ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
登場
その1
五十メートルはあろうかという小山のような巨体が、跡形もなく爆散する。
それをガンブラスターのコクピットから目視していたシンドウ キョウイチは、ほっと安堵のため息を漏らした。
『スペシウム弾頭弾の全弾着弾、並びに目標の撃破を確認。これより帰投する』
レシーバーからのハルザキ カナタ隊長の声に、「GIG」と答え、操縦桿を右に倒す。
先ほど殲滅した怪獣はドキュメントMATにも記録の残る古代怪獣ダンガーで、ここ最近出現した怪獣としては比較的倒しやすい部類に入るものであった。特殊な能力などは持っておらず、現にガンサマウンターとガンブラスターの二機による威嚇射撃で足を止めたところを、スペシウム弾頭弾で粉々にされるというあっけない末路だった。
既定のポイントをほとんど動くことなく作戦を終了させることができたため、帰投コースを検索する必要もない。行きと同じコースをたどればよいからだ。今回は楽な仕事だったな、と思いながらガンサマウンターに合体し直すべく操縦システムを切り替えていると、コンソールの画面に突然女性の顔が映し出された。GUYS JAPAN総監代行のミサキ ユキ女史である。
『先ほどの古代怪獣ダンガーの出現を受け、GUYS JAPANは二か月前の磁力怪獣アントラーの出現からを無期限で第五次怪獣頻出期とすることを決定しました。また、これに伴いGUYSジャパン管轄区域及び隣接区域の防衛レベルがSに引き上げられます』
シンドウは――それに後部座席のサンノミヤ アカリ隊員も――思わず、ごくりと唾をのんだ。確認はできないが、恐らくガンサマウンターに登場しているイチノセ ジン隊員も同じだろう。
怪獣頻出期認定は、怪獣や宇宙人の出現が二カ月間にわたって一週間に一体以上の割合で確認された場合にのみ行われ、これまでに四度発令されている。
一度目は1966年1月の古代怪獣ゴメスと古代怪鳥リトラの出現に端を発し、1968年9月のゴース星人の大規模侵略でいったん収束。しかし二年半後の1971年4月に凶暴怪獣アーストロン・オイル怪獣タッコング・ヘドロ怪獣ザザーンの三体同時襲来を皮切りとして、約四年間にわたり日本は巨大生物と侵略者の脅威に悩まされ続けた。これが第二次怪獣頻出期である。
その五年後から一年間にわたって発令された第三次怪獣頻出期の収束とともに、各国政府はGUYSを設立。その後はただの一度もその役目を果たすことなく時が流れたが、十年前――2006年4月、二十五年ぶりに宇宙斬鉄怪獣ディノゾールがGUYSスぺーシーの防衛ラインを突破し日本に降下。エンペラ星人の地球侵攻が終息するまでの一年間、第四次怪獣頻出期が発令された。
その後もたびたび怪獣や宇宙人は現れたがどれも散発的なものであり、ここ十年というもの怪獣頻出期宣言は発令されなかった。しかし、ここにきての第五次怪獣頻出期認定――これはとりもなおさず、怪獣たちが今後もこのペースで出現し続ける可能性が高いことを意味する。
しかしこれまで、怪獣頻出期に際しては同時に必ずといっていいほど、遠くM78星雲から飛来した巨大宇宙人――ウルトラマンが、地球の守りについていた。
第一次怪獣頻出期の半ばから初めて人類の前にその姿を現した初代ウルトラマンに、彼が去って数ヵ月後に現れたウルトラセブン。第二次怪獣頻出期の地球をほぼ一年ごとに交代で守り抜いたウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウにウルトラマンレオ。第三次怪獣頻出期において、怪獣や宇宙人を相手に一度も敗北を喫さなかったウルトラマン80。そしてシンドウたち第四次怪獣頻出期世代にとっては初めて目にすることとなった光の巨人、ウルトラマンメビウス。彼らはいつも、怪獣頻出期の始まりに地球に降り立ち人類の危機を救ってきた――ここまでは、戦後日本史の教科書に必ずと言っていいほど記載されている基本事項である。
しかし。
今回の第五次怪獣頻出期においては、いまだにウルトラマンの出現が確認されていない。表向きこれまで地球の平和は、当時の防衛組織が守ってきたことになってはいるしそういうケースも確かに存在はするが、しかしやはり現在の日本の平和はウルトラマンたちの活躍に負うところが大きかったのだろう。
そして市民の中には、いやGUYSの内部にも、『怪獣が出現した場合、はたして防衛組織はウルトラマン抜きで地球を守りぬけるのか』という議論は古く第一次怪獣頻出期の頃からなされてきた。そしてどうやらその懸念は、現実のものとなりつつある。
もちろんここまでの二カ月、怪獣たちを退けてきたのは紛れもないCREW GUYS JAPANの新隊員たちである。その点では、自分たちは栄光の先輩たちにも引けを取らないと自負してもいる。しかし、その成果をこれからも出し続けられるかというと――それは甚だ怪しい、とシンドウは思った。
彼らの戦いは勝つための戦いではなく、勝ち続けるための戦いなのだ。
例えば。
今まで怪獣の殲滅に当たっては、強大な威力を持つスペシウム弾頭弾が多用されてきた。事実これで仕留められなかった怪獣はほとんどいないため、確かに威力は折り紙つきだ。
しかしスペシウム弾頭弾は、その名の通り弾頭に火星で採掘された高純度のスペシウムを搭載している。火星―地球間の輸送や鉱石からのスペシウムの精製、その威力を兵器として使用可能なまでに引き上げる作業――どれをとっても、莫大なコストが掛けられているのだ。しかもその高価な兵器を、一回の戦闘で六本も使用するときている。今までの怪獣頻出期では、怪獣のとどめは主にウルトラマンたちがさしていたため一年あたりの使用総数はそう多くはなかった。しかしこの二カ月というものすでに消費数は五十本に近づき、しかもその数は現在進行形で増え続けている。すでに国会では防衛予算拡充の動議が提出されたらしいが、ああいうものは概して時間がかかるものだ。
(予算が出る前にGUYSがミサイルの一本も撃てないようになったら、どうなっちまうのかね)
心の中で皮肉を吐くシンドウ。しかしその注意は、一度はフェードアウトしたはずの総監代行の顔が再びモニターに現れたために、コンソールに向けられることとなった。
深刻な表情をした総監代行が、口を開く。
『――先ほどGUYSジャパンのレーダーが、東京都上空一帯に次元の歪みを観測しました。詳細はいまだ情報不足のため判断が困難ですが、発生時に観測された電磁波の波長などから、ドキュメントTAC、ZATおよびGUYSに記録されている異次元人ヤプールの異次元空間への扉が開いたものである、との見方が有力視されています』
異次元人ヤプール。
かつて第二次怪獣頻出期に、怪獣を上回る強力な生体兵器――超獣をこの世界に送り込み、当時地球防衛の任についていたウルトラマンエースや防衛組織TACを幾度となく窮地に陥れた強敵である。ウルトラマンエースでさえも完全に消滅させることはできなかったと目されており、その後活動が確認されていなかったのはウルトラ兄弟によって神戸沖に封印されていたからだということが近年判明した。しかし第四次怪獣頻出期に襲来した宇宙人連合によって封印が解かれ、再び異次元からの侵攻を開始。
だがGUYSは、異次元物理学者フジサワ アサミ博士の協力もあって行次元への扉を半永久的に封じるメテオール『ディメンショナル・ディゾルバー』を開発。ミサイル超獣ベロクロンの妨害を受けながらも、ウルトラマンメビウスとともに超獣の出現経路を完全に絶つことに成功した――はずだった、のだが。
『どういうことですか、総監代行。異次元への扉は、ディメンショナル・ディゾルバーによって完全に閉ざされたはずですが』
ハルザキ隊長が怪訝そうな声で尋ねるのがスピーカーから聞こえてくる。それに対して淡々と答える総監代行。
『原因は調査中です。しかし、問題はそこではありません。
歪みが発生した際に、付近を航行中だった輸送船メドラーが原因不明の引力により、異次元空間内へと吸収されてしまいました。CREW GUYSは、直ちに歪みの調査及び輸送船の救出に向かって下さい』