ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
その頃、何とか墜落を免れたガンサマウンターのコクピットで。
「サンノミヤ隊員、回線の応急処置が完了した!」
「……うん」
非常事態ということでサンノミヤ隊員に操縦権が譲渡され、イチノセ隊員はダウンした諸制御機器の復旧にあたっていた。本来であれば墜落していてもおかしくないような状態の戦闘機を飛ばし続けていられるのは、ひとえにサンノミヤ隊員の高い操縦技術によるものである。
「……ガンブラスターからガンスピーダー1をイジェクトして」
「了解。ガンスピーダー1、ガンブラスター共にイジェクションプロセスに移行。ガンスピーダー1の制御システム、遠隔操縦モードに変更しガンブラスターから独立。ガンスピーダー1、イジェクトします」
ガキン、という音がして、機体後部からガンスピーダー1が射出された。事前にプログラムされたとおりの動きで、数百メートル離れた空中でホバリングする。
「……ガンスピーダー2を、ガンブラスターへ」
「ガンスピーダー2、制御システムをガンサマウンターからガンブラスターへリコネクション。ガンスピーダー2、ローディング」
ガンサマウンターの前部にセットされていたガンスピーダー2が、後方へスライドし機体内部に格納されているガンブラスターのコクピット位置に収まる。
「……ガンサマウンターを切り離し、ガンスピーダー1をロード」
「ガンブラスター、ガンサマウンターよりイジェクト」
ガンスピーダー2が新たにセットされたガンブラスターが、抜け殻となったガンサマウンターから射出される。それと同時に、ホバリングしていたガンスピーダー1がガンサマウンターに接近していく。
「ガンスピーダー1、ガンサマウンターにローディング」
画面の中で、最適コースをとったガンスピーダー1がガンサマウンターに収納された。
「制御システムをオートパイロットモードに変更」
その言葉と同時に、ガンサマウンターが降下を始めた。危なっかしい動きながらも、順調に高度を下げていき、やがて近くにあった小学校の運動場に砂埃を舞い上げながら着陸した。
なぜわざわざガンサマウンターからガンブラスターに乗り換えたのか。
それは、運動性能が通常時の40%まで落ち込んでいる現在のコンディションでは、普通なら避けられるような攻撃でも被弾する可能性があるからである。機体の重量を少しでも減らし無用なリスクを回避するというのがサンノミヤ隊員の考えであった。
「ガンサマウンターの着陸を確認」
操縦桿を右へ倒すことで、その返事に代えるサンノミヤ隊員。方向を転換したガンサマウンターの前方には、激しく争いあう二体の巨大怪獣の姿が。
周辺の空気が、びりびりと震える。地上付近では、台風に等しいほどの風速で風が吹き荒れていた。
ミクラスは、その二本の角から青白い電流を発射していた。しかしその攻撃は、ちょうど二大怪獣の中間地点でもう片方の電流――エレキングが発するものに遮られ激しくスパークしていた。その様子は、まるで雷がぶつかり合っているかのようだ。
両者の攻撃は押しつ押されつしながらも、均衡を保ち続けていた。どちらも一歩も引かず、それゆえに電流のぶつかり合いがさらに激しさを増す。弾き出された一筋の電流が近くのテレビ等に落ち、火花を散らした。
しかし、時間が経過するにつれて次第にエレキングの側の電流が細くなっていくようにアオイには見えた。先程までは激しかったスパークも、だんだんと少なくなってきている。エレキングの電撃の威力が落ちているのだろうか。
(どうしてだかは分からないけど、これはチャンス!)
そう考えたアオイは、
「ミクラス! そのまま一気に押し切るのよ!」
と叫んだ。
その言葉と同時に、ミクラスの側の電撃がいっそう激しさを増した。エレキングは崩しかけた体勢を何とか立て直すが、一度怯んだせいで反撃の糸口は見えない。次第に電撃のぶつかり合う位置が、両者の中間地点からエレキングの側へと移動していく。またエレキングの電撃はますます弱々しくなっていき、当初は雷のごとき激しさだったものが今では糸のような細さにまでなっている。
アオイはミクラスの勝利を確信した。ただ、彼女が忘れているものがあるとすれば――マケット怪獣はメテオールであるということ。EMPによってメモリーディスプイレイが使い物にならなくなっていたため無理もないが、ミクラスがリアライズしてからすでに57秒が経過していた。
そして、ミクラスの電撃がエレキングをあと一歩まで追い詰めた、その瞬間。
いきなりその巨体が、緑色の粒子となって崩壊した。
マケット怪獣を生成している高分子ミストは原理上は数時間にわたって同じ形状を維持し続けることができるのだが、メテオール規約に沿うものにするためにその崩壊開始時間を一分とするよう手が加えられている。
マケット怪獣の生成そのものはフェニックスネスト周辺の高分子ミスト供給機によって行われるが、その後の形状維持・崩壊の過程は完全にマケット怪獣側で行われている。そのシステムのおかげで今回のEMPでもマケット怪獣が制限時間より早く崩壊しはじめたりすることはなかったのだが、過去にはマケット怪獣を強化しようとして高分子ミストを改良した結果、実体化実験でマケット怪獣が一分を経過しても崩壊しないという事故が起こったこともあった(ちなみにこの実験で実体化されたのはゴーストロンであったため、CREW GUYSが通常の対怪獣戦と同様の手段で殲滅し強制的に崩壊させることに成功した)。
自らをギリギリまで追い詰めていた目の前の敵が突如消失し、エレキングはあたりを見回すように首を二、三度左右に振った。しかし数秒後には、そんなことなど頭から綺麗に消え去ったかのように、口から三日月形の怪光線を放ち始める。眼前の高層ビルの下層部に着弾し、ビルは自重で崩壊していった。粉塵と、ビルの内部から撒き散らされた書類が舞い散る。
その光景を間近で視認していたアオイは、ただただ歯噛みするしかなかった。
「サンノミヤ隊員、奴の周辺の磁場が弱くなっている。今なら、スペシウム弾頭弾を打ちこめるかも――」
「……たぶん、無理。赤外線誘導システムは結構脆弱なの」
「だが、試してみない事には――」
「……でも、至近距離で発射すればほぼ確実に命中する。ガンブラスターの引こうシステムの耐久性に賭けてやってみる価値はある、と思う」
「……了解! メテオール規約第七条、危機的状況において、使用許可を取る事が不可能な場合のみ、特例として解禁す――パーミッション・トゥ・シフト・マニューバ!」
ガンブラスターの鋭角的なノーズが左右に分かれ、両翼上部のイナーシャル・ウィングが展開するとともに機体が黄金色の光に包まれた。微妙な気流の変化や慣性などの影響を最大限に受ける形態であるため、同時に機体が前後左右にぶれ始める。
『60……59……58……』
ナビゲーションシステムの無機質な音声が、制限時間を刻み始める。
「ファントム・アビエーション、スタート!」
イチノセ隊員の言葉と同時に、サンノミヤ隊員が操縦桿をグッと前方に倒す。不規則にコースを変化させながら、エレキングに向かって接近していくガンブラスター。
クルーズモードのガンブラスターであれば、弱まっているとはいえエレキングの磁場に突入して無事では済まない。しかしなんとか飛行を続けていられるのは、オーバーテクノロジーであるメテオールのなせる業だ。もちろん人類にとっては未知の技術であるため、磁場の影響を受けて最悪機体が粉々になる可能性もないではなかった。しかし、イチノセ・サンノミヤ両隊員は賭けたのだ――状況が好転すると信じて。
こちらに向かって突き進んでくる小型戦闘機に対しエレキングが次々と怪光線を吐く。しかしマニューバモードのガンブラスターにとっては、そんな攻撃など止まっているも同然。一つ、また一つと的確にかわし、ついにガンブラスターはエレキングの懐に潜り込んだ。
「スペシウム弾頭弾、ファイア!」
空中大サーカス。