さてはて、爽や彰の一件は、一体どんなふうに見られているのだろう。全く、残酷だよねぇ、人を殺すなんて、ああ、怖い怖い。
人を愛するんだから、愛する相手は生きていないと、ダメに決まっているというのに。
「……ただいま、私の愛しのダーリン」
分かっているが、愛する人からおかえりの声がないというのは何とも悲しいことだと、常々思う。
だけど、仕方ないよね。だって、浮気なんてする彼氏クンが悪いんだから。
フカフカの一人用ソファに、似つかわしくない鋼鉄の手枷足枷。口には轡を噛ませ、布で目隠しをしている。
逃げようとした形跡は、なし。これまでに抵抗した時に出来た手枷足枷の痣しか残っておらず、抵抗するのはもう諦めてしまったらしい。
「そう、そうよ。貴方はもう何もしなくてもいい。私が一生、ずっとずっと、面倒を見続けてあげるからね」
耳元で囁く。
「貴方は私の愛を受け続けるだけでいい。それだけで私も貴方も、幸せになれる。一緒に幸せになりましょう?」
虚ろな彼は――目隠しをされているからまさしくといった風に――盲目的に、頷く。ああ、なんとも愛らしい。愛しく、可愛く、愛らしい。
「ふふっ、それじゃあ、ご飯を食べましょう。ああ、大丈夫、私があーんをしてあげる。何もかも、私がしてあげる。体も洗ってあげる。排泄も手伝ってあげる。大丈夫よ、貴方は私に全てを委ねればいい」
頷く。
それだけで私の体はゾクゾクとしてしまう。
ああ、人間というのは何とも脆いものだろうか。ただ、少し、逃げることが不可能であると示し、罰を与える。それだけでいとも簡単に大人しくなってしまう。
確か彼はそこそこ喧嘩で腕を鳴らした、不良達の間ではかなり有名な人物だったらしいが、それでもこの様なのだ。
人は形を変え、人形となる。
「貴方は私に愛されているだけで構わない。そうよね」
頷く。
「そう、それじゃあ、私に愛されるのに必要のない、腕も足も、もう必要ないよね。……大丈夫、痛みなんて感じさない。だって私は貴方を愛しているんだもの」
どうやら、それだけは肯定できなかったらしく、彼は必死に首を横に振る。だけど、関係ない。これは愛なのだ。愛に勝る理屈なんてこの世界にはない。だからこそ、私は人を愛することが大好きなのだ。
「大丈夫。じゃあ、少しの間だけ、おやすみなさい」
数時間が経過した。
「……ふぅ、これで止血も完了。ふふ、可愛い。これで本当の、私の大好きなお人形さんになってくれた。ねぇ、痛い? 痛くないわよね? だって、私は貴方を愛しているんだもの」
目隠しの布が湿っていく。
ああ、嬉しい。
泣くほど、喜んでくれるだなんて。私の愛が、彼に全て、余すことなく、伝わってくれたのだろう。
「さぁ、これからもっと、もっと、もっと、愛しあいましょうね。貴方の命が消えてなくなるまで、貴方は私に愛され続けるの。どう、最高の一生でしょう?」
私は、彼を愛し尽くした。
「すいません、硝子さん。また、よろしくお願いします」
「ええ、分かったわ。それじゃあ、また、いつものところに」
「はい、了解です」
「……そういえば、菜香。貴方はどうして、最愛の人が死んでも、傷付かないの? 私なら、相当凹むと自負しているのだけど」
「何を言っているんですか。最愛の人が死んだということは、また新しい愛を育むことができるということじゃないですか。最愛の人というのは、はじめから最愛なんじゃありません、零から、全てを愛し尽くすからこそ、最愛になるのですよ。ですから、愛は誰にも負けません」
「そう。貴方の愛は、多分正しいのでしょうね。人を愛するには、そのくらいの愛がなければ、できないのでしょうね」
「一番長続きをしている、硝子さんには言われたくないですけどね」
「私の愛は、愛玩の愛ですからね。勿論、うちの子は、私を一人の人間として愛してくれているのでしょうけれど」
「人にはそれぞれ、愛し方があるということでしょうか?」
「まさか。単純に、愛し方なんて存在しないから、みんな好き勝手やっているというだけでしょう」
「それも、そうですね」
人ではなく、人から人形へと堕ちた人間を愛する。それが私の愛だ。純然たる、純粋な、無邪気な愛だ。
大昔、誰しもが遊んだような、おままごとと同じ、無垢な愛なのだ。
だから、そう。これは人間を人形として遊ぶ、おままごと。
愛している自分を愛している、そういうことなのだろう。
ピグマリオンコンプレックスであり、ナルシシズムである。自らの人形となった他人に全力の愛を注ぐ、自らを愛している。そういうことなのだろう。
まぁ、誰しも、ナルシシズムな面はありますよね。
同じ話が二つ投稿されていました。すいませんでした。