ウルトラマンメビウス -The Day After- 作:高月
宇宙怪獣 エレキング
登場
その1
薄暗い宇宙船の中。
赤や青の光が絶え間なく点滅し忙しない印象を与えるが、静寂に包まれている。中央には金属でできたテーブルのようなものがあって、そしてそこには二つの人影が腰かけていた。
いや――人影、というのは正確ではない。なぜなら、その影たちの頭部は人間のものとは似ても似つかない醜悪な形状をしていたからだ。
土気色をした奇妙な肌に、虫のような口。二対の小さく丸い目が怪しげな光を放っている。服装は全身を覆う身体に密着した黒一色の宇宙服。
そのうちの片方――目を赤く光らせている影が、ざらついた声で話し始めた。
「計画に変更の必要はなさそうね、クロス」
それに応じる、クロスと呼ばれた黄色い目の影。二つの影は、目の色以外にほとんど相違点が見当たらない。
「地球の環境が若干悪化しているみたいだけど、それは今回の計画には関係ないし。――そうよね、ラブラン?」
「ええ。幸いなことに、現時点で地球には宇宙警備隊員がいない。侵略するなら今ね」
「でも、GUYSという防衛組織が地球を守っているそうよ」
「あんなもの、脅威でもなんでもないわ。
「それもそうね。彼女たちが死の間際に送ってくれたデータもあるし」
「そう。GUYSなんて、取るに足らない虫けらよ」
二つの影がふふふっ、と不気味に笑う。
おもむろに、テーブルの端のボタンを操作し始める赤い目の影。するとテーブルの中央に透明な球状のガラス容器が現れた。薄く白濁した液体で満たされていて、その中で
「容器も手狭になってきたし、そろそろ屋外に放してもいい頃ね。数日で成体になるわ」
「いくら地球の貧弱な防衛組織といっても、さすがに私たちだけで相手にするのは少しばかり面倒だものね。――頑張るのよ、エレキング」
容器の中から金属質の奇怪な鳴き声が一度、響いた。
「これ何ですかぁ、補佐官」
ディレクションルームのコマンドデスクに広げられた、GUYS JAPANの隊内誌を見て、ハナサカ アオイは思わず素っ頓狂な声をあげた。横合いから覗き込んでいる他の隊員たちも、一様に何とも言えない微妙な表情を浮かべている。
「ワシに聞かんでくれたまえ。最近の若いもんが考えることはさっぱりだ」
「広報班が、若い年齢層にGUYSのことをもっと知ってもらおうと企画したそうです。ご存じの通り、ライセンスは十六歳から取得できますので」
微妙な表情を通り越しいっそ苦虫を噛み潰したようなとでも形容できる表情を浮かべたトリヤマ補佐官の横から、マル補佐官秘書が注釈を入れた。
月に一度発行される隊内誌ではその月のGUYS JAPANの行事予定などが主に掲載されているが、コラムなどのページもそれなりに充実している。そして今月号のある一ページには、アニメチックな絵柄で描かれた、牛のような模様の服を着た女の子のイラストが掲載されていたのである。
「しかも何ですか、リムエレキングって」
「
コマンドシートに腰掛けてキーボードを叩いていたハルザキ カナタ隊長が、視線は動かさずに答える。その言葉と同時に、緑色の光をまとって当のリムエレキングがコマンドデスク上に出現した。その頭を撫でるアオイ。きゅぅ、とかわいらしい鳴き声があがり、彼女の顔がほころぶ。
「いや……ハナサカが言いたいのはそういうことじゃなくて、どうしてこの女の子の絵にリムエレキングって説明書きがついてるのかってことじゃないですか」
半ば呆れたような顔のイチノセ ジン隊員。妙に低い物腰で、マル補佐官秘書がそれに答える。
「最近流行りの擬人化という奴だそうです。マスコットキャラクターにもテコ入れが必要だとかで」
「なんでですか、可愛いじゃないですかリムエレキング。どうしてわざわざ人間にする必要が」
「だから最近の若い者の考えは分からんと言っただろう。どこが良いのか」
「いや、割とかわいいっスよ。これはこれで」
シンドウ キョウイチ隊員は対照的に腕組みをして口笛まで吹いている。「……こういう男向けってことじゃないの」と呟くサンノミヤ アカリ隊員。
「……あれ、そういえばキノムラ隊員はどうしたんです」
イチノセ隊員の言葉で、全員が顔を上げてあたりを見回す。
「ほんとだ。さっきまでいたのに」
「キノムラなら、そろそろ帰ってくるはずだ」
あいかわらず画面から顔を上げずに答えるハルザキ隊長。「さっき、ある物を取りに行かせた」と続ける。
と、不意にディレクションルームの扉が開き大きなアタッシュケースを抱えたキノムラ隊員が入ってきた。日ごろ運動というものをあまりしていなさそうな彼には少々過酷すぎる任務だったのか、足をもつれさせている。
「ご苦労、キノムラ」
アタッシュケースを床に置いてばったりと倒れ込むキノムラ。アオイたちがそのアタッシュケースに我先にと殺到する。
「わぁー」
アタッシュケースから取り出した緑色のカプセルを手に取り、歓声を上げるアオイ。カプセルの中には、怪獣の形を模した緑色の物体が収められていた。他の隊員たちもそれぞれにカプセルを取り出し、様々な角度から眺めている。
「GUYSの主要メテオールのうち一つ、マケット怪獣だ。非常時のために、各隊員はマケットカプセルを一つ常備しておくことが義務付けられている」
いつの間にかクルーたちの後ろにハルザキ隊長が立っていた。「そうなんですか?」と、アオイ。
「おかしいな……最近の専科の講義では習わないのか?」
「いやぁ、その。あんまり真面目な生徒じゃなかったもんで」
ばつが悪そうにえへへと笑うアオイ。ほかの皆も、イチノセ隊員とぶっ倒れているキノムラ隊員以外は露骨に目をそらす。自分だけではなかったので、アオイは内心ほっとした。
「さぁて、どれにしようかな」
再びカプセルを選ぶ作業に戻るクルーたち。ほどなくしてシンドウ隊員が「あ、俺これにするっス! なんか強そうだし」と一つのカプセルを手に取った。内部の怪獣は、スマートな人型の体系に二本の細い角、胸部に二つの球体となるほど確かに強そうだ。
それを見たハルザキ隊長が一言、「ああ、ゼットンはやめておけ」と言った。どうやらこの怪獣、ゼットンという名前らしい。
「どうしてっスか」
「最初の実験で不具合があって暴走した怪獣なんだ。さいわいリアライズ前のシミュレーション実験だったから人的被害は出なかったが、フェニックスネストのサーバーを中心としてGUYS JAPANのネットワークに甚大な被害を及ぼした。――そうですよね、補佐官?」
「そ、そそその通り! だからその、使用するのはワシとしてもあまりお勧めはせんというか、その……」
なぜか落ち着きをなくすトリヤマ補佐官。
「もちろんそのあと不具合は即座に修正されたし、さっきシンドウが言ったようにかなり強力な部類に属する怪獣でもあるから貴重な戦力だ。ただ、万が一ということもあるから通常は実戦に投入することはしない。投入することがあるとすれば――」
「すれば?」
「――状況がこれ以上悪くなりようがない事態、GUYS JAPAN壊滅の危機くらいかな」
至極大真面目な顔で、さらっとそんなことを言う隊長。もっともこの人は冗談を言うときでも顔が真面目なままなので、即座に判断がつきかねることがままある。
「ま、そういうわけだからシンドウ、お前はこっちにしておけ」
代わりに別のカプセルを手渡すハルザキ隊長。
「同じゼットンでも、こいつはドキュメントMATの個体だ。
「いやっスよ。なんかこいつデブだし」
なるほど各部のパーツの配置は先ほどの個体に似ているものの、彼の言う通り太っているし全体的にかっこ悪い。
「じゃあ僕はこのバキシマムとかいうのにしよう」
「……アリゲラで」
周りを見れば他のクルーたちもめいめい自分のカプセルを選んでいたので、アオイはアタッシュケースの端っこに入っていたカプセルを選んだ。ゼットンのスマートさはないが、尖った角や強面の顔などがこれまた強力そうな怪獣である。
「それはエレキミクラスですね」
横合いからマル補佐官秘書が口をはさんできた。
「エレキミクラス」
「はい。ウルトラセブンが使役していた怪獣ミクラスに、ネロンガやエレキング、エレドータスなどの電気怪獣の情報をプラスし強化改造を施したものです。ミクラスはGUYS JAPANが初めて実戦投入した記念すべき第一号のマケット怪獣なんですよ」
「そうなんですか」
最初に投入されるくらいならかなりの戦力だったのだろう。そういうとマル補佐官秘書は微妙な顔をしたが、アオイは気にせずそのカプセルを上着のポケットにしまった。