大泊爽の一件を見てもらえば分かるように、俺達は一種のサイコパスだ。勿論、自覚的なサイコパスなんていないのだから、もっと簡単に異常性癖者と言っても構わない。
爽はカニバリズム。つまりは食人性愛。人を食うことに対して性的興奮を覚える、という性癖の持ち主だ。何が腹立つかと言えば、爽はその自らの顔面を活かして、或いは相手を誑かして、相互同意の上でその行為を行っている。
何が不気味かと言えば、爽は大抵の場合、狙った獲物を確実に食らっているということだ。――実に恐ろしいとは思わないか。
「人の為に自らの血肉を分け与える。女ってのは、いや――アイツは同性も食ってるのだから――人間ってのは全く訳が分からないな」
理解不能。理不尽で非理屈的で、無茶苦茶。だから、オレは人間が恐ろしい。怖くて、怖くて、仕方がない。
「……ッ、だから、そういう目で見るなって言ってんだろうがッ!!」
蹴り飛ばし、殴り飛ばし、更に蹴りつける。
喉を既に潰している為、悲鳴すらも悲鳴の元になるのだろう。痛いのだろう。しかし、それでもコイツが悪いのだ。
「俺を裏切りやがってッ! お前だけは俺を裏切らないって言ってくれただろうが!」
執拗に、最早理由なんて関係なく、ただひたすらに彼女への、もとい人間への不信感を、苛立ちを、全て吐き出し、吐きつける。
「……はぁっ、はぁっ、今度は目を潰そうか?」
必死に首を振る彼女を、しかし遠慮なく殴りつける。首を掴んで、そのまま投げ飛ばす。
「……っ、あぁ……、またやっちまった」
彼女は壁に頭を強く強打したらしく、壁にべったりと、これまでの彼女達と同じように赤い縦の線を描いて、意識を失った。――恐らく、このまま彼女は死ぬのだろう。
「だから、嫌なんだよ」
弱い。か弱く、そして肉体的にも精神的にも、弱い。彼女は、いや、人間は。そしてだからこそ、人間は徒党を組み、あらゆる危険を排除する。
例えば、自分とは違う、異質な同種を、簡単にいえば同性愛や異常性癖、それにサイコパスに、そして先天性後天性どちらにせよの肉体的障害、精神的障害を持つ人間。どれもこれも、自分が生きていく上で枷になりそうな存在を、排除していく。
なんて醜く、なんて穢らわしいのだろう、人間は。しかし、とそれでも俺が人間を心底嫌うことなく、爽や硝子、菜香達と話せるのは、――美しいからなのだろう。
「ああ、でも、やっぱり、美しいなぁ……」
見惚れてしまうくらいに、美しい。
頭の大きさ、首の太さ、肩のライン、腕の太さに長さ、手の大きさ、指の数、指紋に手相、腹部や肋骨の浮き出るライン、胸に性器、足、太もも、膝、足の形、くるぶし。何を取っても、俺は人間の形というものを美しいと思っている。
中身がどれだけ醜悪であろうとも、外見はどんな人間であっても、どんな他の生物よりかも圧倒的な美しさを醸し出している。
だから、俺は人間が分からない。どうしてその美しさで、俺を含めここまで醜くなれるのだろうか、と。怖い。怖い。恐怖だ。何もかもが分からない。
だから俺は人間になど性的な感情を抱かない。俺が性的な感情を抱くのは、人間の醜さが完全に抜け落ちた、死体のみだ。
死体。遺体。亡骸。躯。屍。
ああ、なんて美しいのだろう。
一通りの、コトを済ませて、思い出を残し、そうして最後に処理を済ませる。
「……硝子さん。また、お願いします」
「分かりました。またいつものところに」
「……はい」
「ねぇ、彰さん。貴方は、いつまで女性を殺し続けるのかしら。同じ女性として、殺されてしまう女性として、疑問なのだけど」
珍しく、硝子さんがこちらの事情に口を出す。しかし、それでも仕方がないのだろう。人間はいつまでも、同じ状態を保っていられない。そういう、ある種の呪いに掛かっている。好奇心という呪いに。
「……分かりません。多分、一生、かもしれません。でも、俺はそのうち、止められると思っています」
「へぇ、その心は?」
「どうやら、俺、硝子さんのことが好きみたいなんです」
「――やめておいた方がいいわ。私は、貴方を壊したくない。貴方達だけとはいい友達いたいの」
「……そうですか。ええ、分かりました。すいません、こんなこと言って」
「いえいえ、さっきの言葉、他のみんなにも一斉送信しておいたから」
「何やってるんですか!?」
「あはは、まぁ、ちょっとしたおちゃめです」
「……おちゃめというか、はちゃめちゃじゃないですか……」
人間、見た目だけが命という言葉がありますが、まぁ、中身なんて性悪説通りの悪だけですからね。中身なんて見ない方がマシなのかもしれません。