ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
最初のほうこそ互角の戦いをしていたハルザキ隊長だったが、次第に劣勢に立たされてきていた。何せこちらは一人で向こうは二人。おまけにディレクションルームにいるのはキノムラ隊員とトリヤマ補佐官にマル補佐官秘書だけとなれば、ろくな援護も見込めない。おまけに入れ替わり立ち替わり攻撃を仕掛けてくる二人の異星人は、顔も同じなら動きの連携も取れており、防御に回ると同時に攻撃に出るなどという離れ業さえ楽々とやってのけるのだ。
そんなわけで、ハルザキ隊長は二人のピット星人によって次第に壁際まで押し込まれていった。トライガーショットはとっくに蹴り飛ばされ、数メートル離れた床の上に転がっている。キノムラ隊員もオペレーションシートからトライガーショットを構えているものの、隊長を誤射する危険を恐れてか発砲できないでいた。
赤い方――ラブランの足を刈ろうとするが、黄色い方――クロスに、出した足を押さえられる。そのまま抑えられた足を軸にもう片方の足で今度はクロスの顔面を狙うが、それはラブランに両手でやすやすとキャッチされた。両足をつかまれた状態で宙に放り投げられ、壁にしたたか肩を打ちつけるハルザキ隊長。反撃の糸口など、ほんのわずかも見えない。
今度はクロスがハルザキ隊長を後ろから羽交い絞めにし、ラブランがその腹部に蹴りを入れ始めた。一撃一撃が重く、打ちこまれるたびに顔が苦痛に歪む。
「くっ……そぉ……」
と、その時。
ハルザキ隊長の頭上数十センチの地点で、緑色の粒子が弾けた。それは瞬く間に、小さな怪獣の形を形成していく――リムエレキングだ。
ハルザキ隊長に五発目の蹴りを入れようとしていたラブランは、リムエレキングの出現に明らかに戸惑ったようだった。それはそうだろう、そのマケット怪獣の姿かたちは、自分たちが操る巨大生物に酷似していたのだから。
一瞬の虚を突かれたラブランに、次の瞬間完全に実体化を終えたリムエレキングは思い切り電流を浴びせた。たまらずのけぞるラブラン。その異形の口から、断続的な悲鳴がほとばしる。
銃声が一発。ハルザキ隊長から離れたため、キノムラ隊員がトライガーショットの一撃をラブランの頭部に叩き込んだのだ。あやまたず脳の中心を撃ち抜き、ラブランは何かを考える前に即死した。
同時に、これを好機と見たハルザキ隊長がクロスを振りほどく。しかし、クロスは双子の姉妹の轍は踏むまいと考えたのか、低い姿勢で床を転がり――
そして、ハルザキ隊長のトライガーショットを構えた。
ハルザキ隊長に狙いがつけられているのを見て、キノムラ隊員はラブランを撃った姿勢のままで硬直した。トリヤマ補佐官とマル補佐官秘書はオペレーションデスクの下に頭を抱えて逃げ込んでいる。
「変な動きを見せたら、即座に隊長さんを射殺するわ。さあ、武器を捨てて」
クロスの脅迫にやむなく屈し、トライガーショットを慎重に床に置くキノムラ隊員。それを見てクロスは満足そうに頷き、クルーたちの方を見たままじりじりと扉に向かって下がり始めた。
両開きの扉が、人の接近を感知してゆっくりと開いてゆく。しかしセンサーが検知したのはクロスではなく――
ディレクションルームの外にいた、アオイだった。
超人的な速さで振り向くクロス。そのまま、流れるような動作で奪ったばかりのトライガーショットを構える。
対するアオイも、負けてはいない。開いてゆく扉の向こうに醜悪な宇宙人の姿を認めるなり、ホルスターからトライガーショットを抜き放った。
まったく同時に、相手に向かって突きつけられる二つの銃口。一瞬の静寂を経て――
閃光、そして轟音。
吹き飛んだのは、クロスの方だった。胸の左側――人間でいえばちょうど心臓に当たる部分を正確に撃ち抜かれ、衝撃でその身体がディレクションルームの壁に叩きつけられる。胸に開いた風穴から煙を上げながら、地球侵略を企んだ宇宙人は二、三度痙攣してこと切れた。
「ハナサカ!」
名前を呼ばれて、あわててトライガーショットを下すアオイ。視線を宇宙人の死体から上げると、ハルザキ隊長やキノムラ隊員が駆け寄ってくるところだった。
「大丈夫か、ハナサカ」
「は、はい。……それより隊長こそ!」
よく見れば、ハルザキ隊長は唇の端などから血がにじんでいる。あわててハンカチを出そうとするアオイを「俺は大丈夫」と手で押しとどめ、そしてその肩にポンと両手を置いた。
「よくやった」
「あ……ありがとうございます」
遅れて、机の下に逃げ込んでいたトリヤマ補佐官とマル補佐官秘書も這い出てきた。部屋の隅に転がっている宇宙人の死体を見て、「うひゃぁ」などと悲鳴を上げている。
「そうだ、怪獣は!?」
「後ろを見てみろ」
ハルザキ隊長にそう言われて、後ろを振り向くアオイ。そこには、煤や泥にまみれながらも笑顔でVサインを出している三人の仲間――イチノセ、シンドウ、サンノミヤの三人の隊員たちの姿があった。
「解析の結果、今回の侵略を企てた宇宙人は過去に記録されていない宇宙人であることが判明しました」
戦闘の後処理を終え、ディレクションルームではキノムラ隊員が全員に向かって報告を行っていた。二、三枚ほどの紙を綴じた資料を全員に配るキノムラ隊員。
「ただ、宇宙怪獣エレキングを使役していたこと、人間の女性に変幻自在に姿を変えていたこと、また円盤の形状などから、あの二体の宇宙人は四十九年前に同じく地球侵略を企てたピット星人の同族であると思われます。現に、四十九年前に出現した個体の体組織と今回の個体の体組織を比較分析したところ、DNAに当たる部分の構造が一致。総本部に申請したところ、今回の個体にもピット星人のレジストコードが与えられることとなりました」
紙パックのジュースをストローで飲みながら資料をめくるアオイ。
「また、使役されていた宇宙怪獣エレキングですが、前回の個体が自分で電流を精製していたのに対し、今回の個体は自然の電気を体内に貯蓄して利用していたことがわかりました」
シンドウ隊員が手を挙げる。
「……どういうことだ? 別に今日は、雨なんか降ってなかっただろ」
「いえ、今日の話ではありません――数日前に豪雨が降りましたよね。あの日、木曽谷のあづま湖に不自然な落雷が集中しました。おそらくこれがエレキングの仕業で、数日前から湖底に潜伏し電気エネルギーをため込んでいたのでしょう」
何かに気づいた様子のアオイ。
「じゃあ、エレキミクラスとの戦闘でだんだんアイツが弱くなってったのは……」
「体内に貯蓄していた電気エネルギーが底を尽きかけていたんでしょう」
「あー。じゃ、あたしがあと数秒早く電撃合戦に持ちこめてたら勝ててたかも、ってことかー」
韜晦するアオイ。ストローを引き抜いて、紙パックを潰し始める。
「そして、調査班があづま湖の湖底で興味深いものを発見しました」
資料を一ページめくるように促すキノムラ。
「これは……」
顔に絆創膏を貼ったハルザキ隊長が、驚いたような声を上げた。
「うげぇ」
「何これ、気持ち悪い」
シンドウ隊員とアオイの言葉が、資料に添付されている写真の性質を如実に表していた。
いくつかの区画に分けられた透明な容器の中に、白濁した液体が半分ほど入っている。そしてその中には、醜悪な細長い魚のような生き物の姿が。
「これは?」
「解析の結果、この容器はエレキングの培養装置であることが判明しました。この中に入っている六体の生物は、すべてエレキングの幼態です」
ハルザキ隊長の問いに答えるキノムラ隊員。
「これが全部成体になったりしたら、日本は!」
椅子を蹴立てて立ち上がるイチノセ隊員を押しとどめ、
「サンプルを一体残して、他の個体はすべて焼却処分されました。またそのサンプルも地下の収納庫で三重の隔壁に守られて冷凍状態にされています」
と続けた。
「……ただ不可解なのは、ピット星人はなぜこれがすべて成体になるのを待たなかったのか、ということです。先ほどイチノセ隊員が言った通り、これがすべて成体になっていたら現在のGUYS JAPANの戦力では相当な苦戦を強いられるはずです。ピット星人円盤と思われる未確認飛行物体が地球に飛来したのはわずか一週間前のことですから、遅くともあと一週間待てば全ての個体が成体になったはずです。どうしてそれだけの時間も待てなかったのか……」
一人考え始めるキノムラ隊員。と、その背後の大型スクリーンが突如起動し、白いツナギを着て首に赤いスカーフを巻いた初老の男の顔が映し出された。間髪を入れず、大声がスピーカーからあふれ出す。
『今回の出撃担当はどこのどいつだ! ただでさえデリケートなマニューバモードでこともあろうに磁場なんかに突っ込みやがって、おかげで機体はガタガタだぜ』
迫力のある声にすっかり気圧されるクルーたち。そんな中、ハルザキ隊長だけは苦笑しながら、
「まあそう言わんでやってください、アライソ整備長」
『おう、ハルザキ。お前隊長に就任したって挨拶以来一度も顔見せないじゃねえか、ガンブレイバーも色々いじったんだから今度乗りに来い』
「任務で調査に行く機会があれば、是非」
『お前しか乗らねえんだからよ、あのバイク。……で、どいつだ』
恐る恐る手を挙げるイチノセ・サンノミヤ両隊員。
『お前たちか。今すぐドックに来い、整備屋の苦労ってもんをみっちり叩き込んでやる』
「まあ、いい勉強の機会だと思って行ってこい。あれでなかなか、アライソ整備長は面白いものを見せてくれるぞ」
「隊長まで……」
げんなりした声を上げるイチノセ隊員。
それをよそに、アオイは考えていた――ピット星人が急いでいたのはひょっとしたら、
次回予告
GUYSのレーダーが日本上空に謎の高エネルギー反応を感知。調査に向かったCREW GUYSのメンバーたちの前に現れたものとは――!?
『第3話 異次元の歪み』