ロンギヌスがマスターを眺めているとミストルティンが現れて完全によそ見をしてしまう。
それをたしなめたシェキナーがロンギヌスに語った悩みとは?
今回はキル姫目線でまた何か書きたいと思い筆をとりました。
学生になっているキル姫達の日常風景が描けていると感じてくれれば本望です。
(でもキル姫目線だとサービスシーンが出にくいというマイナス点が分かってしまった……)
またもや物語が少し長くなってしまったので一応分けました。
前編読んで物語に興味を持ってくれた人は後編も読んでみて下さい。(一応オチはあるつもりです)
ではよろしくお願いします。ペコリ。
{窓際のロンギヌスの巻}
「あふ……」
ロンギヌスは手でくちもとを隠しながら小さくあくびをした。
窓際の席に座る彼女はちらりと窓の外の空に目を向けた。そこには抜けるように真っ青な青空が広がっていて、その空に浮かぶ白い雲はかなり遠くにほんの数えるほどしかない。
ロンギヌスは今日は特に洗濯物が良く乾きそうだなと思った。
帰ったらお洗濯しよう。
ロンギヌスは帰ったあとの予定を頭の中のメモ帳に書きこんでおいた。
ロンギヌスはあくびで滲んだ目元の涙を指先で拭うと、黒板のほうに目を向けた。
そこには大きな字で「自習」と書かれてあった。この教室の中に教員の姿はどこにもない。
そう昼御飯の次の5限の授業は自習になっていたのだ。
だからもう余計に眠い。
何だか、まぶた同士が仲良くしたがっている。
邪魔しちゃ悪いんじゃないかなという考えが頭をよぎりそっと目を閉じてみた。
すごく気持ち良くて、少しづつ意識が遠くなっていって……。
だがその時、教室のどこかでピシッという音が聞こえて、ロンギヌスは慌てて目を開けた。ロンギヌスにはその音の正体は分かっているのだ。
自分も目を閉じていたら危ない。とにかく頑張って目を開けている事にした。
だけど、今はもうやることがない。一応この自習で課題は出ているのだが、けっこう簡単だったので全部終わってしまっていたのだ。
ロンギヌスは小さくため息をついた。
ロンギヌスはしょうがないから、明日の予習でもしようかなと、机の横にぶら下げた鞄の中を探り始めた。
するとその時、彼女の目の端に、この2階の窓からちょうど下に見える中庭を歩く人影がちらりと目に入った。
男の人だった。先生だろう。
ロンギヌスはそう思って初めは気にしていなかったが、その人が何故かとても気にかかった。
そしてロンギヌスは改めて目を向けてはっきりと分かった。
思わず口に出してしまっていた。
「マスター……」
慌ててくちもとをふさいだロンギヌスは、何とか目だけを窓の外に向けて自分のマスターの様子を眺めていた。
このロンギヌスのマスターは武官ではあるが、このファンキル学園の臨時講師もしているので、いま中庭にいても別におかしくはない。
今日のマスターの服装はワイシャツとスラックスという教師っぽい出で立ちだ。なかなか様になっていてけっこう格好が良い。
ロンギヌスはマスターをずっと目で追っていた。
彼女は自分の目に入るところにマスターが居られると、とにかく気になってしょうがないのだ。
まあ、はっきり言うと彼女はマスターの事を好きなのだが、それは報われない恋だと自分でちゃんと分かっているので、色々と我慢していた。
だが分かっていても目で追ってしまうのは仕方がない。
しばらく眺めていると、マスターが来た同じ方向から一人の女生徒が走って来るのが見えた。ピンク色の長い髪をなびかせている少女。あれはミストルティンだと分かった。
彼女は前を歩くマスターに何やら声をかけていた。
マスターが立ち止まって振り返ると、彼女を見て手をあげて返事を返している。
そのミストルティンが笑顔で話しかけながら駆けている途中で、何かにつまずいたのが見えた。
マスターが素早く駆け寄って彼女を抱き止めたのを見て、2階から見おろしていたロンギヌスは目を剥いた。
そして、マスターの腕の中で、恐縮するようにお礼を言うミストルティンがすぐにその身を離さないのを見て、あれはうちの隊のミスティだとすぐにロンギヌスは悟った。
普通のミストルティンならば男の人に触れられようものなら、すぐにその場から飛んで逃げてしまうような気弱で臆病な性格の持ち主なのだ。
だが、ロンギヌスがミスティと呼ぶこの同僚のミストルティンは、自分のマスターの事をかなり信頼していて、端から見ても好いているのがもう丸分かりだった。
あそこまで男のマスターと仲の良いミストルティンはうちの隊のミスティくらいなものだとロンギヌスはずっと前から思っていたほどだ。
ロンギヌスはその距離の近い二人を、もうそろそろ離れなさいと念じながら眺めていた。
もうロンギヌスの顔は完全に窓の外のほうに向いている。
中庭の二人は仲良く並んで手前のほうに歩き出していた。
ロンギヌスはそれを若干身を乗り出すような感じで、ずっと目で追い始めた。
その時、ロンギヌスの後頭部にピシッという音と共に衝撃が走った。
「いたっ」
ロンギヌスは小さく悲鳴をあげた。
後頭部に手を当て後ろを振り向くと、床に消しゴムがてんてんと転がっていくのが見えた。
ロンギヌスがやっちゃったと思い、教室の中央の席の最後尾をそっと上目遣いで見ると、長い赤い髪の綺麗な女生徒が怖い顔で彼女を睨んでいた。
切れ長の美しい瞳のその女生徒は、いつも教室の後ろでクラス全員に目を光らしているクラス委員長のシェキナーという名の少女だった。
シェキナーはロンギヌスにあまり派手によそ見をしてはダメとジェスチャーをしてきた。
その彼女の机の上には消しゴムが何段も積み重ねてある。そして彼女の手には輪ゴムがあった。
そう彼女は弓矢のように消しゴムを輪ゴムで打ち出していたのだ。
弓の名手である彼女が射る消しゴムは、百発百中で風紀を乱す行為をした生徒の後頭部に見事に当たっていた。
ただ消しゴムはまだほんの注意のような可愛らしいもので、それが最後の警告ともなると尖った鉛筆を射ようとするのでホントに恐ろしかった。
ロンギヌスはゴメンなさいと軽く会釈してシェキナーに謝り、消しゴムを拾うと前を向いて座り直した。
その時改めてちらりと中庭を見たがもうそこには誰も見えなかった。
ロンギヌスの心に何かもやもやだけが残った。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
席についていた生徒達が動き出して、教室内が少し騒がしくなる。
ロンギヌスはぐっと片手を上げて伸びをした。
あー眠かった。
その時ロンギヌスは頭を後ろからつんとつつかれるのを感じた。
振り返るとそこにシェキナーの姿があった。
腰に手を当てた彼女は何だか呆れたような表情を浮かべている。
ロンギヌスはさっき撃たれた消しゴムを彼女に返した。
「はい、これ」
シェキナーはため息をついて受け取りながら言った。
「まったく、あんなに窓の外に身を乗り出すようにして。貴女はいったい何をそんなに見ていたの?」
「うん。……マスターがいたの」
「あら、私達のマスターが?」
このシェキナーもロンギヌスの同僚で、あのマスターに仕えるキル姫なのだった。
シェキナーはくちもとに指を当てて考えながら言った。
「ああ、そういえば確かに今日は学園に来る予定だったわね。この前のミーティングでそう言っていたわ」
「うん。そうなんだけど……」ロンギヌスは何か元気がない。
気になったシェキナーは訊ねてみた。
「どうしたの?」
少し口ごもりながらロンギヌスは答えた。
「……うん。マスターがミスティと一緒だったから」
それを聞いたシェキナーはすぐにピンときた。たぶんその二人の仲がかなり良さげだったのだろう。
シェキナーは腕を組んで言った。
「ミストルティンさんか……。最近、マスターと仲が良くなってきて、それはそれで良かったと思っていたのだけれど、今は何か少し仲が良すぎるような感じなのよね」
シェキナーは表にはあまり不満を出さなかったが、実は内心にはけっこう色々溜め込んでいたのだった。
それで、つい仲の良いロンギヌスに愚痴ってしまった。
「そういえば、最近私にはお呼びがかからないのよね」
……えっ?
ええ~~!?
ロンギヌスはそのシェキナーの言葉にビックリしていた。
まさか、マスターとシェキナーさんがそんな関係になっていたなんて……?
実はロンギヌスは図書委員になってから、あのマスターを見つけた図書室の奥の棚の本をコッソリと読んで色々と学んでいたのだ。
まあそれはマスターと仲良くなりたい、もっとマスターの事を知りたいという純粋な気持ちからなのだが。
そんなロンギヌスの反応に気付かずシェキナーは話を続けた。
「最後にマスターと一緒に行ったのは、異族討伐のクエストの時だわ。その時は前情報で飛行系の敵が多いって分かったからなのかもしれないけど。でもそれも1ヶ月も前の事よ。それ以来、私はマスターと接点があまりないと言うか……」
ロンギヌスはほっとした。自分が変な感じに勘繰り過ぎただけだと分かったからだ。
シェキナーの話は続く。
「最近の調査クエストとか、採集系クエストとかには私は全く連れていって貰えてないわ。まあ、それは私だけじゃないけどね。最近同行する事が多い姫達は、貴女とシタさん、カドケウスさん、ケーリュケイオンさん、あとはミストルティンさんね」
はわ……。
ロンギヌスはこのシェキナーの愚痴に何て返してよいか分からなかった。
シェキナーはそう言ったあとに、何故自分が呼ばれないのかの理由を考え始めたようだ。
そして彼女はハッと何かを思いつき、今度はそれを目の前のロンギヌスに話してよいものかと悩みだした。
彼女は少し躊躇ったあと、意を決して話始めた。
「そう言えば、あの時の異族討伐クエストでの事なんだけど……。順調に敵を倒していって、最後のほうに少しだけアクシデントがあったのよ。」
シェキナーはあの時の状況説明を始めた。
それはシェキナーがマスターの隣で最後の敵を射ぬいた時だった。
二人ともこれで無事に戦闘が終わったと緊張を解いたところで、いきなりシェキナーが頭上から何者かに襲われたのだ。
気配もなく不意を突かれて二人とも焦っていたが、それがただの小さな子猿だと分かってほっとした。
シェキナーはマスターと見つめあいそして笑いあった。
子猿がシェキナーの胸元の宝石に興味を持ったのだろう。子猿がシェキナーの大きな胸にしがみつく感じになっている。
マスターが笑ってそうっと、その子猿を取ってあげようとした時に、子猿が地面に飛び降りてシェキナーが大きくよろけてしまった。
そして子猿が逃げた際にシェキナーの胸元がはだけて彼女の胸が丸見えになり、更にはマスターの両手が直にその胸を掴む事になってしまった。
そして彼女は右手を大きく振りかぶりマスターの左頬を思いっきり張り飛ばしたのだった。
(それ以来彼女は胸の布地を少し大きくした服を着るようになっていたのだが、表向きにはそれはお偉いさん方に服装を注意をされたからだと言う事にしていた)
シェキナーはため息と共に語り終えた。
「たぶんそのせいもあってマスターは私を避けているのかもしれないわね」
シェキナーの最後の話を聞いて、ロンギヌスはそうかな?と内心思っていた。
マスターはそういう事を気にしたり、そういった事で動じるような人ではないと最近分かってきたのだ。
だが自分にはマスターが自分達を選ぶ理由ははっきりとは分からないので黙っているしかなかった。
その時、カーテンの裏側から声がした。
「情報こそが戦況を左右する」
いつからそこに人がいたのか全く分からなかった。
カーテンの裏側から一人の女生徒がその姿を表した。真っ青な大きいリボンと落ち着いた笑顔が印象的なケーリュケイオンだった。
彼女は愛らしい笑顔で二人を見つめていた。
{後編に続く}
キル姫達のキャラがうまく書けていると良いですが。
ではまた後編で。