街談巷説に信憑性を求めるのも変な話だが、怨みある誰かの
「傍から見ると、完全に大人と子供ね」
「実年齢だとそれ以上ですけどね。私、一二〇〇歳超えてますし」
「え、貴女そんなに生きてたの? 全然そんな感じしないのだけど」
妖怪程外見が当てにならない存在は
「まあ、弱そうに見られるのは何時もの事です。何故か妖力は一向に増えないんですよね、歳許り増えて。
「そうだったのね……。妖力は少ないのに妙に達観しているから可笑しいと思ってたのよ」
「お姉さん凄い年上だったんだね。私は五〇〇歳位だから、七〇〇歳も年上なのかあ……」
「意外ですか?」
「うん」
随分はっきりした肯定が返ってきた。が、事実の為何も言えない。馬歯徒増という言葉がこれ程当て嵌まる存在は他に無いと思う。"弱い"が
「能力は持っているのかしら?」
「それが意外な事に持ってるんですよねえ、何故か。"速く走る程度の能力"という奴です。兎には御誂え向きの能力ですよ」
「本当に誂えた様な能力ね。でも天狗すら追いつけない様な速度が出せるとか、そういう方向に突き抜けてたりするんじゃないのかしら?」
「いえ、急な方向転換が出来る位で、本当に額面通りの能力なんです。天狗でしたら軽々と
「……本当に平凡ね」
「何か……訊いちゃって御免なさいね。
「私にしてみれば毎度御馴染みの空気ですけどね。ウチの姫さんに話した時もこんな空気になりましたし。出来れば馴染みたかありませんでしたけど」
「ねぇねぇ、お姉さんって何時図書館に来るの?」
「と言いますと?」
「霊夢とか魔理沙は
「ああ、そういう事ですか。まあ、言ってしまえば気分次第ですかね。家事が終わって、仕事も無くて、偶に気分が向いたら来る、という感じです」
「お姉さんってお薬屋さんなんでしょ? ウチには来ないの?」
「売っている薬は人間向けに調合したもの許りですからねぇ。それに、妖怪は薬の世話になる事なんて先ずありませんし、そういう用向きで来る事はありませんね」
「そうなの……私、もっと一緒にお話ししたりしたいなぁ……」
「そういえば、貴女の所に喘息の薬はあるかしら?」
「喘息ですか?
「ええ、持病よ。昔っから如何にか出来ないもんかと悩んでるのよ。
「まあ、師匠さんに頼めば魔女向けにも調合してくれるとは思いますけど」
「出来たら御願いね。昔は魔女としてのプライドに懸けて、意地でも自分で調薬してやろうって思ってたんだけど、此処迄失敗続きだと、もう外註でもいいからさっさと治したいって考えになってね。最近だけど」
「大変ですねぇ。分かりました、掛け合ってみます。でもそれだけ試行錯誤して効果が無いとなると、何らかの別の原因が関わっているのでは?」
「それは思ったんだけど皆目さっぱりなのよ……」
「取り敢えず、部屋を清潔にして、日に当たる生活をすると多少は良くなると思いますよ。埃とか
「そうなの? 早速試してみるわ。で、こういう用事があれば
「でも、何かパチュリーを出汁に使うみたいで……」
「別にいいのよ。妹様は識と会える、私は薬が手に入る、一石二鳥よ。そんな複雑に考える必要はないわ」
「……お姉さんはいいの?」
「まあ仕事は増えますが、販路が増えれば師匠さんも喜びますし、別に構いませんよ。序でに本を読めると考えればいいのですから」
そう言うと、フランさんが笑顔で頷いた。図らずとも紅魔館に来る用事を作れたのは僥倖である。
そんな折、十六夜さんがお茶を淹れて持って来た。入室する機会を
「話が一段落ついたようなのでお茶をお持ちしました」
「……随分タイミングがいいわね」
「いえいえ、偶然ですよ?」
そう言って手際よく紅茶を淹れていく。
「そういえばパチュリー様、遂に薬の購入を決められたそうですね」
「ええ、もうこれ以上進展は期待出来ないって判断したのよ」
「つい
「さあ、何の事かしら」
……どうやらフランさんの為に矜持を
「……優しいんですね」
「だから知らないわよ。そんな事宣言した覚えはないわ」
「へえ、然様で」
するとフランさんが小声で「ありがとね、パチュリー」と呟き、ノーレッジさんは更に顔を赤くして読書に戻ってしまった。
「では薬繫がりで、私からも一つ御願いしても宜しいでしょうか」
「十六夜さんもですか?」
「はい。仕事柄、小さい傷とかは初中後ありまして、絆創膏とかは取り扱ってますか?」
「まあ、ありますけど、人里で買うのとそう値段は変わりませんよ?」
「いいんです。少しでも手間が省ければ」
「そういうもんですか」
「そういうもんです。後、出来れば栄養剤の様なものもあれば助かります」
「栄養剤ですか……確かに激務ですもんね」
唯でさえ広いのに、十六夜さんの能力で更に広くなっているこの紅魔館を僅か一人で維持管理しているのだから、その疲労も桁違いだろう。吸血鬼が住んでいる所で働きたい抔という好事家は先ず居ないだろうから、人員補充は当てに出来ない。何とも難儀な話である。
「分かりました。では何時頃伺えば宜しいでしょうか」
「そうね、一週間後位がいいかしら」
「では、調合が済んでいればノーレッジさんの薬も其の時に持って来ますが、それで宜しいですか?」
そう訊くと、本の向こうから「それでいいわよ」と御座なりな返事が来た。
――
其の後も
十六夜さんに門迄送ってもらうと、案の定門番が鼻提灯を膨らましていた。そういえば此処に来た時の門番の職務怠慢をまだ十六夜さんに伝えていなかった。
「全く、この門番は……」
「確かに暇と言えば暇ですがね……。私が来た時も爆睡してましたし」
「そう……。今日の夕飯は水ね」
哀れ、門番の夕飯は水になってしまった。というかそれは夕飯の範疇に入れていいのだろうか。
「では復、一週間後に来ますね」
「ええ、御願いするわ」