世界が焼ける。
炎が揺らめき、木々は燃え盛る。
「………俺が……やったの……か?」
かつて 少年の大切だったものがことごとく炎に呑まれ焼け焦げ、灰塵と化す。
その最中少年は 虚ろな目で虚空を仰ぐ。
しばらくすると、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。
それはまるで、天が少年の代わりに涙を流すかのようだった。
しかし、そんな少年を一人の少女は、殺意のこもった目で睨み付けていた。
その手に、剣を携えて。
「……零……あんた、何やってんのよ………」
「………椿、か。…………そうだな…ある意味じゃあ、こんなにした元凶は間違いなく俺だ………けど……」
「けど何よ?」
「俺もさっきまで何があったのか…………分からねぇんだよ」
「ふざけないで………山を、森を、私たちの帰る場所を、そして何より…………皆を、こんなにしたのはあんたなの?それとも他の誰かなの?」
椿が怒鳴りながら零の胸ぐらを掴む。
「…………俺だ。俺が…………俺の、せいで。」
その言葉を聞いた椿は、零の顔を力一杯殴り付けた。
「がっ!…………かはっ、」
その衝撃で三メートル程吹っ飛んだ零は、背部を強く打ち、呼吸を崩した。
地に這いつくばる零が見上げると、抜刀を済ませ、上段の構えで剣を握る椿の姿が見えた。
そしてその剣を零に向かって振り下ろす。
「皆の……仇!!!!!!」
零は迫る刀身を己が眼に焼き付け、己の死を覚悟した。
(ああ、これでやっと………楽に、なれる。)
しかし、椿の振り下ろした剣は零の眼前で止まる。
「えっ…………」
零は驚愕の表情で椿を見上げる。
彼女は相変わらず険しい表情をしており、零を許す。
などという感じではなかった。
「………どういう……つもりだ?」
不意に零が尋ねる。
すると椿は少しの静寂の後、開口する。
「私はあんたを許さない。それは、今後何があっても変わらないと思う。だからこそ、あんたには苦しんで欲しい。この先もずっと生きて、苦しんで苦しんで、苦しみ続けて欲しい。だから、死んで楽になろうとしてるあんたを、私は殺さない。」
そんなこと言われずとも分かっている。
零はそう思った。
きっと今日を零は生涯忘れることはないだろう。
だからこそ、この惨劇は零にとっても、椿にとっても、
決して癒えない、心の傷になるのだろう。
「お前らしいな。」
ふと、零が椿に告げる。
「………何よ?甘いって言いたいの?」
「まあ、それもあるがな………お前は、誰も殺すことなんて出来ないさ。それが例え、親の仇の俺ですらな。」
そう言うと零は空を仰ぐ。
先程から降っていた小雨はいつしか盆の水を返した時ほどのどしゃ降りとなっており、先程まで煌々と燃えていた炎も消えて、炎に包まれて倒れていた霊術師達の亡骸を晒していた。
「とりあえず今は、皆の亡骸を供養しましょ。」
「……ああ、……そうだな。」
全ての亡骸を埋葬し終えると空は白んできたどころか、
もう、昼過ぎになっていた。
そして山の頂上で、二人は燃えていた集落と森を、見下ろしていた。
それはかなりの広範囲を焼き付くし、跡に残るは炭化した木々や家屋のみ。
零は、己が招いた惨劇を、改めて噛み締めていた。
「ねえ。」
ふと、椿が零に言う。
「なんだよ。」
「あんたは………これからどうするの?」
「そうだな………しばらくはこの島に残る。」
「そ。私は島を出るわ。どのみちもう私達――――霊術師も終わりね。まさか、私達の代で途切れるなんて思ってもいなかったわ。」
「そうか。まあ、達者でな。」
「ええ。」
椿は零に背を向け、海岸へと向かう。決して振り返らずに。
零もまた、振り返ることはなく。ただ、空を仰いだ。
「畜生、なんだってこんな気分の悪いときに……こんなにも晴れてやがる。」