アスモディ・ストーリー (Asmody Story)   作:メレク

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戦争の引き金

お風呂から上がったカムイ君と私達アインツ一家は、カムイ君の説明をするためにバルトさんの家に来た。

 

真っ黒のコートに身を包んだカムイ君は、かっこよくてやっぱり女にはあまり見えなかったけど......

家の中には昨日話を聞いていた人だけでなく、村のほぼ全員がいた。

 

「あれ?リーゼは?」

「あの子と会いたくないといって、朝から遊びに行ってるよ......もう少し丸くなってくれると助かるんだけどね」

「それがリーゼちゃんの性格だものね~」

「まぁ、そうですけどね」

 

そんな世間話が終わった後。皆はバルトさんの「座れる人は座って下さい」という一言でテーブルの席に着く。人数が多いので、ほとんどの人は立ったままだったけど。

 

カムイ君はテーブルの上にベルトポーチから取り出したこの世界の地図を広げ、

 

「じゃあ、皆さん気になっていることについて、できるだけ話したいと思います」

 

説明を始めた。

 

 

 

 

 

----------------

 

 

 

 

 

ひとつ深呼吸をする。大丈夫。よくよく考えたらかなり危機的な状況だけどなんとかなる。いや、なんとかするんだ。

 

「じゃあ、皆さん気になっていることについて、できるだけ話したいと思います」

 

そうして俺は、説明を始める。

 

「まず始めに、これから言うことは全て真実なので、その上で聞いていただきたいです。あと、質問するのは後で挙手をお願いします」

 

周りの大人たちが頷く。

 

じゃあ、言うか。

 

後で書いた線を消せるペンを取りだし、長方形の世界地図の左上と中央下、右上に丸を、そして中央に縦線を描く。

 

「ご存知の方も多いでしょうが、この左上の丸部分が新魔の王都『クロスベル』です。我々は縦線...中央の『レベル山脈』を避け、旧魔側をあざむくため『レベル山脈』より南の『アリストの森』を抜けて旧魔王都、左上に丸をつけた場所『ストライク』を目指していました」

 

下向きの半円を書くように『クロスベル』と『ストライク』を結ぶ。辺りは突然何を言っているのかわからなくなってきている。

 

そして、重要な一言を。

 

「目的は......旧魔王都襲撃、そして旧魔国王女アリスの殺害です」

 

ガタッ!!

 

「なんだそのいい加減な話は!」

「ふざけるな!そんなことが許されると思っているのか!?」

「そもそもなんでそんなことをお前が知っているんだ!!ただの小僧だろう!?」

 

立ち上がり、口々に叫んでくる人達。

 

想定内だな。

 

「申し遅れました。私は新魔王都第ニ特務部隊所属のカムイ・テイカーです。あ、ちなみに女です」

 

今度こそ、周りが黙りこんだ。ふとユーノを見ると、なぜか目が死んでいた。わかりづらい話ではあるからな...

 

それが少し面白くて笑いそうになるも、村長...バルトさんが手をあげるので顔を引き締める。

 

「皆さん静かに...質問よろしいですか?」

「どうぞ」

「その重要機密であろう問題をを我々に話す理由は?」

「......これから話します。とりあえずお座り下さい」

 

席に促す俺に、渋々従う大人たち。

 

「お話した通り、我々は王都を襲撃する予定でした」

「でした?」

「はい。これは元々、国の一部から旧魔と戦うべきだと訴えだしたのが始まりです...そしてそれは幹部の者にも広まり、穏健派との和解策として出されたのが今回の、新魔だとバレずに暗殺するという任務です。隠密に行うことが命の作戦...部隊の誰かが消えたり死んだ時点で一時撤退を命じられています」

「......その消えたのが、君だと?」

「ここにいるのは進行途中に逃げてきたから...というのは、俺の理由になりますよね?」

「信じられないけど、でっち上げで新魔が一人でこんなところにこないだろうね」

「理解が早くて助かります」

 

俺達の会話についていけない人達が多いのか、ざわつきがぶり返す。まぁ、バルトさんと話せるなら今はそれでいい。

 

「だが、君の言い方からしてわざとその部隊から離れてここに来たんだろう?その理由はなんだい?」

「...このままいけば、アリス様は危険にさらされる。そして、新魔と旧魔は戦争になる。俺は、それを止めたい」

 

シン......と静まりかえる。

 

「君のいた部隊は旧魔を滅ぼそうとしているのに、今さら戦争を止められるのかい?」

 

バルトさんの言葉に何人かがハッとしている。これはすでに戦争の火種であり、実行されれば大戦が避けられないところまできているのを実感したようだ。

 

だが、だからこそ。

 

「うちの部隊は旧魔を殲滅しようとしている人の集まりで、今回の作戦も、和解策というよりかなり独断行動に近いものでした。だからこそ撤退という制約がついたのですが。ともかく、あいつらの撤退より早く『クロスベル』に行ければ、まだなんとか出来る可能性がある」

「君がなんとかできるのか」

「あいつらより早くつければ」

「具体的にはなにをする気ですか?」

「過激派の多くがうちの部隊にいます。それがいないだけで国民の意識を変えることはかなり容易になるんです...演説なんかもしやすくなりますし」

「時間は?」

「行きはこの辺りまで来るのに4ヶ月。撤退のため時間が早まると考えると......3ヶ月です」

 

「...あと、たった3ヶ月で、大戦が起こるかもしれないのか......」

 

誰かが呟いた一言は、周りを凍らせた。

 

「それは、信用していいんだね?」

 

若干顔がひきつっているバルトさんに、

 

「俺の話せる全てですから。信用していただかないと困りますよ」

 

真顔で答える俺。

 

そしてここからは、

 

「それで、お願いがあります。」

「なんだい?」

「戦争を回避する可能性を高めるために、旧魔からどなた来ていただいたほうがよいと考えました。演説なんかもするとしても、喧嘩してる相手の意見があった方が良いと思うので...しかし、最適な人物を探すには時間がない......なので」

 

 

 

 

 

「ユーノを、連れて行きたいのですが」

「え?私?」

 

辺りは騒然。ユーノはまた固まった。今度は石像みたく動かなくなる。

 

そんな中で、今まで一言も喋っていなかったアイオスさんが手をあげた。

 

「つまり、君は自分の部隊を出し抜いて王都に戻り、ユーノを使って残りの新魔を戦争をしないような考えに変えさせるわけか?」

「相手側の人間が戦争をしたくないと言えば、可能性は上がるかと」

「ぬるいな。そんなもので国の意志が変わるとは思えない。極秘とはいえ一度軍を出したのだからなおさらだ。おまけに君は脱走兵で、隣に旧魔がいれば敵である旧魔に情報が漏れているのがバレバレだと考える。その場で二人とも殺されるのがおちだ。国は基本、いつも最悪の状況を考えるものだからな。いや、そうでなければならないからな」

 

昨日今日接していたアイオスさんとは全く違う空気に、俺は動揺しながらも必死に答えを出す。

 

「それについては大丈夫です。あちらでの待遇は国賓級ですよ」

「君がかい?」

「ユーノも」

「なぜそこまで言い切れる?」

「...あちらには俺の仲間がいるので。かなり上の立場にいるやつがね」

「...そもそも、君のいた部隊は撤退するのか?戻るメリットがなさそうだが」

「絶対にします。あちらには俺の仲間だけでなく、あっちの仲間も少しですがいますから。何かあったとき俺の部隊のトップは、基本的に予備団員でも戦力を減らしたくないって考えかたなので」

 

ちなみに、遠距離かつ、移動する人同士でのやり取りは使い魔を使えばできる。だが、使い魔を出すのは固有魔法。新魔では使い手が限られる上に限定魔法になるため条件が厳しく、使える人はいなかった。

 

「それだと君が戻っても意味がないじゃないか」

「残ってる奴等だけなら問題にならないので」

「なぜ予備団員を残しているんだ?」

「あっちで布教活動を続けているんですよ。ですが、それだけならなんとかなります」

「可能性の話ばかりだな...不確定要素が多すぎる」

「そしたら、全面戦争が起こるってのもあくまで可能性ですよ?」

 

「え?私なの?カムイ君の言ってたチャンスってこれ?」

 

本当に家の時とは全く違うアイオスさんの対応に驚くが、そうも言ってられない。一つ息をついて落ち着く。

 

 

 

 

 

「うちの国の意思はまだひとつではありません。まだチャンスがあるんです。そして、なにもしなければ変わりません!ですから!」

「...なぜユーノを?」

「彼女の魔法の話を今朝聞きました。その向上がこの旅で出来ると思います......というのが、表の理由です」

「裏があるのか?」

「...本当は......俺が、信用できる人物がいいからです」

「ッ!」

 

蘇るのは、今朝の出来事。

 

今、俺だって何を言っているのか分からない。でも、今朝の笑顔を見たとき......こいつを守りたいと思った。

 

今度こそ。

 

「......ユーノは、どうしたいんだ?」

「私は......説明できるかわからないけど、カムイ君と行きたい!」

「それがどういう意味か分かっているのか!?」

 

ユーノの言葉にアイオスさんが激高する。

 

「わからないけど、私は私のやりたいことをやるの!やりたいの!」

「あらあら。ユノちゃんいつから反抗期になったのかしらね~」

 

フィルフィさんの参入でアインツ家が静かに......あれ?でも俺もだいぶ恥ずかしいこと言ったんじゃ...!

 

バルトさんと目が合うと、微笑んでいた。うっ...この人は~!大事な話をしているはずなのに、なんだかわからなくなってきた。

 

「フィルフィからも何か言ってやれ!」

「私はいいと思うけど?かわいい子には旅をさせろっていうじゃない~」

「お前!!」

「...実際、ちゃんとしなきゃいけない時が来たんじゃない?」

「!?...カムイ君。来なさい」

 

立ち上がったアイオスさんは、外に出ていく。俺を含め皆がそれについていった。

 

これから何を言われるのか、何をするのかは分からないしがなるべく穏便に済ませたい......そう思わずにはいられなかった。

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