古道具屋が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります。 作:えぬろくよん
当作品はクロス物となっているため、そういった作品が苦手な方は閲覧を避けることをおすすめ致します。
双方の作品にできるだけ齟齬が出ないようにはしておりますが、ところどころ本作独自の設定、解釈が含まれております。こちらも合わせてご注意ください。
以上が問題ないという方は拙作をご覧ください。
────鎮守府とやらに提督として就いてから、はやひと月が経ったくらいか。
僕――森近霖之助(もりちかりんのすけ)はそう心の中でひとりごちた。
幻想郷の賢者、八雲紫(やくもゆかり)から燃料の対価として言いつけられたときはどうなるかと思ったが、案外問題はなさそうだ。
あくまでも今の所、ではあるが。
さて、ひとまずは日毎に課される任務、俗に言うデイリーとやらを片付けてしまおう。彼女達が素直に聞いてくれるとは思えないが。
……どうしてこうなったんだろうか。というか僕の店―香霖堂(こうりんどう)―は無事なんだろうか。
まあ、引き受けた以上はきっちりこなさないとな。
僕は鎮守府(ここ)にくるきっかけとなったやり取りをなんとはなしに思い出しながらメンバーの選定をすることにした。
────あれはまもなく幻想郷が冬になろうという時期だったか。
いつものように僕の店に紫が現れて、いつものように暖を取るための道具―すなわちストーブの事だ。―の燃料代と言って僕の店の売り物を持っていくのかと思った。
ちなみに、僕の店は無縁塚―縁者のいない亡骸が安置された塚の事である。―で蒐めた道具などを売っている、いわゆる古道具屋である。
ともあれ、僕は紫がいつものように燃料代を回収しに来るのかと思っていた。その言葉を聞くまでは。
「貴方に仕事を頼みたいのですが、よろしくて?」
正直に言って意味が判らなかった。八雲紫と言えば幻想郷の創始者でもありこの幻想郷を守る大賢人でもある。
幻想郷とは大雑把に言ってしまえば妖怪などの魑魅魍魎や神様などといった『話は聞くけど居るわけないよね』とされる存在のための楽園のようなものである。ちなみに僕も彼女も妖怪である。僕は半分だけだが。
……誰に言い聞かせるわけでもないのに何を言っているんだろうか。まあいい。
ともかく、そんな楽園ともいうべきこの幻想郷を創ったほどの賢人が一道具屋の店主に何をお願いしようというのか。既に嫌な予感しかしない。
「僕に出来ることなら君の方がよほど上手くやれるだろうに。あまり強く言えることではないがね。どうあれ僕は君の期待に応えられないと思うが。」
「あら、そんな事はありませんわ。むしろあなたでなくては出来ないことですもの。」
どういう事だ?僕でなくては出来ない?道具の鑑定、とかだろうか。そう聞くと「そういったお願いではございませんわ」とのことらしい。ますます訳が解らない。詳しく話を聞いてみると、
「今現在、こことはわずかにずれた『外の世界』で非常に多くの存在が忘れ去られ、この幻想郷に流れてこようとしています。あぁ、このズレに関しては説明しても理解はできないでしょうから省きますわ。
そして、そういった者達が流れてくることは非常によろしくない。なので貴方にそれらが流れてこないようにして欲しいのです。」とのこと。
「説明してもらえないのなら深くは聞かないが、なぜその存在が流れてくることが良くないんだい? まさか兵器だとかそんなものが流れてくるわけでもあるまい」
普段は自分で考えてからその考察を伝えるのだが、今回はそういうわけにも行かないらしい。あの人をいじるのが大好きな紫がからかいを入れることなく説明をするということは、よほど危険なのだろう。それらが流れてくるのは。
「……ある意味ではただの兵器よりも厄介ですわ。とはいえ妖怪である私は干渉ができない。故にあなたに頼みたいのです。半分とはいえ人の血が流れるあなたに。」
「つまり人間でなければいけない、という事か。
だがそれなら僕じゃなくともそれこそ普通の人間の方がいいんじゃないのか?霊夢、は結界の維持があるだろうが、魔理沙だったり、半分人でも問題ないのなら妖夢あたりの方がよほど力になれると思うのだが。」
「あのふたりでは荷が重い。かと言って里の人間に知られていい話でもない。故にあなたに頼むしかないのです。」
……どうやら他に候補はいないらしい。逃げ道は塞がれつつあるわけだ。
と、そんな事を考えていると、
「そういえば、何度か燃料代を滞納してらしたわね」などと言い始めた。
確かに何度か仕入れが思ったように行かず、結果滞納する形になった事もあった。
しかし、その話をここで持ち出すのか……。つまり、僕の逃げ道は塞がれてしまった、ということか。
「わかった、君の頼みを引き受ければいいんだな。やってやるともさ。」
半ばやけになりながらそう答えた。
「貴方ならそう言って下さると思ってましたわ」などといけしゃあしゃあと言ってのけるあたり最初からそうさせるつもりだったらしい。さすがは妖怪と言わざるを得ないな。
「それで、僕は具体的にどこで何をすればいいんだい?流石にそこが判らないと何も出来ないんだが。」
「あぁ、肝心な部分を伝え忘れましたわね。貴方には『提督』として指揮を執っていただきたいと思っています。」
「……はぁ?」
提督?提督だって?それってつまり……
「僕に軍人の真似事をしろって言うのかい君は!?」
「……おそらくあなたが思っているようなことはないと思いますが、端的に言えばそういうことですわ。」
軽いめまいがしてきたぞ。なんで彼女は僕に軍人の真似事ができると思ったのか……。荒事が得意じゃないことくらいわかってるだろうに。
おそらく僕が考えてることが解ったのだろう。顔に出していたから解らないことはないだろうが。
「指揮を執ると言っても実際に前線に立て、という訳ではありません。あくまで指示を出すための人材として提督になって欲しい、ということです。」
「ふむ、僕自身が危険な目に遭うわけじゃないのなら問題は無い、のか? まあいい、それで、僕はどこに向かえばいいのかな?」
「貴方には『鎮守府』に出向していただきます。提督として出向する際に必要な手筈は整えてありますので、あとは貴方があちらに向かうだけとなっておりますわ。」
なんとも手際のいいことだ。しかし、鎮守府、ねぇ……。
「鎮守府、と言うことは僕が指揮を執るのは海軍なんだろう? ちゃんと指示に従ってくれるのかい? こう言ってはなんだが、命令したところで素直に聞いてもらえるような形はしてないのだけれど。」
『あら、意外と詳しいのですね。』などと零しているが、伊達に読書を趣味としていない。
「その点については問題ありませんわ。
このことに関しては、実際に見た方が早いでしょうしね。」
つまり、見れば解る、ということか。
……仕方が無い。請け負うと言った以上は腹を括るしかない、か。
「わかった。そういう事なら請け負うとしよう。なにか必要になりそうなものはあるのかい?」
「特にこれが必要、というものはありません。必要なものができたらこの陰陽玉に連絡を頂戴。こちらで用意できるものは用意いたしますわ。」
「へえ、なかなかどうして。気が利くじゃないか。」
「今回の件に関しては失敗が許されないものですから。それに、快諾してくれたとはいえ、多少なりとも無理をさせてしまうのですから、このくらいは、ね。」
なるほど、幻想郷の危機だが、自分では何も出来ないという負い目だ多少なりともあるようだ。正直意外だった。
「とりあえずは身一つで問題なさそうだし、着替えを持っていく程度でなんとかなるかな。
そうと判れば早めに行動した方がいいんじゃないのか?」
「そうですわね。それでは鎮守府までお送りいたしますわ。
それと、念のために釘を刺しますが、くれぐれも外の世界に引きずられないよう、ご注意くださいな。」
僕が外の世界に興味を持っていることを知った上での忠告、と言ったところか。
これは素直に従った方がいいようだな。
さてさて、今回の依頼、どうなることやら……。
紫の呼び出した境界―彼女は境界を操る能力を持っているらしい。正直いってさっぱり解らない。―を、通り抜けて、僕、霖之助は海の前にいた。
波と風の音以外は何も聞こえない静かな場所のようだ。以前夢で見た場所に比べてなんともいい場所だ。まぁあれが外の世界かどうかは未だに判らないが。
さて、ひとまずは鎮守府とやらに向かわなければ何も始まらない。恐らくはわかりやすい建物だろうから近くにいる人にでも聞いてみるとしよう。
そう思いあたりを見回すと、ちょうど女の子が1人、目の前を通り過ぎる所だった。
「すまない、ちょっといいかな?」
「……はい、なんですか?」
どうにも反応が淡白だが、まあいいか。とりあえず知っているかどうかだけでも聞いておかなくては。
「僕は呉の鎮守府に行きたいんだが、場所を知ってはいないかい?」
すると目の前の少女は、不思議そうに―元々半分しか開いていない目に疑問の色を浮かべて―首をかしげた。
「……鎮守府に行きたいの?」
「ああ。できればどのあたりにあるかだけでも解ればいいんだけどね。」
……ここまでやり取りをして、流石に知らないんじゃないか、と思ったりもしたが、
「……なら一緒に行こう。」と言われ、一緒に鎮守府まで向かうことになった。
鎮守府へ向かう道すがら、彼女と話をして、その中で自己紹介をし合うことにした。
「僕の名前は森近霖之助。古道具屋の店主をしているんだ。」
「……初雪、です。よろしく。」
ずいぶんと簡素な挨拶だが、むしろこれくらいの方が丁度いい。自己紹介でくどくどし過ぎても仕方が無いからね。
そういていると、少女―初雪―が、ふと足を止めた。
「……ここが、呉の鎮守府、です。」
どうやら目的地にたどり着いたらしい。しかし、なぜこの娘が鎮守府の場所なんて知ってるんだろうか。助かったけど。
そう思っていると、僕にとっては再びの衝撃的な発言が飛び出してきた。
「……貴方が、新しく配属になった、提督さん?
……なら、私の、上官、ですね。よろしく。」
………………は?
『私の、上官』?
つまり、つまりだ……
僕の下につく海軍の人間っていうのは、
「君の事、だったのか……!?」
「……?」
初雪に少し離れる旨を伝え、紫と連絡を取ることにした。
「紫か!? 指揮を執る相手が女の子なんて聞いてないぞ!? どういうことか説明してもらえるんだろうな!?」
『あら、意外と大きな声も出せるのですね?』
「おちょくるのは後にしてもらえないか。今はどういうことなのかを聞きたいんだが。」
『おお、怖い怖い』などと嘯きながら説明を始める紫。
内容をまとめると、こういう事らしい。
僕が指揮を執るのは軍艦が意志を持った、『艦娘(かんむす)』という存在らしい。(ようは付喪神になった軍艦、と言ったところか。)
そうして改めて初雪を見ると、僕の力が反応した。
――ちなみに僕の能力は『道具の名前と用途が解る能力』である。正確には『道具自身が持っている記憶を読み取る能力』なのだが。――
僕の能力で判明したのは、『名前は初雪』『用途は深海棲艦と戦う』であった。
様々な鎮守府で同型の艦娘が発見されるのは、どうやら分霊として発見されるから、らしい。
ちなみに分霊(ぶんれい、わけみたま)とは神道の用語で、本社で祀っている祭神を、他の分社で祀る際に、その神様の神霊を分けたものを言い、神様は無限に分けられるため、すべてが同じ力を備えている、と言われている。
そして、分霊ごとに内面に差異がある、とのこと。ちなみに僕の目の前の初雪―当然彼女も分霊のひとり、なのだろう。―は、荒天の中出航した際の出来事が色濃く出るらしく、あまり表に出たからない性格らしい。
そして、その分霊が万が一沈んでしまった場合―これを俗に、『轟沈』と呼んでいるそうだ。―、その個体としては忘れられ、結果幻想郷に流れ着く可能性が極めて高い、と言うのだそうだ。
なぜ分霊が轟沈すると忘れられるのかはよく解らないが、なるほど確かに彼女達が幻想郷に流れ着くのはよろしくない。
なんせ見た目は少女であっても実態は軍艦であり、生半可な力ではないことが想像出来る。
そんなものが何十、何百と流れようものなら幻想郷のバランスが一気に崩れかねない。そうなれば幻想郷の危機だ。
とはいえそうなるとさらなる疑問が出てくる。正直言って僕一人がどうこうしたところでほかの鎮守府で轟沈が起こった場合、結果として幻想郷に流れ着くのではないのか?
だが、紫曰く『幻想郷に流れ着くのは貴方のいる鎮守府の娘だけのようです。
何故かはいまいち解りかねますが、少なくとも他の鎮守府で轟沈しても、幻想郷に流れ着く事はありません。』とのこと。
疑問は尽きないが、とりあえずは僕が沈めるような指示を出さない限りは問題は起こらない、らしい。
「ひとまずは鎮守府にも着いたことだし、やれることから始めていくよ。
言っておくけど過度な期待はしないでくれよ? こんなことは専門外なんだから。」
『その点は重々承知しておりますわ。それでもなお貴方に託すしかできないのです。頑張ってくださいませね?』
そうして紫との通信を終えた僕は、ボヤきながらも初雪の元へと戻るのだった。
……やれやれ、仕方が無い。やってやるとしますかね。
東方関係のクロス物は割とよく見るんですが、霖之助が活躍する作品はわりと少ないなぁ、と思い、ついカッとなってやりました。
しゃべり方や二人称なんかは原作を参考にしておりますが、見落としなどがあるかもしれません。遠慮なくつついてやってください(ぉ
……おかしいな、当初の予定ではここでもうひとり艦娘が出てくるはずだったのに…………
投稿間隔ですが、リアルの時間とプロットの都合で、1~2週間に1本程度、と思っていただけると幸いです。早く完成すればその分早く投稿するようにはしますが。目指せ完走!ノット失踪!