もしあの時、彼女の方が落ちていたら(完結)   作:ファルメール

2 / 2
第02話 筋肉>魔法

 

 その後、色々あって鎮死剤を手に入れる為、良太と寧子は製薬会社の工場へと忍び込む事となった。

 

 しかし、問題が一つ。

 

 予知の魔法を使う佳奈が見た未来では、沙織という強力な魔法使いが現地で待ち伏せしているとの事だった。

 

 寧子達がBランク以下の魔法使いであるのに対して、沙織はAAランク、しかも二つの魔法を使えるハイブリッド。真っ向勝負では寧子達に勝ち目は無い。よって、どうにかして沙織をやり過ごして鎮死剤を回収して逃げ出さなければならなかったが……

 

 だが、あらかじめ立てた作戦通り進まないのが現実というもの。

 

 工場で、良太は沙織と対峙する羽目に陥ってしまっていた。

 

 沙織が使う魔法は「斬撃」。

 

 その名の通りどんなものでも切断する力。沙織の周囲6メートル圏内であれば、意志一つを引き金としてノーモーションで如何なる物でも切り刻んでしまう。

 

 しかも、この状況で良太はばっちり6メートルの制空圏に入ってしまっていた。

 

 万事休す。

 

 斬撃の魔法が発動する。

 

 音も光も無く、万物を両断する破壊の力が解き放たれて……

 

 しかし、良太は健在だった。

 

 学生服の胸元は確かに切られてはいるが、その下の肉体は全くの無傷。装甲板のようにたくましい大胸筋が、露わになった。

 

「切れ……ない?」

 

「粗塩を肌にすり込んである」

 

「え……あ、粗塩?」

 

「古の時代のベアナックルボクサー達は、そうして切れにくい肌を完成させたらしいぞ」

 

「あ、粗塩……? そ、そんなもので私の魔法が防がれるなんて……?」

 

「まぁ、魔法なんて非科学的なものがあるんだから、非科学的なものでそれが防げたって不思議じゃないだろ」

 

 探せば、重曹で呪いの穢れが落ちたりする世界だってあるかも知れない。

 

「さて、戦力分析は終わったか?」

 

「うっ……」

 

「なら逆立ちしたって、勝てない事が分かっただろう。察しの通りだ。俺はお前の遙か上にいる。お前はつまらん」

 

 言うが早いか、良太の右ストレートが沙織の顔面に決まって、沙織は床と水平に空を飛んでいって窓をぶち破って落ちていった。

 

 こうして邪魔者を排除した良太と寧子は、鎮死剤を回収して工場を脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 それからまたしばらくして、寧子の仲間で「操網」の魔女であるカズミと「転位」の魔女である小鳥が転校してきた。

 

 しかし、カズミが持っていた無線機に連絡が入る。

 

 仲間のシノが、刺客の魔女に追われて助けを求めてきたのだ。

 

 早速現地に駆けつけた良太と寧子であったが、運悪くその刺客の魔法使いと鉢合わせてしまった。

 

 刺客の名前はキカコ。沙織より上のAA+の魔法使いである。

 

 使う魔法は「砲撃」。

 

 それがどんなものなのか、良太と寧子はすぐに目の当たりにする事となった。

 

 キカコの口が開き、牙のように尖った歯が露わになる。

 

 そして口元に小さな光が生まれて、その光球は徐々に大きくなっていき……

 

<あかん!! 村上、寧子!! 逃げろ!! あんなん受けたら、戦車かて一発で吹っ飛ぶで!!>

 

 サポートしているカズミが、怒鳴り声を上げた。

 

 数秒のタイムラグを置いて、光球からは光線が発射される。

 

「悲しいぜ。俺はたかが戦車と同じ評価かよ」

 

 その光線は真っ直ぐ良太に向かっていって……

 

 直撃。

 

 そして爆発。

 

「村上くん!!」

 

 寧子が、悲鳴じみた叫びを上げた。

 

 山をも削る威力が、生身である良太に直撃したのである。これでは良太は、もう……

 

 否!!

 

「ビームが細すぎるぜ。そんな光線じゃ俺を殺れんよ。大型の肉食獣をショットガンじゃ仕留められんようにね」

 

 爆煙を踏み越えて、制服こそはボロボロになっていて細かい傷はあちこちに付いているが、しかし重傷などは全く負っていない良太が姿を現した。

 

<「「……う、うそぉ」」>

 

 この時ばかりは敵も味方も。

 

 この場に居ないカズミも、傍で見ていた寧子も、攻撃を行ったキカコも、全員の感想が一致した。

 

「攻守交代」

 

 良太はその丸太のような腕を水平に掲げ……そして思い切り振る!!

 

 猛スピードで走るトラックが正面衝突したかのような衝撃がキカコを襲い、彼女の体は小石の如くすっ飛んだ。

 

 そして湖に突っ込んで、まさしく小石のように数回水切りして沈んでいった。

 

「え、えーと……」

 

<あー、うん、寧子……色々言いたい事があるのは分かっとるけど……取りあえず今はシノを助けて天文台に戻ってこい>

 

 

 

 

 

 

 

 またしばらくすると今度は「視憶」と「操憶」の魔法を使う奈波がやってきた。

 

 目を見た人間の記憶を読み取り、更に記憶を操作する力で周囲の人間に良太は殺人鬼だという記憶を刷り込んで襲わせた奈波であったが、良太はその全員を軽くのしてしまうと、そのまま奈波を取り押さえてしまった。

 

 その後、天文台に連れ帰って話を聞いてみたが……奈波自身は寧子やカズミに恨みがあったり人質を取られている訳でもなく、ビーコンによるハーネストの遠隔操作で殺されない為にやって来たという事だった。

 

「……つまり、そのビーコンさえ無ければお前が俺たちをどうこうする理由は無いんだな?」

 

「……それはそうだけど、でも無理よ。少しでもセンサーで異常を感じたらイジェクトされるのに……」

 

「なら簡単だ」

 

「え?」

 

 グシャ!!

 

 言うが早いか、良太は指でビーコンを握り潰してしまった。

 

 パラパラと、破片が床に落ちる。

 

「え、あの……」

 

 あまりにもあっさりと、自分の命を縛っていた時限爆弾が解除された事に奈波は呆然としている。

 

「あー、やっぱりこうなったか……」

 

 呆れたように頭を掻きつつ、苦笑いしながらカズミが出てきた。

 

「……あなた、驚かないのね?」

 

「村上の筋肉が凄いのにはもう慣れたわ。同じように、沙織やキカコもビーコンを破壊して助けたしな」

 

「けど、どうするカズミ? また人数が増えた訳だから、一人分の鎮死剤がまた少なくなるよ?」

 

 これは少し前に合流してきた「再生」の魔法使い初菜の発言である。何やら魔法使いが大勢集まっているのを聞きつけて、この天文台までやってきていたのだ。

 

「あー、うん。色々考えてたんやけど……」

 

 ちらりと、寧子や沙織、キカコとも視線を交わして頷き合うカズミ。

 

「……これもう、こっちから研究所に乗り込んで鎮死剤のレシピを見つける方が良いんとちゃうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 奈波が視憶の魔法で読み取った黒服の記憶から、研究所の場所は簡単に割り出せた(ちなみにその黒服は、今でも城を眺めながら定時連絡を入れる仕事に従事しているだろう)。

 

 結論としては、襲撃は順調に行われていた。

 

 魔法使い達の研究所である「ヴィンガルフ」は、内部の魔女達が反乱する事は想定していてそれを鎮圧する為の装備やマニュアルは充実しているようだったが、外部から攻撃される事は想定していないようだった。

 

 そして攻め手には、AAランク以上の魔法使いが3人も居るのだ。

 

 鎮圧の為に出て来た警備員達は、奈波と目を合わせた瞬間に記憶を書き換えられて無力化され。

 

 対魔法使い用の兵器は、沙織の斬撃とキカコの砲撃によって次々と潰されていく。

 

 途中に魔法の力が使えない区画などもあったが、そこは良太がパンチで隔壁を破壊するなどして対応した。

 

 更に内部に囚われていた中で力を持った魔法使い達もこの機に乗じて反乱した。ヴィンガルフは内と外から同時に攻められる羽目に陥ったのだ。

 

 この分なら、まんまと鎮死剤のレシピを見付けれて逃げおおせるかと思っていたが……しかし、最大の問題が起きた。

 

 レシピを手に入れ、魔法使い達の避難誘導も順調に進んでいたが……良太達の前に、この研究所の責任者である九所長と、地下区画に封じられていたSランク魔女であるヴァルキュリアが立ちはだかったのだ。

 

「やってくれたな。お前達のお陰で私の計画は滅茶苦茶だ。こうなった以上は、1107番……鷹鳥小鳥だけでも返して……」

 

 そう言って拳銃を向けてくる九であったが……

 

 良太は無造作に近づくと、ポンと彼の頭に撫でるように手を置いた。

 

「?」

 

「バカだぜあんた」

 

 ベシャアッ!!

 

 良太はそのまま、九を”折り畳んで”しまった。

 

 これは比喩表現でも何でも無い。

 

 机の上に置いたコップの上に新聞紙を被せて、その後でコップを抜いて新聞紙がコップの形に盛り上がった部分を叩き潰してペシャンコにするように、上から圧力を掛けて高さ20センチ程度にまで圧縮してしまったのだ。

 

 当然と言うべきか、九はぴくりとも動かない。

 

「いやああああ!! 千怜!!」

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたヴァルキュリアが魔法でアンチマターを作り出そうとするが……

 

 それよりも早く、良太のパンチが彼女の顔面にキマッた。

 

 そのまま頭部を床に叩き付け、カートゥーンアニメのように全身をビィィィーンと硬直させて地面に突き刺した。

 

 再生の魔法も使うヴァルキュリアだが、動き出す様子は無い。どうやら完全に倒したようだ。

 

「あー……やっぱりこれからは魔法より筋肉の時代やな……」

 

「うん……私、帰ったら筋トレ始める事にする……」

 

「それよりカズミ、首尾は?」

 

「上々やで。鎮死剤の製法と……それに小野寺って奴が研究していた孵卵をコントロールする技術についてのデータも手に入れた。これでウチら全員、孵卵のリスクを気にせずに生活できるで」

 

「よし、それじゃあ帰ろっか」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、私達魔法使いに関する事件は終わりました。

 

 研究所から逃げ出した魔法使い達は、カズミちゃんが魔法で当面の生活資金と戸籍を用意して、今はみんな幸せに暮らしています。

 

 佳奈ちゃんはあの後、予知の魔法を捨てて自由に体を動かせるようになりました。今はリハビリに励んで、二学期からは学校に行けるように頑張っています。

 

 カズミちゃんは最近、筋トレに凝るようになりました。村上君と一緒に居る時間が増えたように思えて……時々私の魔法が暴発するようになりました。

 

 初菜ちゃんは、村上君の友達の高屋君とお付き合いするようになりました。本人は否定しているけど、この前二人っきりで映画館に行く所を小鳥ちゃんが目撃しました。その後、ホテルに連れ込まれそうになったそうですが……

 

 小鳥ちゃんは、凄く真面目に学生生活を送っています。そして週末にはいつも、友達だった千絵ちゃんのお墓参りに行っています。

 

 奈波ちゃんは、視憶や操憶の魔法を使って、学校の生徒や近所の人達のお悩み相談を受け付けるカウンセラーを始めました。今では沢山の友達が、彼女の周りに居ます。

 

 あの後、村上君のお父さんやマキナやロキって変なのが現れましたが、全部村上君がボコボコにしてしまいました。

 

 私は、最近健康維持を兼ねて筋トレを始めました。でも、村上君のヘリコプターに付けた鎖をお腹に巻き付けて踏ん張るトレーニングはどうかと思います。私には魔法を使っても真似出来そうに無いです。

 

 一度村上君に「何食べたらそんな体になるの?」と聞いた時、村上君はこう答えました。

 

「愛以外に人を強くするものなどあるものか」

 

 ……私には、まだよく分かりません。

 

 まぁ、色々ありましたが兎に角今、私達は鎮死剤切れにも孵卵にも怯える事の無い、平和な日々を送っています。

 

 どうか、こんな時間がいつまでも続きますように。

 

(黒羽寧子の日記より、抜粋)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。