走ってくる先輩を向かい打つ為か、〈俺〉も前進し始める。それは、俺に向かうには若干起動がずれている先輩の前に立つよう修正してるようだ。
「祐斗!」
「チッ」
「南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経」
「ククク」
先輩が向かっていた先を見ようと後ろを振り返っても、見えるのは黒い空白。窓を動かそうとしたら移動できたような気がする。暗闇では基準に出来る物が無いので絶対とは言えないが。けれどその窓が写す現実は変わらず、同じ現実を突きつけてくる。
攻撃範囲に達した先輩が、トンファーを勢い良く突き出してくる。〈俺〉はそれを柄で容易く弾き、追加攻撃に備え構え直す。トンファーの素早く、予測し辛い攻撃を幾度も弾く。何重にも重なり響く金属音が、激しい攻防戦を示す。
懐かしい。先輩の動きは何も変わらない。ほら、腹を蹴ろうとした足をそのまま下ろして踏み込み、回転を生かして反対側のトンファーで頭を狙ってくる。何時のも俺ならそれを屈んで避け、今度は先輩の腹を狙う。
あー、先輩の動きは変わってない。変わったのは、俺のだ。
〈俺〉は一歩後ろへ下り、大鎌を横に振り先輩の背中を狙う。半回転していた体を先輩はそのまま一回転まで持って行き、体の前にトンファーを構え弾きかえす。
俺ならそこで弾かれた鎌の動きを利用し、がら空きになった雲雀さんの首に柄を叩き込む。〈俺〉は弾かれた鎌を強制的に構えなおしながら、後ろへと飛ぶ。
どうやら、先輩から距離を置こうとしてるらしい。大鎌では、先輩の攻撃範囲内では思うように動けない。
知ってる。知らないで。
自分の記憶が侵食されていく感覚に襲われる。それは前に起きた出来事を少しずつ塗り替えていく。これからはこうだと言い張るように。
でも知ってる。俺は考えたんだ、先輩と同じ立場で戦える為の術を。これは真似できない。
これを守れば、自分がまだいる。大丈夫だ。
例え化け物でも?誰に望まれなくても?
自分を守る価値は、何処にあるの?親友が殺されて行くのに、自分の存在を頑なに守ろうとする自分なんて・・・
けど、ツナは一生懸命俺を呼んでる。隼人は一心不乱に念仏を唱えている。先輩は、練習試合の時の殺気がない。ボロボロの体を引きちぎりながら、戦っている。
何で皆俺を助けようとするんだ。何で俺を見放さないんだ。
助けて。来るな。傷つけたくない。逃げろ。不安、恐怖、絶望でグチャグチャな思考を治められない。
冷たい。冷たい?何が冷たい?
「祐斗!」
「えっ!泣いてる!?」
泣いてる?
「彼奴を泣かせやがって・・・!」
「祐斗!いるんでしょ!」
いるよ、いるよ!此処にいるよ!
〈ククク、無駄な抵抗を。〉
抵抗、出来るのか!?どうやったら追い出せる。
〈もう少し遊んでいようと思いましたが、そろそろフィナーレにしますか。〉
フィナーレって言葉に、猛烈に嫌な予感がする。視界内の大鎌の刃に薄暗い映画館の僅かな光が当たり、鈍く光る。また時間が遅くなったのかと疑うほど、それはゆっくりと振り下ろされた。それを先輩はトンファーで受け流し、隠し鈎に引っ掛け、鎌の刃を折ろうとトンファーを捻る。しかし、〈俺〉はそれを無視し、鎌を振り下ろし続ける。
双方の武器が視界から消え、ゴトンと鈍い音がやけに響く。
下からまた鎌が振り上げられ、消える。もう、止められない。俺が酷く憎むあの感覚が無いまま、視界に朱色が広がる。
〈俺〉が見下ろすと、そこには背中に自分の大鎌が刺さった先輩がいた。傷口に塩を塗るように鎌の刃を撫で、手を表に返して俺に見せてくる。その手は赤黒く、俺を責めるようにただ淡々とその血は腕をも染めていく。
あ・・・ああああ・・・
ああああああああああああああああああああああ
「雲雀さん!」
「クソッ!」
〈俺〉は下がりながら、遊ぶように手を握ったり開けたりしてる。隼人は走るように近づき、先輩の横に膝つく。
「大丈夫だ、死んでねぇ!」
「本当に!?」
ああああ・・・ああ・・・
「祐斗、此奴は死んでねぇ!お前は悪くねぇ!」
死んで・・・無い・・・?
「そうだよ!祐斗、助けるからね!」
助ける?まだ、俺を助けようとするのか?仲間を殺そうとした俺を。
〈ククク、仕留め底ないましたか。では、彼らを殺してから止めを刺しましょうか。〉
させるか。
彼奴らは、まだ俺の事を諦めてない。仲間を傷つけた俺を助けようとしている。なら、どうして俺は諦めようとしたのか。情けなくないのか。
彼奴らを守ろうと力をつけたのに。
ここは何処だ。俺の精神の中か。俺の精神世界がこんな真っ暗闇なはずが無い。何処かに、何かあるはずだ。
見つけ出して、脱出してみせる。それまでツナを守れよ、隼人。
辺りを覆う闇に、何の方向性も無いまま踏み出した。
後書き:
夏のクラス・・・死ぬほど忙しい。
帰宅時間が夜中過ぎてるのが普通と思えてきた自分に少し恐怖してますw
最近、主人公は精神的に大丈夫なのか心配になってきました。
話を書くときの作者の気分によって主人公の言動が変わるので、読み返してみると凄く精神不安定に感じます。
クトゥルフ神話に例えて言うと、SAN値が30切った感じでしょうかね。
黒曜編が終わったらゆっくり休んで欲しいです。作者次第ですがw
今回も読んでくれてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします!