ウルトラマンメビウス -The Day After-   作:高月

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その3

 ガンスピーダーの格納庫は、何重もの防護隔壁に守られたフェニックスネストの中央部にある。床に靴音を反響させながら、カナタたちは格納庫内に駆け込んだ。

 無機質な金属隔壁を、青白い光が照らしていた。その中央に、乗用車ほどの大きさをした三機のビークルが鎮座している。カナタはガンスピーダー1(機種に赤色のペイントがなされている)のキャノピーを押し上げ、コックピットの後部座席に滑り込んだ。

「イチノセ、お前は前だ」

「GIG!」

 イチノセも前部座席に入り込む。シートベルトを締めながら、メモリーディスプレイをコンソールにセットするカナタ。駆動系統のランプが光り、『WELCOME TO GUN SPEEDER』と無機質な音声が流れる。

 五メートルほど横では、シンドウとサンノミヤが同じくガンスピーダー2(こちらは黄色のペイント)に乗り込んでいた。

「イチノセ、手順はわかってるな?」

 十年前から愛用している、ファイヤーパターンがペイントされたグローブを両手にはめながら聞く。使い始めたときは少々気恥ずかしかったものだが、最近はお守り代わりになっているのだから不思議なものである。

「もちろんです!」

 キャノピーが空気の抜けるような音とともに閉じた。各駆動系等のスイッチを順番に入れていくカナタとイチノセ。

 と、ガクンという振動があってガンスピーダー全体が横方向へ動き始めた。格納庫の床がスライドしているのだ。

「ガンスピーダー1の発進準備完了です、隊長!」

「よし。シンドウとサンノミヤ、そっちはどうだ?」

 無線を介して隣のガンスピーダー2に呼び掛ける。「……準備完了」とサンノミヤの声。キャノピー越しに、シンドウが親指を立てているのも見えた。

 スライドが停止し、機体前方の格納庫扉がゆっくりと開き始めた。そのさらに前方には、ガラス越しに青空が見えている。

 やがて、ズン、という重低音とともに扉が開き終わった。レシーバーから、シンドウが「ガンスピーダー、バーナーオン!」と叫ぶのが聞こえた。

 二基のエンジンに青色の光が点り、隣のガンスピーダー2が前進を始めた。エレベーター上で停止し、直後にフェニックスネスト最下層まで運ばれていく。

 数秒後にエレベーターが元の位置に戻ってきて、ガンスピーダー1の両脇に設置されている誘導灯が緑色に光った。準備完了、の意である。

「イチノセ!」

「はい! ……ガンスピーダー、バーナーオン!」

 イチノセもレバーを力いっぱい押し込む。静かに前進を始めるガンスピーダー1。

 エレベーターの上でつかの間停止し、直後に自由落下に近いスピードで降下。フェニックスネストの最下層まで到達すると、真っ暗なパッセージチューブを通り地上の戦闘機へ向かって一気に射出される。

「ガンスピーダー、ローディング!」

 火花を散らしながら戦闘機――ガンサマウンターの内部に収まるガンスピーダー1。ガンフェニックス状態のガンローダーと同じく、この位置からでは外は見えない。

 前部座席のイチノセが、ふぅ、と溜息を漏らしたのが聞こえた。

 

 

 カナタが入隊したころのCREW GUYSは、怪獣や宇宙人の殲滅には主として統合攻撃戦闘機ガンフェニックスが運用されていた。そもそものきっかけは第四次怪獣頻出期の先駆けとなった宇宙斬鉄怪獣ディノゾールが当時のCREW GUYSを壊滅に追いやったことで、優先的に日本支部に配備されたという背景がある。そして日本支部の対怪獣戦で満足のいく成績を収めたため、他の支部でも配備されるようになったのだった。

 しかし第四次怪獣頻出期の終息から数か月後に起こったアーマードダークネス事件では、当時日本支部に配備されていたガンウィンガー二機とガンローダー一機を損失(ガンウィンガーは二機とも大破、残るガンローダーもエンペラ星人が地球に残していった宇宙船ダークネスフィア内に取り残されてしまったのである)。日本支部はガンローダー一機とガンブースター一機を残すのみとなり、『これからさらに強大な怪獣が出現したときのために』という名目で当時の最新鋭戦闘機ガンサマウンターが配備されることとなったのだった。もっともその後は怪獣の出現も数か月に一度にとどまり、仮にガンウィンガーを補填していたとしても十分に対応は可能だったとは考えられている。

 

 ガンサマウンターの灰色の機体は大まかに言えば台形の先端に細長い二等辺三角形を取り付けたような形状をしている。この戦闘機を初めて見たとき、カナタはウルトラ警備隊の主力だったウルトラホーク一号を連想したものだった。

 旧CREW GUYSのガンローダーと同じく二機のガンスピーダーを収納することができるが、最大の特徴は何といってもその分離機能だろう。機体後方に埋め込まれている形の二等辺三角形型の小型戦闘機が分離することで、攻撃機動における敏捷性を格段にアップさせることが可能なのだ。この小型戦闘機は『ガンブラスター』と呼ばれている(ガンスピーダーを二機必要とするのはこのためである)が、合体時も二機を合わせて『ガンサマウンター』と呼ぶのがガンフェニックスと異なる点だ。

 

 

『機体チェック完了。システム、オールグリーンっス』

「ガンサマウンターへのシステムリンク、完了。いつでも行けます!」

 発進準備完了を告げる声が、耳に飛び込んでくる。カナタはグローブに包まれた指を一度大きく動かし、そして叫んだ。

「ガンサマウンター、バーナーオン!」

『GIG!』

 シンドウがエンジン点火用レバーを押し込んだらしく、途端に下向きの巨大なGが体にかかり、体がシートに押し付けられる感覚があった。ふと前部座席に目をやれば、イチノセが歯を食いしばっているのが見える。レシーバーからも『うぐぅ……』とシンドウたちのうめき声が漏れてきた。無理もない、シミュレーションや簡易タイプの練習機は散々経験していても、実戦で使われている機体に乗るのは彼らにとってこれが初めてなのだ。

「みんな、頑張れ! 戦闘機動になればこれよりさらに大きいGがかかるんだ!」

「GIGぃ……!」

『……ガンサマウンター、発進!』

 シンドウの声とともに、複合攻撃戦闘機ガンサマウンターは成層圏へ向かって加速した。

 

 

 

「……もうすぐのはずなんだけどな」

 三十分後。95000mを示す高度計を睨みながら、カナタはそうつぶやいた。各国GUYSは高度100㎞のカーマン・ラインを地球大気圏と宇宙空間の境目に設定しており、ここを通過すれば宇宙怪獣は日本支部の管轄となる。

 レーダーには少しずつ降下してくる緑色の光点がはっきりと示されているが、ガンサマウンター内部に収納されているカナタたちのガンスピーダー1からはカメラ映像からでしか外界を知ることはできない。必然、ガンスピーダー2に搭乗しているシンドウとサンノミヤの目視確認に頼らなければいけないわけだが……。

『隊長、来ました!』

 突如、レシーバーからシンドウの声が響いてきた。どうやら目標を視認したらしい。

「ガンブラスター、イジェクトの準備!」

 クルーたちに指示を出すカナタ。

「ガンブラスター、イジェクションプロセスに移行します」

『ガンサマウンター、同じくイジェクションプロセスに移行』

 コンソールの画面にガンサマウンターの平面図が表示された。中央部分に黄色く表示された二等辺三角形が、ガンブラスターを表している。

 ゴオォォ、と、先ほどまでのガンサマウンターのものとは違う重低音が響いてきた。ガンブラスター側のエンジンが始動し始めたのである。

「制御システム、ガンサマウンターから独立。異常ありません」

『ガンサマウンター、イジェクトの準備完了っス』

「よし……ロック解除だ、イチノセ」

「GIG! ガンブラスター、イジェクト!」

 イチノセがボタンを力いっぱい押し込むと同時に、巨大な衝撃がカナタたちに伝わってきた。キャノピー越しに見えるガンサマウンターが、急速に前方へ離れていく。イジェクト完了だ。

 と、右前方に黒っぽい物体をカナタは捉えた。あれが件の宇宙怪獣に違いない――と思っている間にも、物体はどんどん大きくなっていく。こちらへ向かって降下してきているのだ。

「……こちらハルザキ。キノムラ、ハナサカ、見えてるか?」

 無線でフェニックスネストの二人に連絡を取るカナタ。もちろん、過去に出現した宇宙怪獣と照会するためだ。肉眼ではまだ怪獣の細部までは見えないが、ディレクションルームではカメラ映像を拡大してすでに解析を始めているはずだ。

『み、見えてます。現在ドキュメントを検索中……あ、ありました』

『ドキュメントSSSP(スリーエスピー)に、同種族を確認。レジストコードは磁力怪獣アントラー』

「仕事が早いな、二人とも。……特徴は?」

『地面にアリジゴクのような巣を掘って待ち構え、クワガタのような顎で獲物を絞めあげるとありますねぇ』

『煮え切らない怪獣っスね。どっちなのかはっきりしてほしいもんです』

 軽口を叩くシンドウ。

「他に特徴は、ハナサカ?」

『えーと、あとは顎の付け根あたりから磁力光線を出します。あまり近づかないようにしてください』

「あまりってどれくらいなんですかね……」

 ボソリとつぶやくイチノセ。もっともな疑問だが、ドキュメントに記録されていないのだからないものねだりをしても仕方がない。

「しかし厄介なのは、シルバーシャークGにも耐え切ったあの装甲の固さだな……」

 呟くカナタ。シルバーシャークGは現在ガンブラスターに搭載されている中で最も威力の高い武装、スペシウム弾頭弾と同等かそれ以上の威力を持つ兵器である。このまま攻撃を敢行しても奴を倒せるかどうかは心もとない。

『かといって何の努力もせずに奴を市街地に降ろすわけにはいかないっしょ、隊長?』

 レシーバーからシンドウの声。その言葉で、カナタも心を決めた。

「……そうだな。ガンサマウンターは高度を下げ、ホバリングして待機。ガンブラスターが威嚇射撃を行い誘導するから、メーザーキャノンで奴の大顎を正確に狙え。細い部分は多少なりとも脆いはずだ」

『GIGぃ。ガンサマウンター、降下します』

 ガンブラスターと並行して上昇していたガンサマウンターが、反転して視界から消えた。下方で射撃体勢を整えるためである。

「イチノセ、俺達は狙撃手のもとへ獲物をおびき寄せるための囮だ。できるか?」

「できます……やります!」

「いい返事だ。行け!」

 イチノセがレバーを力いっぱい押し込むと同時に、体にかかるGが数倍に膨れ上がった。急上昇して霞む視界の中で、アントラーの姿が見る見るうちに大きくなっていく。

「発砲を許可する!」

「ウィングレットバルカン、ファイア!」

 翼端部の機銃が火を噴き、アントラーの外皮の上で火花が弾けた。




 オリメカ・ガンサマウンター登場!
 ワンダバに一話の半分も費やすってどうなのと言われそうですが、初登場回ですしそれに好きなんだから仕方ありません。
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