キル姫達はバレンタインというイベントを使ってマスターにアピールをする事を決める。
マスターにプレゼントを渡そうとするキル姫達ははたしてうまくいくのだろうか?
自分は仲良しなキル姫達が見たいだけなのかもしれない。
{差し出した手の行方の巻}
「ケーリュケイオンちゃん」
ロンギヌスが驚き顔で言った。
「貴女、いつの間に……」
シェキナーもビックリしていたが、さすがと言った感じで彼女を見つめていた。やはりケーリュケイオンは諜報の天才と言われるだけの事はあると思った。
「まだ帰らないの?お二人さん。何か少し気になったから盗み聞きしちゃった。ゴメンね」
このケーリュケイオンも彼女らの同僚だった。
「貴女になら別に良いけど」
シェキナーは肩をすくめている。
ケーリュケイオンは可愛く片目をつむった。
「ありがと♪」
ケーリュケイオンはスタスタと歩いてくると、ロンギヌス達のいる横の机に腰をかけた。そして青いニーソをはいたスラリとした足を組んで言ってきた。
「私ならシェキナーお姉様の疑問を解消できるかもしれないな」
「どういう意味かしら?」
シェキナーは身を乗り出すようにして訊ねた。
ロンギヌスもしっかりと耳を澄ましている。
「シェキナーお姉様がマスターにあまり連れていって貰えないその理由。私達がよく隊に編成されるその理由。私が今まで集めた情報が、マスターのある事実を照らし出してきたの。たぶんそのせいで今までの状況が成り立っているのだと思うわ」
ケーリュケイオンは指先を振りながら話している。
シェキナーはその理由を早く知りたいと思い結論を促した。
「それは一体何なの?……その情報に私は対価を払いましょう。何が良いかしら」
ケーリュケイオンはシェキナーをじっと見て、そんなのは別にいいのにと思いながらも一応答えた。
「それじゃあ、ドルル煎餅ね」
「分かったわ。それの詰め合わせを買ってきましょう」
ケーリュケイオンはそれは豪勢ねと眉を上げた。
ケーリュケイオンは少し真面目な顔で話し始めた。
「それでは情報ね。マスターがよく連れ歩くキル姫にはとある傾向があるのよ。街中ではカドケウスや私が多いかな。学園の中ではロンギヌスやミストルティンが多い。戦場ではシタお姉様がダントツね」
ケーリュケイオンはそこまで言って真剣に聞いている二人に訊ねた。
「どう、分かってきた?」
二人とも首を横に振った。
ケーリュケイオンは続けて説明した。
「ではマスターが無意識に避けようとしてしまうキル姫は誰か?別にこれは嫌っているとかではなく何と言うか苦手意識の現れなのでしょうけど。マスターは今から言うキル姫達には、何か一歩引いて応対しているように私には感じるのよ。それはまず第一にシェキナーお姉様、ブラフマーストラお姉様、ブリューナクお姉様と言った面々ね。……どうかしら?」
二人にも何となくだけどその傾向が分かってきた。
ケーリュケイオンは頷いてズバリと結論を言った。
「そう、うちのマスターはたぶん貧乳が好きなのよ。それに大人しい感じの娘のほうが気が合うのかも。あとは……たぶん少しロリコンの気もあるわね。」
それを聞いたシェキナーは何だかショックを受けてふらりとよろめいた。
ロンギヌスもそれを聞いて少し複雑な気持ちだった。
確かにそう言われてみればもうその通りにしか思えない。
二人の反応を確かめてからケーリュケイオンはシェキナーを慰めるようにして言い出した。
「これはもう仕方がない事なのよ。マスターも人の子、どんなに出来る人でも好みくらいはあるわ。でもうちのマスターはそれで差別しないので特に皆から好かれているのよね」
シェキナーは机に手をついてうなだれている。
「でも私なんてもう真反対ではないですか」
「でもでもっ、マスターはシェキナーさんを決してないがしろにはしてませんよっ」
ロンギヌスが頑張って何とか励ますように言った。
「それはそうなのですが……」
シェキナーは顔をあげた。普段はあまり見ない悲しげな顔だった。
ケーリュケイオンが少し考えて提案をしてきた。
「ではマスターに何かプレゼントを送ってみるのはどう?プレゼントを渡して自分の事をもっとアピールするの。ああ、そう言えば、ちょうどこの時期には人間界の風習でバレンタインというものがあるわ。私達キル姫にはあまり関係のないものだから皆あまりやらないけどね。女の子が異性にチョコを渡して愛情を表現するイベントなのですって」
ケーリュケイオンは身を乗り出して続けた。
「どうかしら?いきなりプレゼントを渡したらマスターはビックリするわよ。たぶんそれでかなり印象も深まるはず。そうしたら色々と話の糸口も出来て一緒にいる時間もだいぶ増えるって寸法よ」
シェキナーは顔を輝かせた。
「それはいいわね!やってみましょう」
そう言ってからロンギヌス達にも目を向けた。
「貴女達も一緒にお願いね」
はわわ……。
ロンギヌスはマスターに愛情表現のプレゼントを渡すなんてとても出来ないと初めは思ったが、シェキナーに頼られてしまったのなら、それはもうしょうがないと思い直した。
「はいっ」
ロンギヌスは快く返事をした。
さっそくシェキナーは街に買い出しに行く計画を立てると、鞄を持ってロンギヌスを急き立てながら教室を出ていった。
ケーリュケイオンはあんなに張り切っているシェキナーの可愛いらしげな後ろ姿を見て思っていた。
マスターがいくら貧乳好きでも、あのシェキナーお姉様が裸にリボンを巻いて私がプレゼントです(ハート)なんてやったらもうイチコロなのに。
でもそれを言ったら彼女に烈火の如く怒られるのは分かりきっているので、ケーリュケイオンはとりあえずその提案は心の中に秘めておいたのだった。
バレンタイン当日、彼女達は休み時間毎に学園中を歩き回ってマスターの姿を探したが中々見つけられなかった。
そしてもう放課後になってしまった。
今日もマスターは学園に勤務の予定なのに、今日に限って見つけられないとは運がない。
街に出られてしまうと、マスターはふらりとどこかに行ってしまうので、そうしたら今日はもう見つけられないだろう。
ただのプレゼントならば明日以降でも良いのだろうがバレンタインというイベントは今日しかない。
彼女達は一生懸命に手分けをして探していたが、どうにも見つけられない。
諦めかけたその時、カドケウスが彼女らの前に飛び込んできた。
「いたよ!でももう校門の前まで行っちゃってた」
姉から話を聞いたカドケウスも彼女達を手伝っていたのだ。お菓子を貰えるからという理由だけではなく、乙女の仲間としてであった。
シェキナーとロンギヌスとケーリュケイオンとカドケウスが揃って玄関ホールへとやって来た。
確かに門の向こうの人混みに紛れてかすかにマスターの後ろ姿が見える。
だが下校の生徒が多すぎて避けながら追っていては到底間に合わないだろう。
シェキナーは背負っていた袋から弓と矢を取り出して、矢の先にプレゼントをくくりつけようとしていた。
だがそれは皆から危ないからとすぐに止められていた。
もう今日は無理だと皆が思った。
しかしロンギヌスが決心を固めた声で言った。
「行きます!」
ロンギヌスは一気に駆け出した。
人混みに向かって。マスターのいる方向に。ただひたすら真っ直ぐに。
そしてそのまま人に当たると思いきや、彼女は人々をすり抜けながら駆けていた。
これは竜に乗った時のロンギヌスの新スキル「青春スケルトン」であったが彼女は必死になってそれをいま体現させていた。
しかし徒歩でこれをやるのはやはり無理があるようで、走りながらめまいがしてきた。
みんなの事を思えばこれしきの事……!
彼女は曇りなき眼で見定めたマスターの気配だけを便りにその人混みを駆け抜けた。
そしてやっとマスターの背後にたどり着いた。
そして臆病者の私にはこの機会を逃したらもう無理だと思い、思いきってこの勢いを借りて言うことにした。
「あのっ……好きです!」
ロンギヌスはハート型のチョコを差し出して叫んだ。
「えっ?」
目の前の相手が声を出した。
ロンギヌスはとても恥ずかしくて、チョコを差し出しながらずっと顔を伏せていたのだが、その聞こえてきた声に強い違和感を覚えた。
……それは何故かとても可愛らしい声だったのだ。
ロンギヌスが恐る恐る顔を上げるとそこにはピンク色の髪をした可愛い少女がいた。
それはミスティだった。
彼女は驚いたように目を大きく開けている。
「あの……私にお声がかかるなんて、何かの間違いなのではないでしょうか?」
彼女はおろおろしながらロンギヌスに言ってきた。
ロンギヌスは何故?と焦って辺りを見回すと少し離れたところにマスターの姿を発見した。
マスターも驚いたように二人を見つめている。
あの目眩のせいで差し出した手の位置がだいぶずれたのだろう。
だがこのロンギヌスが今更「間違えました。私が好きなのはマスター貴方です」何て言い直す事など出来る訳もない。
ロンギヌスは無言でミスティの手を取ると真っ赤な顔でその場から逃げ出した。
ミスティはいきなり告白されて混乱しながらも頬を染めて大人しく従っていた。
マスターは呆気にとられてその光景を眺めていたが、やがて納得いったかのように頷いた。
「ほほぅ……そう言う事か……」
キル姫同士がとても仲が良くなることは別にありえない事ではないからだ。
しかし、自分のお気に入りのキル姫同士がとても仲が良いと分かった事でマスターは何か顔がニヤけてくるのが止められなかった。
そしてマスターがそんな薄い本を探しに本屋にでも行こうと振り向いたところにシェキナーがいた。
「おわっ!」
マスターは心底驚いて声をあげていた。
シェキナーはマスターを軽く睨み、いつもの感じの咎めるような口調で話始めた。
「何ですか、そのだらしない顔は?もっとちゃんとして下さい。だいたい貴方は……」
シェキナーはハッと気付いて口をふさいだ。
黙ってお小言を聞く体勢になっていたマスターは、いきなり口を閉ざしたシェキナーを不思議そうな顔で見つめていた。
またやってしまった……。
シェキナーはしばらく後悔していたが、もうこれは奇襲にかけるしかないと可愛くラッピングした小箱をマスターの目の前にすっと差し出した。
「これをどうぞ」
「これは?」
マスターはその箱を受け取りながら訊ねた。
「チョコです。今日はバレンタインと伺いました。日頃の感謝と親愛の情を込めて送ります」
さすがシェキナーはかなり度胸のあるキル姫だった。
マスターは明るい笑顔を見せた。
「ありがとう。いやぁ嬉しいな。チョコか~。でも、これってあまり見たことのラッピングだな。凄く綺麗だよ。これはどこで買ったの?」
「それは、私が自分でラッピングしました」
シェキナーも誉められて自然と笑顔になった。
「それは凄い。今度俺にもこのやりかたを教えてよ」
「はいっ!」
彼女の声はどんな楽器よりも良い音色で、その笑顔はどんな宝石よりも輝いていた。
その様子を遠くで眺める4人の姿があった。
ロンギヌスとミストルティンとカドケウスとケーリュケイオンだ。
ケーリュケイオンが口を開いた。
「これでシェキナーお姉様にも声がかかり始めるわね。マスターは凝り性だからあのラッピング技術を会得しようと頑張るはずだもの」
その言葉を聞いてカドケウスがケーリュケイオンのほうを向いた。何だか目が輝いている。
「もしかしてお姉ちゃんはそこまで見越していたの?」
「さあね~?」
ケーリュケイオンは笑ってはぐらかすように言った。
でも、とケーリュケイオンはロンギヌス達のほうを見た。
ロンギヌスとミストルティンは羨ましそうに、並んでそのマスターとシェキナーの話している所を眺めている。
しかし、二人のあの手は一体何だろう?
いつの間にかお互いが握りあっているような形になり、仲良く手を繋いだままではないか。
もしかしてバレンタインの魔力のせいで?
これは今後の二人から目を離せないなとケーリュケイオンはそっと心に留めておいたのだった。
{終わり}
この後ロンギとミスティはどうにかなるのかな?
いやいや、手を繋ぐくらいは通常運転ですよね。
次はマスター目線で違うキル姫を書こうかな。
でもロンギヌスは可愛いし、ケーリュケイオンは頭が良いし……むむむ。
ではまた。
機会があればよろしくお願いします。