人...彼女はバータイムの方ですが、営業してます」
「天職を見つけた気分です」
「ふーん...一人から二人になっただけ良くなってね?」
「それもそうかも」
「にしても...私になにも言わずこんな手紙だけ書いていなくなるとか...友達に裏切られたー!次会ったら殴ってやる!!」
ロアナスちゃんへ。
これを見ている頃私は武者修行の旅に出ているでしょう。半年くらい前に来た先輩がまた来てくださって、お店経営の力をつけるため、お父さんみたいに自力で『遺産』を見つけるための武者修行です。
居候させてくれたり、いつも気遣ってくれてたりするロアナスちゃんには、小さい頃からお世話になりました。というか今もなりっぱなしです。
今回時間がなくて、直接言うことも出来なくてごめんなさい。かなり酷いことをしているという自覚はあります。
でも、私のことを一番よく知っているロアナスちゃんは、涙も見せずにバカにしてくるでしょう。裏切られたーとか言うかもしれません。
だから、待ってて。直ぐ戻って、土産話と腕を上げた技術を見せるから。約束する。私が約束破らないのは知ってるでしょ?
それまで、店長代理のハルベルトさんと、バーでカクテル作るリンさんと、いつものように駄弁ってて下さい。
ロアナスちゃんを一番よく知っているミディナより。
P.S. ホントにごめん!大好きだから許して!
「私は怒ってるぞミディナ!早く帰ってこいバカー!!」
この話までは出してたと思ったのですが...凄い微妙なところで終わっていて申し訳ないです。