魔法少女リリカルなのはstrikers Return of a soul 作:K-15
迫るコンクリート片を前にクレアが握るレッドストライマーのクリスタルが光る。赤い魔力が開放されレッドストライマーを包み、更に攻撃力の上がったストライマーバーストに変化した。
開放されるだけで制御できてない魔力の剣は剣と呼べるモノではなくギザギザで無骨なまま。両手でグリップを握り締めるクレアは力任せに一振りすると迫るコンクリートが消し飛ぶ。
「どうだ! 風も止んだぞ」
「まだ能力の引き出しがあるとは、そうでなくては面白くないの」
「変な事をされる前にぶった斬ってやる!」
ネネが初めに展開した強風は止み体が自由に動かせるようになる。敵意をむき出しにして相手を睨むクレアはデバイスを片手に地面を蹴った。瞬時に距離を詰め、振り上げる切っ先を叩き付けようとする。
だが、目の前の相手の口元は笑みで釣り上がっていた。
「馬鹿の1つ覚え、我に近づく事などできないの」
至る所に貼り付けられた紙、その内の1つが不気味に輝くと仕掛けられたトラップが発動する。クレアが握るストライマーバーストの切っ先が彼女に触れようとしたその時、巨大な爆発が真横から発生した。
クレアはその高すぎる反射神経に思わず視線を移してしまい、迫る炎に攻撃を止め防御に切り替える。
「ぐぅっ!?」
巨大な剣を盾代わりにして炎を防ぐが爆風までは受け切れない。またも体は吹き飛ばされネネの元から離されてしまう。空中で体をよじるクレアは姿勢を正すと難なく地面に着地した。バリアジャケットはダメージを通してない。
「また火か! もう少しって所で!」
「ふふふ、我の攻撃はお前のように単調ではないの。ほらほら、逃げれるモノなら逃げると良いの」
「ッ!?」
気が付いた時にはもう遅い。足元のコンクリートがドロドロに溶け始めるとクレアの足を飲み込んでしまう。それは足首まで彼女を飲み込み、そしてまた元のコンクリートへと固まった。
力を入れて抜け出そうとするが体力を無駄に浪費するだけで全く動けない。
「クソッ、あの女!」
「運が良いの。そのまま全身をコンクリートで固めてやろうと思ったのだけれど、生憎と上手くいかなかったみたいなの。まぁ良い、このままアナタのオーバーソウルを抉り取るの」
「ふざけるなッ!」
クレアはストライマーバーストを足元に叩き付けた。一撃で地面は粉砕され至る所に欠片が飛び散るとクレアの両足も自由になる。そしてそのままデバイスをネネの横腹に叩き付けた。
だが、幼き彼女の体は吹き飛ぶ所か1ミリとて動いてない。
「そんな……」
「だから何度も言ってるの。馬鹿の1つ覚えでは我に勝てぬと」
彼女が着る黒い和服、その生地の内側にも術式が施された紙が貼られている。それに書かれた文字は『反射』であり、与えたと思われた攻撃がクレアに跳ね返って来た。
避ける事もできず、もう何度目か、ネネの傍から吹き飛ばされてしまう。
反射される自らの攻撃に受け身を取る事もできずに体が宙に浮き、巨大な柱に叩き付けられた。バリアジャケットの性能のお陰で致命的なダメージはないが、それでも戦闘を開始して時間が経過してないにも関わらず見た目はボロボロだ。
そんなクレアに追い打ちを掛けるべく、ネネは次の術式を発動させる。柱にも貼り付けられている紙。それに書かれた文字は『稲妻』。
「ぐあ゛あ゛あ゛ァァァッ!?」
「心地良い悲鳴なの。このまま蒸し焼きになるが良いの」
「クッ!」
体中に電流を流されながらも振り返るクレアは柱を斬り落とした。柱は残骸に変わると同時に発生していた電流も消る。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「全く、馬鹿力だけは健在のようなの。でもそれもいつまで続くのか見ものなの」
「そうかよ、そんなに見たいなら見せてやるよ!」
また真正面からネネに突っ込むクレア。けれども相変わらずネネの表情に汗の1つもない。走るクレアだが、次第にその動きが遅くなる。
「グッ! まだ何かあるのか?」
視界を左右に巡らし術式の書かれた紙を探す。けれども右を見ても左を見ても床を見てもない。貼り付けられているのは天井、見上げればそこに『重力』と書かれた紙があった。
「もう少しで……届くって言うのに……」
「段々と重力が重くなるの。暫くすれば立つ事もできなくなるの」
ネネが言う通り、クレアは数秒後には1歩も動けなくなる。そして次第に立つ事すら辛い状況に陥ってしまい片膝を地面に付いてしまう。
「要するに……あの張り紙が失くなれば良いんだろうが!」
魔力で形成されたストライマーバーストを伸ばす事で天井ごと斬り落とそうとするが、突如として開放される魔力が減少していく。次第にデバイスは元のレッドストライマーに戻ってしまった。
「クソッ、またかよ!」
「お主の力もここまでかの?」
「舐めてんじゃねぇ!」
力を振り絞るクレアは握るレッドストライマーを天井に向かって振り投げた。一直線に進む切っ先は狙い通り、『重力』と書かれた張り紙に突き刺さる。
「ほぅ、どうやらお主の馬鹿力だけは認めてやらねばならぬの」
「うるせぇガキが。ムカつく奴だ」
「ふふふ、精々足掻くと良いの」
「あぁ、やってやる! お前をぶっ飛ばして洗いざらい喋って貰うからな!」
ジャンプするクレアは天井に突き刺さるレッドストライマーを引き抜き、降下すると同時に叩き込む。
「ぶっ潰れろッ!」
「術式発動、アナタの視力を奪うの」
徐ろに右腕の振り袖をめくり上げる。ネネの白い腕には次の術式が書かれた張り紙が貼り付けてあり、書かれている文字は『光』。彼女の腕から強烈な光が発生しクレアの視界は白い闇に覆われる。
「なッ!?」
レッドストライマーの切っ先は床を打ち砕くだけでネネを捕らえる事はできない。そして、さっき受けてしまった強烈な光のせいで瞳孔が開ききってしまい何も視認する事ができなくなってしまった。
「フフフッ! これで暫くは何も見えないの。アナタの単調な動きと戦い方では我に勝つ事は不可能、オーバーソウルを抉り取るの!」
「言っただろ、舐めるなってな!」
ゆっくり歩み寄ろうとするネネに向かって横一閃。ギリギリの所で触れる事はなかったが一瞬肝を冷やす。
「目を奪っただけでは諦めんか、では仕方ないの。手も足も動けなくするしかないの。出よ、ゴーレム達。我の言葉に従うの」
まだ壁に貼られた紙の文字が不気味に光る。コンクリートの内側から170センチはありそうな人形の兵が現れた。コンクリートでできたソレは無骨ながらもネネの意思で自由自在に動く事ができる。だがその材質のせいで動きは非情に鈍重だ。
1歩進む度に重厚な足音が響き、神経を過敏にさせるクレアは見えないながらも存在に気が付く。
「今度は何だ? 敵が増えた……3体……いいや、4体!」
「数がわかった所で無駄なの。さぁ、あの女の手足を粉々に砕くの!」
人差し指をクレアに突き付けるネネは動き出したゴーレムに指示を与えて被害に合わないように距離を離していく。
武器すら持ってないゴーレムだが目の見えない相手では逃げ回るのが精一杯で満足に戦う事もできないだろう。そうでなくともクレアは戦闘経験が浅い。ゴーレムから反応する魔力を探知して動く事などまだできなかった。
ジリジリと近づいて来るゴーレム、それを前にして彼女はデバイスを両手で構えて臨戦態勢を取る。だが、ゴーレムはクレアを囲むようにして4方向から迫って来た。
「うらァァァッ!」
「ふふふ、適当に剣を振った所で無駄――」
ゴーレムの足音とは違う鈍重な音が響き渡る。細かな破片が飛び散り、ゴーレムの1体は地面に膝を付いた。
クレアが振り下ろしたレッドストライマーは確実に相手を捕らえ、左肩の付け根に重たい一撃を叩き込む。
「ど、どう言う事なの!? アイツ、目は見えない筈なの!」
「まずは1体!」
膝を付き動きを止めたゴーレムの頭部目掛け横一閃、頭と首が切り離され目の前の敵はボロボロに砕け散る。
クレアの視界は確かに機能していない。それでも正確に迫り来る敵の位置を把握できている。グリップを握り直すクレアは振り返ると同時に回転を利用してデバイスを振った。
「捕えた! 2体目!」
左の脇腹に叩き込まれる攻撃は一撃で胴体を粉砕した。デバイスその物の攻撃力もあるが、使用者であるクレアのデタラメな腕力による所も大きい。
目の見えない筈のクレアがここまで俊敏に動ける事にネネは動揺を隠せない。
「おかしい……おかしいの! 確かにアイツは! だとしたら何で?」
普通の人間なら視力に頼って動いてるせいでまともに戦闘などできない。でも彼女は違った。常人よりも卓越した反射神経、聞こえて来る音。肌に伝わる風と相手の匂い。
視覚以外の全ての五感を駆使する事で相手の場所を正確に掴む事ができた。
ゴーレムが1歩進む度に聞こえる鈍重な足音、揺れる床と空気。それらを感じ取り、脳の中で相手の場所を強くイメージに焼き付けてデバイスを振る。
叩き付けられる一撃はゴーレムの頭部を粉砕しまた1体撃破した。
「次でラスト!」
「な……何なの? この人間は何なの!? 不愉快な奴、もうここから逃げるの」
「逃げるだって?」
最後の1体、レッド―ストライマーを振り上げるクレアはゴーレムの右脚を斬り落とす。バランスを維持できず仰向けに倒れるゴーレム、ソレを踏み付け切っ先を胴体に突き立てるとバラバラに崩壊した。
最初とは打って変わって冷や汗を流しながら逃げるネネ。クレアは彼女の草履を足音を確かに聞く。グリップを力強く握り締め、ネネを逃さんと床を蹴った。
「追い掛けて来るの!? もう1度術式を――」
「やらせるかッ!」
脚力を駆使して一気に飛ぶクレア。右腕を前に突き出しレッドストライマーがネネの背中を捕えた。非殺傷に設定されているお陰で切っ先が肌に突き刺さる事はないが、ソレでも骨を砕かんばかりの衝撃が幼い少女に襲い掛かる。
「ぐぁッ!?」
クレアはそのまま突き進む、風を超え突風のようにして。真っ直ぐに進んだ先には壁があり、一切減速する事なくぶつかると衝撃波が。砂埃が大きく舞い上がり周囲を灰色に変える。
「はぁ、はぁ、はぁ……やってやったぞ。死んではない……筈だけど」
「ぁ……ぁぁ……」
砂埃が晴れて聞こえて来るのは辛うじて息を吐き出す少女の弱々しい呼吸。その頃にはクレアの視界も少しずつ回復し、黒い和服がズタボロになったネネの姿が見えた。
レッドストライマーを床に突き刺して無造作にネネの和服を掴み上げるクレアは彼女の視線をこちらに向ける。
「聞かせて貰うぞ。オーバーソウルってのは何だ? どうしてアタシはこんな体になってんだ?」
「ぐぅッ……アナタ、何も知らないの?」
「そうだ、だから聞いてる」
「そう……教えて上げても良いけれど……もう時間がないみたいなの」
「時間? この期に及んで何を?」
「アイツが来るの……だから、アナタにコレを託すの……」
言うとネネの体から淡い水色の球体が光りながら現れた。ソレは吸い込まれるようにしてクレアの体の中へと入って行く。
「え……」
「アナタは逃げるの、アイツが来る前に。我はここで……」
「オイ、何言ってるんだ! もっとわかるように言え!」
「オーバーソウルさえ集まればアヤツに反旗を翻す事もできると考えたが……考えが甘かったの。お前のような奴に負けるようでは……」
「訳の分からない事ばっかり言うな! オーバーソウルって何なんだ!」
「話をする暇はなの。でも……我の片割れでもあるソレがお前に教えてくれるの。後は自分で……」
言うとネネは最後の力でクレアを突き放し仕掛けてある術式を発動させた。『転送』と書かれた文字はクレアをこの空間から飛ばすとミッドチルダの元居た場所へと帰す。残るのはネネ、ただ1人だけ。
「我の人生もここまでなの……」
「うんうん! 良くわかってるね!」
いつの間に現れたのか、気が付いた時にはネネの背後に女が居た。この事態の全ての知るであろう女、メガミ・クライシス。
彼女はニタニタ笑いながら倒れ込むネネの表情を窺う。
「急にどこかに行って心配しちゃったよ~。でもおかしいなぁ? アナタに渡した筈のオーバーソウルが失くなっちゃってる。ねぇ、どうしたの?」
「ふん、どうせ我は死んだ身。生き永らえる為に貴様のような奴に飼い馴らされるのは我慢ならん」
「そんな事言っちゃうんだ。ふぅん、お母様の邪魔をするなら誰だろうとも容赦しないよ? 折角死にかけてた所を助けて貰えたのに。オーバーソウル、管理局はレリックって言ってたっけ? それさえ集まれば世界はお母様の物! ネネちゃんだって安心して暮らせる素晴らしい世界に変わるんだよ?」
「2度も言わせないで欲しいの。貴様に飼い馴らされるのは御免なの」
口では強がりを言うがクレアとの戦闘で疲弊した体でメガミに勝つ事はできない。けれどもそれが最後の抵抗。
メガミもその事がわかってか、自らの力の片鱗をあらわにさせる。禍々しい魔力の渦がこの場を支配した。
「じゃあ……お別れだね。ネ~ネちゃん」
メガミは槍状のデバイスを展開し、その切っ先を頭部に突き付けた。だが、仕掛けられた張り紙が最後の輝きを見せる。『崩』と書かれた文字は天井を崩し、大量のコンクリート片が2人に降り注ぐ。
「ッ!?」
轟音と激しい振動、舞い上がる砂煙。咄嗟に飛び退いたメガミはかすり傷すら負ってないが、ネネの姿は残骸の中へと消えてしまう。
「自分で命を絶つか……はぁ、オーバーソウルは1つ失くなっちゃうし、時間の掛かる転送魔法は使っちゃうし。どうしようかなぁ?」
目的を失ったメガミはやって来た魔法陣を通りこの空間から消えた。
心は永遠の中学二年生さんのキャラを使用させて頂きました。
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