ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
突如として眼前に出現したミクラスに、エレキングは束の間怯んだようだった。
しかし次の瞬間、勢いよく身体をひねる。一呼吸遅れて襲ってきた尻尾にミクラスは反応しきれず、地面にしたたか打ち付けられた。
二階建ての木造民家がミクラスの重量に耐えきれず圧壊する。周辺住民の避難は既に完了しているとはいえ、見ていてあまり気持ちのいい光景ではない。先日の雨でできていた水たまりに波紋が広がり、足元が滑ってアオイは泥に手をついた。
『54……53……52……』
しかしその間にも、メモリーディスプレイは限界時間を冷酷にカウントダウンしている。あと五十秒もすれば、ミクラスは緑色の粒子に再分解されて消滅してしまうだろう。そうなれば、もはやエレキングの侵攻を食い止める者はいなくなってしまう。
制服についた泥を払い、アオイは起き上がった。立ち上がる炎と煙の中に、ミクラスの姿を探す。
「ミクラス、体内放射よ!」
音声でミクラスに攻撃の指示を出すアオイ。エレキミクラスの電気特性を生かし、対象の体に直接電流を流しこむ戦法だ。
その声が届いたのか、途端にミクラスの目が開く。低いうなり声を漏らし、重々しい動きで再度起き上がった。破砕された木材や屋根瓦などが跳ねあげられる。
そして起き上がったミクラスは、先ほどと反対に俊敏な動作でエレキングの尻尾をむんずと掴む。同時に、たちまちミクラスの体表でバチバチと青白い電流がほとばしり始めた。
『――あ、ハナサカ隊員それは……』
メモリーディスプレイが通信モードになり、キノムラ隊員の声が聞こえてきたが――
アオイは、それを最後まで聞き終えることができなかった。突然、メモリーディスプレイの画面がブラックアウトしたのだ。
(え……何が)
電源ボタンを押してみたが、一向に回復する様子がない。念のためペシペシと叩いてもみたが、やはり画面は黒いままだったのでアオイはメモリーディスプレイを胸ポケットにしまった。
そしてミクラスの方に向き直る。おりしもミクラスはその身を起こし、エレキングから距離を取ろうとしているところだった。
「どうだキノムラ」
「……だめですね。おそらく二体の怪獣の電気エネルギーが反発しあい、EMPが発生したものと思われます」
しかつめらしい顔でキーボードを叩いていたキノムラ隊員が、処置なしとばかりに報告を行う。
「いーえむぴぃ」
「電磁パルスのことですよ補佐官。電子機器などの回線をダウンさせる特殊な電磁波のことです」
「そ、そのくらい知っておるわ」
端のほうでこそこそと会話を交わす補佐官と補佐官秘書を傍目に、報告を続けるキノムラ隊員。
「幸いなことにフェニックスネスト内はあらゆる電磁波の影響を受けないように設計されているため、基地内部の回線はすべて生きていますが……なにぶん、外部の回線はすべて死んでいます。復旧には最低でも二時間はかかるかと」
「……ガンサマウンターは?」
「わかりません。飛行に必要な最低限のシステムはEMPの干渉を受けないはずですが、なにぶん通信機器が軒並みダウンしているので確認のしようが」
ふん、とため息をつくハルザキ隊長。そのまま、コマンドシートに深く腰掛ける。
と、ドアの辺りできゅっと靴の音がした。その場の全員が振り向くと、一人の人物がディレクションルームに入ってくるところだった。GUYSスーツに、後ろでくくった長髪。ハナサカ隊員の姿である。
「ハナサカ隊員。マケット怪獣は、どうしたのかね」
彼女に話しかけるトリヤマ補佐官。
「え、なんのことです」
「エレキングと交戦させていたのでは?」
マル補佐官秘書が後を引き継ぐ。彼女はポンと手を打ち、「あ、ああマケット怪獣ですね! いや、実は制限時間が過ぎてしまいまして」と半ばまくしたてるように言う。
「……ふむ」
何かを思いついたような顔のハルザキ隊長。つかつかと彼女に近寄り、突然「ハナサカ。合言葉を言ってみろ」と言った。
「え、そんなもの決めましたっけ」
「お前の持ってるマケット怪獣の名前だ」
「……覚えてません」
笑顔をスッと消すハルザキ隊長。そして、いきなり腰のホルスターからトライガーショットを抜き放ち彼女の鼻先に突きつけた。
「ハナサカじゃないな。お前は誰だ――答えろ!」
「ちょ、ちょっと待ちたまえハルザキ隊長。彼女がたまたま、そうたまたまど忘れしておったというだけかもしれんではないか。それだけで彼女が偽物だと断ずるのはどうかと思うよ」
「それだけではありませんよ、補佐官。彼女の靴を見てください」
半笑いでとりなしたトリヤマ補佐官に、鋭く切り返すハルザキ隊長。
「先ほどEMPで通信系統がダウンする直前、ハナサカは屋外でエレキミクラスを使役して交戦中でした。屋外の地面は土で、さらに言うと先日の雨でぬかるんでいます。なのに、彼女の靴はきれいすぎる。これはどういうことかと思いましてね」
と、
「……うふふ。地球人にも頭の回る個体がいるのね」
そう言って、ハナサカ隊員の姿が一瞬で奇怪な異星人のものに変化した。全身を黒いスーツで覆い、巨大な赤い目が怪しい光を放っている。
異星人――ピット星人ラブランは、変身を終えると同時に携帯電話のような銀色の装置を床に転がした。たちまち青い光が漏れ出て、その場に高さ二メートル、幅一メートルほどの青いカーテン状のものを形作る。見る間にそのカーテンから、うり二つの容貌をした異星人が現れた。クロスである。
「「うふふふふ……」」
二人の異星人がそっくりな笑みを浮かべて跳躍したのと、ハルザキ隊長のトライガーショットが火を噴いたのは全く同時であった。