ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
登場
その1
――何も違わないはずなのに、何かが違っているような気がする。
隊員寮の一室でオレンジ色の制服に袖を通しながら、ハルザキ カナタはそう思った。そう、昨日までと何も違わない。
その制服の、襟の色が白色であること以外は。
フロントジッパーを勢いよく引き上げる。今日初めて着用する隊長用の制服は、まだ少し硬かった。
(しかし……初めてフェニックスネストのディレクションルームに立った十年前のあの日は、まさか自分がCREW GUYSの隊長職に就くことになるとは思ってもみなかったな)
そう思いながらロッカーの扉を閉め、ドアのロックを解除してカナタは廊下へ一歩足を踏み出した。
GUYSとは、Guards for Utility Situationの略で、ニューヨークに本部を持つ地球防衛組織である。第三次怪獣頻出期の終わりに当たる三十五年前に当時の防衛組織UGMが発展的解散を遂げたのち、各国が協力して創設。その結成には現GUYS JAPAN総監が深く関わっているとの噂もある。
主要国に置かれたGUYS USAやGUYSチャイナ、宇宙防衛の要であるGUYSスペーシー、広大な面積を持つ南極の防衛に携わるGUYSアンタクティカなど様々な支部を持ち、そのなかでも実働部隊として活躍するのが精鋭・CREW GUYSである。
結成後は長期間にわたって怪獣や宇宙人の出現が一切確認されず、GUYSライセンスもただの資格と化していた。しかし十年前に宇宙斬鉄怪獣ディノゾールがGUYSスペーシーの防衛網を突破、日本に降下。
当時のCREW GUYS JAPANの隊員たちはアイハラ リュウ隊員ただ一人を残して全滅。誰もが破滅を予感した時、
銀色の身体に赤いライン。金色に光る眼を持つその巨人を、人々はこう呼んだ。
「――ウルトラマン!」
かつてこの
現在では怪獣や宇宙人の襲来回数はゼロではないものの、四度の怪獣頻出期に比べれば幾分落ち着いている。
廊下の突き当りでちょうど停まっていたエレベーターに乗り込み、カナタはボタンを押した。最上階のディレクションルームまで直通なので、階数表示などは特にない。
静かな駆動音とともに、一瞬身体が浮き上がる感覚があった。
十年前に研修隊員だったころのカナタは、かなりひねくれた性格だった。
輸送艇『ガーベラ』が宇宙人から受けた急襲によって父を失い、母も心の迷路にさまよいこんでしまっていた当時。その影響から、彼は地球からウルトラマンを含むすべての宇宙人を追い出すことを夢などと呼んではばからなかった。
けれどそんな彼に、転機が訪れた。
当時のCREW GUYSの隊員だった、ヒビノ ミライという青年との出会いである。
その正体は、当時地球防衛の任務に就いていた宇宙警備隊のルーキー、ウルトラマンメビウスの人間態。当時のカナタは、宇宙人であるウルトラマンが人間に擬態しCREW GUYSの一員として暮らしていることを知り、驚きと敵愾心を持ったものだった。人間と異なる姿を持ち、異なる環境に住む彼らが人間と同じメンタリティを持っているはずがない、と。他のCREW GUYSのメンバーがそのことを知りながらも、彼を人間と変わらず扱っていることもその憎しみの一因となっていた。
しかしそれは、間違っていた。
あれほど強大な力を持つウルトラマンだって、嬉しい時は笑顔を浮かべ、悲しい時は涙を流し、時には怒りに燃え、時には失意に打ちひしがれる。ヒビノ隊員は、カナタにそのことを教えてくれたのだった。
カナタがCREW GUYS JAPANに正式配属されたのは、エンペラ星人事件が一応の終結を見せ、メビウスが地球を去った数か月後の事だった。カナタが研修時に世話になったメンバーの大半はそれぞれの道に進んでいたが、アイハラ隊員だけはCREW GUYSの隊長に昇格していたのである。以前はカザマ マリナ隊員あたりに『熱血バカ』と呼ばれて半ば呆れられていたものだが、そのころにはすっかり落ち着きのある頼れる隊長となっていた。
その後、アーマードダークネス事件などを経てカナタも経験を積み、つい一月前の人事異動で念願かなって隊長職に就くこととなったのだった。
九年間にわたってCREW GUYS JAPANの隊長を務め続けたアイハラ隊長は、その功績を買われGUYSスペーシーへ転属となった。宇宙人や宇宙怪獣の侵入に際して最初の防衛線となるGUYSスペーシーは地球防衛の要であり、同時にもっとも外的との交戦回数の多い部隊でもある。けれどもアイハラ隊長なら、宇宙戦闘でも変わらぬ活躍を見せてくれるだろうとカナタは考えている。
カナタと同時にCREW GUYS JAPANに配属された同期たちも、今回の人事異動でGUYSオーシャンやGUYS USAなどの各支部へ配属され、日本支部に残留するのはカナタだけとなった。その穴を埋めるために、今日付けで新隊員たちが配属されてくる予定である。
エレベーターが最上階に到着し、ドアが開く。折れ曲がった廊下を進むと、すぐ先に大きくGUYSマークがペイントされたディレクションルームのドアがあった。思わず足を止めてしまう。
九年もの間毎日見慣れた光景ではあるが、いざ自分が隊長となって、ここで指揮を下す立場となるかと思うと、やはり少し気おくれがする。
迷いを打ち消すように頭を振り、一歩踏み出して自動ドアをくぐると――。
そこには、五人の若い男女がいた。
皆それぞれ椅子に座っていたが、カナタの制服を見るなり一様に立ち上がった。『隊長』だから仕方ないものの、これは話がしにくいなとカナタは思った。
「イチノセ ジンです! よろしくお願いします!」
ビシッという音がしそうな敬礼をしたのは、コマンドシートの右端に座っていた短髪の若い男。肩肘張った様子で、若干きまじめすぎるきらいがあるかもしれない。
「次は俺か? ――えー、シンドウ キョウイチっつーもんです。シンドウは進むに藤の花、キョウイチは京都の京に数字の一って字を書きます。趣味は……ゲーム、かな? よろしくっス」
イチノセの隣に座っていた男は、対照的にかなり大雑把な性格のようだった。言葉遣いもラフだが、オレンジ色の制服の前を止めずに羽織るように着ている。
「……サンノミヤ アカリ」
コマンドシートの左側に一人で立っていた背の低い女は、それだけ言って椅子に座った。腰まで届きそうなロングヘアーが顔を見えにくくしているのと、ぼそぼそした話し方で陰気そうな印象を受ける。
「えーと、その、キノムラ ヒデオといいます。これからどうぞ、よろしくお願いします……」
前側のオペレーションシートに陣取っていた男は、中性的な容姿も相まって気弱そうだった。これはディレクションルームに常駐かな、と内心考えるカナタ。
「ハナサカ アオイでーす! よろしくお願いします、だね!」
最後の一人は、語尾にハートマークでもつけかねない、活発そうな女だった。頭を振るたびに、尻尾のようなポニーテールがぶんぶんと揺れている。
全員の自己紹介が終わったらしいことを確認して、カナタは一歩前に進み出た。
「今日から君たちと一緒に戦うことになる、隊長のハルザキ カナタだ。よろしく!」
一話目はハルザキ隊長以外は新メンバーばかりですが、次回はのっけからあの人とあの人が出ます。それからすっかり総監が板についたあの人も。