ウルトラマンメビウス -The Day After-   作:高月

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その2

 翌日、GUYS JAPANの隊員寮の一室で。

 アオイは目覚まし時計の騒々しいサウンドで叩き起こされた。そばに置いてあるスマホを見ると、時刻は午前六時一分。彼女はスマホのアラームではどうしても目覚めることのできないタイプなのである。

 勤務の開始時刻は八時三十分なのでもう少し寝ていても問題ないのだが、ぐずぐずしていると食堂が人でいっぱいになってしまう。アオイは、朝食は一人で静かに摂りたいタイプなのである。

「ふわぁ……」

 あまり人には見せられないような顔で大きなあくびを一つして、ベッドから降りる。少し迷って、いつもは下ろしている髪を今日は後ろで縛り、ポニーテールにしてみた。化粧は最低限で済ませる。

 全GUYS隊員共通の制服である青いシャツの上から、行動隊専用のオレンジのジャケットを羽織る。ちなみにCREW GUYSの女子の制服は一応スカートもあるのだが、屋外戦闘などがざらにあるのでアオイは常時パンツスタイルである。というか、スカートなどという実用性皆無のものを履く隊員がいるのだろうかとアオイは疑問に思った。

 隊員寮の廊下に出てしばらく歩くと、突き当りにライフルを持った警備員が二人詰めている部屋がある。アオイは軽く敬礼して、メモリーディスプレイを電子ロックにかざしドアを開錠した。

 部屋はさほど広くはないが、壁面にずらりとならんだそれ(、、)が、厳重な警戒の理由を物語っている。CREW GUYS隊員が所持する多機能レーザーガン、トライガーショットだ。勝手に持ち出すと警報機が作動するため、アオイは再度メモリーディスプレイをラックの電子ロックにかざし、すばやくトライガーショットを引き抜く。ラックにはほかにもいくつか空きがあったので、アオイより早く起きた隊員もいるらしい。

 警備の隊員にもう一度敬礼して、アオイは武器庫を出た。

 

 

 

 その頃、隊員寮から五百メートルほど離れたGUYS JAPANベースの四番ゲートで。

 ゲートを一歩入れば軍事機密の塊ともいえる施設が広がっているため、当然ながらここにもライフルを持った警備員が二人配置されている。そのうち一人は、絶対数の少ない女性だった。彼らは実動隊CREW GUYSのメンバーには及ばないながらも、訓練を受けている隊員たちの中ではかなりの実力を誇っている。

 と、そのうちの一人――ゲートの右側に立っていた男性警備員の目が、まだ薄暗い一本道に誰かがいるのを捉えた。しかも、こちらへ向かって歩いてくる。

 こんな早朝に来客の予定はなかったはずだが、もしや久しぶりの不審者か――などと警戒しつつライフルを構える両手に力を込めるが、はたして顔のつくりが分かるほどまで近づいてきた誰か(、、)は十三、四歳ほどの少女の姿をしていた。黒いワンピースのような服を着ていて、身長は平均的。まさかこんな少女が天下のGUYS JAPANベースに押し込もうとするわけもあるまい、と思い警備員は警戒を緩めた。

 やがて彼女(、、)は二人の警備員たちの数メートル手前で立ち止まった。右側の警備員が、「ここはGUYS JAPANの基地です。何かご用でも?」と、一応は礼儀正しく尋ねる。

 果たして彼女(、、)は、

「うふふふふ……」

 と含み笑いをして、また歩き始めた。

 これを見てさすがに二人の警備員も、ライフルを交差させ「ここから先は、立ち入りはご遠慮願います」と言った。一応は電子ロックのかかったゲートがあるが、それをものともしない重武装した輩が襲撃してくる可能性だってゼロではないので常時こうやって警備員が置かれているのである。

「うふふふふ」

 彼女(、、)はまたもおかしそうに笑い、そして――

 突然、右側の警備員に回し蹴りを放った。ワンピースのスカートがくるりと奇麗な円を描き、たまらず彼は数メートルほど宙を舞う。人間としては考えられないほどの威力の蹴りである。彼は地面に叩きつけられライフルを取り落とした。

 もう片方の女性の警備員は、非常事態と見て距離を取りそのまま両手に持ったライフルを構えた。CREW GUYS隊員が所持しているトライガーショットと同じくいくつかのタイプの弾丸を使い分けることができるが、警備員たちが相手をするのは主に人間であるため通常は実弾モードに設定されている。他の弾丸は高出力のレーザーなど、主に巨大怪獣に使用するために作られたもので人間相手に使用すると一撃で跡形もなく吹き飛ばしてしまうほどの威力なのだ。

 とはいえ人間大の相手であれば、ライフル弾は充分に脅威たりえる。しかし彼女(、、)はまたも笑みを浮かべ、次の瞬間駆け出した。女性警備員があわててライフル弾を放つも、その弾丸は背後のコンクリート壁に弾痕を抉っただけに終わった。

 一瞬で距離を詰めた彼女(、、)は前転して警備員の足元にもぐりこみ、ライフルを蹴りあげた。しかし警備員はすでに自分の手から離れた得物には頓着せず、つぎの瞬間太腿のホルスターから大振りのナイフを引き抜いた。

 刃渡りは二十センチから三十センチほど。かつて防衛組織MACの隊員が常時携帯していたマックナイフと同型のもので、近接戦闘においては使い勝手の良い武器だ。警備員はそのナイフを、彼女(、、)めがけて突き出す。紙一重でかわされ、切り取られた長い黒髪が数本宙を舞った。

 腹部に強い衝撃を受け、警備員は数歩後退した。すかさず体勢を立て直し、今度は固めたこぶしを正面に突き出す。こんどは彼女(、、)はよけようとはせず片手でそれを受け止めたが、警備員はその腕を軸にしてぐるりと彼女(、、)の後ろに回り込んだ。すかさずもう片方の手に握ったナイフを彼女(、、)の頭めがけて切りつけるが――切りつけた感触がない。

 見れば、先ほどまで十三、四歳ほどに見えていた彼女(、、)が、いつの間にかそれよりもう少し幼い姿に変化していた。当然それに従い、身長もより低くなっている。

(彼女の身長が縮んで、それでナイフが当たらなかった?)

 そう考えて一瞬動きの止まった警備員を、次の瞬間元の姿に戻った彼女(、、)の強烈な蹴りが襲う。やはり地面に叩きつけられた彼女は、そしてぴくりとも動かなくなった。

 

 彼女(、、)はそこでまた「うふふふふ……」と笑い、女性警備員のポケットから身分証のようなものを引き抜いてゲートのほうへ歩き出す。

 と、ちょうどその足元で最初に攻撃を受けて地面に伏していた男性警備員が、傍らのライフルを構え彼女(、、)に向かって上向きに狙いをつけた。この位置であれば、少々距離を取ろうとも余裕で命中させられる。

 しかし彼女(、、)はなおも笑みを絶やさず、そして――

 その姿が突然、先ほどの女性警備員のものに変わった。思わず引き金に掛けようとした指を止める男性警備員。

 次の瞬間、彼の意識が断絶する直前に見た物は、自分の顔に向かって振り下ろされてくる黒い靴だった。

 

 止める者のいなくなった彼女(、、)はゲートへ向かう。先ほど女性警備員から奪った身分証をゲートの電子ロックにかざし、解錠。そして彼女(、、)は、悠々とGUYS JAPANベースに侵入を果たした。

 

 

 

 その頃、GUYS JAPANベースから二十キロほど離れた木曽谷の山中で。

 木々が生い茂るなか、ある湖のほとりにくすんだ金色をした多角形の巨大な円盤のようなものがひっそりと隠されていた。どう見ても地球の乗り物ではないので、これは宇宙人が乗ってきたものなのだろうか。さいわいあたりにはひと気がなく、その円盤は誰に見られることもなく静かに姿を隠すことに成功していた。

 と、その円盤の下部からタラップのようなものが降りてきて、そこから誰かが飛び出してきた。黒いワンピースを着た、十三から四歳の少女の姿……彼女はGUYS JAPANベースを襲撃したものと全く同じ姿かたちをしていた。

 飛び出してきた彼女(、、)は着衣が濡れることもいとわず、湖に駆け込んでゆく。腰まで水が達したあたりでたちどまり、そして、

「行くのよ、エレキング! GUYSの基地を破壊するのよ!」

 と大声で叫んだ。

 その声に呼応するかのように、突然湖面が盛り上がる。一瞬後、大音響とともに水しぶきがはじけ散った。その向こうにかすかに見える、白と黒の異形の姿――そして金属質の奇怪な鳴き声が、木曽谷一帯に響き渡った。

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